翻訳2
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ここ数年間に、リベラルアーツカレッジから大規模なリサーチ・ユニバーシティーに至るまで数多くの高等教育機関が、その情報技術(IT)担当部署と図書館組織を統合してきた。そして現在もなお、多くの大学が統合の可能性を積極的に探っている。大学がこれら別個の組織を統合する理由は、デジタル化される未来に備えて体制を整えておきたいというものから、現在二つの組織の一方が深刻なサービス危機に陥っているためそれを解決したいというものまで、多岐にわたっている。加えて、図書館とITの業務を一つのサービス組織に統合することは、利用者側と運営管理者側の双方の視点から見て、実に道理にかなっているからである(注1)。
これら2組織のサービスやリソースを利用する人々は、ツールとコンテンツを明確に区別できないことがよくある。また、仕事上でわからないことがあったときに誰に聞けばよいのか分からないこともますます増えている。統合した組織のいくつかはこういった問題に対処するため、ITのヘルプデスクと図書館の問い合わせデスクとの業務の融合、IT機能と図書館機能の1箇所への集約、統合的なビジョンや計画の作成、学生と教員のための教育プログラムの共同開発、図書館員と技術者の専門知識を兼ね備えた専門職ポストの新設などを行ってきた。
これら2組織の目的や構成、構成員、予算がますます重複していくと予想されることに対し、運営管理者側も当然、懸念を抱いている。多くのカレッジや小規模大学において、図書館サービスとITサービスを別々に供給している現行のモデルは、学術上の意見交換や教育や学習が急速にデジタル・モードへと移行しつつある世界では、もはや維持できない。組織の維持や予算の配分に関して現在のやり方を続けていけば、今後数年のうちに、教員や運営管理者や学生―それに入学希望者―のニーズや期待に応えることができなくなってしまうだろう。
IT/図書館統合サービス組織を有する25のリベラルアーツカレッジが作った非公式グループは、これらの問題をめぐって活発に意見交換を行っている。グループ加盟校の代表者たち―CLIR-CIOsという名称で知られているが―は、図書館情報資源振興財団(CLIR)のプログラム・ディレクターであるスーザン・ペリーの提案に応じて、2002年5月に初めての会議を開いた。本記事中のアイディアの多くは、このグループ内での話し合いから生まれたものである(注2)。
前述したように、IT担当部署と図書館組織の統合を図る理由は、大学によって相当異なるだろう。統合のメリットをいくつか挙げるなら、サービス提供の窓口を減らせること、新しいサービスの計画や供給に普遍性を維持できること、(実際には削減に至らないまでも)いくつかのコストを回避して財政の効率性を高められること、そして急速に変化しつつある大学のニーズに個人と新組織がより創造的に対応できる機会を生み出せること、などである。他にも以下のような主要な動機がある。
一方で、主に経費節約や人員削減を目的として統合すると、成功を妨げる重大な障害が生まれるだろう。なぜなら、統合の動機となっているこれらの要因は必ずと言っていいほど、サービスの質と職員のモラルの低下につながるからである。つまり、組織が急速に弱体化する状況に陥るのだ。この数十年間に多くの大学で行われた大規模な自動作業化プロジェクトと同様、真の財務上の利益は短期間ではほとんど得られないだろう。投資から得られる真の利益は、既存のリソースをより有効に使い、潜在能力を高め、コスト回避をすることによって、長い時間をかけてもたらされるのである。
IT担当部署と図書館組織の統合というテーマに関しては、実に様々なことが論じられている。組織の統合というものはおそらく、特定のモデルやタイプによって分類するのではなく、むしろいくつかの側面に関する統合の程度によって捉えると最も適切だろう。大学が組織を統合する事情は非常に個別的であり、その大学特有のものである。しがたって、歴史や個性、主要ポストの空席状況、上層部の意向、現在および過去のサービスの経験と伝統、これらすべてがそのプロセスの重要な側面となる。
