特集 教育ミッションとIT化

リベラル・アーツ教育への入り口
〜国際基督教大学の入試〜


M. William Steele(国際基督教大学教養学部長)



1.世界の将来は教育の質にかかっている

 21世紀の世界に多様な価値観を持つ人々との共生を実現するためには、創造力・想像力や判断力に富みリーダーシップのある人、研究や仕事を着実に遂行し社会に貢献できる人が求められます。国際基督教大学(ICU)は開学以来このような能力を備えた人たちを育て、世に送り出してきました。
 幅広い知識と深い教養に磨かれた鋭い知性と豊かな感性を持ち、地球的な視野に立って人々の幸福を願い、社会正義と世界平和に献身する強い精神の持ち主を育てること、そしてその学生たちがさまざまな領域で活躍することが、ICUで教育に当たる私たちの願いです。机上の思考のみに終わることなく、自らの学びを多様な現場で具体化する。静的・内省的な「教養」から「行動する知性」へ。これがICUの追求する「行動するリベラル・アーツ」です。
 入学選考は、このようなICUの教育理念に共鳴し、ICUで学びたいという人を受け入れるために設けられています。知識習得を主な目的とした高校までの学習から脱皮して、自ら問い、答えを探し出す自主的な学びへと自己変革できる「資質」を選抜の基準としてきました。これは、ICUで学ぶすべての学生が密度の濃い教養学部のカリキュラムに積極的に参加し、充実した大学生活を過ごせるよう私たちが心から願っているからです。
 教養学部には、人文科学科・社会科学科・理学科・語学科・教育学科・国際関係学科の六つの学科が文系、理系の枠を越えて統合されています。各学科には複数の専修分野があり、通常の大学の専門学部に相当する幅広い学問領域をカバーしています。また、それぞれの学科は完全に独立せず、相互に関連性を持っています。専門学部制をとる大学との大きな違いは、それぞれの知的好奇心に従い幅広く自由に学べることにあります。学生は入学時に学科には所属しますが、専門まで決める必要はありません。さまざまな学問分野に触れてから自分の本当に学びたいものを見つけることができるのです。

 本学は、広大な美しいキャンパスにわずか約3,000人の学生が学ぶ小規模な大学です。教員数は約160名、専任教員一人あたりの学生数比率は約1対19です。これは、少人数クラス編成、教室内外での教員との密接な関わりを意味します。また、国際性を重視し、学生は一年次ならびに二年次において集中して英語を学び、英語で開講される科目履修に備えます。専任教員の約30%が日本以外の国籍であり、授業の約20%が英語で開講されています。学生たちは4年間の学生生活の一部を海外で過ごすことが奨励されており、毎年100名以上の学生が海外20カ国、50校を越える交換留学協定を締結した大学で学んでいます。また、国際性を促進するために、本学では入学式は、4月と9月、卒業式を3月と6月に2回行っています。毎年日本の高等学校で教育を受けた約530名が4月に入学し、9月には海外で教育を受けた約90名の学生が入学しています。
表1 学科別入学定員(設置学部:教養学部)
人文科学科 90
社会科学科 150
理学科 85
語学科 95
教育学科 50
国際関係学科 150
合計 620 名
 ICUの入学試験が目指すものは、学問的な優秀さのみならず、幅広い豊かな経歴、才能、経験、広い視野を持った学生を集めることです。我々が将来この世界を変えていけるような人物を社会に送り出したいと願い、その願いに沿った教育環境を創り上げようとするなら、これらの条件は不可欠です。この目的を達成するために、多様な入学選考を実施しています。
 まず第一に、ユニークだと言われている一般入学試験があります。これは批判的分析思考能力を測るもので、主として日本の高等学校で教育を受けた人を対象とした試験であり、詳細は後述のとおりです。また、日本以外の教育制度のもとで教育を受け、十分な英語の能力を有する人(9月入学生)を対象とし、書類選考での入学選考も実施しています。これには、SAT等共通テストのスコアも提出してもらっています。このように大学の国際性に積極的に貢献できる学生を確保しているのです。ICUが指定したキリスト教主義高等学校からの推薦入学制度はキリスト教教育を受けた生徒を、また、国際経験のある生徒を帰国生特別入学試験で、社会経験のある人を社会人特別入学選考で選考し受け入れています。そして、これらに加えてこの度、2005年度からAO方式のICU特別入学試験を実施します。この入学選考では、受験生の多様な能力を全人的に見て判定します。志願者が自らの積極性、意欲、社会的関心、多種多様な才能や経験、視点を十分にアピールできる選抜方法として設けました。志願者には、高校の成績と英語能力を証明する書類の他に、エッセイ、自己活動歴と自己分析、推薦状を提出していただきます。これらの資料に基づき志願者の学業、課外活動、芸術、スポーツ、奉仕活動などを慎重に審査します。その上で、複数の教員が面接を行い、ICUに受け入れることがふさわしいかを確かめます。
 これらすべての入学試験はリベラル・アーツ教育への入り口であり、ICUの教育理念に共感し、本学で学びたいと心から願っている生徒に受けてほしいと考えています。


