教育事例紹介 数学
授業においてIT技術を活用する方法としては大きく分けて授業で学生に配布するもの、たとえば資料や小テストの作成と授業内で教員が説明するためのもの、たとえばプレゼンテーション用に資料やデモンストレーションの作成があります。これらの資料を作成するためのソフトウェアとしては資料作成にMicrosoft
Word、プレゼンテーション用にPowerPointを利用される方が大多数でしょう。
しかし、数学などの理工系の授業では数式が多用されるためこれらのソフトウェアを用いて作成すると入力に手間がかかり、十分な資料を作成することができないという事態を引き起こします。
筆者はこの問題を解決するために配布資料やプレゼンテーション資料はすべてKnuthが開発し、Lamport がその上に構築した文書作成システム
LATEX [1][2]を用いて作成しています。また、一連の作業を容易にするツールも開発して私情協の大会で報告してました[5]。その後、『工科のための微分積分学入門 第3版』[7]で数学の授業で使用しているデモンストレーション用のツールの作成方法についても報告しています。ここでは、これらの報告のその後の展開について述べます。
近年のネットワークの普及を考えますと、各種の資料はネット上に置いておくことが考えられます。しかし、当初はネット上において学生の予習や復習に役立てようとしたところ授業中、学生が説明を聞かない、出席状況が悪くなったなどの悪影響が出たという理由でネット上での公開をやめたという話も聞くようになりました。筆者の授業は「微分積分学」や「オートマトンと言語理論」というような数学関係の授業が主です。これらの授業は次のように行っています。
これらの資料では筆者が開発したLATEX のマクロを用いて同じ体裁で解答つきと解答なしを同時に作成できます。また、公開のためのホームページやアップロードが容易になるような機能もあります。
筆者はBlackboardのようなe-Learningをサポートするシステムを利用したこともありますが、資料をアップロードして公開の日時の設定などを個別に行わなければならない、同じ授業で複数の教材を表示することがうまくできないなどの理由から最近では利用していません。
このようなシステムを利用しても筆者の授業では極端に受講者が減少したり、授業中がうるさくなったということは感じていません。最近ではGoogleが無料で提供しているGoogle
Analytics[4]というアクセスログを解析するコードをページやダウンロードするファイルに関する情報などを得ています。これにより学生がどのような利用方法をしているか分析が可能となります。
(1)一変数関数のグラフの作成
微分積分学の授業で一変数の関数のグラフを描くときにはふつう導関数を用いて増減表を作成してその状況から概略の図を描くことがふつうに行われています。しかし、関数の値を細かく計算してそれらの点をつなぐことでも関数のグラフは求められます。
筆者が微分積分学の教科書を高校の新課程にあわせて改定したとき[7]、この本の図のほとんどをPostScript[3]によるプログラムで作成しました(残りはLATEX
のpicture環境を利用しました)。関数の不連続点は計算しないようにしました。ライブラリーを作成したので関数の表示範囲と定義を変えるだけで比較的簡単な操作でたくさんの図形を描くことができました。それらの図形のうちいくつかは見落としていたということに気がつきました。
ひとつは連続だけれども微分できない関数の例としてよく引き合いに出される
という関数の│x│が大きくなるときの振る舞いです。この値が1に近づくことはすぐにはわかることですが意識していないと話題にも上りません(図1)。
もうひとつはの関数のグラフがx = 0の近くで直線のように見えることです(図2)。これも原点でのテイラー展開を考えればわかることですがこんなにはっきりと直線のように見えるとは思いませんでした。
一方で、関数の値の変化が少ないためにグラフで見ただけでは極値の場所がよくわからないという例もあります。
(2)インターラクテイブな教材
授業では黒板に値の変化に合わせて図を描きながら説明をする場合があります。図がうまく描けなければプログラムで少しずつ説明をしながら表示する方法があります。これらのソフトウェアのソースを学生に公開して学生の勉強に役立てるためには無料のソフトウェアだけで開発する必要があります。この要望を満たすものとして筆者はWeb
の規格を制定しているWorld Wide Web ConsortiumによるScalable Vector Graphics(SVG)を利用することにしました[9]。SVG
は次の特徴を持ちます。
図3 r = cos nθのグラフ
これを利用して極座標のグラフr = cos nθを表示するもの(図3)や、二変数関数のグラフを表示するものを開発しています(図4)。
図4 二変数関数のグラフ
参考文献および関連URL | |
[1] | Helmut Kopla, Patrick W.Daly:Guide to LATEX 4th ed.,. Addison-Wesley Series onTools and Techniques for Computer Typesetting, 2004. |
[2] | Frank Mittelbach, Michel Goossens withJohannes Braams, David Carlisle, andChris Rowley:The LATEX Companion2nd ed.,. Addison-Wesley Series on Toolsand Techniques for Computer Typesetting, 2004. |
[3] | アドビ・システムズ(著), 野中浩一(翻訳):ページ記述言語PostScriptチュートリアル&クックブック(ASCII電子出版シリーズ).アスキー, 1989. |
[4] | Google Analyticsのホームページ http://www.google.com/analytics/ja-JP/ |
[5] | 平野照比古: LATEXを利用した教材の作成と解答、解説文書のWeb での配信方法の作成. 平成17 年度大学情報化全国大会予稿集, pp.312-313. |
[6] | 平野照比古: SVGを用いた教材の開発. 平成19年度工学・工業教育研究講演会講演論文集, pp.612-613. |
[7] | 平野照比古:工科のための微分積分学入門第3版.学術図書出版,2006. |
[8] | 平野研究室ホームページ http://hilano.ic.kanagawa-it.ac.jp |
[9] | W3CのSVGに関するホームページ http://www/w3/org/Graphics/SVG |