教育支援環境とIT

駒澤大学におけるIT活用への取り組み

1.はじめに

 本学は、1592年に禅の「学林」として創設されました。大学は、専門的な知識を修得する場ですが、それだけではなく人間性を育成する場でもあります。本学は禅の精神に基づく「行学一如」の理念を教学の基本とし、「学ぶ」ことと「行う」ことは一体であり、それ故に、学んだことを社会で「行う」ための人間形成を建学の理念としています。
 仏教・文学・経済・法学・経営・医療健康科学の6学部12学科、短期大学、2006年4月には、グローバル・メディア・スタディーズ学部を開設します。現在の学生数約1万5,000名、専任教職員数約600名が、1913年に駒沢の地に移転してきて以来の精神を脈々と守りつつ、「知的生産力の高い都市型大学」を目指しています。
 今後情報化が進むであろう社会へ学生を送り出し、活躍してもらうためにITを十二分に活用した教育環境の確立に取り組んでいます。


2.教材電子化への取り組み

(1)情報メディア係の設立
 平成16年度より情報メディア係を開設し、教員の授業改善・手法の改革等を支援することを目的としました。
 施設設備は、PC教場の一部(3室)にスタジオ仕様の機器を配備し、教員が主体となり、コンテンツ制作活動ができるような環境を目指しています。
 情報メディア係では、授業教材・手法への提案・企画・制作を教員と協働にて行っています。さらに、多くの教員が、授業改善・手法改革等に積極的であることを願い、教員への働きかけやコミュニケーションを取るための努力をしています。
 コンテンツの制作と管理は、動画の撮影から編集・コンテンツの作成・Web配信までの一連の作業が行えるよう、本学オリジナルのシステムを実施しています。

(2)コンテンツ制作
 平成17年度に制作したコンテンツの一例を紹介します。
1)診療放射線技師教育支援システム
 診療放射線技師国家試験の科目数や内容は多岐にわたり、学生は受験対策に多くの時間を費やしているのが現状です。大学での授業と研究活動と両立させるためには、効率的な学習法が必要となります。学生の学力レベルとニーズに合った学習支援をするために、e-Learningシステムである「診療放射線技師教育支援システム」を構築しました。概要は、弱点科目の克服システム、放射線専門用語集及び講義内容とリンクさせた支援システムです。

図1 診療放射線技師教育支援システム

2)医療画像解析システム
 病院の患者のX線フィルムを電子画像データに加工することによって、学生向けの教育用電子教材にするためのシステムです。
 前述の「診療放射線技師教育支援システム」と学習用電子画像データを連携させて使用することにより、学生にe-Learningを受けさせることができます。
3)外国語科目(ロシア語)教材
 外国語(ロシア語)科目の教材選定は、担当者に一任されていますが、上級学年になると、学生の知識に格差が生じてしまいました。ロシア語の教員間で『ロシア語の入門編』を作成し、同一の教材として授業に使用することが決まりました。学生がいつでもどこからででも学習できる方策として、デジタル教材にすることが決まり、Webページ(学内)で配信します。コンテンツ作成は平成17年度中に完成させて、平成18年度の授業より利用することになりました。

図2 ロシア語入門編コンテンツ

4)入学前教育コンテンツ
 高大一環教育の一端を担うため、入学前教育が久しく検討されてきましたが、全国からの新入生を一同に集めて実施することは難しいことで、実施されていないのが現状でした。
 IT環境が整備されたことにより、e-Learningで行うことが検討され、医療健康科学部においては、平成18年度入学生の一部を対象に実施することとなりました。
 現在、他の学部でも、導入を検討しています。

図3 e-Learningによる入学前教育

 


3.IT利用の特徴的な授業

(1)テレビ会議システムの活用
 経済学部の「演習」では、テレビ会議システムを利用して、年に数回、遠隔授業を行っております。相手校は、海外の大学が多く、討論会形式で双方向の授業を行います。スクリーンを通して、リアルタイムな意見交換を行えるので、学生の語学力向上だけでなく海外事情を理解するためにも有益です。
 この他にも様々な形で活用されており、授業の枠を越えて、世界中の多くの人々との意見交換の場を、学生に提供しています。

(2)スタジオシステムの活用
スタジオシステムが整備された教場は編集室と連動しており、収録・編集に関わる作業は編集室で行っています。そして、収録した動画を元にコンテンツの作成までの一連業務を受け持っています。
 外国語科目では表現方法指導の一策として、スタジオシステムを活用し、実際に学生が外国語でプレゼンテーションしている様子を映像に撮り、それを評価するなどといった形で、幅広い語学教育を行っています。