2.一般入学試験

 ICUの一般入試は、いわゆる受験技術を求めません。高校までの学習で獲得した知識の量ではなく、大学で学ぶ上で必要な創造的資質と学習適性を測ることを目指しています。志望学科で区別せず、「教養学部」としてすべての受験生に同一の試験を行っています。ICUは、高校までの受け身の学習を越えた、自ら答えを発見する主体的な学びを学生に期待しています。そのためには、物事を的確に認識し、深い洞察力と明解な判断力で課題を解決できる能力と忍耐力が必要です。入試は、こうした大学での学びのダイジェスト版ともいえる入試問題を通して、その人の能力を測ろうとするものです。換言すれば、大学での勉強の準備が十分にできているかを試験するものです。このような能力を1日の試験で測るため、ICUでは、他大学とは異なる独自の入学試験を実施しています。
 一般入試は、三つのパートによって構成されています。

(1)一般学習能力考査

 志望学科や専修分野にかかわらず、教養学部の学びにとって重要な基本的学習能力を測る試験です。限られた時間の中で、数量的領域、言語的領域、分析的領域のさまざまな分野から出される問題に答える考査を通じて、直感的な判断力や迅速かつ的確な思考力を測ります。

(2)学習能力考査

 「一般学習能力考査」が速断的能力を測ろうとしているのに対し、じっくりと時間をかけて資料を読み、あらゆる角度から分析し、仮説の中からもっとも適当な解答を選び出す力を測る試験です。論文の内容を的確にとらえ、論旨を自分で組み立て直し、それまで学んだ知識や考え方を創造的に応用する能力が求められます。学習能力考査には、「人文科学学習能力考査」、「社会科学学習能力考査」、「自然科学学習能力考査」があり、そのうち「社会科学学習能力考査」と「自然科学学習能力考査」は、どちらか一つを選択して受験します。ただし、理学科を第1志望とする人は、必ず「自然科学学習能力考査」を選んで受験する必要があります。

(3)英語読解力及び聴解力考査

 「英語読解力及び聴解力考査」は本質的には他の学習能力考査と同じで、英語を通して知的能力を測ろうとする試験です。入学後、教養学部での「英語での学び」に適性があるかどうかを評価するものです。通常の日本の大学入試に多く見られる英文和訳・和文英訳のような問題とは異なり、英語でものを考え、理解し、分析する能力を測ることを目的としています。空所補充問題を含め、単なる単語やイディオムの記憶力ではなく、全体の意味と各文の論理関係を理解する力が求められます。
 ICUのすべての入試問題は、大学のホームページからダウンロードできます。
http://www.icu.ac.jp


3.今後の展望について

 ご承知のとおり日本の大学は受験者数減少の問題に直面しています。この現実を考慮し、入試制度改革を模索しているのはICUに限ったことではありません。本学の新しいICU特別入学選考は、多種多様な経験を持った受験生をあらたに仲間として受け入れることで、従来からの多様で知的な学生たちの質をより一層強くしていくことになると期待しています。
 本学は、さらなる入試制度の改善と改革を続けていますが、その最終目標とするところは、好奇心旺盛で、柔軟な思考を持ち、与えられるだけの教育では満足できず、社会的関心を深め、世界的な視野を持ちたいというような学生たちを受け入れることです。そのような志願者をICUは積極的に求めています。



【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】