私情協ニュース2


第39回通常総会開催される



 第39回総会は、平成17年5月31日(火)午後1時30分より、東京のアルカディア市ヶ谷(私学会館)会議室にて開催。当日は、議事に入るに先立ち文部科学省私学助成課の俵課長補佐から計画調書の留意点等について説明。次いで、審議に入り、理事、監事の任期満了に伴う改選、16年度事業報告と収支決算の後、18年度情報関係予算の要求方針、教育改善調査の最終報告、「e−ラーニングのすすめ」等について報告があった。以下に主なものを報告する。


1.17年度補助金申請の留意点

 <文部科学省の説明>
 文部科学省俵私学助成課長補佐から、平成17年度情報関係補助金の申請について概ね次のような説明があった。

1) 補助対象を一般的な教育に広げるために、購入補助、借入補助とも「情報処理教育に用いる」という表現を「教育」に改めた。

2)
情報関係の経常費補助での申請は、今年度より文部科学省のホームページからダウンロードして提出いただくことにした。採択制の補助は、委員会の審査要領を公開。変更点として、審査の公平性という観点から字数を制限した。大学からこれでは十分ではないというような意見もあったが、今年度は字数制限させていただいた。
3) 補助事業は、できるだけ限られた補助金を効率的に活用していただくことが重要で、最小の費用で最大の効果が得られるよう努力をお願いしている。例えば、複数の大学がコンソーシアムを形成して、電子ジャーナルなどの大量一括購入、団体での値引き交渉など工夫されているが、引き続き継続いただければと思っている。
4) サイバーキャンパス整備事業は、インターネットを活用した国内外の大学との交流連携による教育研究の推進を目的としており、他大学等との間にネットワークを構築、または開発したコンテンツを他大学に配信・受信するものなどを対象としている。同一キャンパス内のみのネットワークの構築、他大学等への配信を行わないコンテンツの開発は事業の対象とはならない。事業の終了期間については、過去に選定の事業も含め終了期間を原則3年間とし、さらに継続する場合にはプラスして3年間まで認めるという形を考えており、正式には8月頃に開催予定の委員会において決定される。なお、14年度に採択の事業は、特例として実施期間を4年間、平成18年の3月までを考えている。
5) 財産処分は、廃棄、目的外使用の場合は、文部科学大臣の承認を事前に得ることが必要。特に既設の学内LANを処分して、新たなLANを整備するときに承認を受ける方法としては、処分をするものについて機能的に同じ、あるいはそれ以上のものを全額自己負担で整備して引き継ぐ方法、処分制限期間の残期間分に相当する補助金を按分算出して残期間の補助金を国に返還することにより処分制限を解除する方法がある。


2.理事、監事の任期満了に伴う後任者の選任

 本協会の理事、監事の任期満了に伴う改選を行った結果、新理事20名、新監事3名を以下の通り選出し、平成17年5月31日より就任した。また、6月4日(土)に理事会を開催し、会長選挙を行った結果、戸高敏之氏(同志社大学)が再選された。なお、副会長には斎藤信男氏(慶應義塾大学)、常務理事には、向殿政男氏(明治大学)、田宮 徹氏(上智大学)、原 文雄氏(東京理科大学)、東村高良氏(関西大学)が指名された。
 新理事、新監事は44〜45ページに掲載。


3.平成18年度情報処理関係設備等予算に対する当協会の基本方針

 18年度の要求は、教育・研究の基盤環境である情報化を私立の大学等が計画的に推進・整備していくことができるよう、17年度の申請実態を踏まえつつ、国からの財政援助の充実を要求する。
 そのために、全国の大学・短期大学等への国庫助成希望調査を6月30日に締め切り、集計した上で、文部科学省に提案する予定。
 18年度は、借入補助、教育学術情報ネットワークの維持費、LAN、マルチメディア、eジャーナルなどの重点化と、サイバーキャンパス整備事業の対象を社会との連携も含める方向で拡大を考え、対象経費に大学、企業等コンソーシアムの運営に必要な施設設備の利用料など補助枠拡大の可能性を調査する。


4.教育改善調査結果の最終報告について

 3月の総会で中間概要を報告の後、追加回答を含め最終的に大学335校2万5,591人、約45%の専任教員(助手除く)、短期大学155校、2,347人、約54%から回答を得た。回答者の内、授業にIT使用の教員は、大学約49%、短大41%と、ITを使用しない教員も5割。

1)授業で直面している問題点
 学生に関する問題としては、基礎学力の低下、学習意欲の減少が顕著で3年前の13年度に比べ、大学は44%から60%、短期大学は55%から66%に増加。さらに6年前の10年度からは倍近い教員が基礎学力を指摘、深刻な問題となっている。
図1 授業で直面する問題点として『学生の基礎学力の不足』の経年比較

