教育支援環境とIT


女子栄養大学における教育支援環境



1.はじめに

 女子栄養大学は、料理カード、四つの食品群、計量カップ、計量スプーン、四群点数法などで、日本の現代栄養学の礎を築いた香川綾を創立者として持ち、建学以来、食事と健康をテーマに、栄養学と保健学の教育と研究を行ってきています。その結果として、多くの管理栄養士、栄養士、臨床検査技師、養護教諭などの人材を世に送り出し、日本人の健康の維持・増進に貢献しています。
 坂戸キャンパスには、栄養学部3学科があり、学生数は約2,000名、駒込キャンパスには栄養学部二部があり、学生数は約100名です。教員は学部全体で70名、職員は駒込キャンパスにある短期大学部なども含めた香川栄養学園全体で約250名です。ここでは3学科のある坂戸キャンパスの教育支援環境を報告します。


2.IT環境

 インターネットにおける食情報の検索や栄養価計算など、学生全員がPCを使う授業は、コンピュータ実習室のみで行います。さらに、全教室で、教員が教卓PCからプロジェクターを通して、ホームページやプレゼンテーションソフト等を授業で支障なく見せられるように、ネットワーク環境を整備しています。すなわち、インターネットへの接続は10Mbpsの商用回線を使用し、学内の基幹部分は1Gbpsの光ファイバケーブルで構成し、校舎の各フロアまでは100Mbpsで接続しています。コンピュータ実習室1、2へは、特に教室ごとに100Mbpsの帯域を確保しています。
 本学は、理工系と文系の中間に位置する複合領域分野に属する単科大学ですので、無線LANなどの設備やノートPCを一人1台貸与するなどの環境整備は行っておらず、大学で学生がPCを自由に利用できるのは、その施設であるiパーク(100台)か、空いた時間や放課後でのコンピュータ実習室1、2(各84台)[1]になります。
 コンピュータ実習室は情報系の教員が管理し、学内LAN、サーバおよびiパークは、事務部門である情報・ネットワーク担当が管理する体制をとっており、他校の情報センターのような組織はありません。


3.教材電子化への取り組み

  本学では、2000年から管理栄養士養成課程の定員を100名から200名に増やしました。それまでは受講生が50人程度、高々100名の講義が主であったため、情報関連科目以外では、OHP、スライドおよびビデオよりも使用頻度の低かったPCですが、受講生200人の講義を中心に、プレゼンテーションソフトを使うようになりました。
 この各教員が授業で使っているプレゼンテーションソフトによる電子教材と、情報科目での教材・課題のホームページ化[1]以外で、本学で特徴的なのは、管理栄養士国家試験対策の教材です。
 定員増の行われた2000年は、栄養士法の改正の改訂がなされた年であり、それに伴い、2002年の管理栄養士養成課程のカリキュラム改訂や、その新カリキュラムを受けた学生が初めて受験する今年2005年度(第20回)管理栄養士国家試験からの新しい管理栄養士国家試験出題基準(ガイドライン)の導入が予定されていました。
 2003年度からの200人規模の受験対策、2005年度からの免除科目の廃止と新ガイドラインの導入に対処する目的で、2000年に管理栄養士国家試験対策委員会を立ち上げました。委員長は、学部長自らが兼ね、栄養学部の単科大学ですので、全教員の約半数にあたる委員で、国家試験の全分野を網羅しています。
 委員全員で、2000年から2001年にかけて、その時点の過去5年分の国家試験をすべて基本の単文に分解し、出題基準(ガイドライン)で分類し、正文・例文化し、さらにオリジナルの例文を加えて、模擬問題を作る際にすぐに参照できるように、例文集としました。また、毎年、その年の国家試験からの例文を追加するなど、更新作業を続けるとともに、主要なキーワードについての解説集や資料集も作っていきました。
 なお、管理栄養士国家試験問題のプール制やCBT(Computer-Based Testing)の導入も今後検討されていく課題でしたので、図などの資料を紙媒体にした以外は、表計算ソフトのテンプレートを使った作業を、委員全員で行い、委員会として受験関連データを蓄積してきています。
 本学出版部より、受験必修シリーズ「キーワード集」、「例文問題集」、「データ・資料集」、「応用力試験問題集」として出版し、対策授業で使っています。
 さらに、国家試験と同じスタイルの模擬試験を、毎年5回ほど行っていますが、この模擬試験の問題作成は、委員会で作り上げた例文集から、担当分野の過去の出題傾向等を参考に、各委員が行っています。この問題作成作業も、表計算ソフトのテンプレートを使って行い、問題自体も、模擬試験結果、特に各問題の正答率、識別指数(成績上位者と下位者の正答率の比)等とともに、委員会で蓄積してきています。

