特集 教育ミッションとIT化(4)


全学的な学習支援の取り組みについて〜関西国際大学〜


山下 泰生(関西国際大学 学習支援センター長)


1.何のための取り組みなのか?〜学びをサポートする全学的なシステム〜

 平成10年度に開学した関西国際大学(以下本学)の教育理念は「世界的視野にたち、人間愛にあふれ、創造性豊かで行動力のある人間の育成」であり、教育目標は「1)自律的学習者、2)社会に貢献できる人間、3)世界性を持った人間」の育成です。そのため、学生の多様化に対応しながら学習への動機づけを行い、社会に貢献できる人材を育成するにはどうすれば良いか?この問題の解決への一つの提案が、本学が開学以来取り組み、今回採択されたプログラムであり、先の認識を踏まえ、本学の教育目標の実現のため開学と同時に導入した二つの制度が「GPAによる厳格な成績評価システム」と「学習支援センターを拠点とする学習支援システム」です(図1)。
高等教育のユニバーサル化により多様な学生への学習支援が必要
図1 取り組みの目的

2.どのような取り組みなのか?〜学生への多様で重層的な学習支援〜

 本学がわが国で初めて設置した学習支援センターは、高等教育のユニバーサル化の進展等により、自律的な学習が困難な学生や専門科目の理解が不十分な学生が出てくる中で、大学として「自律的な学習ができる学生を育てる」責任をいかに果たしていくかを実現しようとするものです。学習支援センターの取り組み内容は、大きく「個別相談」「ショートプログラム」、「特別研究」の三つに分けられます(図2)。
図2 取り組みの全体像と発展的経緯
(1)基本としての学生相談(学習相談、健康相談、カウンセリング)
 学生が高等学校から大学への転換課程の中で、円滑な移行と自律的な学習者に成長していけるように、多様な悩み等の相談に応じ、個別対応により一人ひとりの学生の個性を尊重しつつ解決を図っていくことを目指しています。また、学習相談に加え、保健室とカウンセリング室により幅広く学生の相談に対応しています。当初、「学習相談」は学習支援センターの専任教職員等によるものでしたが、専門科目の担当教員にも気軽に相談したいとの要望を受け、学生による研究室でのオフィスアワーに加え、平成12年度からは「センターオフィスアワー」を設け、全教員が毎週(1回)交代で学習支援センターで対応する相談体制となっています。

(2)独自の学習プログラム〜ショートプログラムの実施(平成11年〜)
 ショートプログラムとは、学習相談の中に現れる類似の相談あるいは教員側からの申し出に基づいて、学生のスキルアップを目指しセンターが実施する簡単な教育プログラムです。毎年度継続するものと変更するものがあり、プログラム数および参加者数も、開始時からは飛躍的に増えてきています(図3)。自由参加ですが、プログラム利用学生の満足度は高く、平成13年度は 、やや満足と満足で71%、15年度はやや満足と満足で96%となっています(図4)。

図3 学習支援センター・ショートプログラム数
図4 ショートプログラム受講者全体の満足度の変化
(3)特別研究の実施(平成11年度〜)、そして正規のカリキュラムへ
 特別研究は、ショートプログラム実施の過程で学生から出た「正課にないものを学びたい」「さらに詳しく知りたい」等の要望に応えて開設した、支援センター独自の講座です。授業と同様な形態で実施しており、単位認定の対象としています。正規のカリキュラムとの違いは、大学設置基準の枠に縛られずに、自由な科目設定が行えるところです。(科目例:情報ハードウェア・ソフトウェア、漢字検定、フィールド調査、MOUS検定、公務員講座、キャリアディベロップメント基礎講座 等)平成10年の学習支援の一環で実施した、「総合基礎英語」はその後のニーズの増加により、平成11年度に特別研究として開講し、その後、本講座を全学的に実施する必要性ありとの判断から、正規カリキュラムへと昇格しました。


3.入学前教育 

 平成16年度の入学予定者に対し、入学までの準備と不安を緩和してもらうことを目的に、新たに「入学前教育」を実施しました。内容としては「タイムマネジメント」「スタディ・スキルズ」「コンピュータ入門」「CASEC」(注1)の4科目です。入学予定者の3分の1が自主的に参加しました。参加者へのアンケート結果を見ると、62%が「大学生になることの不安がなくなった」または「どちらかといえばなくなった」と回答しています(図5)。
図5 入学前教育アンケート結果

