「契約成立」がゴールとなるべき概念で、学生に与える問でもあります。学生はこのゴールを正しく解くことのできるルールを作成しなければなりません。法律家が暗黙知として有している法原則は、「申込が効力を有し、承諾の効力が生じれば、契約が成立する」です。この法原則を学生自身に自発的に獲得させようとするために、一連の設例が与えられるのです。
CISGの関連条文
1)申込は到達したときに効力が生じる。(15(1))
2)申込の到達前に撤回が到達すれば、申込は撤回できる。(15(2))
3)承諾の発信の前に申込の取消通知が到達すれば、申込は取り消しできる。(16(2))
4)拒絶の通知が到達すれば、申込の効力が消滅する。(17)
5)承諾は到達したときに効力が生じる。(18(2))
6)申込に対する承諾の効力が生じたときに契約は成立する。(23)
図1の体系化は、CISGの23条をそのまま18条2項の親ルールとして知識ベースに追加するものです。設例1については、「4月10日に契約成立」という(それ自体は正しい)結論が演繹できることとなります。しかし15条1項の「申込は到達したとき効力発生する」というルールは、それに対応する事実があるのにまったく適用されていない。本来は、「申込の効力発生」と「契約成立」を関連付けて、「契約成立」を判断すべきであるにもかかわらずそれを行っていません。
図1 学生の回答例1
図2において、学生は「申込の効力発生」を契約成立のための要件の一つとして付け加え、「申込は到達したとき効力が発生する」というルール(15(1))と「承諾は到達したとき効力が発生する」というルール(18(2))を統合する「契約は、申込の効力が発生し、かつ承諾の効力が発生したときに成立する」という「契約法原則」を創設し、それによって前の回答よりは優れた体系化に成功しています。すなわち、図2の体系化の場合は、設例2において、申込の撤回が効力を生じるため、申込の効力が発生しないことを導き出すことができ、それによって契約法原則の第1の要件「申込効力発生」が充たされないため、契約が成立しないという結論が導き出されます。この体系化では、設例1のみならず設例2においても、正しい結論を導き出すことができます。
図2 学生の回答2
図3の体系化においては、「申込の取消」が効力を生じ、その結果申込の効力が消滅し、したがって、「申込が有効」という要件が充たされず、「契約が成立しないことが証明される。この体系化において、学生は契約が成立するためには、単に申込が効力発生するばかりでなく、承諾時に申込の効力が有ることが必要であることを認識し、それに基づいて、契約法原則とその下で諸ルールのより適切な体系化に到達しています。
図3 学生の回答3