私情協ニュース1
「教育改革ITフォーラム」開催される
本フォーラムは、教育改革のための課題を相互に確認し、討議を通じて解決のための戦略を模索していくことを目的として、本年度よりこれまでの「教育の情報化フォーラム」を「教育改革ITフォーラム」に改組して実施することとした。
本年度のプログラムは、フォーラムの目的を意図した全体会や分科会を企画し、具体的には教員に求められる教育力、FDとしてのIT活用、社会支援を取り入れた新しい教育システム、職員による教育支援組織の運営、個人学習指導での個人情報の活用法などをテーマに、問題提起を踏まえながら参加者と討議を行うこととし、奈良市の帝塚山大学を会場校に、6月16日(金)は学園前キャンパス、17日(土)は東生駒キャンパスにおいて、約320名参加の下で開催した。第1日目の全体会では、フォーラム運営委員長山崎和海氏(立正大学)の司会のもと、本協会の戸高敏之会長(同志社大学)による開会挨拶、そして会場校を代表して帝塚山大学の山本順英理事長による、教育改革への自負に富んだ挨拶が行われた。
今年度のフォーラム運営委員16名の紹介に続き、フォーラムの意図を表した「大学戦略としての教育の情報化」と題した課題提起(事例紹介)とパネルディスカッションを行い(詳細は後掲参照)、続いて本協会の井端正臣事務局長より本協会の活動報告として、今年度事業計画とその推進状況や、私立大学における教育改革の現況、さらに振興財団補助金行政等に関する補足説明等を行った。
全体会の後に懇親会を開催し、多数の参加者の下で相互の親睦を深めることができた。
第2日目は、テーマ別自由討議(5分科会)を行った。各分科会は、フォーラム運営委員による司会のもとで、約2時間半の時間を有効に使いながら、課題提起者を中心に会場からの積極的な参加を得て活発な討議を行った。フォーラムの趣旨でもある「教育改革のための課題を確認し、解決のための戦略を模索していくこと。またそれぞれの教育現場で実際に直面している問題・課題についての意見交換と情報の共有、会員同士の理解と協力を必要とする問題及び関連情報等について討議すること」が、全体的に活かされたフォーラムとなった。
分科会終了後の午後には、帝塚山大学東生駒キャンパスでのキャンパスツアーを行い、多くの方々が参加された。
最後に、本フォーラムの会場校をお引き受け下さった帝塚山大学の関係教職員の皆様に謝意を表します。
6月16日(金)
「大学戦略としての教育の情報化」
教育の質的向上を目的として、ITを活用した教育活動や大学生活への支援を組織的に推進するため、「教育の情報化推進本部」を発足した明治大学より、5名の方に課題提起いただいた。各課題提起の内容は、「1)教育の情報化推進本部の理念」(教育の情報化推進本部長:吉田悦志氏)、「2)教育の情報推進本部設置までの経緯とその意味」(副本部長:安藏伸治氏)、「3)教育効果向上のための教育支援」(教育支援推進部長:阿部直人氏)、「4)時代に対応した情報教育の推進」(前情報教育推進部長:和田悟氏)、「5)教室の復権のための情報環境整備」(情報環境推進部長:石前禎幸氏)で、学内の反応を交えながら具体的な事例を紹介いただいた。
後半のパネルディスカッション(司会:山崎和海氏)では、パネリストの濱谷英次氏(武庫川女子大学)より課題提起が整理され、「なぜ、今、教育の情報化なのか?」、「情報教育と教育の情報化の違い」、「教育改革とITの活用について」などの示唆に富んだコメントがあった。続いて、梅田茂樹氏(武蔵大学)より、プロジェクトマネジメントを視点して「教員個人の取り組みから組織的取り組みへの転換」、「教職員の側からの評価と組織対応」といったコメントがあった。司会が「情報教育」、「教育の情報化」、「教育改革とIT」などのキーワードや、学生、教育の質保証、教職員、組織、ITと道具立てといった視点を再整理し、改めて明治大学の実施状況について補足説明を行った。
その後、会場からの質疑応答を通じて、ファカルティ・ディベロップメントを展開するための組織作りと目標設定、教員の意識改革へのインセンティブ、プロジェクト推進のための要素やマネジメント手法などについて討議を行い、フォーラムの趣旨に沿った全体会を実施できたと思われる。
6月17日(土)
テーマ別自由討議
A:学生サービスとしての学内情報の活用
本分科会では「学生・教員・事務局間での学内情報の共有による学生サービスの展開」と題して、高橋公生氏(名古屋学院大学学術情報センター)より課題提起いただいた。
