翻訳1

リベラルアーツカレッジのIT事情について
A Liberal Arts IT Odyssey (前号より続き)

David L. Smallen


翻訳は、EDUCAUSEの許可を受けて行い、前号と今号の2回に分けて掲載しています。
前号の翻訳文や原文は以下のサイトよりご覧いただけます。
<前号翻訳文> http://www.juce.jp/LINK/journal/0501/08_01.html
<原文>
    PDF  http://www.educause.edu/ir/library/pdf/erm0412.pdf
    HTML http://www.educause.edu//apps/er/erm04/erm0412.asp

David L. Smallen is Vice-President for Information Technology at Hamilton College.

〜前号より抜粋〜

 ITサービスのベンチマーキングは、現在、大学にとって非常に重要な活動となっている。カレン・リーチと私が1996年に開始したCOSTSプロジェクト(http://www.costsproject.org/)は、高等教育にかかるITサービスのコストについて数値データを使ったベンチマーキングを行うもので、現在継続中である。この方法は、自大学のIT関連予算や職員配置が、同じタイプの大学と比較してどのような状態にあるのか把握するのに役立つ。しかし、最近、それとは異なる種類のベンチマーキングを行った。ITが戦略上不可欠と考えられる分野で、我がハミルトン・カレッジが他校に対してどのような位置にあるのか、数値によらない実態を得る目的で、9ヶ月以上かけて我が校と同じタイプの大学を歴訪したのである。

 私はハミルトン・カレッジのIT部門の長として、役員や理事、父兄、卒業生、その他の関係者から、大学のテクノロジー利用に関する記事への問い合わせをよくいただく。その記事というのは、例によってテクノロジーを利用することの利点、そしてテクノロジーの利用がその大学の教育環境に「大変革をもたらして」いることを絶賛したものである。そして問い合わせの中身は決まって、「ハミルトンでは、この件に関してどんなことをしているのですか」ということだ。

 そこで私は、大学をいくつか訪問して、それぞれの大学で実際にどんなことが行われているかを自分自身の目で確かめたら役に立つに違いないと考えた。私はハミルトン・カレッジと同じタイプの一群の大学を選び出して、半日ほどそこを訪問させてもらえるかどうか各大学に問合わせた。その際、ITに関する質問をいくつか提示して、それに対する回答を用意してもらうようにした。その質問とは、

 (1)教育プログラムに対する支援について
 (2)キャンパス全体にわたるインフラとサービスの提供について
 (3)学外の人を引き付けるためのWebの利用について
 (4)テクノロジーによって大学の活動の全体的な効率を向上させることについて

である。各大学には、最も自負しているテクノロジー関係の活動、解決された問題など、報告内容は問わなかった。私が各大学に約束したことは、自分が学んだことを皆と共有することである。私は、訪問先の大学が報告してくれた内容が、どの程度成功しているのか正確な評価方法は持っていなかったが、それでも、各大学の報告を比較することはできた。

 自分を取り巻く環境を抜け出すと、非常に元気を与えられたり、新しい発見をしたり、啓蒙されたりするものである。しかし私がこれらの大学を訪問することによって得られた興奮は、自分の大学に戻ったときに、職員たちが感じている懸念のせいで冷めてしまうことが多々あったことを、ここに記しておくべきだと思う。私は、他の大学での見聞に基づいた数々の新しいアイディアを持ってハミルトンに戻った。しかし、私の意見は時に、我が校が行っていることに対する批判と思われたり、何か別のことをするように命じていると取られたりした。職員たちは、我が校も素晴らしいことを数多く実行しているという事実や、我が校でも同様の活動を既に行っていることを私に思い出させてくれた。

 私の大学歴訪の旅は、2002年10月にメイン州で始まった。その後24,000キロを旅して28の大学を訪問し、私は今、約束どおり、自分が学んだことを発表することとなった。
 以下の記事は、アメリカ中の大学の担当者が私に報告してくれた情報をまとめ、それを抽出したものである。


Web

 私が訪問した大学はすべて、情報収集や手順の簡素化、コミュニティ構築の手段としてのWebの重要性を認識していた。それだけでなく、いくつかの大学では、特に入学希望者や卒業生といった学外からのニーズに対処するためのWeb整備には、戦略的な価値があることも認識していた。また数校では、ポータルサイトを経由する大学のすべての処理を基本的にはWebで行っていた。しかし、Webに関するこれらの努力が、継続的なシステムとして成功している例は非常に少ない。

 かなり成果を上げている大学は、Webサイトの管理に関して、IT担当部署と広報部が強力に連携していた。ここで言う「連携」とは、各部署の得意分野と重点項目に基づいて、合意による責任分担が行われているということである。効果的なWebサイトを作るには、これら二つの部署が決め手となっていることを大半の大学は認識しているが、二つの部署の間に未解決の重大な緊張関係が存在し、その結果、仕事が倍増したり、機会を逸したりする事態になっている。IT担当部と広報部が連携を結んでいる場合、一般にIT担当部が専門的なプログラミングとサーバのメンテナンスを担当し、広報部がコンテンツとサイトのビジュアルデザインを管理している。

