教育事例紹介 体育学・スポーツ科学


デジタルとアナログの融合を目指した体育系科目でのIT活用


高橋 淳一郎(中京女子大学健康科学部助教授)


1.はじめに

 本学は、今年創立100周年を迎える歴史ある大学です。愛知県大府市に位置し、小高い丘の上に立つ小さな大学ですが、学内は活気に溢れた学生達でいつも元気一杯です。この元気一杯の学生達は、ITという言葉があまり似合わないアウトドア思考の集団です。そんな中、私の担当する授業では、学生の理解を促進させる手助けとして、ITを程よく取り入れて展開しています。


2.ITを活用した教育支援環境

 まさにIT社会である昨今は、インターネットを経由しての情報がかなりの度合いを占めています。本学は、決してIT先進大学とは言えないものの、学生の科目履修登録、成績確認等は、学生自身が決められた日時の間に、情報処理室を使用して、学生向け学内用教務情報システムに本人のパスワードを入力することで、処理および確認作業を行っています。学生によって入力された情報は、リアルタイムで、教員個々の研究室内のコンピュータ画面から教員向け学内用教務情報システムの画面上で確認することができます。また、成績処理についても、個人研究室内からこのシステム上に成績を入力することで作業が完了するようになっています。さらに、学生が個人の携帯メールアドレスを登録しておけば、休講情報や、学内ニュースなどが逐一配信されるサービスも行われています。
 しかし、このようなシステムおよびサービスは、現在決して珍しいものではないと考えます。学生向けサービスへのITの介入は、もはやなくてはならないものになりつつあります。


3.授業へのIT活用

 私が授業の中で取り入れているITおよびそれ以外の部分についてお知らせします。それ以外とは、「デジタルとアナログの使い分け」ということです。教育現場へのITの導入は、学生の理解力促進に非常に貢献していることは事実です。しかし、デジタル媒体からのみの情報は、時としてIT嫌いの学生に対する就学意欲を削ぐ結果になりかねません。ただし、学生に情報を提供するにあたって、デジタル媒体の力なくしては、より詳細な情報提供は不可能とも考えています。そこで、上記の「デジタルとアナログの使い分け」を行った上で、「デジタルとアナログの融合」を展開するわけです。
 私は、本学で講義系では「体力測定・評価」、実技系では「水泳・水中運動」を担当していますが、以下に紹介するのが、その実践内容です。

(1)講義系科目「体力測定・評価」
 「体力測定・評価」は、本来、座学の科目ではありますが、隔週であらゆる体力要素の測定も行っています。「体力測定・評価」では、データを収集するだけでなく、統計的な手法を用いて、データの評価も行わなければなりません。昨今のデータの評価に関しては、関数電卓を使ったりすることなく、ほとんどがパソコンの統計ソフトを用いて処理されています。私の講義を履修する学生は、スポーツ健康科学部に所属しており、数学的な知識はどちらかと言えば乏しいと思われます。しかし、卒業研究などでは、スポーツ活動中に得られたデータを統計的に処理し、検討しなければなりません。したがって、現履修学生のほとんどが、個人用のパソコンを保有しています。
 そこで、授業内では、前方のスクリーンにExcel画面を映し出し、測定した生のデータを入力しながら、統計処理をスクリーン上で行います。統計処理を行うことの意味は、事前に学生に周知徹底しておくので、学生は、知識として得られた統計処理の意味、方法が、実際にどうやってなされるかを視覚から理解することとなります。画面上に映し出されるデータは、実際に学生自身が測定したものですので、データ自体に大きな興味を持っています。また、事前の授業において、グラフ用紙等を用いて、統計的な手法を用いることの意義、方法をアナログ式で理解していますので、これらデジタル化されたリアルタイムの情報もより自然に受け入れることが可能となります(図1、図2)。
図1 スクリーン映し出した統計処理の画面(Excel入力)
図2 スクリーン映し出した統計処理の画面(グラフ)
 このように私は、学生達がアナログ式に計測したデータを、ITを用いることで、よりスピーディーに情報を提供し、理解を深める方法を用いています。学生からの評価を聞くと、「自分の手で作ることと、映像などを使って目で理解できることで、より理解度がアップする」という話が多く聞かれます。ITが盛んな現代こそ、改めてアナログとの融合が求められるのではないでしょうか?

(2)実技系科目「水泳・水中運動」
 本学科はスポーツを得意とする学生の集団ではありますが、こと水泳となると話は別です。水泳は、水底から足を離して水に浮かなければなりません。どうしても力んでしまい、沈んでしまう学生が多く見られます。人間の体組成を考えると、必ず浮くことができるはずなのですので、まずは、この謎を解き明かさなければなりません。
 本学のプールは、幸か不幸か屋外プールですので、春先は教室での講義となります。計15回の授業の内、約3分の1を使って、人が水に浮き、なおかつ進めるようになるための手ほどきを行います。ここで用いられるのが、動画やコンピュータソフトによるアニメーション機能です。
 泳げない学生に、どこにポイントを置いて泳ぎ出せば良いのか?というコツを提示する方法として、図3のようにアニメーションを使った、IT教材は極めて有効です。実際に泳ぎの得意な人の水中姿勢と、泳ぎの不得意な人の水中姿勢をビデオ解説した上で、コンピュータソフトで作成したモデルが、画面上でバランスを失っていく様子をアニメーションを使って提示すると、ビデオ画面のみでの教材提示よりも有効な教育効果が得られます。
 実際の授業では、このデジタル化した教材の提示を行った後、後半の3分の2の授業はプールで自分の体を動かした実践をするわけです。実際にこの方法での授業を始めてから、プールで泳ぐコツをつかむ速度に格段の差が見られるようになっています。
図3 アニメーション教材
 「口頭で伝える」、「見本を見せる」、「補助する」という指導に加えて、ITを駆使したまさに「情報を見て感じる」ことで、実技系の科目も技術獲得に大きな効果が発揮できると確信しています。


4.まとめ

 教育現場におけるITの活用は、教育に関する情報が瞬時に、なおかつ大量に提示でき、極めて効果的ですが、学生の理解速度に合わせた授業を考えると、アナログ的手法での授業展開との共存や、実技系種目への適度な融合をはかることで、初めてITの効果が相乗されるのではないかと考えています。
 最後に、本学でのITを導入した授業の今後を考えた場合、学校全体のハード面の整備、すなわちすべての教育施設であらゆる種類の情報伝達方法が選択できるような空間作りを目指していくことが、求められます。この空間において、デジタルとアナログ、ITと生身の人間の融合がなされた授業を行うことが理想的な教育空間であると思います。


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