平成8年度より全学生にノートパソコンが配付されるとともに、大学全体としてCCS(Campus Communication System)を構築し、学内の教育改革が進められてきた。Web系システム内には学生、授業、教員の各ポータルサイト、そして自学自習システム、図書システムが入り、クライアントサーバ系システムには事務局ポータルサイトが入っており、同ポータルには入試、学生、教務、就職、人事、財政の各システムがある。学生の学習意欲の向上を図る、きめ細かい様々な指導が実施されていると同時に、教務事務関係の事柄も系統的に構成されている。CCSと個人情報保護の問題についてもきちんと学内で議論されており、「学生本人の個人情報はできる限り本人に公開する、また職員は個人として学生と対応しない」といった原則が紹介された。学生の携帯電話に毎日時間割メールが届き、1日が始まるという。各ポータルサイトで学生・教員・事務局の三者間で様々な学内情報を共有しており、学生サポートとして充実したシステムが構築されている。
後半は参加者を交えての討議を行った。予算、経営問題では学長が率先してプロジェクトを進めてきたことなど紹介された。システム関連としては、セキュリテイ、個人情報等の質問があり、各部署では課長から許可を得ている職員のみが部署毎に作成されたアカウントを共用して学生情報を閲覧し、すべては課長が監督責任をとるようにしている。また学生に関しては入学時に利用形態を説明し、学生の了承を得てから情報を活用していること等が紹介された。就職に関して、キャリアセンターからの情報が、逐次、学生に流れるという点は、とても素晴らしい取り組みであると感じられた。今後は卒業生や学生の父母も巻き込んだ情報活用も考えているという意気込みが示され、最後まで中身の濃い議論が行われた。
B:教育目標を実現するためのe-Learning活用
本分科会では2件の課題提起があった。まず、薬学部で国家試験のためのコンテンツを多く開発し利用されている明治薬科大学より、梶原正宏氏(明治薬科大学薬学部教授)に課題提起いただき、コンテンツ化のデモも含めて紹介された。同大学では薬学アーカイブスとして1,500コンテンツを構築し、それらを自習に利用させ、薬剤師試験合格率は全国の46大学中1位となった。学生に授業内容を自主復習させ、ステップアップテストを受けさせることにより、学生全体の得点分布を課題分野別に集計できるため、学生個別および学生全体の長短所、ひいては授業評価の資料としても極めて有用で、前述の成果の基盤はもとより、FDの重要資料とされている。新たなIT活用としては、医療現場で実習する学生と指導教員とを遠隔システムで結び、訪問指導の代替にすることも計画している。
次に、永年英語遠隔教育を実践されている中野美知子氏(早稲田大学教育学部教授)に課題提起いただいた。英語教育をいかに情報化するかという、平成9年からスタートした情報化推進プログラムは、第3期まで終わり、現在第4期計画が実行されている。数人からスタートした英語チュートリアルプログラムは、現在10,000人の規模で実施されている。Web上の予習復習教材の活用とネイティブも含めて選抜されたリーダーが指導する4人1組のチュートリアルレッスンを組み合わせいる。このようにして身につけた英語力の実践の場として、異文化交流を遠隔で行っている。また、テレビ会議システムを用いた遠隔講義も行ってきたが、学生の時間の都合もあり、これらの一部はオンデマンド方式に変えていっている。
これらの二つの課題提起に関して、会場からコンテンツの開発方法、教員の参加意識、教材開発のための組織などの質問があり、予定時間を超えるほど活発な討議が行われた。
C:教育改革のための教育支援と組織的取り組み
本分科会では、2件の課題提起をもとに討議を行った。まず「教育改革実現のための教育支援」と題して、伊原豊實氏(帝塚山大学副学長)と堀井真寿美氏(帝塚山大学TISE教材開発室)から平成8年より帝塚山大学において独自に開発し運用を行っているeラーニングシステム「TIES(タイズ)」について、本来の講義に近いデモも含め紹介いただいた。ITの知識を新たに習得する教員のストレスを軽減することを目標に、学生アルバイトによる機器の設置回収や講義の収録、利用時のトラブルをネットワーク経由でモニタリングし遠隔操作を行って解決するなど、教員の負担を軽減したことにより、教材の数が一気に増加した。現在TIESを利用している大学は39大学、教員ユーザー数は190人と大きく発展している。
次に「教育改革実現のためのエデュケーションと題して、橋本順一氏(玉川大学eエデュケーションセンター副センター長)から玉川大学が平成9年から10年計画で進めてきたGlobal
