教育支援環境とIT
本学は、自由と自立の「開拓者精神」を支柱に、これまでめざましい発展をとげてきました。この「開拓者精神」こそが本学の建学精神であり、現在もいきいきと受け継がれています。北海学園大学の教職員は今日まで、この精神を心に抱き、大学の数々の発展に夢を膨らませ、多くの有能な人材を育む努力を真剣に重ねてきました。そして現在、本学は経営学部をはじめとする5学部(他に経済学部・法学部・人文学部・工学部)11学科(2部は7学科)を擁し、学生8,675名および教職員317名を抱える北海道内最大規模の私立総合大学となっています。
近年、ICT化の進む教育については、「開拓者精神」に基づいてハード面・ソフト面ともに大学として積極的な取り組みを進めています。特に経営学部では、教育改善活動の一環として、経営学部独自のLMS(Learning
Management System;学習管理システム)であるGOALS(Gakuen Open Advanced Learning System)を2003年度より導入しています(冒頭写真ページ参照)。GOALSは経営学部1部(昼間部)および2部(夜間部)のすべての学生に対してサービスが提供されており、導入以来その利用の定着と教育活動への積極的な活用が図られてきました。1部では学生すべてがノートPCを所有する情報教育環境を効果的に活用する重要な手段として、2部では特に学習時間が制約的な社会人等の学生に対する柔軟な対応を実現する有効な手段として利用されています。GOALSを利用する環境として、学生は大学にあるコンピュータ実習室からシステムにアクセスすることができるだけでなく、ノートPCを持参すれば構内のほとんどの場所で無線LANを利用してシステムを利用できる環境が整えられています。また、自宅など学外からはインターネットを通じて学内ネットワークにログインすることで、GOALSにアクセスすることができます。
GOALSの導入にあたっては、いくつかの課題の存在がその契機となりました。まず、従来の大講義のみのコース設計による学生へのケア不足という問題がありました。専門系科目など受講生の多い大講義のほとんどが、講義のみに終始するコース設計に基づいて行われていましたし、講義は黒板に対する板書と口頭による解説等が中心でした。また、このような講義の問題点を教員自身が認識して改善しようとしても、教員個人による取り組みには限界があります。特に、多くの教員が校務や研究等の他の仕事を抱える中で、教員個人が代替的な方法を検討することに関して、時間的・労力的制約が大きいことは明らかでした。われわれは、このような状況では十分な教育効果を得ることが難しく、根本的な教育方法の改善が必要であると考えました。
そこで、教員によるコース運営の効率化(およびそれによる創造的なコース設計の改善)と、それによる学生の学習量の増加を目論んでLMSの導入が検討されることになりました。教員によるコース運営が効率化され、実質的な作業量などが減少すれば、単純に小テストやリポートなどの課題を増やすことができるなど、学生への学習負荷を増大させることができると考えられます。また、学生への負荷を増やす取り組みが進めば、それらを含むコース設計全体の改善が必然的に行われるようになり、結果としてコース全体がより創造的・効果的に改善されることが期待できるとわれわれは考えました。
システムの導入以来、われわれは利用の促進や定着を目論んで様々な取り組みを行ってきました。その結果、これまでにかなり高い定着度を実現することができたと認識しています。例えば、学生を対象に行ったアンケートでは、GOALSの利用頻度が「3日に1回」以上利用していると回答した者が6割を超えており(図1)、このうち「毎日」利用している者も2割いました。また、「1週間に数回程度」以上の者でみれば9割程度となっています。
図1 学生のGOALS利用頻度
また、回答者である学生が履修している科目について、どの程度の科目で実際にシステムが利用されているかという問いについても、「5割以上の科目で使用している」がほぼ半数であり、「8割以上」「全て」の科目で使用していると回答した学生を含めるとほぼ7割になります(図2)。担当教員が経営学部所属ではないためにGOALSを利用できない共通基礎科目があることを考慮すれば、このような結果は実質的な高い利用定着度をうかがわせます。
図2 学生の履修科目におけるGOALS利用頻度
GOALSには、毎回の講義内容を予告するための「シラバス」機能や、リポートの提出や自動採点の小テストを実施できる「テスト/課題」機能、レジュメ等をあらかじめ配布することのできる「配布資料」機能、および講義全体や履修学生個人にメッセージを送ることができる「お知らせ」機能などがあります。
学生に対するアンケートを行ったところ、「利用頻度が高い、または便利だと感じる機能」として「配布資料」、「テスト/課題」、「オフィスアワー」および「お知らせ」などに多くの回答がありました(図3)。また、教員に対するアンケートからも「配布資料」や「シラバス」、「お知らせ」などに多くの回答がありました(図4)。これらの機能は、学生の自学自習を促すというよりは、あくまで教員や学生がこれまで行っていた作業を効率化し、講義を補助するために提供されている機能であるといえます。導入の初期段階では、やはり作業の効率化を図ることができる便利な機能から利用頻度が高くなる傾向があるといえます。
図3 学生の利用頻度が高い機能
図4 教員の利用頻度が高い機能
学生に対するアンケートにおいて、「GOALSがあることに関して、結果的に自分にとってメリットとデメリットのどちらが大きかったか」という問いについては、現状で多くの学生(74.9%)が「メリットのほうが大きかった」と回答しています(図5)。ただし、学生に対する満足度の高さと学習効果とは必ずしも同じではない可能性があります。そこで、より詳細にアンケートの結果を検討してみると、いくつかの回答からは学生の学習負荷に関する積極的な影響を見出すことができました。「GOALSがあることで悪影響だと感じること」についての回答では、「自分でレジメをプリントアウトしなければならない(37.7%)」などの回答がある一方で、「課題やテストなどが増えた(26%)」や「勉強量そのものが増えた」などの選択肢にも一定の回答がありました(図6)。また、「GOALSがあることでよかったと感じること」について、「自分で自主的に勉強することができる(14.8%)」という回答も少数ながら得られています。これらのことから、学生への学習負荷の増大という目的に関して、一定の効果が現れつつあることを確認することができます。
図5 学生が感じるGOALSによる悪影響
図6 学生が感じるGOALSの好影響
他方で、LMS導入の影響に関しては、いくつかのネガティブな影響も想定されていました。特に、学生の講義への出席率の低下とそれによる学習量の低下は、最も重要な課題になる可能性がありました。これに関して、学生に対するアンケートでは「GOALSがあることで講義へ出席しなくても大丈夫だと感じることはあるか」という問いに対して、「まあある」という回答が最も多く、「あまりない」がそれに準じています(図7)。また、「かなりある」「まあある」と答えた者の合計は36%で、「全くない」「あまりない」と答えた者の合計である38とほぼ同程度でした。つまり、一部の学生はやはりシステムの導入によって講義出席への動機付けが低下してしまっている可能性がうかがえます。
図7 GOALSによる学生の講義出席への影響
以上のような現時点でのシステム導入の効果と課題を検討する中から、われわれは今後の取り組みに関する重要な示唆を得ることができます。現状では、学習意欲の低い学生はシステムがあることにより講義出席への動機付けが下がってしまい、学習の契機を失っている可能性があります。一方で、学習意欲の高い学生にとっては、システムが自学自習の契機となり、さらに学習量を増やすことになる可能性があります。このような結果、学生間の学習への取り組みについて格差が生じてしまい、学部全体としての教育効果を低下させてしまう危険性があります。われわれは、このような問題点が今後の課題の一つになると考えていて、システム利用によるメリットをさらに拡大し、デメリットを縮小させる具体的な施策を積極的に行っていくことにしています。
文責: | 北海学園大学 経営学部助教授 佐藤 大輔 |