教育支援環境とIT


北里大学における教育・学生支援環境
〜遠隔キャンパスを結ぶ情報ネットワーク〜




1.はじめに 教育理念、方針

  北里大学は、破傷風菌やペスト菌を発見した北里柴三郎博士を学祖とし、「生命科学をフロンティア」を探求する大学です。北里博士が貫かれた「開拓、報恩、叡智と実践、不撓不屈」の精神が受け継がれています。1962年に学校法人北里学園が発足し、現在では、医療衛生学、理学、看護学、水産学、医学、獣医畜産学、薬学の7学部14学科、大学院6研究科、1学府、医療系専門学院(新潟キャンパス、新潟市南魚沼市)を擁する生命科学の総合学園へ発展してきました。学園のキャンパスは全国に五つあり、相模原キャンパス(神奈川県相模原市)には一般教育部(全学部の1年次)、医学部、看護学部、理学部、医療衛生学部があります。十和田キャンパス(青森県十和田市)には獣医畜産学部、三陸キャンパス(岩手県大船渡市)には水産学部、白金キャンパス(東京都港区)には薬学部および大学本部があります。大学全体では学生数7,263名、教職員数 1,511名です(学部のみ)。


2.ネットワーク環境

 北里大学の五つのキャンパスは、広域ネットワークサービス(日本テレコム)を利用して結ばれており、相模原・白金キャンパスは100Mbps、遠隔キャンパス(三陸・新潟・十和田)は1.5〜6Mbpsで広域LANに接続されています。大学と外部とのインターネットによる接続は、東京大手町のデーターセンター(IIJ)から10Mbpsで行われています。相模原キャンパス内では各学部・大学病院をつなぐ基幹部分が1Gbpsのネットワークで構築され、各学部間は安定した速度で通信できます。また、相模原キャンパスには30箇所の無線アクセスポイントがあり、図書館や学生ラウンジ等でインターネットを利用できます。
 セキュリティの面ではデーターセンターに不正侵入検知・ファイヤーウォールを設置し、VLANにより各学部系と事務系を分割しています。なお、大学病院では診療系の院内LANを、インターネットとは別に併設しています。
 全学レベルのネットワーク管理は大学組織の情報基盤センターが行い、各学部内のネットワーク管理はそれぞれの部署で行われています。情報基盤センターでは、各キャンパスおよび相模原キャンパスの各学部への通信をMRTG(Multi Router Traffic Grapher: SNMPにより各ポイントの通信量を5分間隔でサンプリング・グラフ表示する)によりモニタしています。通信量を監視するだけでなく、経時的なトラフィックのパターンの違いにより、ネットワークの異常、ウィルスやワームを監視・発見しています。北里大学のインターネットは昼間で常時約8Mbpsの通信が行われています。そのうち、相模原キャンパスが約6Mbps、白金キャンパスが、約1Mbps、大和・新潟・三陸で約1Mbps使用しています。
 各キャンパスの各学部にはそれぞれ、LAN環境下に数十台のPCが設置された情報演習室が整備されています。各演習室内のPCの機種(Windows, Mac)やそのプロトコル(Netware, Microsoft network, Apple)は様々であり、管理各担当教員と学生アルバイトに任せられています。
 学生にはメールアドレスを配布し、Webメール(Grace Mail)で、1学生当りの容量を15MBとしており、連絡用や学生同士のコミュニケーションに、また就職活動に利用されています。
図1 キャンパスのネットワークトラフィック

3.学生サービス

 全学(全キャンパス)レベルのシステムとして、学生の就職支援を目的とした新就職システムが平成16年10月より稼動しています。新就職システムは、富士通のパッケージシステム(Campusmate-J就職)をベースに、全学レベルでの求人・企業・卒業生の情報と学生の進路情報を統合的に管理するシステムです。当システムは、基幹系システムとサービス系システムの二つのシステムより構成され、Webブラウザからアクセスして利用します。基幹系システムは、担当教職員のイントラネットによる学内専用システムとなっています。学生サービス部就職課では、企業や医療機関より本学に届けられた「求人票」や「卒業生在職情報」を基に、求人・企業・卒業生の在職情報のデータ管理を行っています。各学部等事務室では、対象年次生の進路カード(進路希望)、就職試験内容報告、内定報告、進路決定届け等のデータ管理を行っています。
 サービス系システムは、学内外へインターネットでアクセス可能となっており、北里大学ホームページよりリンクされています。セキュリティを考慮し、ユーザ認証やベリサイン社のSSL(セキュア・ソケット・レイヤー)による暗号化通信を採用しています。 主に就職活動を進める対象年次生が利用し、求人・企業・卒業生の情報や就職試験内容報告書の情報検索と進路カード(進路希望)、就職試験内容報告、内定報告等の情報入力を行っています。 また、対象年次生以外の在学生、卒業生、教職員、父母等においても、求人・企業・卒業生の在職情報の検索他に利用できます。尚、情報検索においては、卒業生の氏名は公開していません。
図2 就職システムの概要

