私情協ニュース5

平成16年度 教育の情報化推進のための理事長・学長等会議開かれる


 去る、7月31日(土)明治大学駿河台キャンパスを会場に96大学、10短期大学より200名の理事長、学長、学部長等が参加して開催。
 今年度は、教育改革の基本問題である教育の通用性・質保証を高めるための教育政策について、大学と社会との連携による「共生の教育システム」構築の必要性・可能性について模索するため、河村建夫文部科学大臣(当時)、文部科学省の杉野 剛専門教育課長を招請し、文部科学省の政策として受け止めていただくよう、教育の産官学連携事業の構想について協議する場とした。
 会は、戸高敏之会長(同志社大学)より、本会開催の趣旨について「人材育成を確かなものにしていくには、教育に社会の感覚や体験を導入するなどの工夫が必要であるが、大学単独で進めるには十分ではなく、社会の専門家による支援が不可欠である」との説明があり、ついで明治大学の長吉 泉理事長より会場校代表の挨拶の後、河村文部科学大臣より「人間力向上の教育改革に力点をおくことが必要で、そのためには画一的で受け身であった教育から自立から創造へを基本に、自己点検・評価、第三者機関評価、学生による授業評価などにより、教育の質保証がなされなけれならない時代となってきた。大学が大学だけのことを考える時代から社会も含めた産官学連携を考えることが大きな課題となってきた。文部科学省としても本日の研究成果を受け止めながら、貴協会、関係機関と連携しながらその実現に努めたい。この会議が教育改革に大きな示唆を与えるものになると期待している。」との挨拶があった。
 会は、引き続き、基調講演、事例報告、全体討議、関連情報の紹介を行った。以下に会議の概要を紹介する。


1.基調講演

「産学連携による教育革新」

 相磯秀夫氏(東京工科大学学長)から、私立大学を取り巻く環境として、社会変化に応える大学改革、大学全入時代、高度な教育研究と高度な専門職教育の二極化などの大学の多様化・大衆化、国立大学法人化の影響、理事長・学長の権限強化、産官学連携による共同研究の促進、自己点検・評価システムの確立、新しい学問分野の台頭などが掲げられ、教育革新として、諸学問共通の教育(情報技術、環境技術、大規模システム技術、経営技術、外国語、リベラルアーツ)の徹底、縦割り組織の排除、諸学問横断的な知識生産の重視、魅力ある大学像という視点から、展開する必要があるとした。また、大学の課題として、学部教育は基礎中心とし、専門は大学院と目標を明確化、学生参加型教育、問題発見・解決型教育、演習・宿題の強化、個性等人間力の養成の他、オンメディア教育、ダブルメジャー(二つ目の専門教育)の提供、高度IT人材の育成を掲げた。今後の産業界の貢献では、インターンシップ教育の受け入れ、産学連携の共同研究の促進、企業冠講座の提供、教育資金・施設の寄付、大学からの産業界への貢献は、e-ラーニング教育の提供、技術と財務と企業原理に強い人材育成のアントレプレナー教育、IT人材育成強化などが提言された。