Tamagawa 10-year Challenge構想について紹介いただいた。eラーニングの目的は教育理念を実現するための一つの手法という位置づけを明確にし、あくまで基本は対面教育中心に進められてきた。また、eラーニングのメリットを享受する学内格差がないように、より多くの教員の長期的に安定したシステム利用を考え、現在ほぼ全学生が利用する教育システムとして普及している。さらに今年度からは、ポータルシステムとしてのサービスも開始され、学生個人への情報提供も可能となるなど発展を続けている。
eラーニングは限られた教員と学生のための特別な教育を行うことではなく、より多くの教員と学生の教育を支える基盤であり、難しい手続きなく教員や学生がそのサービスを受けられるよう、帝塚山大学のTIES教材開発室や玉川大学のeエデュケーションセンターのような組織の長期的かつ継続的な努力が重要であることが改めて確認された。
D:社会の支援を取り入れた新しい教育システム
本分科会では、学生に学ぶことの有益性を動機付けし、学習意欲を高め持続させるために、社会支援を取り入れている事例について、山本涼一氏(帝京科学大学理工学部教授)と中嶋航一氏(帝塚山大学経済学部教授)から紹介いただいた。
帝京科学大学では、理工系の学生は英語が苦手であるが、将来自らの専門知識・技術を活用するために英語が必要であるため、英語教育では、社会に出て役立ち、通用する教育が必要であると判断し、英語教育に社会支援を取り入れている。発表では例として、平成14年度から実践された「英語プレゼンテーション」の授業について紹介があり、そこでは実際の企業面接で使用されるエントリーシートを作成し、人事課に属する企業人をプレゼンテーションの審査委員にするなどの要素を取り入れ、学生の授業に対する評価も非常に高いことが紹介された。
帝塚山大学では、現実社会と大学教育のギャップを埋めるため、社会で活躍している人材によるTIES(タイズ)ライブ塾と呼ばれるライブ講義を平成15年度より開始している。発表では、生命保険会社との共同授業、中国経済に関するパートで中国語担当教員(王冬蘭氏;発表の最後に、共同授業に参加して苦労した点、良かった点が紹介された)と行った「経済開発論」における共同授業、現実にニートである人を相手に行った「フリーターとニートの経済学」が例として紹介された。また、本発表自体を題材にして、TIESライブ塾に授業をコンテンツを登録する方法が実演された。授業に対する学生評価も授業のアンケートばかりでなく、会場のTIESライブ塾受講生の感想からも高い評価が得られていることが分かる。
会場からの質問は、企業側のサポートは個人レベルか、組織レベルか?さらには、企業側のメリットは?などがあった。
E:教育への意識改革を目指した教育評価・点検への取り組み
まず井端正臣事務局長から問題提起があった。平成12年の大学審議会答申「グローバル化時代に求められる高等教育のあり方」において、教員の評価を従来の研究能力偏重から、教育能力・実践的能力重視の方向で見直すことが求められ、また各大学において、自己点検・評価の結果を教育活動の具体的な改善に結びつける仕組みを整備することが求められた。しかし現状は、大学としての自己点検・評価は数の上では進んでいるが、その実態は総論的な作文であって、教員の教育活動の実態から乖離しており、組織的な教育改革に結実している例は少ない。自己点検・評価は教員の教育改善への意識を惹起し、教員一人ひとりの改善努力に連動し始めて有意義なものとなる。そのためには、点検・評価の項目を授業の実際に即したものにするとともに、教育改善を個々の教員の自主性に任せるのではなく、教員の自主性を尊重しながらも、大学のガバナンスとして組織的に教育業績評価制度を導入することの必要性が強調された。
続いて中部大学の坪井和男氏から実践報告が行われた。中部大学では、学長のリーダーシップの下、平成11年以降、教育面での評価を取り入れた教員評価システムの構築を準備してきた。そして平成14年度以降、教育総合評価・表彰制度として本格実施、4年が経過している。本制度の特徴は、まずポイント制にある。1)教育諸活動、2)学内行政(学務活動)、3)学生の授業評価に加え、4)教員の自己評価をそれぞれポイント評価し、合計点で総合評価するものである。次に表彰制度として、1)教育大賞、2)最優秀教育活動改善賞、3)優秀教育活動改善賞の三つの賞が設定され、4年間の受賞者数は、各年度それぞれ対象教員総数の1割弱が受賞している。
各年度の受賞者のほとんどが入れ替わっていて重複していないことは、この制度が一部教員のみのものではなく、全教員規模の支持を得て機能していることを示す。
こうした4年間の実績を踏まえ、新学部の増設を機に、今年度以降、各学部の主体性を重視した新たな制度へと進展させている。
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