 「教員自身に関する問題」では、大学で48%、短期大学で50%が学習意欲を高める工夫が難しいとして、授業運営に苦慮されている。さらに3割近くがカリキュラムの中での連携がとれていないために、授業内容や水準に不安を抱いている。IT使用の有無にかかわらず、どの分野でも4割から5割の教員が学習意欲の問題を指摘している。
 「大学に関する問題」では、大学44%、短期大学50%が組織的に教育支援が十分でないと指摘。大学教員の4分の1が教育業績を評価する仕組みが十分でない、教育内容、教育方法を議論する組織がないことを指摘。短期大学では3分の1がFD組織がないことを指摘。IT使用の有無に関わらず、人、物、金に対する不満が多い。

2)2年先に実現したい授業
 大学、短大とも8割近くの教員が「動機付けを持たせる授業」を希望。「教える授業」から「学ぶ授業」を思慮している。また、6割近くが教室での理解度を把握し、学生の目線に合わせた授業運営を希望しており、今後の授業のあり方としては、学習意欲を高めるような動機付け教育を徹底し、理解度に配慮する授業運営の工夫が重視されようとしており、IT使用の有無に関わらず、教員共通の目標となっている。

3)授業改善のための課題
 「教員自身の問題」として、7割が学習意欲を高めるための授業のシナリオ作りを掲げており、授業運営に自信がないことが浮き彫りとなった。教員と学生の世代間による価値観、気質、人間力などの違いにより、教員が希望する授業になっていない。教育改革を進める上での根幹となる問題なので、国として何らかの形で運営指導能力を高められるよう方策の提示が望まれる。また、4割近くが情報技術の活用と理解度把握を掲げており、シナリオ作りに不可欠なファカルティ・ディベロップメント能力の一つとして、情報技術の活用は大きな課題。
 「大学の課題」として、大学・短期大学ともカリキュラムの実質的な連携、教員の意見を取り入れた施設設備の整備を上げており、授業改善を反映するための仕組み作りが十分でないとしている。さらに、2割から3割は教育政策の明確化、成績評価の厳格化、人間力を高める個人教育、教育の業績評価制度の構築を上げており、学長、学部長の強いリーダーシップが求められている。とりわけ、教育の業績評価制度は、取り入れている大学が少ない。判断基準について網羅的な指標を国の機関で考え、大学個々に固有の基準作りが促進されるような国の支援が望まれる。
図2 授業改善のための課題『教員』

4) 授業でのIT使用の状況
 大学で3割、短大で4割となっている。3年前の使用は、資料提示、情報検索が主であったが、現在はシラバス掲載、音声動画を使った現実感覚の創出など、授業改善に向けた使用が増えてきている。さらに2年先では自学自習、現実感覚の工夫、理解度把握、コミュニケーションなど本格的な授業改善のための活用が伺える。
図3 授業でのIT活用状況

 活用例としては、フランス語演習においてeラーニングとテレビ会議を利用したフランス大学との遠隔授業、文化人類学での教室と博物館を繋ぎ、現地と双方向でコミュニケーションしながら講義を行う、貿易商務論での産官学連携による地域専門家による貿易実践講座の実施による現実感覚を持たせた授業、組織行動論の海外大学との合同ビジネスゲームの対抗戦によるビデオ会議システムによる模擬株主総会の実施、看護学での米国大学からリアルタイムによる遠隔授業、医学の呼吸器外科学において大学間の手術、診療実績の公表、教育の現状と実際のネットワークでの提示・共有、歯学の口腔外科学でのロールプレイ、デザインの環境計画実技実習での産学協同プロジェクトによる現実性のある実技実習などがある。

5)IT活用の効果と問題点
 授業に刺激をもたらす、成績の向上と連動していない。学習意欲の向上などITの効果はあるが、授業のシナリオ作り、成績評価などと連携していないことから、成績の向上に必ずしも反映していない。問題点としては、理解しているようで理解していない、ノートを取らないとしており、ITの使用は可能性と限界をわきまえることが重要としている。

6)一大学で解決できない取り組み
 コンソーシアム、産学官の連携など私情協の取り組みについて賛意を得た。教育の産学連携については、社会との接点を導入することで学習の動機付、現実感覚を持たせた授業が可能となり、就労意欲の醸成、人間力の養成を通じて無業者・フリーターの防止にも寄与する。教員に不足する社会での現場情報、現場体験を企業等社会の専門家からネットワークを介した授業支援が実現できるよう、国、社会の関係機関、さらには団塊の世代に呼び掛け、国家的規模で人材育成に取り組むことが望まれる。
図4 一大学では解決できない取り組み

5.「教育改革をめざしたe−ラーニングのすすめ」報告

 当初、eラーニングコンテンツの標準化を取り上げたところ、eラーニング導入の普及が重要と判断し、ガイドラインを作ることになった。

1)第1部「求められる改革」では、eラーニングの必要性について、マスの教育から学生一人ひとりの能力に適した教育への転換が標榜されており、学生自らが学ぶ授業を実現するには、教室の2倍の時間を教室の外で学習できるようにする手段として、eラーニングが非常に効果的としている。