2.事例報告

「大学連携、社会支援を取り入れた教育政策と課題」

 中村尚五氏(東京電機大学情報環境学部長)より「産学連携を主体としたプロジェクト教育」について報告があった。
 産学連携により社会に役立つ人材を育成するため、情報環境学部では企業、教員、学生の共同作業により問題解決を目指す実践教育を14年度より開始し、最初の卒業生に向けて取りくんでいる。特徴は、企業、教員がアドバイザーとなり、問題解決の実施は学生が行い、テーマ終了時には企業・教員にプレゼンテーションを行い、教員による成果物に関するコメント、概要、所感をWebサイトにて一般公開する。なお、企業と守秘義務を契約したものは一般公開せずに、限定した範囲での公開としている。教育のねらいは、系統的・複合的に学習した科目の学習内容をプロジェクトとして総合的に実践することにより、即戦力を養うことが可能となる。プロジェクト科目は、2年次春学期に「基礎プロジェクトA」でレポートの書き方、実習科目の進め方、プレゼンテーションを学び、秋学期に「基礎プロジェクトB」で調査や開発、試験などの実務について、個人またはグループで実験実習し、社会と個人、学習とのつながりを学ぶ。企業から提供されたテーマも取り扱う。3年次以降、学生の希望により、ハード・ソフトの作成、試作品の性能評価、データ分析・企画調査などを行い、その結果を依頼先に報告する。早期卒業希望以外は通常4年次に企業からのテーマを「開発型プロジェクト」、または、学内教員からのテーマを「卒業研究」として実施する。プロジェクト科目の構成および進め方を図示すると次の通り。
図1 科目の構成
図2 科目の進め方
 千葉県の産業振興課からの呼び掛けで、先端情報技術活用研究会と連携して、学生と企業がデイスカッションできる場も設けられた。テーマ登録する企業は、100社程度で特に選定基準はなく自由に参加いただいている。また、プロジェクト開発の成果については、2年目の学生から始めたので見当がつかなかったが、おおむね非常に良い評価をいただいており、企業から継続して連携をすすめたいとの回答を得ている。中には成果報告の後、延長してさらに進めるなど委託研究の段階まで到達しているものもある。
 この授業は、聞くだけの学習と異なり、総合基礎学力、創造力、未知の課題を解決する持久力などに極めて効果的であり、産学連携教育の発展を目指したい。

 続いて、石澤末三氏(帝塚山大学学長)より「インターネットを利用した大学間・産学連携による授業支援」について報告があった。
 大学が抱えている学生の学力の多様化と低下、学習意欲の低さという課題を克服するための大学あげての取り組みとして、8年前からTezukayama Internet Education Service(TIES)の機能を活用して教育効果をあげている。幸いにも本教育支援システムは、16年度に文部科学省の特色ある教育プログラムに採択された。教育方法としては、学生に感動を与えられるよう、教室に企業現場の生の情報をインターネットで直接取り入れ、学生の興味を引き出すライブ塾を始めた。企業から参加を募り、企業で中心的に活躍している企業人と教員が連絡を取り合い、働いている現場から大学の講義に入り込んで、現実感覚を提供するもので、15年度から試行的に始め、これまでに6回、約300名が受講した。
 内容としては、経済・経営関係、情報関係となっており、例えば「GISで見る奈良県の牛丼戦略」では、新潟経営大学、関西学院大学、帝塚山大学と企業が合同して、学生は利潤を最大にする牛丼販売量の理論を学んだ後、企業側の出店戦略をもとに、インターネットを通して討論する授業を行っている。
 授業を受けた学生の反応は、通常の授業がややもすると抽象的になりがちなのとは対象的に、現場の具体的な情報が教室に直接持ち込まれることから、「現実的な興味をもたせる、教科書より実際の声を聞いた方がわかりやすい」など学生に大歓迎されている。教育の質を高めるには、学生一人ひとりが教員から目をかけられているという自覚をもたらす環境、いわゆる教員と学生の信頼関係の構築が極めて重要で、その自覚を背景に勉学意欲を高め、「おもしろいという感動」と「なぜだろうと疑問を持たせる」ような教材を提供するとき、はじめて可能になる。学生に自覚をもたらすための工夫としては、図のような予習復習機能、授業の理解度をはかる自己診断テスト機能、授業に対する意見機能、コミュニケーション機能などの学習支援環境をネットワークで提供している。
 支援体制は、図の通り教育研究支援室、TIES教材開発室、情報教育研究センターと教員が連携を取りながら進めている。
 教育効果としては、中国語の授業では、学生のペースで反復練習できる他、授業中に練習問題の結果を集計し、即座に理解できないところを重点的に教えることができるなど、平均点も48点から60点、特に90点以上の割合が大幅に増えた。情報ネットワーク論の授業では、授業を全て録画し、電子教材として使用させたところ、欠席した学生が授業の流れが分からなくなり、あきらめてしまうことがなくなった。また、興味をもたせることに配慮しているため、欠席率が大幅に減少した。
 今後の展望としては、現実を直視させる授業を進めるためには、大学間、産業界との連携を一層積極化したい。社会で活躍する専門家の支援として、教員の人脈、卒業生だけでは限界がある。私情協と文部科学省が連携し、教育の産学連携に社会的な合意形成が実現できるよう仕組み作りを考えていただきたい。


