特集 教育改善のための教育・学習支援


創価大学「教育・学習活動支援センター(CETL)」による教育・学習支援への取り組み


高木 功(創価大学経済学部教授・CETL委員)


1.はじめに

 創価大学においてCETL(Center for Excellence in Teaching and Learning) すなわち「教育・学習活動支援センター」が設置されたのは2000年5月のことである。1998年に学長によって創価大学ビジョン「学生のための大学」が発表されて以来、学生の学習支援と教員の教育支援のための方策が検討された。現在のCETLのセンター長である坂本辰朗教授(教育学部)の発案により、当時仮称「教授・学習支援センター」の設立を準備することとなった。準備委員会の発足と同委員会の検討の結果をまとめた報告書の提出を経て、「教育・学習活動支援センター」は正式にスタートした。2003年には、本センターの取り組みは文科省のGP「特色ある大学教育支援プログラム」として選定されている。

2.学生の多様化と学習・教育支援の必要性

 90年代末において、創価大学は学生の質とニーズの多様化に対応すべく、学習支援と教育支援の両面において改革の必要に迫られていた。具体的には、1)漠然とした進学目的、進路への不安、入試の多様化に伴う必要な学習歴・学力の不足など、学生の学力とニーズの多様化に伴う課題に対してきめ細やかなケアが必要となってきたこと。2)これに対応する教員自身の教授方法、授業改善が要請されていたこと。そのために、3)学生の学習に関するニーズを掌握し、カリキュラム改正に連動させる必要性が認識され、同時に、4)教員への情報提供や教員同士の情報交換を通じて教育方法改善をサポートする組織が必要となり、さらに、5)教育改革の担い手となるFD活動に関心を持ち、教育に熱意を持つ教員層を拡大する必要性があったこと、である。

3.CETLの設立と取組みの特色と運営体制

 このような教育・学習支援の必要性から、これに対応すべく設立されたのがCETLである。本センターの特徴は、学内諸機関と連繋して学生の学習ニーズを調査して、これに応えるために「学生の学習活動」と「教員の教育活動」という大学の教育改善の両面を同時に改善する包括的アプローチを企図し、実施したところにある。
 図1のように、本センターは大学附置の組織として、学長のリーダーシップの下、教務担当の副学長補(当時、現副学長)がCETL運営委員会の運営委員長を務め、全学的に調整が必要な事項を担当している。運営委員は各学部の学部長補佐によって構成される。CETLの教育・学習支援活動の計画、策定は正副センター長の下、各学部の教員代表からなるセンター員が担当し、各学部との連携は運営委員・センター員を通して行われる。事務組織は教務部が担い、専任職員が1名配置されている。なお、センタースタッフとして大学院生等が10名程配置されている。

図1 CETLの運営体制

 CETLには専属の教員スタッフはいない。これは同センターが研究機関としてではなく、学生の学習支援とFD支援という教育改革実行の推進軸としての役割・機能が期待されているからである。教育の最前線に立つ各学部、教育機関の構成員がセンターの構成員を兼務することによって、初めて教育改革の運動を各学部において実施し、広げていくことが可能となるからである。
 本センターは、図2の概念図のように学習支援を通じて得た学生のニーズを把握・分析し、それを速やかに授業内容や教授法の改善に結びつけることで、大学全体の教育改革・授業改革の推進軸として機能している。また、学内の他機関との効果的な連携により、語学学習支援、教育の情報化支援、教養教育の充実支援、心身面での学生生活支援などの総合的な学習支援体制を整えてきた。

