特集 教育改善のための教育・学習支援


大学のユニバーサル化と学習支援の組織的な取り組み〜関西国際大学〜


山下 泰生(関西国際大学)


1.はじめに

 関西国際大学(以下、本学)は、1998年に経営学部の単科大学として開学をし、その後、人間学部を開設して8年目を遂げる迎えている。そして、来年度より教育学部、人間科学部への改組を計画している。
 本学は、開学当初より、高等教育のユニバーサル化への対応を重視して、GPA制度の導入、および日本初の学習支援センターの設置など、学生に対する様々な学習支援の取り組みを実践してきた。その活動成果が評価され、2004年度に「大学教育のユニバーサル化と学習支援」で文部科学省より「特色ある大学教育支援プログラム」(以下、特色GP)の採択を受けた。
 もともと、本学の学習支援の取り組みはPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルで、その活動全体がスパイラル型の発展を前提としているため、2004年度のGP採択後も新たな活動や体制の見直し等を行い、本年度「初年次教育の総合化と学士課程教育への展開」の取り組みが特色GPとして再度採択された。さらに、同時に「大学、住民および行政等の協働と地域活性化」の取組が現在GP(「現代的教育ニーズ支援プログラム」)として採択された。
 これらは、大学のユニバーサル化への本学における幅広い学習支援活動が評価された表れであると考えている。
 本報告では、本学における学習支援の取り組みに関して、基本としている活動および全学的な体制の見直し、今後の方針などに関して述べる。

2.支援活動の基本(学習支援センターの役割と発展)

 本学の学習支援は、開学と同時に設置された日本国内初の「学習支援センター」を中心として活動を展開してきている。そして、ここ数年の間に、全学的な支援体制も含め、学習支援センターを越えて拡充してきている。

(1)支援センターを中心とした支援活動
 学習支援センターでの支援活動の基本は、1)全専任教員による2系統のオフィスアワーによる個別相談、2)学生のニーズの発掘によるショートプログラム(現在はセンタープログラムと呼んでいる)、3)資格対策やショートプログラムの発展系である「特別研究」という単位認定科目の開講、である。当然、それらは、アドバイザーや他のセクションとの緊密な連携をとりながら進めていく(図1)。

図1 支援センターの支援活動の基本

 また、学生の自習環境の整備や資格取得支援など、発展的に拡大させてきた。

(2)全学的な組織体制での支援活動への拡充
 学習支援センターによる支援活動と並行して、学内的には初年次教育、キャリア教育の検討・試行が高等教育研究所を中心に行われていた。それらも学習支援活動の一環として位置づけ、2004年の特色GPの採択を契機に、高等教育開発センターを新たに設置し、その中に初年次教育開発センターを独立させ、全学的展開を実践してきた(図2)。
 また、高等教育開発センターにおいて、地域連携のプログラムを学生参加型として学習の場を学外で実現する取り組みも並行して検討してきた。
 それらの成果が、新たに本年度の特色GP、現在GPの採択につながっていったと考えている。

図2 全学的な組織体制の拡充

3.支援活動の現状と今後

 本学は、開学以来様々な学習支援活動の取り組みを実践し、また、組織体制の見直しも行ってきた。そして、学生の学習成果や学習支援センターの利用率などで、活動の評価をしてきた。その結果が活動内容の見直しや新たな試みの検討につながって発展を遂げてきたと考えている(図3)。
 PDCAサイクルでスパイラル型の発展をとることにより、不足している点の補強、余分な点の見直しなどへのタイムリーな対応を可能としている反面、年数が経過すると、支援活動全体のコンセプトが不明確になってくる可能性もある。
 そこで、今後の支援活動を遂行するにあたって、原点に立ち返り、大学の教育理念に照らし合わせたミッションに基づく学習支援の基本コンセプトの再確認をし、新たな取り組みに関する検討を進めていった。