3.全体討議

「教育の通用性・質保証を高める教育政策を考える」

 向殿政男氏(本協会常務理事、明治大学)の司会で「教育の社会支援についての提案」を協議するため、最初に当協会の井端事務局長からの問題提起がなされた。大学の教育改革の一つの取り組みとして、人材育成、教育の質向上には、大学単独で進めるには十分でなく、限界があることから、社会の経験を取り入れた、教育の産学連携による「共生の教育システム」の構築が望まれる。とりわけ、人材育成では、高等教育卒業者のフリータ、無業者が急増しており、低所得による納税適用除外による税収の減少、年金不払い、購買意欲低下による経済の不活性など、社会、国の発展に大きな影をもたらしつつある。また、社会の中での個人の役割・責任、経営的な感覚、課題探求能力、自己実現能力、倫理を重視した人格陶冶能力の充実を図るために、教育の内容を見直し、現実感覚・体験を積極的に導入し、学習の動機付が高められるよう、社会からの支援が要請される。
 支援が求められる内容としては、産業界、法曹界、医療・介護関係、国・地方公共団体等から、1)現場情報・体験情報の紹介、2)知的情報の電子化と教育利用の実現、3)実務経験者による教育の実現、4)学習成果に対する専門家の助言・評価、5)インターンシップ、ワークショップ、調査実習の組織的な受け入れ、6)e-Learning等、教育プログラムの共同開発などが期待される。教育効果としては、学習意欲・動機付の向上、問題発見・解決能力の向上、実務能力の向上、教育内容の豊富化・高度化、通用性・質保証の向上、起業意欲の促進などが考えられる。
 支援実現のための課題としては、文部科学省を中心に産業界等関係機関への理解の普及と合意形成、大学からの産業界等へ問題解決を助言する「オーダメイド授業」などの支援の促進、支援機関に対する顕彰制度の創設、負担軽減のための財政支援、著作権等知的資産の一元化とマネージメントシステムの構築などが考えられる。なお、産学連携の意思表示の方略としては、産業界等関係機関のWebサイトに、例えば「大学教育・研究支援」のアイコン設定の協力を依頼し、「現場・体験情報の提供」「コンテンツの提供」「インターネットによる授業支援」「就業体験の受け入れ」など、協力可能な支援の公開を要請する必要がある。
 本協会としては、文部科学省の施策の下で16年度末までに教員が求める支援の要望を踏まえ、協会内部で実現のための方策についてとりまとめた上で、文部科学省と連携協議することを予定している。また、経済同友会に本提案を説明し、会議への参加を要請したが、日程的に組織的な対応が間に合わないとのことから、参加が得られなかったことの報告があった。
 次いで、文部科学省の杉野専門教育課長より、経済界全体としても産学連携による人材育成は、経済界のミッションとしてとらえている。大学教育に対して経済界から意見が出されるが、具体的な人材への注文、そのための素材の提供、インターンシップなど負担を伴う教育への協力、実務家の派遣への取り組みは、経済界側のパプリックなミッションと考え、協力することに肯定的である。文部科学省としても、産学連携を通して大学教育の充実・高度化について、行政の立場で重く受け止め、バックアップすることの必要性を感じている。具体的な取り組みは、大学、経済界で部分的に進んで行くと考えるが、行政の立場からは、個々の大学、個々の企業の取り組みを超えて、大学間連携、産学連携の大きな枠組みが必要であり、制度的な取り組み、システム的な取り組みについて支援できるのではないかと考える。また、現代GPの中にe-Learningの取り組みと産学連携による教育を掲げ、個別の支援を今後も展開していきたい。
 システム的な対応としては、インターンシップを長期間、契約ベースで本格的なモデル授業を依頼するなど、新しい制度のインターンシップの支援を考えている。その他に、個別分野で産業界が求める人材と大学が輩出する人材に大きなギャップがあれば、例えばIT分野などについて行政の立場から関与していきたい。
 いずれにしても、来年度以降も専門教育課の施策の大きな柱として、産学連携による人材育成を支援していきたい。本問題は、文部科学省が進める第三者評価、専門職大学院など一連の大学改革の取り組みが、大学と社会との歩みよりや意思疎通の活性化の延長線上のテーマとして、位置付けられるのではないかと考えている。
これらを受け、会場を交えて主に次のような意見交換があった。