4.情報教育およびIT支援教育

 相模原キャンパス内のいくつかのIT関係の設備を紹介します。

(1)情報演習室
 医療衛生学部の情報演習室では、教卓PCの画面を提示する目的で、大型スクリーンを使用せずに、学生PC2台の間に教卓画面モニタを設置しています。学生はこのモニタ画面を参考に、自分のペースで自分の演習を行っています。また、大学の4年間に自由に使うことのできる個人の領域として、100MBを割り当てています。学部の1年次にはIT利用の初歩からWord、Excel、Power Point、ホームページの作成等の履修課程があります。4年次の卒業研究発表会では学生全員がPower Pointの仕掛けを駆使し、素晴しいプレゼンテーションが展開されています。また、Webメールを使いこなすことができるようになります。そのためか、レポートの提出もメールでのみしか受領しない教員もいます。

(2)図書館の特集記事データベース
 北里大学医学図書館・看護学部図書館(相模原キャンパス)には、雑誌特集記事索引(特集記事名、掲載雑誌名、巻・号・ページ・年)のデータベース(DB)があります。このDBは図書館設立時の1971年から現在まで、図書館の受入れ和雑誌・洋雑誌の約500誌を対象に、人的努力により作成され続けています。当初は図書カードに特集記事名、掲載誌名、巻・号・ページ・年、MeSHを記入し作成されていましたが、1986年にはdBaseIII Plus上にデータベース化され、現在では約4万レコードの大きさになり、図書管理システムに組入れられています。この雑誌特集記事索引DBはWeb上に掲載され、所謂文献検索とは異なり、学生や初学者にとって重宝なDBとして利用されています。

(3)ITを利用した解剖・組織実習
 医療衛生学部の衛生技術学科では、解剖学実習と組織学実習、病理学実習の中で、ITを活用した実習を行っています。組織学実習室には、各学生に顕微鏡1台、学生四人に1台のWindows PC(学生二人に1台の教卓画面モニタ)、画像配信用PC、無線LANが設置されています。組織像の提示は、1)教卓の顕微鏡に取付けられた高精度デジタルカメラ(1600x900ピクセル)でリアルタイムに取込んだ組織画像、あるいは2)担当教員が作成した注釈付き組織画像が無線LANを介して一斉に学生のパソコンに提示されます。学生は各自の顕微鏡を操作して人体組織標本から目的の組織像を得て課題の確認をしたりスケッチを行います。この組織画像集(12章、ファイル数482、全体のサイズ約20MB)は全臓器の組織像が網羅されていて、HTML形式で作成されています。各PCにも組み込まれており、学生が各自の実習の進度に応じて個別に参照することができます。また、各PCには人体解剖ソフト(ADAM、30個購入)が導入されています。向かいの実習室で動物標本の解剖学実習を行いつつ、人体解剖ソフトを学生自ら操作して常に両者を比較することにより、人体の構造に対する理解を深めています。教員は各グループを巡回しながら学生の疑問に答えるとともに適時質問を投げかけ、一人ひとりの学生にとって充実した実習になるようにしています。

(4)授業評価(Webからのデータ入力)
 多くの大学で学生による授業評価が様々な形態で行われています。医療衛生学部では、各学生が履修した各科目の授業について、自由記載欄を併用しながら10の視点から採点し、学期末にWeb上で入力する方法がとられています。その集計結果は後の授業に反映されるように、科目責任者に配布されています。ただし、学生氏名は掲載していません。
写真1 組織学実習
写真2 解剖学実習
(5)講義室・プレゼンテーション設備の改修
 従来、講義室のスクリーンはスライドの投影用に黒板の中央に設置されており、PCによるプレゼンテーションと黒板(板書)の同時併用ができない状況でした。そこで、液晶プロジェクタ用のスクリーンを黒板の片側半分に位置するように、講義室・プレゼンテーション設備の改修が行われています(巻頭のカラー図参照)。


5.今後の課題

 既に各地の大学で行われている双方向の遠隔講義や授業・特別講義のリアルタイム配信等が当キャンパスでも試みられ、またITの向上・普及により、講義形態の変容や高品位な教材(精密な画像、動画、シミュレーション等)の開発、大学の知的財産としての蓄積とその共有化が求められつつあります。そして、著作権や無料配布・再配布、個人的貢献の認定などの煩雑な問題が浮び上がってきますが、現実的な解決方法の一つとして、大学等電子著作物権利処理事業(電子著作物等の権利保護および円滑な利用の促進を図ることを目的とした事業、私立大学情報教育協会)への参加が考えられます。


文責: 北里大学医療衛生学部医療情報学
助教授 竹内 昭博



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