 大学側は、自校のWebページ数が数千ページに及ぶこと、また、その内容は日々古くなっていくことを認識している。印刷による出版物と違って、Webページは頻繁な更新が要求される。コンテンツ作成において代表的な方法は、分散方式、つまりそれぞれの部署がWebコンテンツの管理を責任をもって行うというものである。

 Webコンテンツの管理で最も成果を上げている大学は、コンテンツとデザインを分離する方法を開発していた。この方法を使うと、Webページ更新の担当者は、サイトに一貫性のあるデザインを保持でき、誤ってサイトのナビゲーションを妨げてしまうことがない。最良の方法は、テンプレートを使い、大学の情報システムからコンテンツを取り出す際はデータベース主導にし、Webエディターのような標準化した更新用ツールと、コンテンツ管理システムを利用することである。本格的なコンテンツ管理システムは非常に高価なので、ほとんどの大学はシステムの中心的機能のいくつかを自前で構築している。

 特に重要となっている方策は、Webサイトのコンテンツを大学のERPシステム(Enterprise Resource Planning:組織全体の資源を統合的に管理し有効活用するシステム)から取り出すというものである。例えば、ある部署の教職員リストを固定的なWebコンテンツとして作成するのでなく、その情報を大学の人事部のシステムから取り出すのである。この方法の利点は、最新の情報を1箇所で管理できることである。

 いくつかの大学では、入学希望者を引き付けるためにWebを活発に利用し始めていた。各学生のパーソナリゼーション(Web訪問者に対する個別対応)を進めるためにWebを工夫し、大学のERPシステムから取り出した、入学に関する彼らのデータを一本化しているのである。一人の学生について把握した情報はすべて募集プログラムに取り込まれ、その学生の興味に沿って大学の全体像が提供される。最も進んだ大学の場合、学生が大学を探す初期の段階でこのパーソナリゼーションを開始し、出願期間中ずっとそれを継続し、学生がWeb上で出願の審査状況をチェックできるようにしている。大学によってはWeb上の交流を拡大することに取り組み、夏の間に、合格した学生たちが秋からの大学での生活に溶け込みやすいようにしているところもある。その他、大学が行っている努力としては、学生からデータを集めること、学生に教員と交流する機会を与えること、必要な情報を大学が学生から容易に引き出せるようにすること、かつ、または、電子メールなど大学のIT関連資源を学生に利用させること、などがある。

 Webを利用して卒業生との関係を維持することは、私が訪問した大学ではごく一般的に行われていることである。ここ10年間、ほとんどの大学ではこのサービスをアウトソーシングしている(最も人気のある業者はHarrisとIACの2社である)。予想どおり、一番多く使われているサービスは、オンラインの卒業者名簿、ディスカッションリスト、それに電子メールの転送である。いくつかの大学では、ERPシステムと統合して、このサービスを学内で行うことを検討している。大学のポータルサイトが発達したことや、卒業生のコミュニティと学内のコミュニティが調和し形成してほしいという希望も、このサービスを学内で提供する動機付けとなっている。


効率

 ITに費用をかけることで大学側が期待している成果の一つは、大学としての効率が向上することである。既存の手順を自動化することは、何年にもわたって着実に進んでおり、ある程度複合化の進んだ大学で、ITを使わずに機能していると主張できるところはおそらくないだろう。しかし、Webのインターフェースの向上、WebとERPシステムの一本化、それに認証技術の進歩のおかげで、今では手順を自動化するよりも撤廃することが以前よりも簡単になっている。

 ほとんどの大学は、科目や個人に関する情報を学生や教員がWeb上で見られるようにしている。また、Webベースの登録も現在広く行われている。こういった方法を使うと、例えば成績表の印刷など、数多くの処理が不要になる。ポータルサイトの支援によって、同様のデータは大学関係者すべてに提供することができ、バックエンド(後処理系)のERPシステムと一本化することもできるので、大学全体の効率が向上する。例えば、紙の書式をWeb上のフォームに替えると、データが正しいかどうかのチェックを迅速に行えるし、そのフォームに記述した人の学問、知識に基づいた情報を蓄積することもできるし、きちんと点検をした後で必要な中央データベースを自動的に更新することも可能である。

 いくつかの大学では、学生による教員評価の方法をWebに変更している最中である。回答率が低くなりかねないことや、回答の匿名性についての懸念に対し、興味深い方法を使って取り組んでいる大学もある。高い回答率を確保する方法の一つは、すべての科目について教員による評価が終わるまで、学生が自分の成績にアクセスできないようにするというものである。

 Web機能が、大学側の導入しているERPシステムの一部になっている場合もあるし、また、既存の中央情報システムがWebのフロントエンド(たいていは中程度のデータウェアハウス)に取り囲まれている場合もある。どちらの場合でも、大学というコミュニティが求める成果は、汎用的なインターフェースを介してアクセスでき、かつアクセスする人の目的に合った情報を提供することである。