意見1: 産学連携による人材育成を十分念頭に入れ、心強いが、企業からの授業支援のリスト作りを文部科学省と連携して、私情協で実現いただきたい。
回答1: 大学教員の要望を全般的にとりまとめた上で、文部科学省と連携して何等かの方法で情報交流を考えていきたい。
意見2: 理路整然とした提案に感服した。社会からの支援は、知識の高度化よりも、人生哲学とか事業成功の経緯など、人間力の向上に役立つような内容が望まれる。文学や宗教学などはどのように考えるか。
回答2: 人生を考える、社会と個人を考えるなど人間の生き様を学習できるような人材データベースは必要であり、整備されることが望まれるが、文部科学省に全てを依存することは重いと思われる。国全体の知的資産の問題として、別途人材データベースの構築が望まれる。なお、文学については、要望があったが表現等で割愛した。今後、全分野の教員から支援内容の調査を本格的に実施し、様々な分野からの要望を整理することを予定している。

 以上の討議を経て、司会より、人材育成に産学官連携することの重要性と仕組み作りは文部科学省の下で進めていき、大学はその環境の中で人材育成の使命に応えていくことを確認した。


4.関連情報提供

「情報化投資額の実態と補助金の活用」

 15年度決算によると、教育研究部門の1大学当たりの投資額は、14度に比べ単純加算平均では3.6%の減となっているが、中央値では1.7%の増となっており、大学全体では若干投資額が増えた。他方、短期大学では加算平均で4.5%減、中央値で0.7%減となり、実質的に微減した。経費の内容では、設備関係と施設関係が大学・短期大学とも減少し、反面ソフトウエア関係、保守・管理関係が増加している。通信費はコストの低廉化もあるが、大学で若干増加、短期大学では減少している。昼間部学生一人当たりでは、中央値で大学は、4万円から上限8.3万円で、平均で14年度5.1万円から15年度5.3万円に増加、短期大学は、併設短期大学が14年度4.3万円から15年度4.6万円に増加、短期大学法人が14年度8.0万円から15年度5.7万円に減少した。
 以下に教育研究部門の規模・種別情報化投資額を掲載する。
大学規模別 教育研究部門の情報投資額
(単位:万円)
  1大学当り
中央値
学生1人当り
中央値
【大学】
A(入学定員3千人以上)
163.751
7.1
B(2千人以上3千人未満)
70.071
5.4
C(2千人未満自然科学含)
27.128
6.3
D(2千人未満人文科学含)
13.634
4.4
E(自然科学単科大学)
28.694
9.1
F(社会科学単科大学)
4.867
5.3
G(人文科学単科大学)
6.892
4.3
H(医歯薬単科大学)
12.433
10.2
I(その他単科大学)
12.361
5.7
大学平均
15.953
5.3
【短期大学】
大学併設短大
2.537
4.6
短期大学法人
4.138
5.7
短大平均
2.673
4.7

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