私情協ニュース4

平成17度 教育の情報化推進のための理事長・学長等会議開かれる


 去る、8月4日(木)青山学院大学相模原淵野返キャンパスを会場に、94大学4期大学より175名の理事長、学長、学部長等が参加し開催した。
 今年度は、社会から教育の質保証が取り沙汰されている現状を打開するための戦略として、教員自身の取り組み、大学としての取り組み、大学で解決できない課題について、情報技術の活用を中心とした人材育成のための教育システム構築の在り方を模索する場とした。
 会議冒頭には、戸高敏之会長(同志社大学)より、開催趣旨について「人材育成は国の安全保障政策、大学としても最善をつくすことは当然だが、大学単独で行うには限界もある。国・社会からの支援を取り入れた新しい教育のシステム作りを真剣に検討する必要がある」との説明があり、続いて会場校を代表して、青山学院大学の武藤元昭学長より「今日、情報教育、情報化推進を避けては大学そのものの発展を望むことができない時代になっている」との挨拶があった。会議はその後、事例紹介、解説、全体討議、関連情報の紹介が行われた。以下に概要を紹介する。


1.事例紹介

「大学戦略としての教育支援の取り組み」

 東 孝博氏(獨協大学副学長)より、同大学の教育支援への取り組みについて紹介があった。
 大学としての組織的な教育支援の必要性として、学生の基礎学力の低下を踏まえた卒業生の質保証の実現が要請されている。学力の目標設定と教育課程の編成だけでは不十分であり、授業現場における学生の意識、理解度を把握するためのコミュニケーションの確立や双方向授業の実現が課題。教員一人ひとりの意識改革と授業評価やファカルティ・ディベロップメントを推進する制度を整備するには、授業支援の体制が不可欠である。獨協大学では、1996年の「学術・教育情報システム検討委員会」の答申を踏まえ、1998年に企業(三菱商事(株))の協力で実験授業を企画し、Web教材作成、講義支援システムの構築、外国語教材データベースの構築などを経験して、教育研究に必要な体制とシステムを模索した。2002年に「教育システム推進準備室」を設け、授業レポートシステム、講義のデジタル化、教材開発・授業用ホームページ作成支援、情報機器貸出しと利用支援を開始し、2004年に「教育支援室」をオープンした。
 支援は次のとおりで、1)講義の支援は、授業の詳細な進め方を通知し、使用するレジュメや資料の事前ダウンロード・印刷が可能で、予習・復習が促進できる。また、レポート提出機能を活用して、試験では得られない理解度の評価が得られる(図1)。2)授業のレポート支援は、教員が常に授業改善できるよう、Web上にアンケートを作成し、自由に質問項目や課題を設定することで、学生の理解度を適確に把握することが可能。また、小テストにも活用できることから、1回の試験から成績評価の積み重ねが可能となり、双方向コミュニケーションによって、緊張感の醸成と学生一人ひとりの理解度把握が可能。システム一つずつの開発費は500万円程度で、それほど大きな負担ではない。3)講義のデジタル支援は、全学共通カリキュラムの講義に限定してビデオ撮影し、大学の知的財産としてアーカイブ化している。
図1 講義支援システム
教育支援室の課題は、40周年記念館を契機に様々な授業内容・形態に対応した支援システムの開発を進めるとともに、キャリア形成支援、学生生活支援の拠点となるような発展を計画している。