図3 支援活動内容の発展

(1)学習支援活動に関する基本コンセプト
 数年前より実施、および今後実施を検討している学習支援活動に関する基本コンセプトは、以下の三つに集約される。

1) 参加型プログラムの展開
 学生自身が参加して作り上げていくようなプログラムを展開する。その中で、成功体験から得られる自信を体験させることを目的とする。
2) 学生がセルフ・アセスメント出来る指標の検討
 単に支援を受けさせるだけはなく、大学として「どのような人間になってもらいたいのか」ということを細分化した学習ベンチマークを制定し、学生自身にチェックをさせる。
3) 授業のペタゴジー改革
 教育活動として最も重要な授業の具体的改革である。全学的にアクティブ・ラーニングの手法を取り込むことによる授業改革を目指している。

 以上のコンセプトは、各々が独立しているものではなく、それぞれの活動に密接に関連した形で具現化している。

(2)基本コンセプトに基づいた取り込みの具体例
 前述の基本コンセプトに基づいて実施された、いくつかの具体的取り組み事例を以下に示す。

1) 学生スタッフ重視のフレッシュマン・ウィーク
 新入生の入学時に実施される受け入れプログラムであるが、その計画立案から実行まで、公募された学生スタッフで実施する。
2) 学習奨励金制度
 各学期ごとに、定められた取得単位数とGPAの基準を満たした全ての学生に対して、授業料の一定割合の金額を学習奨励金として給付する制度である。
3) キャンパス・マイレージ制度
 学業成績以外の活動も対象とした学生一人ひとりの評価ポイント制度である。学業成績は自動的にポイント換算されて加算され、ボランティア活動、資格取得なども本人の申告により付加ポイントとして加算されていく。付加ポイントの加算項目およびポイント利用基準に関しては、学生も含まれたレフリー・コミッティで案が議論される。
4) KUIS教育ベンチマークとポートフォリオ
 「大学でどのような能力を身につけたか」ということを明確にするために、その具体的な目標や尺度を「学習ベンチマーク」として新入生の入学時に明示をする。
 また、評価項目をチェックする証拠となる日々の学習成果を、ポートフォリオとして蓄積させる。
5) ペタゴジー改革
 教員側で、授業そのものの質を向上させるために、アクティブ・ラーニングの手法の取り入れ等により授業改革を進めている。
6) 学生メンター制度
 学生メンターとは、「新入生の初年次教育の支援」や「学習支援センターのプログラムや業務の支援」などの役割が期待される学生リーダーである。
 審査を通り、研修を受けてメンターとなった学生は、少なくとも1学期間は特定の1年生ゼミの担当アドバイザーをサポートし、担当ゼミの運営に関わる。

 以上の事例以外に、教員に対する支援アドバイザーの制度も導入している。授業運営に関する悩みや質問を受ける役目の教員を教育支援アドバイザーとして設置した。

4.おわりに

 多様化する学生を受け入れ、大学のミッションを遂行するために、様々な学習支援活動を行ってきた。多様化する学生への支援活動であるため、その対応そのものも多様となることは当然のことである。しかしながら、もっとも重要であると思われることは「支援する」ということは必ずしも「世話をやく」ということではない、ということである。
 いずれ社会人となっていく学生に対して最後(卒業)まで「世話をやく」ということは、大学として社会的に自律できない人間を世に出していく可能性が高くなっていく。
 一言で「支援」といっても入学したばかりの新入生と卒業して社会人となっていく4年生とでは、同じ支援プログラムでも、学年に応じた適切な支援が施されるべきであると考えている。
 その考えに基づき、「初年次教育」という形で新入生に特化した取り組みを検討し実践してきた。そして、さらに専門教育、キャリア教育とつなげていく取り組みを具現化している。
 また、学習支援活動は重要ではあるが、それ自身のみが目的となっては本末転倒であり、やはり、教育機関としての教育活動全般に対する成果を上げる必要があり、そのための尺度設定や学生自身が自己の成長を確認できる仕組みも必要となってくると考えている。

 

文責: 関西国際大学
副学長(教務・学生担当)
教育支援機構長 山下 泰生



【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】