図書館およびIT担当部署の統合に取り組む大学は、まず、この変化に対して関係者たちがどれくらい準備しているか、また両組織が既にどの程度共同で仕事をしているかについて話し合うべきである。それを行う過程において、親組織は鍵となる以下の四つの側面を考慮する必要がある。
これらの側面を認識することは、1)統合の性質と可能性、2)統合努力の成果が最も期待できる領域、3)成功の見込みを知るために必要である。
統合がどういう結果を生むかを予測するのは容易ではない。統合の行く末を見極める唯一の方法というものが存在しないのは、統合のプロセスに着手すること自体に絶対確実な方法が存在しないのと同じである。しかしながら、他校の経験を知ることにより、図書館またはIT担当部署内の提唱者として問題にアプローチしている場合でも、運営管理上のビジョンもしくは外部からの命令に従って問題にアプローチしている場合でも、考慮すべき重要な要素や問題点に対して洞察力が養われる。
結局のところ、これらのテーマに関するさまざまな事柄や四つの側面の相互作用は、大学によって大きく異なる。大学の指導陣は、適切な話し合いを通じて根本方針を理解し、探求し、その後、統合すべきか、統合するならどうすれば最善の方法がとれるかについて決定すべきである。そして次には、自校の状況に合わせて根本方針を正しく適用・調整する必要がある。
適切なリーダーシップがあれば、統合された組織は、それぞれの組織を足した以上の存在になりうる。無能なもしくは不適切なリーダーシップ―つまり、その組織や学校のニーズや文化に合わないリーダーシップ―の場合、統合の努力は容易に機能不全に陥ってしまう。
リーダーとして統合を効率よく進め統合された組織を率いる者は、中間レベルの指導者たちをしっかりとまとめ、共通の価値観と目的を持つ幹部として育てることで、IT担当部署と図書館の職員の考え方を変える必要がある。リーダーに必要な個人的資質は、生来の優れたコミュニケーション能力に基づいた効果的なコミュニケーション・スキル、人を専門家として育もうという強い気持ち、人の指導に時間と忍耐を注ぎ込む熱意、図書館とIT担当部署の既存の文化に対し威信を示す能力、そして有意義な変化をもたらすことへのたゆまぬ意欲である。
新組織の中間レベルでリーダーシップを育てることは絶対に不可欠である。統合の努力が実を結ぶためには、組織のメンバーの気持ちをしっかりつかむことのできる有能なリーダーが必要である。しかし、中間レベルのリーダーたちが、気持ちを一つにして自立した集団として組織のリーダーシップを取らなければ、その有能なリーダーも能力を発揮することができないだろうし、組織を挙げて積極的に取り組む姿勢も生まれないだろう。
統合された組織の大学での位置付けを決めることは重要である。鍵となるのは、職員数と、大学の全予算の何パーセントがITと図書館のサービスに当てられるか、ということだろう。大学側は、これらの資産が大学の使命に最も適した形で使われることを知る必要があるだろう。統合された組織内においては「典型的な」直属関係がいくつかあり、それぞれには独自の長所がある。CLIR-CIOsのグループのメンバーを調査したところ、およそ3分の1の大学では、統合された組織のリーダーが「副学長」の肩書きを持ち、学長に直属している。リーダーはまた、この立場で上級管理職も務めている。他のほとんどの場合では、リーダーの肩書きは「準副学長」、「学部長」、「準学務部長」であり、彼らは学務部長に直属している。これらのほぼ半数において、リーダーは上級管理職の主要メンバーでもある。こういったリーダーの地位や肩書きが、その大学の文化の中になじみ、情報や技術がその大学で果たしている重要性の相対的レベルに合っていなければならないのは当然である(注3)。
別々の組織を統合するという決断が下されたら、発生期にある組織は真の統合へ向けた長いプロセスを開始するにあたって、上級管理職のリーダーから多大なサポートを得る必要があるだろう。下記は、それぞれ環境の異なる大学において、統合の成功に影響を及ぼした事柄である。
バックネル・ユニバーシティー