図4 スタジオ編集室

4.e-Learningを通じた地域との交流

 世田谷区の知識財を区民や全国に向けて発信する21世紀型の新しいキャンパスを目指して開設された「せたがやeカレッジ」へ参加しています。区内の4大学と区教育委員会が協働して、実験事業を運営しています。
 コンテンツ作成は、情報メディア係スタッフが中心になり、企画、撮影、編集等行っています。
(1)「簡化太極拳」講座
 太極拳の型(24型)をWeb上で、確認しながら自分のペースで独習します。毎月1回スクーリングを開催し、講師が直接指導し、地域の方々との交流の場にもなっています。受講者からの意見、要望をコンテンツ更新の際に参考にしています。
(2)「女性のための空手道入門」講座(平成18年4月開講予定)
 美容と健康、護身のための空手道の基本を自分のペースで学びます。毎月1回女性だけのスタッフでスクーリングを開催し、ミット等を使っての練習、緩急をつけた動作等講師が直接指導します。

5.ITを活用した学生サービス(キャンパスのデジタル化)への取り組み

 約15,000名の学生に対し、サービスを展開しているため、ITは必要不可欠なツールの一つになっています。
 平成13年度より入学時に全ての新入生に対してユーザID(アカウント)を発行しています。
 Webメール、KOMSY(シラバスデータベースの閲覧)、KONECO(休講、代講、教場変更等授業関連、試験関連、掲示・連絡事項の閲覧)、LMS(Learning Management System)、無線LANシステム、SSL_VPNシステムなどの各システムはアカウントで管理しながらサービスを展開しています。

図5 シラバスデータベース(KOMSY)

 アカウントで管理していないシステムとして、図書館蔵書検索、電子図書館、学内外のデータベース検索サービス(法令集や雑誌・学会誌、新聞等)、就職活動支援システムなどがあります。これらのシステムは、学外公開用と学内公開用と2種類に分けられますが、SSL_VPNシステム接続を通して、学内と同様のサービスを自宅でも受けることができます。

図6 駒澤大学 電子図書館

 現状では、これらの多種多様なサービスを受けるためには、各々のシステムを探さなければならないという不便さがあります。そこで、平成18年度のネットワークリプレイスではポータルサイトとシングルサインオンシステムを導入し、受動から能動へ学生サービスを展開し、利便性を高めていく予定にしています。
 Webサービス以外の学生サービスとしては、事務システムと連動している電子掲示板(休講、教場変更などの事務連絡や緊急を要する連絡事項を掲示)、自動証明書発行機を設置しています。
 また、学生が自由に利用できるパソコンを、パソコン自習室(120台)・キャリアセンター(就職活動支援用 20台)・図書館特別閲覧室 (20台)・国際センター(留学生用12台)に設置しています。さらに無線LANがキャンパス内のほぼ全域をカバーしており、ノートパソコン、無線LANカードの貸し出しも行っておりますので、学内全域で、学生はITを活用したサービスを享受することができます。
 近い将来には、パソコンや携帯電話を利用しての授業履修や出欠席調査などが可能になる環境構築を目指しています。

6.現状での問題点と今後の課題

 急速に進んだ情報化社会には、問題が散在しています。セキュリティの問題は特に重要です。教育研究並びに事務処理にITを有効利用するには、情報は正しく開示され、守るべき情報は守らなくてはなりません。そのためにも、不正アクセスやコンピュータウイルスへの対策強化が急務です。そこで平成18年度リプレイスでは、ネットワークセキュリティ向上を目的の一つに上げています。
 また、教材の電子化においては使用する著作物の権利処理や知的財産権に関する学内規程が整備途中のため、デジタルコンテンツの著作権の帰属先等の明確化に多大な時間を要しています。情報化された社会に適応する学内整備が早急に必要です。現状においては、電子化に携わる職員は、自主的学習や研鑽に努め、大学としては、著作権についての、全学的な意識の向上に努めなければなりません。
 さらにITを有効活用するには、人材育成が必要となります。情報に関わるハード・ソフト両面においては進歩が著しく、教職員には、常にITスキルの向上が求められています。新たな事務システムや教場機器を整備したならば、それらを自在に使いこなすためのスキルが求められます。また、専門的な技術と知識を要する業務については、適切な技術者の配置が必要になります。
 IT環境を十二分に活用した上で、より高度な環境を求めて行きたいものです。

文責: 駒澤大学
総合情報センター所長
石名坂 邦昭


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