教育支援環境とIT
国際基督教大学(ICU)は教養学部・人文、社会、理学、語学、教育、国際関係の6学科および大学院・教育学研究科、行政学研究科、比較文化研究科、理学研究科からなり、学生数は大学院を含めて約3,300名、教職員は教員約160名および一般職員100名で構成されています。
ICUは教養学部(liberal arts college)の制度をとり、精神の解放と涵養とを重視するリベラル・アーツの教育に力を注いでいます。それは、個立した知識を互いに関連づけるという知識の統合を実現するとともに、個人の背景となる専門分野・文化を越えて広く知識の交流をなし得る大学人を養成することがICUの使命であると考えているからです。
そのために、50年以上にわたって学生に対して要求度の高い英語教育プログラム(ELP)と多岐にわたる一般教育プログラムを実施してきました。今日、高度情報技術社会への移行によりコミュニケーションや知識取得の形態が大きく変容し、さまざまなデジタル・メディアを利用した間接的かつ双方向的なコミュニケーションや情報取得の占める割合が大きくなっています。さらに、複雑さを増す社会の要求に対応するカリキュラムの充実を図るためにも教育支援環境としての
IT基盤とIT基礎教育の充実がリベラル・アーツ教育の重要な要件となることを認識して取り組んでいます。
数十万冊の図書を所蔵し、それらを学生・教職員に向けて貸し出す、これが開架式の図書館本館の従来からの基本的なサービスです。しかし、1990年代からの情報のデジタル化の急速な進展に伴い、様々な新しい形態のサービスの必要性が高まりました。2000年には新たに、オスマー図書館(Mildred
Topp Othmer Library)が開館し、デジタル技術を駆使したサービスと運営が行われています。
オスマー図書館のほとんどの空間に、学生、教職員が利用可能なコンピュータが設置されています(Windows 82台、Macintosh 40台)。また、地下には自動化書庫が設備され、約50万冊収納可能です(現在、約20万冊収納)。コンピュータの貸し出し画面上で出庫指示を出すと、2分程度で自動的に出庫され、利用者は開架式とほとんど変わらずに必要な資料を入手できます。
オスマー図書館と図書館本館は渡り廊下でつながっているので、図書資料とデジタル資料に同時にアクセスして簡単に加工できるという利点が生かされ、学生にとっては快適な学習空間となっています。また、2004年度から5年計画で、図書館本館の個人席(125席)のIT化に着手する予定で、完成すると、携帯したPCでのインターネットの利用が可能になります。
さらに、教員・学生向けに個人情報の確認システムが昨年12月から利用可能になり、利用者は各々のWebポータルページにアクセスすると、貸出中図書・予約中図書・文献複写や他大学からの図書の借出しの途中経過や結果・延滞料金・貸出履歴が確認できるようになりました。
また、学外からの図書の取り寄せ、文献複写、紹介状発行、調査依頼、図書の購入希望等もWebから申し込めるようになっています。
図書館オリエンテーションは4月の新入生に対する情報オリエンテーションの中でも実施されますが、時間的制約などから、その一部についてしか紹介できないオンラインデータベースの利用について、ELPの授業の一環として詳細なオリエンテーションを実施しています。
ITセンターは、授業などの支援を行う総合学習センター(ILC)と、教務事務などを支援する電算グループで構成されています。
ILCは語学教育や一般教育におけるオーディオ・ビジュアル教育の新しい学習拠点として、今から20年以上前に誕生しました。その中心は語学ラボや視聴覚センターでした。しかし、コンピュータ・ネットワークを中心とするITの普及が新しい学習・教育支援の必要性を生みました。まず、ネットワーク端末室の設置・拡充から始まり、デジタル・メディアを利用した学習・教育環境の整備やデジタル教材の作成支援の必要性が高まりました。現在、図書館などの施設や教員研究室へのコンピュータの設置とサポート、学内基幹ネットワークの基本的な保守を担当しています。また、授業でネットワークを活用するための支援等も行っています。
様々な環境のコンピュータを使いこなしてほしいという狙いから、ILCには、学生利用パソコンとして、日本語および英語のWindows、Macintosh、Linuxの環境が用意されています。利用上のトラブルや質問等にはヘルプデスク・スタッフが対応しています。コンピュータは、授業用として
75台1室、 26台2室、また、オープン利用として 約200台が設置されています。
ILCの支援で、シラバスは1997 年より学内サーバで公開されています。内容は教員が Web 上で入力するか、 FDオフィスのスタッフが入力する仕組みになっています。休講情報は教務や学科の職員がWeb上で入力し、学内向けWebサーバや携帯電話を通じて確認可能になっています。授業効果調査(TES)は2002年より毎学期実施され、結果はすべて学内向けのWebサーバで開示されています。