バックネル・ユニバーシティーでは、一定レベルでの運営管理上の統合が伝統的に存在しており、コンピュータ関連組織と図書館双方が学務部長に直属している。より完全な統合を行うという決定が1996年に学長と学務部長によって下されたが、これは大学全体でかなり幅広く意見交換を行い、特別対策委員会が調査を行った後のことである。統合の原動力となった第一の要因は、これら2組織の長の地位が同時に空席になったことだ。新組織のリーダー、すなわち情報サービス・資源(ISR)担当準副学長の雇用とともに、1997年に統合は開始された。しかし物理的な統合が今でも制限要因となっている。というのも、この組織の職員は二つの別の建物に散らばっているのである。しかし、二つの建物間で異動した職員もおり、また、全学対象のサービスはすべて、図書館1階にある「共通インフォメーション」でまとめて行われている。初期の段階では、旧2組織それぞれの職員に、「相手組織」の業務を理解・評価させることに進展が見られた。文化面での重要な統合が始まったのは、統合開始の2年後、ISRが組織の「ビジョンと価値観」というステートメントを作成したときである。そしてISRは、新しい共同作業環境を明確にすることに着手した。文化面の転換は非常にうまく行っている。統合が成功した理由は、小さな努力を積み重ねていったこと、そして全面的な再編制を目指す大掛かりな試みではなく「好機を捉えた展開」をしたことである。
パシフィック・ルーセラン・ユニバーシティー
パシフィック・ルーセラン・ユニバーシティー(PLU)では、図書館の建物内にITセンターが配置されていることが、統合にとって相当の助けとなってきた。運営管理上の統合が行われる前は、IT担当部署は財務担当の副学長に直属し、図書館は学務部長に直属していた。1996年に情報資源部が作られたことに伴い、コンピュータ関連組織と図書館の双方が大学のリソースとして認識されることとなり、情報資源部事務局長は学務部長に直属することになった。1年後、このリーダーの地位は情報資源部学部長という名称に変更された。現職の学部長は終身在職権のある教員で、図書館長兼、図書館運営管理者の経験がある。最近まで、PLUにおける統合は、主として運営管理上のものであり、同一建物内で友好的な関係にありながらも、コンピュータ関連組織と図書館は別々の主体性と業務内容を維持していた。3年前、中間レベルのリーダーたちを一つにまとめて共通の文化や立案プロセスを作り出すために、統合統率グループが結成された。このグループは現在、共通インフォメーション関係の主要サービスを運営面で統合する活動を主導し、共有パブリック・スペースの再設計も行っている。さらにこのグループは、大学のいくつかのサポート・サービスをコンピュータ関連サービスと図書館サービスと同じ建物内に統合するという未知の領域にまで、サービスの統合というコンセプトを広げつつある。
ホイートン・カレッジ
ホイートン・カレッジの上層部は1990年代半ばに、図書館と大学のコンピュータ関係のサービスを一箇所に集中させることの潜在的利益について考え始めた。しかし、統一ビジョンを持った一つの組織にすべての情報サービスを統合する活動を正式に開始したのは、2002年のことである。そしてこのとき、大学図書館長兼、技術・情報サービス担当準副学長のポストが作られた。統合された組織を率いるこのリーダーは、学長に対する助言機関の一員を務めている。図書館とITサービス組織を統合する計画は、3年間におよぶ六つの段階から成り立っている。初期立案の段階では、企画チームを特定し、プロセス・マップを作成した。また、様々なサブカルチャーのスキルと責任を尊重することを学ぶ準備も整えた。利害関係者のニーズ/要望分析の段階では、サービスに関する基本的な問題に取り組んだ。例えば、利用者はどのようなサービスを好むのか、新組織ではどのようなサービスを存続すべきか、どんなサービスを変更、追加、廃止すべきか、などである。ビジョンの段階では、利用者と親組織全体に最高レベルの満足を与えるために、新組織のビジョン、使命、価値観を策定した。問題点特定の段階では、もしそれに対処しなければ、ビジョンを実現する組織の能力を妨げる可能性がある支障や障害を特定した。解決の段階では、問題点特定の段階で特定された緊急の問題および戦略上の問題を、創造的に解決する方法を生み出した。そして最後に計画を締めくくるのが実施の段階であり、これは現在進行中である。この段階は新組織のビジョン、使命、価値観の枠組みの中で、これらの解決方法を実践するものである。