2.eラーニング解説

「教育改革を目指したeラーニングのすすめ」

 本協会のコンテンツ標準化検討委員会委員である玉木欽也氏(青山学院大学教授)より、本協会がとりまとめた「eラーニングのすすめ」について説明があった。eラーニングは、教育改革の一環として、学生が主体的に学べる自学自習の場を提供するとともに、教室での授業の2倍の時間を教室外で学習させることを保証する手段として必要であることを強調。eラーニングの活用により、時間・場所にとらわれない学習、理解できない箇所の繰り返し学習、学生の学習状況による個別指導が可能となる。それには、システムとして学習管理システム(LMS)が組み込まれていることが必須となる。
 eラーニングを取り入れた授業方法としては、基礎学力の補充、事前・事後学習の徹底、対面授業での対話・討論の補完、事後学習と対面授業の統合化、実体験の養成・訓練などがある。
 eラーニングを失敗しないようにするポイントは、授業の目標に照らしたシナリオ作りができていること、継続的に評価・改善できるようにすること、教材作成、学習履歴管理、システムの運用、学習活動の指導などを担当する支援体制(授業設計・評価のインストラクションデザイナー、教材作成のコンテンツスペシャリスト、学習管理システムの運用、コミュニケーションの誘導)である。
 実現するには大学の対応に温度差があることから、導入モデルを「学外から借りる方法」、「教員の個人対応」、「大学組織の対応」、「個人指導の徹底」、「協調学習の実現」、「事前学習による対話授業・体験授業の実現」の6モデルを設定。取り組むための点検項目、IT環境、学習管理システム、教材整備、授業方法、組織体制、学外連携の視点から掲載した。
 強調した点は、支援体制が一番遅れていることから、インストラクションデザイナー、コンテンツスペシャリストの育成・確保が必要。さらに、成績評価・学習履歴を管理するコース運用マネージャー、助言を担当するメンターが必要とした。その上で、教員が配慮すべき点は、授業のシナリオ作り、学習目標に最適な教材作り、内容の質保証、通用性・相互運用性の向上などがあること。また、大学としては、科目間の連携の明確化、教材作成システムとしてのオーサリングツール、学習管理システム、ネットワークセキュリティ、支援組織、共同利用に必要な検索情報(LOM)などの課題があること。eラーニングを単なるツールとしてではなく、責任ある教育を成し遂げるための意識改革促進の手段としてとらえるべきであるとした。


3.事例紹介

「情報技術を駆使した大学連携共同授業」

 岡本孝健氏(中部学院大学学長)より、岐阜県の国際ネットワーク大学コンソーシアムの実情について紹介があった。設立の経緯は、平成8年岐阜県で「コミュニティカレッジ構想」が発表され、中部学院大学も検討に加わった。10年には、バーチャル大学を視野に入れた国内外大学との連携による国際ネットワーク大学構想に進展し、11年に県内の大学等で構成する「国際ネットワーク大学コンソーシアム」を結成した。最先端の情報通信技術を利用して、いつでも、どこでも、誰もが高等教育を受講できる機会の創出と県内大学等への進学の促進、魅力ある教育提供を通じての学生満足度の向上、県民への高度な知識の提供をスローガンとした。
 共同授業の特色は、複数の講師によるリレー方式の授業で、1大学で一つの講座を教えるのではなく、国内外の著名な研究者(産官学、企業の役員、大学教授、地方自治体の長)など全国で有名な方を集め、テーマ単位でマルチメディアを活用した遠隔授業を実施している。学生、社会人の単位取得も可能で、設立7年目の現在、11大学、6短期大学、1高等専門学校が参加。学生は無料、社会人は有料(聴講は5千円、単位取得3万5千円)としている。広い地域にわたり教育の共存を図るため、ネットワーク・オンデマンドによるeラーニングとし、岐阜情報スーパーハイウェイによる県内IP通信網の整備が完備された。ネットワークによる共同授業の方式は、15年から始めた。主会場で授業を撮影・編集し、コンソーシアム事務局のサーバからインターネットを介して配信するが、いくつかの大学のサテライト会場でも同時に見ることが可能で、参加大学の学生は家で見ることもできる。講義の映像、資料目次、資料が同時に出るようになっており、見たい項目を選ぶことができる(図2)。
図2 岐阜県国際ネットワーク大学コンソーシアム共同授業の実施
 17年度では、岐阜大学「岐阜県方言のしくみを学ぶ」、岐阜経済大学「NPOコミュニティ論」、「キャリアアップ講座」(岐阜県経営者協会の寄付講座)、岐阜聖徳学園大学「英語のコミュニケーション」、中部学院大学「人間福祉学」、岐阜女子大学「デジタル・アーキビスト概論」を実施。その他には、eラーニングを利用した高大連携、包括的単位互換制度を実施している。単位互換性制度のためのポータルサイトを構築、履修登録、シラバスの閲覧等をすべてWeb上で行う。提供科目の一部は、インターネット授業を実施、Web上で履修することが可能で、全国で初めてではないかと言われている。
 16年度の単位互換制度実績は、69科目でeラーニングが15科目、学生数が149名、eラーニング受講者が140名となっている。コンソーシアムでの取り組みは、16年にシドニー大学との海外遠隔事業の実施、全国大学コンソーシアム研究交流フォーラムの共同企画、岐阜市内の中小企業との産官学連携の他、コンテンツ作成方法、学習シナリオ、eラーニング教材の在り方について教育効果の側面から研究を開始した。共同授業の実績は、11年から16年まで学生、社会人含め延べ5,240名、延べ18科目となっている。