2)第2部の「e−ラーニングの可能性」では、eラーニングとメディア授業とは異なることについて定義付け、学習管理システムを必ず導入していることを強調。コンテンツを単に電子化しただけではeラーニングに該当しないこととした。
 eラーニングの手法を取り入れた授業の事例としては、基礎学力の補充、web教材・録画による事前事後学習の徹底、対話討論による対面授業の補完、事前事後学習と対面授業の組合せを紹介。
 失敗しないための対策としては、教材を単に電子化してもeラーニングは実現しない、運用支援体制がなければeラーニングは継続できない、部品化して検索情報を付けることなど7項目を指摘。
 IT環境、支援体制などの対応によってeラーニング導入の方法が異なることから、大学の対応能力に沿った授業モデルを掲げた。学外からeラーニング教材を借りる場合、教員が個人的に自作したものを導入する場合、大学が組織的に導入する場合、学生一人一人の個人指導を徹底する場合、個人指導の上にさらにグループ学習を実現する場合、e−ラーニングに支えられた対話授業・体験授業を行うなどをモデル化した。

3)第3部のe−ラーニング導入運用のための留意点では、教員が配慮すべきこととして、授業のシナリオ作り、教材の質保証、教材の相互運用性、単位制度の実質化などを指摘。また、大学としての課題では、各科目間の連携など教育政策の明確化、環境整備、教育支援組織としての体制作り、教材の検索情報の項目づけ、学習管理システムの整備、教材の相互運用性を図るための共通方式の導入について解説。またコンテンツの標準化については、世界標準を見定めたSCORMへの理解を呼び掛ける必要性は認めつつも、大学に事例が少なく検討が困難と判断。当面は、コンテンツ作成時に必要最小限のメタデータを付けることが重要であるとの指摘にとどめた。イメージとしてはタイトル、作成者、学問分野、キーワード、概要を部品化したコンテンツにつければ、当面は教材を共有化できるとした。

6.教育の産学官連携構想案

 昨年11月の総会で産学官連携の必要性を報告後、構想について理事会で検討を進め、教育に社会の支援は欠かせないことを再確認。それを実現するための構想を策定し、「産学官連携サイバーユニバーシティー構想」とした。
 人材育成を効果的に進めるためには、社会の現場情報・体験情報を導入して、理論と実際のマッチング、知識や人生を社会との関係で位置付ける機会を持つなど、実社会とのかかわりを意識した教育が不可欠であるとして、産業界など社会の支援を受けた産学官連携の仕組み作りを提案。
 大学が実社会に期待する教育支援とは、現場情報・体験情報の提供、実務者経験者による教育、学生の学習成果に対する専門家の助言・評価、ワークショップ、人間力養成講座、eラーニング等コンテンツの共同開発、IT教育の技術支援、起業化教育などで、約1万4千人の教員にインターネットでアンケートした結果、1週間で約960名から約80分野にわたり、支援の要望が例えば、以下のように寄せられた。

外国語の授業では、「学習者の実践的な英語運用能力を専門分野の研究者や実務経験者に依頼して評価を受けたい」
法律学では、「会社法の授業ではM&A関連の企業法務担当者・弁護士から実態をリアルタイムで現実感を備えた授業が実現できる」。
商学では、「マーケティング理論が企業の実務にどのように生かされているのか、企業人より現場の経験を踏まえ解説いただく」。
経済学では、「将来設計、職業観を醸成するため、金融機関を含む民間企業経営者にネットワークで事業などの成功・失敗、人間の生き様などを語っていただく」。
機械工学では、「機械系の製品開発に有限要素法がどのように利用されているか、企業の技術者からネットを通じて紹介し、学生の質問に答えることにより、学習の動機づけが高まる」。
建築設計の授業では、「学生が設計した作品を建築家から助言・評価を受けたい」。

 本協会としては、これを実現するために、本協会にポータルサイトを置き、国公私の大学に呼びかけ、支援の公募・受付など仲介・調整をする。
 連携は、機関単位での包括連携ではなく、支援テーマに対しての部分連携とし、多くの大学が支援を受けられるようにする。連携の仕組みは、社会の実施機関はもとより、団塊の世代の方々を知的な社会資産として活用できるようにする。参加の動機付を高める方法として、文科省とも検討を行い、支援機関、支援担当者に顕彰を考える。
 準備期間が必要となることから、当面、アンケートで支援要望のあった対応に限定して事業をはじめ、実績を作ることにしている。IT活用研究委員会が窓口となって対応するとともに、サイバーキャンパスコンソーシアムも活用する。文部科学省と連携して企画、検討を継続しながら進め、できれば18年度から可能な範囲で実施していきたい。

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