図2 取り組みの内容について

4.CETL活動の効果

 このようなCETLを軸とした学習支援並びに教育支援活動の効果はいくつかの指標によって確認できる(図3)。

図3 教育効果および学生の学習上の利益

 学生のCETLへの相談内容の中で一番多いのは「レポートの書き方」であった。レポートの書き方講習会への参加希望者が多い状況を踏まえて、2003年度より共通科目に「文章表現法」が新たに設置された。また数学講座の開催は、同じく共通科目「数学基礎」の開講につながった。さらに、各学科(一部除く)に導入科目として「基礎演習」が開講された。本センターの学習活動支援から把握した学生のニーズをカリキュラム改革に連動するという流れができあがった。
 学習相談や講習会などにより、学生の学習に対する不安や課題を解消するサポートは、学生の学習意欲の向上に反映した。図書館の利用や読書活動を勧奨してきたこともあり、日本図書館協会の2003年度の調査では、学生一人あたりの貸し出し冊数が全国の5学部以上を有する私立大学の中で第6位となった。本センター開設前の1999年度の1日平均貸し出し数274冊に対し、2002年度は353冊へ、2005年度には435冊へと伸びている。図書館利用者数(延べ数)も1999年度241,978名から2002年度362,533名へと飛躍的に伸び、2005年度には457,820名に達している。図書館以外の自習室の整備も学内において進められており、コンピュータルームや学生ホール内自習室、ワールドランゲージセンターの活用など、いずれの施設の利用者も増加している。
 教育活動支援による教育効果は、授業アンケートの集計結果に表れている。同アンケートの結果を本センター開設前の1999年度とその後を比較すると、授業の「総合評価」(4段階評価)の全学平均ポイントが1999年度の2.90から2002年度は3.25へ、2006年度には3.63へと上昇している。回答項目でみると、「とてもよかった」(最高評価)が22.9%から42.5%へ、50.9%へと高まり、学生から「よい授業」として評価された授業が増加している。

5.CETL活動の充実と拡大

 CETLの活動は、学生の学習活動支援、教員の教育活動支援を核としながらも、広報活動、調査活動を加えて大きく四つの支援・活動からなる。

(1)学習活動支援

1) 学力レベルの異なる学生の基礎学力を培う各種講習会の開催
2) 上記講習会等を視聴できるビデオライブラリーの開設
3) 学習上の課題の解決や不安の解消をサポートする「個別学習相談」
4) ホームページの開設によるWeb上での相談・支援(2003年度11月からは、レポート診断サービスを開始)

(2)教育活動支援

1) 広く教員に公開して行う「授業見学会」
2) 教員の自由な意見交換の場「教育サロン」
3) FD合宿の開催
4) FD活動についての教員の啓蒙と意識改革を促す「講演会」の開催
5) 各種ワークショップ: コンピュータを活用した教材作りや参加型学習法に関するワークショップの開催
6) FDフォーラム
GP採択を期に年1回、「FDフォーラム」を開催。第3回FDフォーラム(2005年度)では、学部長によるパネルディスカッションを開催。学生の代表も参加。
7) 授業ポートフォリオ
前期・後期授業ポートフォリオ「創価大学・良い授業事例」の募集・奨励。

(3)広報活動

1) 季刊広報誌『CETL Quarterly』の発行(年4回)
学内の教育改善に向けた取り組みの紹介やFD関連の情報提供(No.24号まで発行)
2) 小冊子『FDシリーズ』の発行
講演会をまとめ、全教員に配布
3) GP採択を機に採択初年度の諸活動をまとめた広報誌『Annual Report』第1号が発行された。以降も刊行が継続されている。

(4)調査活動

1) 海外視察団
FD関連視察として2000年度、米国イリノイ大学、ノースウエスタン大学、ペンシルバニア州立大学、デラウェア大学訪問。2001年度、カリフォルニア大学、マサチューセッツ大学、ノースイースタン大学訪問。2005年度、カリフォルニア大学、サンフランシスコ・シティ・カレッジ、米国オハイオ州立大学、ノースウエスタン大学訪問
2) 海外研修
2001年度、ミネソタ大学、2003年度、ケーガン・インスティチュート、2004年度、アルバーノカレッジ、シカゴ大学、オハイオ州立大学、アメリカ創価大学において研修。
3) 国内研修
私立大学連携主催のFDワークショップに毎年2名を派遣。その他、私立大学情報教育協会等の各種大会等に随時派遣。
4) 委託研究員によるFD関連分野の委託調査制度設置

6.おわりに

 本センターは学習支援を通じて得た学生のニーズを把握・分析し、それを速やかに授業内容や教授法の改善に結びつけることで、大学全体の教育改革・授業改革の推進軸として機能してきた。学内の他の機関との連携を積極的に図ることにより、語学学習支援、教育の情報化支援、教養教育の充実支援、そしてこれらをカリキュラムの改革、充実に結びつけ、さらに心身面での学生生活支援等、総合的な学習支援体制を整えてきたのである。本年春、創立40周年を目指して新たな創価大学教育ビジョンが発表された。本センターは新教育ビジョン実現の推進軸としてその役割をいっそう期待されることになろう。



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