4.全体討議

「教育改革を目指すための情報化戦略を考える」

 向殿政男氏(本協会常務理事、明治大学)の司会で行い、まず問題提起として本協会の井端事務局長より次のような説明があった。
 私立大学の専任教員45%、短期大学54%の回答による「授業改善白書」(16年度本協会刊行)によると、学生に関する問題では6割が基礎学力の低下を懸念しており、教育上で大きなハードルになっている。教員自身に関する問題では、どの学問分野においても5割の教員が学生の学習意欲を高めることに非常に苦慮していること、3割はカリキュラムの中での連携が取れていないことを指摘。大学への問題では、組織的な教育支援がないこと、教育内容・教育方法を議論する組織がないことを指摘。
 2年先(18年度)に実現したい授業を聞いてみると、大学、短期大学とも8割近くが動機づけを高める授業を必要とし、「教える授業」から「学ぶ授業」への転換、授業中の学生の反応・理解度に配慮した授業運営を希望している。そのための対策としては、第一に、約7割が授業のシナリオ作りを問題としている。教員と学生との世代間の違いにより、価値観や人間力が多様化しているため、今の学生には通用しないという悩みが浮き彫りになった。大学設置基準では、「・・大学における教育を担当するに相応しい教育上の能力を有するもの」となっているが、教育上の能力については個々の大学・教員に付託されており、世代を異にする学生の資質変化に対応した教育への配慮が不足していることが問題で、国の施策として教育指導能力についてのガイドライン策定の必要性を強調している。第二は、カリキュラムの実質化で、授業科目間の連携がないために、どのような人材育成をしようとしているのか見えてこないこと。第三に、教員の教育業績の評価制度作りが遅れており、教育への熱意を低下させる要因となっていること。国として判断基準の指標を網羅的に整理するなどして、大学固有の制度作りの促進に関与するよう要望している。
 授業でのIT使用は、2年先の18年度では自学自習、現実感覚の工夫、理解度把握、コミュニケーションなど授業改善のための活用が目立ってきた。しかし、効果をたずねると、学習意欲は向上し、学生の反応もよくなっているが、成績の向上に反映していない。学習意欲を持続させ、主体的に学ぶ習慣を付けるには、成績評価の方法と授業のシナリオ作りの連動が重要であることが判明した。
 一大学で解決できない課題としては、分野別にコンソーシアムを形成し、標準的なコアカリキュラムの構築、ITの活用を含めたファカルティ・ディベロップメントの研究が必要であること。また、教育現場に社会との接点を導入することによって学習の動機づけを高めるとともに、就業意欲、勤勉意欲の醸成に寄与するなど、産学官連携による教育支援の仕組みが必要であることを問題提起している。この白書は、5月31日の総会に報告後、マスメディアによる報道を展開し、7月21日付け読売新聞(夕刊)に「私立大学の基礎学力の低下」がクローズアップされた。また、7月31日にNHKテレビ昼のニュースで「教員として学生の学習意欲を高めることに難しさを感じている。対応策の一つとして、学生に学ぶことの動機づけをするように支援することが必要」と報道された。
 教育の産学官連携の問題は、昨年の会議で共生の支援システムとして提案の後、1年間の検討を経て「産学官連携サイバーユニバーシティ構想」として提案することにした。
 この構想は、文部科学省の理解を得て進めるということで、18年度から部分的に始めることを考えている。大学で実現できない現場情報、体験情報、専門家による助言・評価、実務教育、人間力養成の教養教育、教材開発などの支援を社会に公募して、テーマ別に企業など社会の関係機関、団塊の世代の個人に呼びかけ、リアルタイムやオンデマンドでネットワークを介して多くの大学がそれぞれの授業で活用いただくことを計画。現在、教員から寄せられている支援としては、例えば、外国語の授業では、TOEFL対策を行っているが、企業現場で求められる語学力について、現場の担当者から助言・評価が欲しい。経済学の授業では、中小企業の社長に社会的使命、職業観、失敗談、成功談を聞きたい。機械工学の授業では、教科書レベルの知識は不十分で、設計技術者から学生の設計の不備を指摘・指導されることで、実用的な設計技術を身につけることが可能。医学では、難手術のシミュレーションを疑似体験できる教材の開発を希望している。
 このような教員の要望を本協会が組織的に仲介していきたいが、社会が取り組むためのインセンティブが問題。それには、大学教育貢献組織、大学教育支援者のような社会に通用するメダルを表彰のような形で考えられないかどうか。当面、18年度より本協会の賛助会員を対象に呼びかけ、IT分野をはじめ経営、経済、工学など可能な範囲で実験することを考えている。