 今年度は、新カリキュラムを受けた学生が初めて国家試験を受験する年にあたり、今まで蓄積してきた受験関連データを、すべて新ガイドラインで再分類するとともに、新しく入った出題範囲を中心に、オリジナルのデータを加える作業を委員会全体で進めました。受験関連データが電子化されていたこと、表計算ソフトのテンプレートを使った作業工程も今までと同じであったことから、以前よりもスムーズに進みました。それに伴い、受験必修シリーズの出版物も、新ガイドライン対応版を続々と出版しています。


4.ITを活用した学生サービスへの取り組み

 本学の規模では費用対効果の点で問題があり、Webによる履修登録など、本格的な学生サービスのIT化はしていません。Webブラウザを使用してのメールサービス(Active!mailの利用)、図書館蔵書の検索システムである「LIFE」およびWebシラバスがあるだけです。
 ただし、教育の現場で大切なWebシラバスには、それなりの力を注いでいます。今まで、教員が紙媒体に書き込み、外部委託してWebシラバスに変更していた方法をやめて、2004年度(入力作業は2003年度)から導入したWebシラバスでは、原則、教員が直接入力をWeb上で行うようにし、今年で3年目になります。授業の目的・方法、成績評価の方法、教科書、参考書などは、Web上での入力のみとなりますが、授業計画各回の項目・概要の入力は、CSVファイルでアップロードする方法もとれます。
 授業計画各回には、外部非公開の項目として詳細・キーワードの項目があり、管理栄養士国家試験の関連科目では、新ガイドラインの大・中項目をこの中に盛り込みます。これは、2002年に改正された管理栄養士養成課程のカリキュラムでは、ガイドラインはあくまで出題基準であり、カリキュラムのすべてを網羅するものではなく、各養成校が独自に教育内容を図ることができるようになっているためです。本学の独自性ゆえに、新ガイドラインの大・中項目が、本学のどの科目の何回目の講義に相当するか、分かりにくくなっていることへの処置です。


5.ITを活用した教育支援システム

 模擬問題、例文集、キーワード集の受験関連データを、表計算ソフトのファイルとして蓄積してきてことから、当然そのデータベース化が求められます。また、管理栄養士国家試験問題のプール制やCBTの導入も今後検討されていく課題でしたので、2003年から情報教育システム委員会を立ち上げて受験関連データを納め、CBTも可能なe-Learningの導入を検討することとしました。システムよりもコンテンツが先にあるのが現状ですので、委員長を除き、すべて情報系以外の教員を委員としました。
 1年目は、受験関連データをシステムの中でどう位置付ければ有効活用できるかという課題について、各科目各授業において、その授業の理解度をチェックする小テスト(紙媒体)を実施し、学部全体で促進していますが、それをどう取り込んでいくかについては、学部で取り組んでいるWebシラバスの活用等を検討し、e-Learningの設計を行いました。
 昨年から4年計画で構築している、管理栄養士国家試験対策を中心としたe-Learningの概要は、次の通りです。

(1)受験関連データのeラーニング教材化
 模擬問題、例文問題集は、主にテスト教材として位置付けました。キーワード集は辞書として使えるよう、カスタマイズ中です。

(2)全授業のeラーニング化
 図1のように、各講義の各回授業に、電子講義資料や授業内容確認Webテストを配置できるようにしました。
 Webシラバスの各回授業項目を、各授業の名前として取り入れたり、使い慣れた表計算ソフトを活かせるように、テスト問題をCSVファイルから取り込めるようにするなど、工夫をしました。
図1 講義から各回授業を選んだ画面
図2 ガイドラインによる検索画面
(3)キーワードやガイドラインによる検索
 (1)、(2)の教材ともにキーワードまたはガイドラインを付加し、図2のように検索できます。学生は、(1)で受験関連データの学習中に、不明瞭になった基礎に対応する(2)の授業内容確認テストで押さえるなど、(1)と(2)を有機的に活用して、各授業および国家試験対策の充実を図ります。


6.今後の課題

 管理栄養士国家試験対策委員会として、学部として、各教員が取り組んできた作業の中で培ってきたIT技能を使って、e-Learningに取り組めるのが本システムの大前提です。また、復習を中心とした自学自習のシステムですが、受験必修シリーズや教科書・参考書での自習の補完の役割しか想定しておりません。
 e-Learningでの自習、事前事後学習[2]が主になるように変えるべく、動画・音声などの媒体、そのためのIT環境、支援体制を導入するかどうかは、特に費用対効果を考慮して、検討すべき今後の課題です。また、模擬問題のプール制と項目反応理論を用いたコンピュータ適応型テストへの応用が4年計画の最終目標です。

 e-Learningは、私立大学等経常費補助金「教育・学習方法等の改善」による援助を受けて構築しています。


参考文献
[1] 武藤志真子, 山内喜昭, 藤倉純子: 全学IT化をめざして. 大学教育と情報, Vol.9, No.4, 2001.
[2] 教育改革を目指したeラーニングのすすめ.社団法人私立情報教育協会・コンテンツ標準化検討委員会, 2005.
文責: 女子栄養大学
  情報教育システム委員会委員長
山内 喜昭
情報・ネットワーク担当責任者
吉井 直澄



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