特集 大学教育への社会の期待
学生と社会人の最も大きな違いは、学生を受け入れる立場からみると、個々人を取り巻く環境との関係ではないだろうか。単純化して言えば、知識・経験を得るために自主的に活動しているのが学生であり、顧客やコストといった自分では自由にできない環境の中にいるのが社会人であるということである。
学生から社会人になると、この変化を早期に理解、体得し、企業とともに成長していくことが求められる。当社でも学生が社会人として成長していく方向に、円滑に移行できるよう導入教育から段階的な育成を図っているが、大学教育においても期待したい点をいくつか考えてみたい。
当社では、入社すると新入社員研修や1年間のOJTに力を入れている。会社概要に加えて、社会人としての基本的ビジネスマナーや必要な知識について、実体験も含む研修を行っている。配属後はOJTを中心とした育成を行っている。そこでは業務を覚えるだけではなく、学生時代には経験が少なかった年齢差のある人間関係、利害関係の中に入り、上司あるいは顧客や協力者など社内外の関係者とのコミュニケーション能力を高めることが重要になる。
社会人に必要な資質、能力について、特に学生時代から鍛えておいてほしい点をいくつか挙げるとするならば、例えば、「自ら学ぶ姿勢」、「とことん探求する、やりぬく粘り強さ」、「基本的なコミュニケーション力(人の話を聞き、理解する。分かりやすく伝える。文章の読み書き)」、「周囲に働きかけ、動かしていく力」、「心身のタフネス」などである。自分だけで高められる能力ばかりではなく、他人との関係で発揮される能力も多く、意識的に、ソーシャライズする機会を増やし、教育することも必要ではないだろうか。
学校教育と社会との結びつきを円滑にする、あるいは学校での研究成果を企業で実を結び社会の役に立つものとする等々、様々な意味で産学連携は重要である。社会人大学院も活性化していると聞いているし、社会人と学生が一緒に勉強することもお互いに刺激を受けるという意味で有益かもしれない。
また、インターンシップについては、当社でも毎年多くの方に参加いただいている。提供する実習テーマと学生の関心が合わない部分もあるが、流行だけに流されず実習に積極的に参加いただければと思う。期間については、現在の短期間方式は受け入れ職場の対応が難しい面もあり、半年・1年間といった長期間方式(例えば、イギリスのサンドイッチコースなど)もあってもよいのではないかと思う。
当社はIT企業であり、入社される学生からは「興味関心は大いにあるものの、知識については不安だ」と相談を受けることもある。これについては、社会や技術、仕事への興味関心と持続的な学習意欲があれば身につくものと考えている。基本的コンピュータリテラシーは、ある程度大学で学ぶ機会はあり、むしろ2で述べた、コミュニケーション能力のほうが重要かもしれない。
最近では、「SE」という職種に対して、「3K」といわれ忌避傾向があるともいわれており、ユビキタス社会創造の担い手を目指す学生が少なくなるのではないかと危惧している。確かに、システム開発/ソフトウェア開発は、まだ業務が手作りという部分や人海戦術という側面を残しており、より生産性を高め、品質の向上を図ることが求められている。そのため、プロジェクトマネジメントの確立とレベルアップ、開発手法等の確立、ノウハウのエンジニアリング化などに取り組んでいるところである。SEという職種は、スキルや研修体系を示すことで、目指すべき人材像やキャリア(*経済産業省のITSS;IT
SKILL STANDARD参照)を考えやすいという特徴があり、他の職種に比しアドバンテージがあると推薦したい。大学教育においても、理系に限らずこうした魅力を実体験できる講座、カリキュラムの拡大と、人材の輩出を期待したい。
以上、縷々述べたが、今後ともぜひ大学と企業とは連携をとっていきたい。人材育成についても大学と企業のコミュニケーションをさらに密にし、実のある議論を深めていくことが重要であると考えている。