CLIR-CIOsグループのリベラルアーツカレッジ25校は、図書館とIT担当部署のより緊密な統合によって、既に生まれているメリットのいくつかを特定している。
学術情報の世界は変貌しつつあり、大学で使われる技術は広範囲にわたり、進化し続けるデジタル世界における技術革新のペースは速い。これが、今日の高等教育における現実なのである。これらの事象は、図書館とIT担当部署が協力して、より統一された方法で、学者や学生をサポートする必要があることを示している。ほとんどの大学では、すでにある程度まではこれらの機能分野間で協力と共同活動が行われているが、すべての大学でより大きな統合が行われる可能性がある。高等教育は現在、困難な経済状況に直面しているため、費用のかかるこれらの事業に充てられている職員と予算源を最大限に活用することが各大学に求められている。
しかし、統合に対する見返りはリスクなしでは得られない。組織の転換は些細なことではなく、組織が持っている文化を変化させながら協調関係を作り上げる作業は、複雑で困難を伴うものである。新しい組織の人々にもそれをサポートする側の人々にも、献身的なリーダーシップが求められる。しかし、こういった統合が現在、情報やリソースにアクセスする人々に対し、大幅に向上したサービスや機会―IT担当部署と図書館が単独では提供できないサービスや機会―を提供する共同組織を特徴とする、新しい世代の情報サービスを生み出しているのである。
(1) | このテーマについては多くの書物が著され、専門家による講演や助言も行われているが、統合についての事情を理解するのに最適な出版物はやはり、ラリー・ハーデスティ編集による論文集『書籍、コンピュータ、そして架け橋:学術機関における図書館とコンピュータ・センター(シカゴ:米国図書館協会、2000年)』である。また、アーノルド・ハーションの『コンピュータ関連サービスと図書館サービスの統合:情報資源のための運営管理計画と実践ガイド、CAUSE学術論文No.18(コロラド州ボールダー:CAUSE&ネットワーク情報連合、1998年)』も、統合を企図する際に役立つ情報源である。そして統合に関する有益なケース・スタディーが載っているのは、ロバート・A・オーデンJr.他による『ケニヨン・カレッジにおける図書館サービスとコンピュータ関連サービスの統合:経過報告書』、(EQ:EDUCAUSE Quarterly第24巻、第4号、pp18-25、2001年)である。 |
(2) | CLIR-CIOsグループを形成している25のリベラルアーツカレッジは以下のとおりである。 バーナード・カレッジ、ベーツ・カレッジ、ベロイト・カレッジ、ブリン・マウル・カレッジ、バックネル・ユニバーシティー、コー・カレッジ、コネティカット・カレッジ、アールハム・カレッジ、ハンプシャー・カレッジ、カラマズー・カレッジ、ケニヨン・カレッジ、ラファイエット・カレッジ、レーク・フォレスト・カレッジ、マカレスター・カレッジ、ミドルベリー・カレッジ、ミルズ・カレッジ、マウント・ホールヨーク・カレッジ、パシフィック・ルーセラン・ユニバーシティー、ローズ・カレッジ、サラ・ローレンス・カレッジ、シウォーニー・ユニバーシティー・オブ・ザ・サウス、サニー・カレッジ・ブロックポート校、ユニバーシティー・オブ・リッチモンド、ウェルズリー・カレッジ、ホイートン・カレッジ。 |
(3) | ジーン・スペンサー、CLIR-CIOsグループのメンバーに対して行った未発表の調査(2003年5月)による。 |
EDUCAUSEの図書館/IT協力関係構成グループ(http://www.educause.edu/cg/libit.asp)は、IT関連の問題を図書館と共同で取り扱うこと―図書館員と情報技術者が共有している職責である―に関する諸問題や、このような協力関係に関連する様々な経験について話し合うフォーラムを提供している。