教育支援環境とIT
長崎外国語大学は、2001年(平成13年)4月に開設されました。2006年に創立60周年を迎えた長崎外国語短期大学を併設する学校法人長崎学院を設置主体とし、「外国語学部国際コミュニケーション学科」の1学部1学科で、現在、学科に英語英米文化コース、ドイツ語ドイツ文化コース、フランス語フランス文化コース、スペイン語スペイン文化コース、中国語中国文化コース、日本語日本文化コース、比較社会文化コースの7コースを擁しています。長崎外国語短期大学は、大学設置後は、英語学科(キャリア英語コース・こども英語コース)の1学科となり、現在に至っています。学生数は646名、教職員数は73名です。
本学における情報教育支援体制の中心を担っているのが、長崎外国語大学と長崎外国語短期大学の共用である「教育研究メディアセンター」と呼ばれる教育研究機関です。本センター設置の目的は、「ライブラリー資料及び学術情報を一元的に収集管理して、利用に供するとともに、学術情報ネットワークによる情報通信システム及びマルチメディア情報装置・設備を有効かつ適正に管理・運用することによって、本学の教育・研究に寄与すること」となっています。そのために、図書館部門になる「マルチメディアライブラリー」と、情報教育・視聴覚部門となる「情報教育支援室」から統合的に構成されています。本学の情報教育ネットワークのハード・ソフト両面に関わる管理・運用は後者が行っています。
現在、学生供用PCの情報教育ネットワーク環境は、センター施設のコンピュータ教室が2室で96 台、CALL教室1室に48台、学生自習室4台、ライブラリー自習スペース10台、合計158台設置されています(OSはすべてWindows-XP)。また、本館の学生ラウンジとコモンスペースには無線LANアクセスポイントを設けて、学生持ち込みPC(要申請)にも対応できるようにしています。CALL教室は2005年度から稼働をはじめ、2007年4月にセンター施設のコンピュータ教室PCが更新されました。なお、センター施設の教室以外のすべての一般教室にもネットワーク接続のための情報コンセントやスクリーンなどが設けられており、ある程度のIT活用が可能な状況になっています。
こうしたネットワーク環境の基盤整備状況としては、学内LANネットワークにおける速度アップのために内部幹線を100Mbpsから1000Mbpsへと高速化し、また学外回線接続として47Mbpsから光IP接続を導入して100Mbpsへと、更なる高度情報化に対応できるようにしました。これにより、「遅すぎる」、「あまりに重い」などと苦情が出ていた状況から、学内外へのアクセスを問わず、教室一斉利用でも個人利用でもネットパフォーマンスが向上し、特に教育環境においては格段に改善が図られ、瞬時の表示実現で、ストレスのないスムーズな授業運用が可能となるなど効果が上がりました。これからますますネット活用が促進されると期待されるところです。
全学的な教材電子化への取り組みが本格化していない現状もあって、本センター(主に情報教育支援室)が組織としてこれを積極的に推進しているとは、残念ながら、言えるような支援体制が整えられてはいません。とはいえ、センター主催で、学内各部門のいわゆるホームページ拡充のための教職員研修会を開催、またCALL教室を利用した授業研究会などについては断続的ながら実施しています。CALL教室を利用する教員による授業報告が行われ、テキスト(翻訳演習)、画像(キャプション作成)、音声ファイル(LL)、動画(ショート・スキット)、さらにネット(Current
Topics)などを自在に運用できるマルチメディアなCALLシステムを活用した、効果的な教授法・評価法の研究開発や教材作成と実践が着実に進展しつつあるといえます。
教員による教材コンテンツのIT活用の取り組みに関しては、現状はやはり個人レベルで進められているとしかいえませんが、ただ、この個人レベルで、例えば電子ファイルを利用した授業教材や資料の配付や課題の提出などに関しては、ネットワーク導入時点より行われてきました。にもかかわらず、教育環境のネットワーク化に意識的なこうした教員間においてさえ教材デジタル化の差異が生じているようにみえるのは、おそらく日々アップデイトされ高度化される情報システムを継続的にフォローしているか否かによる、つまり、教材提供や教材アクセスが最新のITを活用して行われるか否かにすぎないのではないかと思われます。実際、情報処理科目はもとより、Podcastを利用して英文学教材をNetサーバ上で配信したり、iPodを介した動画配信や、携帯メールが利用されたりする一方で、授業で提示したPowerPointによる講義ファイルをネット上にアップロードしたり、各種語学検定・資格対策用練習問題などが学内LAN上サーバに蓄積されたり、その状況にはバラツキがあります。しかしながら、ITを活用する各教員の目的に根本的な違いはないだろうと考えられます。ですから、デジタル化の課題は、まずはこのバラツキをどうするのかということにあります。
図1 PC教室での文化研究授業
本学における教育環境ネットワーク上での教材電子化への取り組みは、全学的体制への移行を、どのタイミングで、どのような方法論によって、いかなるレベルを指向して行うか、それとも当面現状維持として行わないのかだけが選択肢として残っています。全学的体制で行うとなった場合にはセンターが全面的支援体制をとることになりますが、いずれにしてもこれは全学的なコンセンサスを必要とします。本学でも2007年度から正式にFD委員会が発足したので、当委員会とセンターとが協議を重ねながら方向性を決定していくことになるのだろうと思われます。