 ほとんどの大学にとって、ポータルサイトは効率を上げるために使う当然の媒体と考えられている。業者のポータルマーケットが淘汰され、オープンソース・プロダクトがより堅固になるにつれ、今後数年のうちにオープンソース・プロダクトが活発に利用されるようになるだろう。


まとめ

 訪問した28大学(注)を一つのグループとしてみた場合の主な結論は、以下の4点である。

1.理想的な学びの場を提供している。我が校と同じタイプの大学を訪問したことによって私が確認したのは、自分がハミルトンでの仕事を常に愛してきた理由と、もう一つは学部生の多くはこれらのリベラルアーツカレッジや大学で得られる機会の素晴らしさを十分に分かっていない、と私が感じる理由である。美しい環境、少人数制のクラス、教職員との緊密な関係、それに素晴らしい情報資源のおかげで、これらの大学は理想的な学びの場となる可能性を秘めているのだ。学生がこのようなカレッジや大学に通えることは非常に幸運なことである。技術は、彼らが幸運である要因の一部に過ぎない。

2.まだ、図書館とITを統合させるために力を発揮しているとは言えない。文化の違いと情報資源に対する競争心が図書館とIT担当部署の緊密な連携体制の障害となっている。進歩は見られるものの、大学側にできることは、まだまだたくさんある。

3.技術よりも文化のほうが勝っている。変革についていくら語っていても、実際の進行度は遅く、またそれはある程度の疑念を伴ったものである。学びの場として理想的な環境という特徴を持っているため、大規模な大学で見られるような、技術の利用をどんどん推進しようとする人は、最小限にとどまっている。このような漸進的なアプローチの場合、教育プログラムに最大の効果を与えるには、特定の一人の教員のプロジェクトによって技術を一気に導入するよりも、基本的なツールを普及させていくほうがよいだろう。また、ある大学でうまくいっている技術が、他の大学でうまくいくとは限らない。大学にはそれぞれ文化を反映した歴史があり、文化には、変化をとげるための時間と順応する意欲が必要なのである。

4.ITの卓越性はインフラ、組織、人によってもたらされている。大学の訪問を始めた当初、私は興奮と失望が入り混じった気分で帰ってくることがよくあった。興奮は自分が見た物に対してであり、失望は他大学の財源や職員をハミルトンのそれと比較したためである。すべての大学を訪問した後で得た結論は、ITの卓越性は、信頼できるインフラと素晴らしい組織、そして創造的でサービスを重視する職員によって達成されているということである。

 いくつもの大学を歴訪するというこのアイディアを、ハミルトン大学の役員で構成されたテクノロジー委員会に初めて提出したとき、彼らはそれを困難を伴うだろうが良いアイディアであると考え、同じようなタイプの大学と比べてハミルトン・カレッジがどうであるか、その報告を楽しみにしていた。しかし彼らはこんな質問もした。「大規模なリサーチ・ユニバーシティーと比べた場合はどうだろうか。」

・・・その件については、おそらく来年にでもまた報告しよう。


 筆者が訪問した28の大学。大学名は以下のとおり。

アムハースト・カレッジ(マサチューセッツ州)、ベーツ・カレッジ(メイン州)、ボードン・カレッジ(メイン州)、ブリン・マウル・カレッジ(ペンシルベニア州)、カールトン・カレッジ(ミネソタ州)、クレアモント・マッケナ・カレッジ(カリフォルニア州)、コルビー・カレッジ(メイン州)、コールゲート・ユニバーシティー(ニューヨーク州)、ダビッドソン・カレッジ(ノースカロライナ州)、デニソン・ユニバーシティー(オハイオ州)、グリンネル・カレッジ(アイオワ州)、ハーヴィー・マッド・カレッジ(カリフォルニア州)、ハバーフォード・カレッジ(ペンシルベニア州)、ケニヨン・カレッジ(オハイオ州)、マカレスター・カレッジ(ミネソタ州)、ミドルベリー・カレッジ(バーモント州)、マウント・ホールヨーク・カレッジ(マサチューセッツ州)、オバーリン・カレッジ(オハイオ州)、ポモナ・カレッジ(カリフォルニア州)、スミス・カレッジ(マサチューセッツ州)、セント・オラフ・カレッジ(ミネソタ州)、スワースモアー・カレッジ(ペンシルベニア州)、トリニティ・カレッジ(コネチカット州)、バッサー・カレッジ(ニューヨーク州)、ワシントン・アンド・リー・ユニバーシティー(バージニア州)、ウェルズリー・カレッジ(マサチューセッツ州)、ウェスレヤン・ユニバーシティー(コネチカット州)、ウィリアムズ・カレッジ(マサチューセッツ州)。


EDUCAUSEの関連組織

 EDUCAUSEの小規模カレッジ構成グループ(http://www.educause.edu/cg/smallcol.asp)は、フルタイムで就学している学生数が5,000人以下の大学に特有のIT関連問題について、意見交換を行っている。このグループの目的は、それらの問題の解決方法や、技術関連の情報資源の立案・管理で成功した方法を共有することである。


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