英語教育における情報技術の活用

主体的な英語学習から専門的な人材育成へ


田口 純(筑紫女学園大学文学部教授)



1.はじめに

 私が学内において、コンピュータを利用した英語教育を始めたのは平成10年度からです。筑紫女学園短期大学英文科の2年生専門科目「特別研究」(ゼミに相当)において、「コンピュータを利用した英語学習」というテーマで、英語学習用のソフトの普及状況についての文献を読み進めながら、実際にコンピュータと市販のCD-ROM英語教材ソフトを利用して、コンピュータを利用した英語教育の可能性と有効性について考察・発表を指導しました。当時はまだ、学内に本格的にはLANが導入されておらず、スタンドアロンのまま各学生に全部で30数種類の英語教材ソフトを利用させました。情報処理関連の科目もカリキュラム上にはなく、またそれまでこのような授業形態を経験したこともないため、最初は戸惑っていたようでしたが、個々の学生の進捗に応じた個別授業を基にして行いましたので、それぞれ自分のペースで学習を継続することができたようです。学習者自らが主体的に学ぶという姿勢が養われたことも事後のアンケートから読み取ることができました。


2.英語学習から英語教育へ

(1)ゼミでの展開
 平成11年度から15年度まで、現在所属している英語学科の4年生専門科目「卒業ゼミナール」において、「情報英語研究」というテーマで、コンピュータを利用した英語教育の可能性と有効性について考察・発表を指導してきました。学内LANも次第に整備されてきて、インターネットが普及し始めてきましたので、ゼミを社会への最初のステップとする実学的立場に立って、これから生きていく上で役立つ技術や、法律的・倫理的な知識を身につけ、就職のみならず、これからの自分の生活をより豊かなものとするために、授業を展開していきました。平成11年度から13年度までの学生は、基礎となる情報処理関連の授業がカリキュラム上になかったため、コンピュータやネットワーク、インターネットなどを基礎から教授する必要がありましたが、その後の学生は1年生での情報処理演習、2年生での情報英語の授業を履修するカリキュラムとなりましたので、かなり専門的に英語教育におけるコンピュータの活用について調査・研究・発表することが可能となりました。例えば、平成15年度の卒業ゼミナールの学生のうち、卒業論文(選択科目)を6名ほどが執筆しましたが、そのタイトルは以下の通りです。

 「情報機器を使った英語教育と講義式の英語教育」
 「児童の第2言語習得と初等教育の英語教育導入からみる早期英語教育のIT活用」
 「公立中学校の英語学習におけるIT活用について」
 「e-Learningによる英語自立学習支援システムの現状と今後の動向」
 「日本における英語教育の変遷」
 「電子辞書」

 自分たちの英語力を伸ばすために情報技術を活用するばかりでなく、英語教育の中での情報技術の有効な活用法について、かなり突っ込んだ研究がなされたものもあり、ゼミの目的も達成できたのではないかと思っています。
図1 CALL教材シリーズ「Listen to Me!」の初級用、中級用
(2)課外講座での展開
 授業以外の課外講座として、「e-Learningを活用した英語自学習プロジェクト」を平成13年度から行っています。これは主に私が所属する英語学科の学生を対象に、希望者を募ってCD-ROM英語教材を自学習させるもので、3ヶ月の間に、週に一度メンターである私と電子メールで進捗状況などをやり取りしながら進めています。実施時期は夏休みと春休みで、長期の休暇中は気分的にも開放され、英語学習からも離れてしまう学生も多いのですが、このプロジェクトに参加した学生は、ほとんど脱落することもなく、また、自分のペースで学習が進められ、メンターからの定期的なメールにより学習が促進され、休暇を有効に過ごすことができたと好評です。
 使用したCD-ROM英語教材は、竹蓋幸生千葉大学名誉教授が中心となって開発されたCALL教材シリーズ「Listen to Me!」の初級用、初中級用、中級用です。これらの教材は完全に自学習に対応した教材であり、題材は初級用では身近な話題から始まってキャンパスでの会話など、初中級用と中級用はアメリカの大学の講義やキャンパスライフを疑似体験できるようになっています。
 平成14年11月から平成15年2月まで、途中定期試験期間をはさみながら、同様のプロジェクトを行いました。このときにはTOEIC IPを事前と事後の2回実施し、その点数の伸びを測定しました。表1がその結果です。
表1 英語自学習プロジェクト2002事前・事後テスト比較表。


3.専門学科としての今後の取り組み

 このように、筑紫女学園短期大学英文科での取り組みに始まり、現在所属している英語学科で専門科目や課外講座での取り組みを行ってまいりましたが、来年度以降は新たな展開を行う予定です。平成17年度より筑紫女学園大学文学部に「英語メディア学科」を新設し、e-Learningを中心とする英語教育をさらに進めるよう、現在文部科学省に設置認可申請中です。この学科では、学生の英語力アップのために情報技術の活用を行うだけではなく、e-Learningを使いこなせる人材を育成することも目的としています。現在、企業内教育で活躍できる人材、初等・中等学校や英語教育関連の企業でe-Learningを積極的に使いこなせる人材が求められています。そのような人材を提供できるような文系女子大学の独自の視点に立った実践的なカリキュラムを展開し、新たなステップを行うことができればと思っています。



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