授業改善奮闘記
学生から学び、学生と一緒に学ぶ
岡田 礼子(東海大学短期大学部助教授)
1.パソコンが使えない英語教員
語学教育では、Windows95以降パソコンを活用した指導法がたくさん発表されましたが、私はパソコンが使えない時代遅れの中年教員だったため、「パソコンに向かって学習する学生の様子とはどんなのだろうか」と、別世界のことのように想像していました。
ところが、1999年に東海大学短期大学部「情報ネットワーク学科」の英語専任教員として採用された途端、コンピュータを使ったCAI(Computer Assisted Instruction)学習を担当するように言われ、大慌てしました。なにしろ私が当時パソコンでできたことは、ワープロと電子メールで文字を打つことだけでしたから。新しい職場では、学生も教職員も皆パソコンを日常的に使っていて、難しいIT用語が飛び交っていました。私にとってパソコンは難しい「機械」だったので、何となく居心地が悪い日々を送ることになりました。
2.パソコンに文字を打ち込むことが学習?
CAIの授業は、教材ソフトの使い方を必死で覚えて何とかうまくできました。しかし気になったのは、パソコンが大好きなはずの学生たちが、英語CAIでは楽しそうでないことでした。CAI教材は、文法解説・練習問題・ヒントなど細かくプログラムされていて、各自のペースで学習できる理想的な教材と言われていたのですが、少なからぬ学生が何も考えずに当てずっぽうで文字を打ち込んでいることがわかってきました。
そんなあるとき、数人の学生が一つのパソコンを囲んで活発に話し合っている光景を見て、「パソコンを使って学習するなら、このほうが自然だ」と思いました。一人でパソコンに向かって学習するCAIは、パソコンの有効な活用法の一つだと思いましたが、語学は人とのコミュニケーションのための学習であることを考えると、もっと別の方法でパソコンを利用できるのではないかと考えるようになりました。
3.パソコンで世界とふれあう
この短大の学生にとってどんな英語学習が効果的なのだろうか、考えていたとき、放課後のパソコン室で、大勢の学生がインターネットを利用していることを知りました。当時私はホームページをほとんど使ったことがなかったので、ともかく試してみようと思い、まだ見たことがなかったAmazonのサイトを見てみました。ただの本屋さんの情報なのになぜか面白いと思いました。さらに、かつて在学していたアメリカの大学を試してみると、指導教授の顔が現われ思わず「わあっ」と声をあげてしまいました。英文サイトの様々な表現に「これは何だろう」と好奇心が湧いてきて、いつのまにか学生と同じように「ネットサーフィン」を楽しんでいました。そして、興味ある英文サイトを読めば、英語を「道具」として自然に活用できる、と実感しました。
すぐに、楽しそうなサイトを使って実世界の情報を話し合いながら学習する方法を授業に導入してみました。一人でパソコン教材の学習をするのとは違い、クラスの雰囲気が活発になり楽しくなってきました。
4.学生といっしょに学ぶ
学生が何を勉強し何に興味を持っているのかを知らずに英語の指導はできない、と思うようになり、学生と同じIT学習を少しずつ始めてみました。パソコンの授業に参加したり、配布教材で勉強したりするうちに、WordやPowerPointを使った複雑な作業ができるようになり、IT用語も少しずつ理解できるようになってきました。1年目には「LANって何だろう」などと疑問に思っていたことも次第にわかるようになり、共有フォルダを授業で活用する方法なども覚えました。
学生やパソコンのことがわかってくるにつれ、学生が興味を感じることはどんなことで、指導すべき英語は何であるかがはっきりしてきて、新しい活動を授業に取り入れられるようになりました。アメリカ小学生向けのネチケットのWebページを読んだり、オンラインショップの安売り情報を探したり、英語版ワープロソフトでレポートを作ったり、ソフトの使用法を英語で説明したり、と様々な英語学習活動のアイデアが湧いてきました。苦手なPC用語やIT情報がたくさん出てきましたが、専門の先生に伺ったり調べたりして、まさに学生と共に学習を進めました。そしていつの間にか、パソコンは私にとって難しい「機械」でなくなり、学生を英語の世界へ連れ出すコミュニケーションの「道具」となっていました。
5.カリキュラム改革と学生の変化
英語に対する学生の意識が徐々に前向きになってきたことを多くの教員が感じ、2年後にはそれまでの「英文読解」科目を「Webサイト・リーディング」「コンピュータ・ワーク・リーディング」「Eメール・ライティング」に変え、非常勤講師にも趣旨を説明して指導をお願いするようになりました。「Webサイト・リーディング」では、やさしい情報から読み始め、少し自信がついたら自分で選んだサイトを読み、学期終わりには簡単な情報検索を英語でさせることを目標にしています。「コンピュータ・ワーク・リーディング」では、パソコン操作の説明、ウィルス情報の理解、その真偽の確認などを英語で行いながら、普段使っているIT用語を英語でも躊躇せず使えるように指導しています。
また、教材はすべて共有フォルダにデジタルファイルで保存し、学生はいつでも教材が取り出せるように準備しました。外国人教員が録音した音声ファイルも共有フォルダに入れることにより、リスニングやスピーキング練習が何度でもできるようになり、学内全体の英語に対する意識が以前よりずっと高くなりました。
6.ずっと学び続ける
私は今、学生に手伝ってもらって、自宅からでも音声学習ができるようなWeb教材の作成をしています。6年前には想像もできなかったことです。今後も技術が進み、学習しなければならないことが増えるでしょうが、学びはいつも人との関わりの中で行われることを忘れずに、年をとっても若い学生と共に学んでいきたいと思います。
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