 問題提起を踏まえて、各パネリストから次のような発言があった。
 まず、河田悌一氏(関西大学学長)からは、大学2万8千人、大学院2千人の本学では教員、620人の6割は自分でシラバスを入力、280人がeラーニングを導入している。また、学生はWebサイトで履修登録、成績管理はじめ6千人がeラーニングで学習している。さらに、文部科学省のスーパサイネットの拠点校ともなり、先端科学技術の分野でも本格的に活動を始めるとともに、現代GPで授業と学習の総合的支援も始めた。問題提起の通り、学生の勉学の意欲をどのように高めるのか、産学官連携により教育に通用性を持たせる必要があると考え、秋以降に松下電器産業(株)と連携し、企業のリソースを大学でどういう形で利用できるのか、実際の現場からどういう形で臨場感を持って授業に取り入れられるか、実験的にネットワークでの授業支援を考えているとの発言があった。
 引き続き、斎藤信男氏(本協会副会長、慶應義塾大学)から、早稲田大学が中心となって慶應義塾大学、立教大学、立命館大学も協力し、オンデマンド授業流通フォーラムをこの4月に発足した。大学等46組織で産学連携の部分も入る形で講義を共有していく。費用等は各大学間で合意が得られれば、そこで決めていくことにしているが、基本的に国などのサポートがあると、スムースにいくのではないかと感じている。それから、日本オープンコースウェア連絡会の事務局を慶應義塾大学が担当しており、MITからオープンコースウェアの提案を受けて、教材を誰でも無料で使用できるように、日本でも東京大学、大阪大学、京都大学、東京工科大学、早稲田大学、慶應義塾大学で提供することにした。将来、アジア地区からの学生確保が課題となることから、グローバルな活動の一環として始めた。

 次いで、戸高敏之会長より、社会的問題となっている無業者・フリーターの増加は、今後の社会にとって大きな問題になることから、大学として最大限対応していかなければならない。産学の協力を受けながら働く意欲や目的意識を持つように、経済団体の関係機関と交渉しておくことが必要であるが、各大学としても賛同し、対応いただくことが望まれるとの要請があった。これを受け、主に次のような意見交換があった。

意見1: 15年程前までは、企業は大学に対して即戦力となるような人材を要求してこなかったが、今日では企業に人材養成の余裕がなくなってきたことから、大学教育に完成度の高い人材育成を求めてきている。そうであるならば、企業も大学教育に対して産学連携し、人材育成を一緒に考えてはどうか、提案すべきと考える。
意見2: 日本は国際競争力が21位だが、大学教育は60カ国で最低で、日本の大学教育に病根がある。それを改める手段として、教育の産学連携構想は非常に突破口になる。
意見3: 産学官連携を進めながら教育改革することに大学人として誰もが異存ない。大規模の大学だけではなく、小規模の大学にメリットがあるよう考えていただきたい。
意見4: 大規模の大学は卒業生が多いことから個別に連携できるが、中小規模の大学は卒業生が少なく連携の人脈があまりない。問題提起の産学官連携は規模にかかわらず、どのような規模の大学においても同等な効果が得られるのではないか。


