教育事例紹介 看護学
北里大学看護学部における看護情報教育
松木 悠紀雄(北里大学看護学部教授)
1.はじめに
北里大学看護学部に移籍して2年余で、学部では看護管理・情報管理学の系に、また大学院博士課程では看護情報管理学専攻に属しています。着任2年余で本学部における看護情報教育のことを書くのは気恥ずかしくもありますが、大学看護学教育の随所に看護情報教育を付加する姿勢は、大学を移籍しても一貫していると考え、本学部で実施してきた情報教育環境の構築と教育の現状、また今後発展させたい展開について書かせていただきました。前任の大学では地域看護学を所管し、その臨地実習後に学びの内容について学生グループ毎にプレゼンテーション・ファイルを作成させ、その発表会の実施をもって臨地実習終了としました。看護学における情報教育はITをいかに活用するかであるとの意見もありますが、それも看護情報教育の一部であり、表題のとおり広く看護情報教育としてまとめさせていただきまして、何らかの参考となれば幸いです。
2.看護情報教育のための環境の構築
北里大学にはもちろん教養教育のための一般的なパソコン室はありますが、本学部独自のパソコン室(情報演習室、PC 57台、学生数は110名余なので2クールの授業が必要となります。)を整備し、使用開始したのは、本学学部の中では最も遅く本年5月のことです(写真1参照)。室面積は狭く、PC台・配置・機器構成も狭さに合わせて工夫しましたが、他学部のパソコン室を利用させてもらっての授業準備の難しさに比べれば快適です。室整備の提案から看護情報教育検討委員会による検討を経て、完成まで2年の月日が流れましたが、授業で優先使用し、それ以外の時間帯には学生にレポート書き、論文作成等自由に使用してもらっている現状はどこの大学でも同じと思います。
システムは、教員が教材ファイルを保管し、学生が適宜それを取り出して使用する、また、課題レポートを提出するという目的と、さらにシステムの管理、随時ネットワーク上でのソフトウェア更新、アップデートの手間も考えて、サーバ・クライアント・システムとしました。学生にはIDを登録せずログインさせ、しかしソフトウェア構成は起動毎に回復するようにしています。教材へのアクセスと課題提出は簡便に行えるよう、PCデスクトップ上で工夫をしました(写真2参照)。使用教材のほか、ビデオ等もmpegファイルに変換して、サーバに保管することにしました。教材は、教員の個別研究室からftpで教員毎にサーバに保存できますし、また、教員別にサーバに保管した学生提出の課題ファイルも研究室から取り出すことができます。
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写真1 情報演習室 |
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写真2 デスクトップ画面の一部 |
本学部の特徴は、これらのシステム管理を看護の教員が担当していることで、サーバは当系の研究室内にあります(写真3)。機器の、あるいはネットワークのトラブル等、さまざまなトラブルが既にいくつかあり、当方の系の教員でシステム管理と学生からの操作上の疑義の解決も担当しています。
他学部と比較してその他にも特徴と思われる点は、いわゆるOffice・ソフトの他に、全PCに統計処理プログラム(本学部ではSPSS)を導入したことです。また、院生室のPCにもSPSSを導入しています。(ただ、院生の論文では、モデル構成のために共分散構造解析やパス解析その他を用いる院生がいるのですが、その目的で別のオプションも揃えるという計画はありません。)学部学生には、卒後に看護業務プログラムあるいは電子カルテ等による出力データ、統計データを前にして頭が白紙になることのないよう、学生のうちからデータ処理という基本的な操作に親しんでほしいという気持ちを込めた選択です。
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写真3 研究室に置かれたサーバ |
3.看護情報教育の内容
当方の系で担当する学部授業は、情報関係以外にも疫学、保健福祉行政論、地域環境論などがあり、計算演習にPCを使用するほうがよい科目もありますが、ここでは看護系の情報関係の授業のみに説明を加え、また、教養教育としての情報科学にも触れません。授業は3科目あり、看護系では多いほうであると思います。