個々の教員レベルでは、授業内外でIT活用はかなり行われています。また、演習科目などでの学生による発表レジュメも紙ベースから、教員側に連動しているのか、PowerPoint利用が多くなってきました。授業時の課題提出のみならず、学期末レポートが、科目によっては音声や画像処理も可能なCD、あるいはサーバへのファイルのアップロードにより提出されるものも出てきています。網羅的にはできませんが、いくつかここで紹介します。
一つ目は、CALL教室利用による実際の授業に関して、例えば、文学系科目では、ネット上にある作品テキストを必要に応じてダウンロードして翻訳させたり、作品の音声ファイルがある場合にはその部分を聞いたり、また映像化されていればこれを鑑賞したりと、一授業時間内で多角的な授業進行によって学生の理解を深めることに役立っています。
二つ目は、CALL導入と同時に取り入れたイントラネット教材Web-Exerciseによる、e-Learning学習支援があります。例えば、筆者の担当する「アメリカ史」科目では、学期内に数回、範囲指定をした上で、特定の日時に非公開学内サーバにおかれた選択問題にアクセスさせて回答させ、その後自分の成績を確認、自学自習できるような課外学習を行っています。その問題には授業で見せたり聞かせたりした画像や音声を貼り付けることができます(図2参照)。
図2 Web-Exercise Q&A学習画面
最後に、現在進行中のプロジェクトの一つを紹介します。これは「21世紀の出島」をテーマのもと、今年度からのカリキュラム改革とも連動して行われているもので、外国人留学生と日本人学生が協力して様々な長崎の情報をさまざまな言語で世界に向けて発信する試みで、多言語環境キャンパスのさらなる充実と発展を目指しています。すでにフランス語フランス文化コースの学生たちが、自分たちの視点による長崎の案内をホームページ上で取り組み始めています(図3参照)。「相互学習セミナー」や「二言語プロジェクトワーク」といった授業科目を通して、これを各言語にも拡大・統合して、その成果をホームページ上に順次載せていく計画です。
図3 フランス語新聞 最新号
無線LANアクセスポイントの設置、キャリア支援室のネット上あるいは携帯利用による就職・進路情報の送受信など、他にも課外でもさまざまな情報ネットワーク活用が行われています。その中から、目新しいとはいえませんが、ここではライブラリーの学術情報サービスの一端について紹介します。
他大学図書館と同様、いわゆる学術情報ネットワークシステムを通してOPACにより図書検索ができます。ライブラリー内にあるPC検索端末をはじめ、インターネットを通じて学外からでも利用することが可能で、検索した図書が本学蔵書である場合、書架配置図が画面上に表示されることでその所在が一目で分かり、自分で探し出せるようになっています。また、2006年度から、相互貸借の申し込み、図書借り出し予約、利用状況を利用者自身が確認できる「マイライブラリー」機能が加えられ、今まで以上にライブラリーにおける情報サービスの充実がはかられ、利用者検索の効率化とライブラリーの利便性を高めることになりました。
長崎外国語短期大学が現在の新キャンパスに移転した1996年、新設されたメディアセンターを紹介しながら、当時の戸口民也センター長が本学のIT環境をめぐる課題に言及した記事が『私情協ジャーナル』に載りました[1]。その中で、本学がめざすのは「文科系の情報教育」で、それは「情報ネットワークを最大限利用しながら」「言語や文化を学ぶ「方法」を教えること」であり、「教材・教授法の開発と共に、ネットワークの利用法も研究しながら」、「情報ネットワーク環境」を整備していくことが肝要だと述べています。現時点でもこの方向性に変化はなく、この十年に行ってきた本学の情報環境の整備は一貫していたといえます。
2007年度に入り、PC教室のコンピュータ機材更新、学内外の回線速度の高速化、スパムメール対策などが行われましたが、本稿の中心的話題であった教育環境ネットワークのIT活用以外にも、まだまだ取り組むべき課題は山積しています。
一つには、学生サービスの観点からは、教務関係情報や学生の福利厚生関係情報のIT活用化を推進させ、キャリア支援室やメディアセンターとネットワーク情報を統合させた上で、全学的な学生ポータルシステムを構築することが求められています。すでに学内で課題として認識されてはいますが、諸般の事情から先送りとなっています。実はこれを促進させることが同時に教育環境のデジタル化へのショートカットになると考えられるので、出来るだけ早くスタートさせたい事項の一つです。
もう一つは、メディアセンター施設にあるマルチメディア教室やPC教室の稼働率が高く、授業開講や学生自習の要望に対応しにくくなってきている現状があります。逆にいえば、IT活用教育への関心の高さでもあります。本館の一般教室のマルチメディア化にも限度があることから、大きな課題となっています。と同時に、いわゆるLL教室の2室が経年化しており、この2教室の仕様を如何にすべきかも緊急の課題となっています。
最後に、こうした情報教育環境のIT活用における最大の課題は、全学的な支援体制の確立ができるかどうかにあります。教育研究環境が複雑化また複合化するなかで、個人レベルで、日々進化するさまざまな事象に対応し続けることはますます困難になってきています。簡便で、効果的で、利用しやすい情報教育環境の基盤を整備し、より発展させていくためには、十全なバックアップ体制を確立することは必須ですから、これに関わる組織体制のより一層の拡充を図っていく必要があると考えられます。
参考文献 | |
[1] | 私情協ジャーナル,Vol.5 No.2, pp.31-33, 1996. |
文責: | 長崎外国語大学・短期大学 教育研究メディアセンター長 山川 欣也 |