4.関連情報提供

「情報化投資額の実態と補助金の活用」

 16年度決算によると、教育研究部門の1大学当たりの投資額は、単純加算平均では15年度とほぼ同額であったが、中央値では6.7%の増加となった。短期大学では加算平均も中央値もマイナスで中央値9.7%の減となっており、全体的に投資額が減少している。増減の要因を経費で見ると、大学では設備関係と施設関係が減少、保守・管理費とソフトウェア関係費が増加した。通信費は増加なく若干微減。短期大学は、設備関係と工事関係、施設関係が減少、増加はソフトウェア関係だけとなっている。昼間部学生一人当りの投資額は、大学は15年度5.3万円から、16年度は7.5%増の5.7万円となった。短期大学は15年度4.7万円から、16年度は5%減の4.5万円となった。
 規模別の内訳は表1の通り。
表1 大学規模別 教育研究部門の情報投資額
 補助金の活用については、特に教育学術コンテンツの申請が少なく、設備の申請は多いが、コンテンツ作りへの対応が少ない。講義ノート、教材の電子化作りを外注委託して半額補助で整備することは、経営戦略、教育戦略に欠かせない。大学で教員にアンケートを行い、それをもとに教育改善の計画を策定し、補助金要求していただきたい。また、本協会の補助金のWebサイトにアンケートの雛型を掲載しているので、活用いただき18年度補助金の申請に備えていただきたい。

「個人情報保護対策の実情と教員としての対応」
 個人情報保護への対応は、事務管理面での取り扱いは指針が文部科学省から発表されているが、教員の個人情報の取り扱いについては指針がない。そこで本協会としては、教員による個人情報の取り扱いをアンケートすることになり、本年5月に約1万4千名に調査し、その結果をもとに、留意点の第1次案としてまとめた。
 その中で特に、個人情報保護の責任は教職員ではなく学校法人にあること。学校法人は個人情報の安全管理のために、教員が取り扱う個人情報、成績表などについて監督しなければならない義務がある。その上で、教員は義務に従ってどのように保護するのかが問われる。しかし、あまり個人情報保護に過敏になると、かえって情報の有効性が損なわれてしまうことがあるので、すべて防御するということではなく、有用性と保護とのバランスをどのように考えることが適切なのか、大きな課題である。共通の課題として、一つは、保護法以前の問題として、大学は情報の有用性に応じた情報へのアクセス制限(IDやパスワード)など個人認証の徹底が必要であること。二つは、教員がどのような個人情報を扱っているのか学校法人は把握していないので、今後、教員から個人情報の登録を義務付けるよう制度を設ける必要があること。以下に想定される教員の対応について一つの考え方を提示する。

Webページに試験の成績を掲載する場合
 成績を相互に比較させて刺激する、または個人への成績の伝達などが目的であっても、掲載する目的を学生に明示し、許諾、同意を得ておく必要がある。個人への成績伝達が目的であれば、個人だけが見られるようなシステムを構築する必要がある。相互に比較させる場合には、個人を特定化しないよう、全員の成績を一覧化するような工夫が必要。
学生に連絡するために携帯電話番号、電子メールアドレスを収集する場合
 調査では6割の教員が収集しているが、収集に際して書面による本人の同意が必要になる。例えば、科目名、教員の氏名、使用目的などを示した上で、個人情報を可能な限り記入してもらう。拒否しても成績などに影響しないことを明記する。
ゼミ学生の名簿を作る場合
 学生から見れば他の学生は第三者になるので、各学生の同意を得ておく必要がある。ゼミ専用Webへの個人情報掲載は個人認証によるアクセス制限をかけ、緊急の場合には承諾の上で連絡網を作るか、ゼミ専用Webの掲示板に連絡内容を掲載するような方法をとる。また、連絡先のメールアドレスは、学生個人で所有しているアドレスではなく、大学で設定したアドレスを使うのも一つの方法である。
学生の論文、作品などをWebに掲載して、学外の専門家などに評価してもらう場合
 学生の作品を教育の素材として使うような場合であっても、学生に同意を得る必要がある。また、学外の専門家から助言・評価を受ける場合も、学生の同意を得ておく必要がある。作品や論文掲載の際には、そのテーマや氏名を付記する。
成績情報などを教員が自宅に持ち帰る場合
 一般的には、個人情報を学外へ持ち出してはならないのが原理原則である。学外へ持ち出して流出した場合、法律上、学校法人は安全管理措置義務違反、従業者監督義務違反として処罰される可能性がある。また、情報を暗号化しておくなど、万が一紛失した場合の対応策についても講じておくことが重要。

 今後、本協会でも、学生への一括同意を得るための方法などについて提案することを検討している。


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】