(1)医療情報学(2年次選択授業)
医療の中で遭遇する情報の種類について、またデータ処理の基本について説明し、処理のためのOffice系プログラムの演習のほか、表計算による関数計算やシミュレーション、Webページの検索や簡易な作成、メールの使用やマルチメディアの編集なども扱います。看護系というより大学生としての基礎的な演習中心の授業です。時間毎に学生課題ファイルを作成して提出させ、学生にPCを使って自分でも作れるという自信を持たせるよう心がけています。毎時間しんどかったと学生評価に書く学生もいるようです。
(2)情報管理(4年次必修授業)
病院情報システムと医療・看護の情報システム、セキュリティを含む管理、電子カルテ、医療のアセスメント、情報倫理などについて学びます。1単位のみの必修科目なので概論とならざるをえず、病院情報システムなどは現場画面のプレゼンテーションのみで授業します。選択でまったく情報関係科目を履修して来なかった学生は、一気に内容が出現することになり追いついてくるのは多少難しそうです。カリキュラムの編成を検討する必要を感じます。今後電子カルテのシミュレーションによる演習なども入れてみたいのですが、準備できていません。
(3)看護情報論(4年次選択授業)
文献データベース検索の演習や、看護の標準化、看護情報の課題・展開などトピック的な事項を学びます。PCを使うのは一部時間のみで、標準化に関してはNANDAの分類やNIC、NOCの分類等の意味、トピックは看護への疫学的な視点の導入、看護電子カルテなどの考え方を学びます。情報演習室が整備されたので、今後演習内容を拡大しようと考えています。
医療情報学は、当方の担当になってから3年次科目を2年次科目に変更しました。情報管理などは臨地実習で現場に触れる3年次にしたほうがよいと考えますが、まだカリキュラム編成上の都合もあって変更できていません。また、自前の情報演習室が整備された上で講義と演習をどのように組み合わせて教育効果を上げるかも今後の課題です。
4.今後の希望的な展開
最後に本学部におけるITを活用した看護教育に関して、まだ私見ですが今後の展開の構想を少し述べたいと思います。
一つは首都圏における看護系大学間の遠隔授業ネットワークを構築したいことです。どこの大学も何らかの大学間の単位互換制度を持っていると思います。それが有効に作用しないのは、通常は距離と時間による通学の制約があるためです。ITの利点は距離と時間に制限されないことなので、遠隔授業ネットワークは単位互換制度を補足する機能を持つと考えています。首都圏のみに留まる必要はないので、全国的なネットワークに育つならそれにこしたことはありません。違う観点からみれば別の利点もあります。看護系大学が年々増加し、どの大学も教員確保に困難を感じている、あるいは欠員のまま教育を何とかカバーしているのは全国的な傾向です。今後の指導者の育成を待てば解決するとしても、遠隔教育ネットワークはそれを打開する唯一の道であると思います。
実は北里大学では分散するキャンパス間の遠隔授業のシステムを構築しつつあります。上り下りとも1Mbpsの回線を確保して構築する計画ですが、画質次第で必要な回線品質は変わってきますので、私の概算では4Mbps程度の回線は欲しいなと思いました。さらに遠隔授業では、TV会議等のシステムを導入するだけでは授業にはなりません。誰かが撮影者を務め、授業の流れを編集する必要があります。つまり授業するシーンとその提示内容とを必要に応じて切り替える操作が必要となります。講座や系・領域といわれる組織がある大学なら、内容を理解できるその所属教員がその役目を務めるのがベストだと思います。
もう一つの構想は、学部のホームページに、さまざまな看護学のトピック情報や生涯教育のための情報Webを構築してリンクしたいことです。在学生のPBL(課題解決型学習)のためだけでなく、卒業生のための継続教育として、新しい看護情報を提供する役割が大学教育サービスの一環として必要であると思います。学部の新しいホームページも現在検討中ですので、それに合わせて実施したいと考えています。組織にあればなかなか一気にはまいりませんが、大学の特色を打ち出すためにも常に新しい構想を模索しつつ、また、予算も勘案しつつ実現可能なところから少しずつ踏み込んでいきたいと思っています。
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