巻頭言
佐護 譽(九州産業大学学長)
教養という言葉の意味・内容は多様である。時代、国、人によっても異なっている。そうではあるが、歴史的にみると、この言葉は二つの側面を持っていると言ってよい。第一は幅広い知識の習得、第二は人間形成である。
教養という言葉は、紀元前4世紀前半のギリシアにおいて誕生した。古代ギリシアでは、教養とは、知識の習得を通して人間形成をはかることであるとされていた。
中世ヨーロッパの大学においては、「3科」(文法・論理学・修辞学)が必修であった。加えて、知的エリートは「4科」(天文学・算術・幾何学・音楽)を身につけるべきであるとされた。これが当時の教養であった。
中国においては、古来、儒教の経典「四書五経」を中心とする古典の学習による知識の習得と道徳的修養が、教養であった。韓国においては、中国の儒教的教養が中国以上に重んじられてきた。
日本では、平安時代から明治時代頃までは、漢籍(中国古典)が教養の基盤を成していた。大正時代には教養主義と称される時期があった。また、ほぼ昭和10年代には昭和教養主義とも称すべき流れがあった。いま日本では「知識の習得と人間形成」という意味での教養の伝統は絶えてしまったのではないか。蘇ってほしい。
21世紀の社会は知識基盤社会・グローバル社会として特徴づけることができる。このような社会において、大学の教養教育はどうあるべきか。
知識基盤社会は教養と専門知識を求め、グローバル社会においては異文化理解が不可欠である。かくして、知識基盤社会・グローバル社会においては、教養の意義が高まっていくであろう。このことにより、大学における教養教育はますます重要性を増していくのではないか。教養の伝統を大学において、いささかなりとも復活させたい。
本学では、いまリメディアル教育を含む導入教育、教養教育およびキャリア教育を組み合わせた全学共通カリキュラム体系の構築を推し進めている(2008年度より実施予定)。中核を成すのは教養教育である。これを少人数クラスで、多くは専任教員担当で実践したいと考えている。教養教育が、精神世界の豊かさを知ることの楽しさに、学生諸君が気づく一助となることを願っている。
日本経団連の2006年度アンケート調査によると、企業が採用選考時に最も重視する要素は、4年連続で「コミュニケーション能力」であった。専任教員による少人数教育で、学生諸君に、1)幅広い知識を習得する機会を提供し、2)教員や他の学生との対話を通してコミュニケーション能力を身につけさせ、併せて3)人間形成の契機をも与えたい。そのような教養教育を目指している。
社会科学系・理工学系の学部に加えて、芸術学部と国際文化学部を擁する総合大学としての本学の長所を十分に活かして、特長のある、学生にとって魅力的な教養教育を志向したい。