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学内LANによる視覚教材の配信と病理診断学での学習効果
佐藤かおり 島津 徳人 青葉 孝昭(日本歯科大学生命歯学部病理学講座)
1.歯学部病理学教科とIT化
病理学教科では多種類・大容量の画像教材を講義・実習において使用しており、教科内容を補完するうえで、学習者が画像情報にアクセスしやすい環境を整えることが求められている。日本歯科大学病理学講座では平成15年度より講座ホームページを開設し、病理画像教材のWeb化とインターネット上への情報発信を継続してきた。平成15-16年度におけるWeb教材の開発経緯とそのコンテンツ、Web教材の運用については本誌[1]に報告した。平成17年度を迎えるに先立ち、Web教材のコンテンツ増加にともないデータ容量も大きくなり、すべての教材を講座ホームページ上に掲載するのが困難な状況に直面した。また、容量の大きい画像情報を配信した際には、ユーザ(学習者)のコンピュータ・ネットワーク環境に依存して、アクセスに長時間を要する不便さやアクセス不能の事例にも遭遇した。そのため、これまでに開発したWeb教材を統括管理して、学内LANで配信するための講座サーバを設置し、教材配信ネットワークを新たに構築した。
2.Webサーバとネットワーク構築
平成18年4月時点での病理学講座ネットワークの概要として、大学内LANと講座内LANの2系統を設置している(図1)。大学内LANにおいては、インターネットに接続した講座ホームページとは別途に学内公開用Webサーバを設置しており、学生向けの学習教材については大学内端末からアクセスできる。講座内LANでは、Web教材の編集作業やバックアップを目的とした専用ファイルサーバを設置し、大学内LANから独立した講座内端末間でのネットワークとして運用している。今回のネットワーク構築では、サーバ設置については大学機関の援助を受けており、ソフト面ではオープンソースで入手できるApache、MySQLとPHPを選択した(表1)。データベース登録の病理組織画像については、約7MBのTIFF原画をJPEG画像(100KB前後)に圧縮している。この圧縮により、モニター画面での観察・診断に必要な解像度を保った上で、多数枚の画像を一度に検索・閲覧することが可能である。レコードの追加・変更・削除についてはMySQLのコマンドラインからの入力は煩雑で専門知識を必要とするため、Webブラウザ上で更新作業が可能となるように管理画面を設定している。
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図1 病理学講座のサーバ・ネットワーク |
表1 サーバ開発・動作環境 |
開発環境: |
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Windows |
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Windows XP Professional |
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Apache HTTP Server 2.0.52 |
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MySQL 4.1.7 |
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PHP 5.0.3 |
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Macromedia Flash MX 2004 |
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Macromedia Dreamweaver 2004 |
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Adobe Photoshop 7.0.1 |
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Adobe Illustrator 10.0.3 |
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Internet Explorer 6.0.2 |
Mac |
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Macintosh OSX |
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EasyBactchPhoto 1.5.1 |
動作環境: |
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Windows |
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Windows Server 2003 |
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Apache HTTP Server 2.0.52 |
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MySQL 4.1.7 |
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PHP 4.3.2 |
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Internet Explorer 6.0.2 |
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3.病理学教科へのWeb教材の導入
平成18年4月時点でWebサーバに搭載している教材については、開発時期の違いを反映して複数のプログラム・スクリプト言語を併用している。サーバサイドスクリプト言語(PHP)とMySQLを使用した画像データベースでは、OS環境やブラウザの種類に関わらず使用できるマルチプラットフォーム化を実現している。画像検索システムには現在、3,500件の画像レコードが登録されており、学習者は疾患名あるいは病理所見(キーワード)からの検索を選択することができる。学習者が求めるデータをサーバ側で抽出して送信するため、クライアント端末での負荷は軽減されており、学習者は効率よく多数の画像を閲覧できる。学習到達度を評価するための「問題集」はJavaScriptで作成しており、スタートボタンを配置したページ、問題・選択肢・解答が記述されたテキストファイル、問題のランダム抽出を実行するプログラムから構成されている。アクセスごとにプール問題(500レコード)の中からランダムに10問題がモニター画面に呼び出され、学習者が5択選択形式で10問解答すると、正解数、選択した答えと正答が表示される(図2)。
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図2 病理組織診断に向けた学習教材 |
4.学内LAN配信と学習者のアクセス状況・テスト成績
学内公開用Webサーバでは個人別認証システムは導入していないが、アクセスログの解析によりアクセス状況を追跡している。Web教材の利用頻度は発信者側での予想を越えており、昼休み1時間と放課後2時間に利用ピークが現れており、学内LANに加えてインターネット(http://www.ndu.ac.jp/~pathhome)に公開している「画像診断問題」やWeb3D表示した「歯の動画」教材にも1日当たり数十件のアクセス数がある。1週間のアクセス状況を例示すると、画像閲覧データファイルの利用度は低く、学生にとってテスト練習を好む趨勢がはっきりと現れている(図3)。特に、国家試験準備を進める6年生と共用試験CBTを受験する4年生では、関心が「問題集」に集中しており、病理学実習を履修する3年生は予習・復習向けの実習教材にアクセスしていた。
平成17〜18年度の病理学教科を履修した学生を対象とした質問紙調査では、「Web教材」は「自習に役立つ60%」と最も多く、コンテンツへの不満には遭遇しなかった。病理学の知識と病理診断力の自己評価については「飛躍的あるいは少しは向上」と回答した学生の割合は85%を越えていた(図4)。平成17年度より歯学領域では全国共用試験が施行されることになり、4年生はComputer-Based
Testing(CBT)を受験する。4年生は3年次において病理診断学の履修を終えているが、4年後期開始時の10月に実施した病理診断テストでは学習内容の剥落が追認できた。学内LANでの画像教材の配信と病理診断学の補講により病理診断力は再帰し、CBT受験を控えた平成18年1月時点ではクラス平均点は有意(P<0.01)に向上していた(図5)。
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図3 学内LANで配信している教材とアクセス状況 |
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図4 学習者の意識調査 |
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図5 病理診断テストの成績 |
5.今後の課題
病理学講座では教科課程の学習支援を目的として、多量の視覚教材に容易にアクセスでき、双方向性の交流が可能なeラーニング・システムの導入を目指している。この長期展望において、講座ホームページの開設とWeb教材の開発を企画した当初から、情報発信者となる教員の情報リテラシーの向上とWeb教材の運用経験の蓄積を目標としてきた。ホームページ運用とサーバ・ネットワーク構築を経験する中で、学習者の多様なコンピュータ環境(ハード、OS、ブラウザ)にも対応できる運用能も養ってきた。また、学習効果を高めるコンテンツとコンテキストを追求する上で、教材開発ツールとしてAdobe3Dを導入、動画教材の配信も始めている。平成18年度においては、双方向性を採り入れたシラバス対応のeラーニング・システムの開発を目指している。
参考文献 |
[1] |
佐藤かおり他: 大学教育と情報, Vol.13 No.3, pp.28-30, 2005. |
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