4.センター機能の強化のための学内連携

 本学では、一種の担任制である「アドバイザー制度」を設けており、学習支援センターはアドバイザーとの積極的な連携を図っています。一例としては、毎学期中間に学生個々の状況確認を実施し、欠席の多い科目や単位取得に問題がある科目についての学生の情報をアドバイザーに連絡し指導してもらうことで、自律的な立ち直りのきっかけを提供しています(図6)。
図6 支援センターオフィスアワー例(一部)

5.組織面からのフォロー・アップ

 本学の学習支援の取り組みは、学習支援センターを中心に進めていますが、開学時から高等教育に関する研究を行っている高等教育研究所と連携をとってきました。高等教育研究所の研究成果を学習支援の活動に役立ててきたわけです。
 学内的にも、さらに組織的に学習支援活動を進めていくために、2004年に高等教育研究所の組織を改編しました。
 その基本は、「高大連携」や「初年次教育」をキーワードとして、新しく「初年次教育研究センター」を組織し、高等教育研究所と合わせて「高等教育開発センター」を作りました。前述の入学前教育に関する検討も高等教育開発センターと連携をとって行ってきました(図7)。
図7 学習支援を強化するための組織改編)

6.確認されたプログラムの有効性

(1)センター利用学生のGPA上昇
 学習支援センター利用者と非利用者群の比較では、11年度から15年度の各年度ごとの比較においてGPA(0.00〜4.00で表示)に有意な差が認められています。これは、1)学習相談を通じて、目的意識を明確にしたことにより履修登録に効果が上がったことと、2)支援センタープログラムによる学習意欲や学習スキル向上への有効性があり、利用者の成績面で有意差として現れることを意味しています(図8)。また、「学習技術」など本センターから始まった独自プログラムの効果もあって、全体的に成績水準が上昇してきています。
図8 利用件数とGPAの改善
(2)ショートプログラム、特別研究への参加者の増加
 「ショートプログラム」および「特別研究」の二つの講座について、その利用者の確実な増加が認められています。また、学生や教員のニーズ等を反映させ実施している学習支援プログラム参加学生の満足度は、極めて高いものになっています(前出図4)。

(3)独自教材への評価
 学習支援の観点から、初年次教育(First Year Experience)の充実を図っている本学が、11年度にショートプログラムで実施した「講義の攻略法」を「学習技術」として正課に組み込んだ際、独自に開発した学習技術の教材『知へのステップ』[1]は、その汎用性の高さが評価され、現在に至るまで多くの大学(88大学・独自調査による)で初年次教育に採用されています(図9)。
図9 ショートプログラムの進化(具体事例)

7.学習支援のためのIT環境について

(1)学習支援とIT環境
 学習支援も含め、教育に対するIT環境の利用は、大きく二つの側面が考えられます。一つは、e-Learningや遠隔教育などに代表される環境であり、学生の学習活動自身をサポートするIT環境です。もう一つは、学生生活も含めた学生指導に利用するIT環境です。本稿で述べている学習支援の取り組みに関してのIT環境の整備は、後者の方であると考えられます。
 本学でも、遠隔教育の環境の整備も進めていますが、それと並行して、学生指導を円滑に進めるためのシステムも整備計画を検討しています。学習支援センターや学生センター、教務課など、点在する学生の情報を一括管理し、教職員で共有することを目的とした学内オンラインシステムです。
 まだ、計画段階ですが、まず各部署単位で所有する学生情報で、共有すべき項目とその媒体を確認して一覧としてまとめた段階まで進んでいます。

(2)学習支援のIT化に関する課題
 学生の情報を共有するシステムは、同様の情報を点在させずに一括管理することにより「迅速な学習支援の全学的な展開を可能とする」と考えています。
 そこで、課題となってくるのが、今年の4月から施行される「個人情報保護法」への対応だと考えています。
 当初は、全学的に迅速な学習支援を行うために「なるべく多くの教職員が学生の情報を簡単に参照できる機能」という意見もありましたが、個人情報の保護という観点から考えた場合問題が起こる可能性も出てきます。


8.学習支援活動の今後の展開

 現状の学習支援に対する取組に対して、今後さらなる発展をさせなければいけません。
 今後、学習支援センターの取り組み(新たな試行)と、正課の教育課程へのフィードバックと連携を強化するとともに、高等教育研究開発センターを通じたFD(能力開発)活動に活かしていくことを考えています。また、従前のサポートに加え、地域社会への参画や海外での自発的学習活動など学外に広がるサポートを実施するなど、広がりをもった新プログラムの開発も検討していく予定です。

(1) 英語の基礎力診断。コンピュータにより英語でのコミュニケーション能力を判定。
参考文献
[1] 知へのステップ. くろしお出版, 2002.



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