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ソフトウェアに最適な基本システムを利用したPC教室の構築

守 啓祐(九州共立大学情報処理教育研究センター助教授)


1.はじめに

 コンピュータ利用は様々な範囲で利用されるようになり、コンピュータは以前のような計算や解析を行う機械からコミュニケーションのための情報端末となってきている。
 近年利用されることが多くなってきたのが語学等のe-Learning分野である。本学でもCALL等のシステムを導入し利用している。この際に問題になるのは基本システム(OS)の違いによる動作の不具合である。以前は利用できるOSが少なく選択肢がなかったため問題にはならなかったが、OSの種類が増えることで選択肢が増える利点とともに、特定のOSでないと正常に動作しない問題が出ている。
 本稿では、利用するアプリケーションソフトに最も適したOSを選択できるシステムを構築し、実際に運用しその利便性と問題点を検討した。


2.システムの特徴

 情報教育用の端末室等は、OSを一つ選択し、その上で動作するアプリケーションを利用する形態をとってきた。別のOSを使う際は、アプリケーションの画面をリモートで利用する方法をとっていたが、マルチメディアを併用するアプリケーションの場合は画面だけを手元に持ってきても十分に利用できない問題が発生していた。また、そのようなアプリケーションの多くはコンピュータ資源を多く要求するため、集中管理下での利用では十分な速度が維持できない問題も発生している。
 この問題に対応するため、OSを起動時に選択することで1台のコンピュータの有効利用と、利用するアプリケーションに最も合った基本システムを選択することを可能にした。また、利用するアプリケーション各々に最適化できるので安定な動作が期待できる。
本稿では触れないが、安定運用で犠牲になった自由度は、仮想PCを導入し補っている。


3.システム構築時の問題点

 システム構築を行うコンピュータは、最も一般的なIBM PC/AT互換機である。このコンピュータを利用する際のアプリケーションソフトが動作するOSとしてWindowsとLinuxを中心に検討を行った。一部、FreeBSD[1]やBTRONである超漢字等[2]の検討も行っている。
 システムを構築する上で問題になるのは、起動システムの場所である。これが特定の場所にないと正常にOSが起動できない。また、端末室のように多数入れるシステムの内蔵ディスクは、予算の都合で1本しか利用できないことが多く、その範囲でシステムを構築する必要がある。ただし、近年のディスク容量増加により容量不足という制限は回避されている。
 Windowsについては、Windows95, 98, Meまでは起動システムの場所と数に制約が強い。NT, 2000, XPは同じWindowsで混在することは考慮されているが、他のシステムについては特に考慮されていない。最も問題になるのは、Windows起動プログラムがディスクの先頭に強制的に書き込まれることである。
 Linuxについては以前liloと呼ばれる起動システムが利用されており選択はできるようになっていたが制限が多く混在は難しかった。
 以上の理由で、これまで市販の起動選択システムを利用することが多かった。しかし自由度や金額面を考えると簡単に導入できるレベルではなかった。
 筆者も以前は、システムコマンダという市販ソフトを利用していたが、今回は無料ソフトを有効に使う方法で対処した。本システムはTurbolinux 10 Desktop Basicでも採用されている起動選択システムGRUB[3]を利用し、起動を制御した。Windowsが中心の場合はNT以降で利用される標準のローダを利用した。起動方法について順次説明する。


4.システムの構成と仕組み

 講義で利用する教材の関係から、Windowsは2000およびXPが必須になっている。通常、講義室のシステムはWindows 2000を基本とし、個人を認証するドメイン環境で運用している。加えて個人環境が不要で軽快に動作することを希望する利用者も存在するため、2000 のドメイン環境と2000とXPのドメインなしの環境で構築を行った。近年、Windowsだけではなくソフトウェア開発環境として広くLinuxが利用されるようになってきている。Linuxはシステムが1形式でも個人設定で柔軟に動作が最適化できる特徴があるので1形式で対応した。
 以上の理由で、中心となる基本のシステムは3形式のOSで構築を行うこととした。
 PC/ATの規格ではディスクは四つの基本領域に分割可能である。領域には基本と拡張とがあり、拡張領域の中ではさらに論理領域が複数に分割可能である。しかしWindows 系のシステム本体はバージョンによって様々な制限がある。自由度は基本領域を要求する物三つと、拡張領域ではディスク上限まで分割できる。しかし、実際には無限ではなくLinuxでは通常上限は11となっている。しかし、それほど1台の機器に置くことはないと思われる。
 今回は四つの領域をすべて基本領域として利用し、以下のように分割配置した。

●Windows 2000 ドメイン環境
●Windows XP ドメインなし環境
●Turbolinux 10D ルートシステム
●Turbolinux 10D スワップ

 システムの起動選択システムであるGRUBは、3番目の区画に収め、Windowsは起動時に相互干渉するため、不要な区画は不可視にすることで対応した。また、Windowsの領域は再起動時に変更を初期化するシステムで保護している。
 なお、講義には利用しないが、オープンスペースで学生に様々なOSを利用する機会を与えるための機器も提供している。図1の例ではWindowsを3種、Linux4種、超漢字、FreeBSDの合計9種のOSを導入している。書籍等で見たことしかないOSも実際に使ってみるとその特徴もわかりやすい。少数であるがこのようなシステムも設置している。

図1 様々な基本システムの起動選択画面

 Windows系のシステムでは、以前から使っているアプリケーションが特定のバージョンのシステムでしか動作しない場合、複数のソフトウェアを導入すると干渉し十分な動作をしない問題があった。典型的にはVisualBasic等のランタイムライブラリやDLLのバージョンの問題等である。また、最近では留学生が多くなり、システムのメニューを英語や日本語以外の言語に対応する必要性も出てきた。これらの場合については、標準の起動ローダを利用している。図2に多言語のWindowsシステムの起動例を示している。

図2 標準言語を選択する起動画面


5.システム利用の効果・評価・課題

 Windowsを基本とするLinuxを加えたマルチブートシステムを導入し3年が経過しようとしている。以前のように講義室ごとに基本システムが異なり、空室の関係で希望のシステムが選択できない等の不自由さは解消されている。WindowsもXP以降は、過去のシステムの互換モードができたため問題は少なくなっているが、DOSやハードウェアに強く依存するソフトは互換モードでは動作しない。その際は、OSを対象ソフト用に一つの領域として用意し対処した。また、通常ならWindowsのシステムしか目にしない学生が、自由に利用できる他のOSがあることで自発的に興味を持つ学生も増えてきている。
 以上の理由でこのようなシステムの必要性は高いと思われる。
 システムを構築した後の利用は非常に安定しているが、年に1、2回は各OSの安全性の修正や授業に合わせてソフトウェアの調整の必要がある。この際、各PCのディスク内容を作成し再設定する必要がある。この点に関しては、OSの安全性の修正はネットワークに接続する際は適用せざるを得ないので、今のところ具体的な解決策がないところが問題である。


関連URL
[1] http://www.freebsd.org/ja/
[2] http://www.chokanji.com/
[3] http://www.gnu.org/software/grub/



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