電算グループの支援を得て、Web上での履修登録は1998年頃より行っており、現在では、自宅や留学先からインターネット経由で登録を行うこともできます。ICUでは一つの学期に、一般教育科目や体育などの予備(一次)登録、本登録、再登録等3種類以上の登録があります。登録時の受講科目のコンフリクトのチェックや、履修科目の確認がWeb上でできるのは学生にとって大きなメリットです。登録結果をメールで配信するサービスも実施しています。また、教員は自分のオファーしたコースの履修学生リストを研究室で簡単に早い時期から確認することができます。
図1 履修登録のWeb画面
情報基礎教育課程(ILP)は情報オリエンテーションを含む本学の情報基礎教育を担当しています。
IT基礎教育は4月と9月の新入生に対する情報オリエンテーションから始まります。本学のコンピュータの利用に関して、ログインの仕方から始めて、図書館員による図書検索(OPAC)の仕方、データベースのアクセス法の紹介など主に情報取得に関するものと、インターネットに接続したコンピュータを利用する上でのマナーや注意点を、自作のビデオを交えて説明します。
ヘルプデスク・スタッフにより、いわゆる、オフィス・ソフトウェアの利用法および簡単なHTMLエディターによるホームページ作成についての入門および中級(応用)レベルのセミナーが、週2、3回の頻度で毎学期(休暇中を除いて)実施されています。通年で約300名程度の学生が受講しています。これによって、学生がこれらのソフトウェアの最低限のスキルを持つことを保証することになります。
ILPは、学生がITスキルを習得し、ITの諸概念を理解し、IT化社会にふさわしい考える力を持てるようになること、すなわち、問題なくITを活用できるようになること(FITness)を目指しています。しかし、ITの進歩は目覚ましく常に新しいITを理解し、習得する必要があります。すなわち、ITリテラシーの習得は生涯学習であり、各自が独力でこれらを学習できる素地を作ることが重要であると考えています。
オスマー図書館のマルチメディアルームやILCのデジタル・メディア・ラボ等でITを活用したコースが多く提供されています。
語学科の「フランス語翻訳法」では、自然な書き言葉のフランス語を理解し、特に学術的な作文能力を高めるため、スペルや文法をチェックし、同義語を示してくれるツール、インターネット、WBTシステム等を利用しています。
国際関係学科の「専門文書の作成および整理」では、ビデオ制作実践を通して、創造的かつ社会性を持った自己表現・メディアリテラシーについて考察することを目的としています。あるテーマについて、グループごとに5〜10分のビデオ・ムービーを編集・制作しています。
社会科学科の「日本史III」では授業の導入の部分で、Washington州立大学の学生とビデオ・カンファレンスを行い「Why study the Second
World War?」というテーマで非常に活発なディスカッションをしました。
写真1 「日本史III」でのビデオ・カンファレンス
この他にも、内外の大学とビデオ・カンファレンスを実施している研究室もあります。
ILPの「ネットワーク情報活用」や「理解のためのマルチメディア」では、Web Learning Portalを用意し、レポートやスライドなどの提出に利用しています。他人の作成した文書へのコメントの書き込みや返信が可能になっていて、協調的な学習やweb
portfolioとして自己評価(Reflection)のためにも利用しています。
IT化を進めていく上での最重要課題は、教職員並びに学生のITリテラシーをいかに向上させるかです。
ICUは小規模ながら多種・多様で複雑なカリキュラムを特徴としていますので、現状では全学生が通常の形式で新たに設けられたコースを履修することは困難です。また、教職員が自らのITリテラシーを習得する時間を一律に用意することも不可能です。これらを解決する方法がe-Learning(オンライン学習)システムです。ICUのリベラル・アーツ教育の伝統と特長を生かしつつ、これらの要求を満たすシステムの構築が求められています。
ILPでは、現在、2005年度からの実施を目指して、e-Learningと教室でのセッションを組み合わせたコースを準備中です。このコースでは、オンラインの教材による学習と教室でのいくつかのチュートリアルを設定し、履修者がライフスタイルに合わせて全体の履修ができるようにする予定です。
いずれにしても、教職員・学生のリテラシー習得へのモチベーションを高める試みも課題として重要であると感じています。
注
FITnessはUS National Research Councilによる“Being Fluent with Information Technology”に基づく造語です。
文責: | |
国際基督教大学 | |
情報基礎教育課程助教授 | 星野 義昭 |
図書館 | 畠山 珠実 |
総合学習センター | 小林 智子 |