教育事例紹介 統計学

統計教育におけるe-Learningシステムの活用


二宮 智子(玉川大学経営学部教授)


1.はじめに

 18歳人口の減少に伴い、多くの大学で学部・学科の新設・変更などの改革が行われ、それに連動してカリキュラム改定が実施されています。2001年度に開設した玉川大学経営学部においても、4年後にはコース制が導入され、その2年後には1学科から2学科へと変更になりました。その間カリキュラム変更が頻繁に行われ、教員は講義ノートの新規作成や書き換えに多くの時間を費やす、という状況が続いています。幸いに本学では、e-Learningを実現するシステム・ブラックボード(以下、BBと略記します)の導入により、効率良く電子講義ノートが作成できる環境にあり、多くの教員が利用しています。
 一般的に統計学の授業においては、講義だけではなく、数値などで表された現実の情報(データ)を収集・活用しながら統計的に分析する実践過程が重要な役割を持っていますが、実践においてITの活用は欠かせません。経営学部の統計関連科目、「経営情報科目」(4単位・必須)、「情報システム演習」(4単位・選択)、「経営統計学」(4単位・選択)と全学共通科目の「統計学入門」(2単位・選択)のほとんどにおいて、授業以外にも閲覧できるWeb上の電子講義ノートを学習の補助として使いながら実践過程を繰り返す、というIT活用を重視した授業を展開しています。本稿では、BBの利用とWeb上に構築した電子講義ノートについて紹介し、最後に将来への展望に触れることにします。


2.ブラックボード・システムの利用

 教員が共通システムBBを利用することにより、学生はすべての授業において同じe-Learning環境のもとで学習できる利点があります。経営学部では様々な授業で積極的にBBを活用しています。BBは他のe-Learningシステムと同様に、電子講義ノートなどの授業コンテンツの作成以外にも、統計データの蓄積、課題の提示、アンケート調査と簡単な集計、ディスカッション、Q&Aやメールなどのコミュニケーションツールといった多くの機能があります。ここでは電子講義ノート以外に積極的に活用している二つの機能について紹介します。

(1)5分間テスト
 5分間テスト(図1)は、前回の授業で習った必要な知識が獲得されていることを確認することが第1目的ですが、同時にBBの時間設定を利用して、出席管理(出席をとることが義務化されています)と授業前にコンピュータをネットワークに接続して授業の電子講義ノートを開いているか、すなわち授業準備が終了しているかを確認する2次的な目的も含んでいます。 学生は自分のノートPCを持参して授業を受けますが、環境の整った演習室の授業と異なり、まずBBを閲覧できるようにしておくことがスムーズな授業の開始に欠かすことがきません。実際は1、2分で答えられる簡単な問題ですが、5分以内ですべての授業準備を完了させておくことで、上記の2次的な目的が達成でき、特に多人数の授業での最初の時間ロスを最小限にとどめることができるようになりました。

図1 BB上の5分間テストの例

(2)課題の提示と回収
 講義による学習とは別に、毎回学生が取り組む課題を用意して実践結果を提出させることで、学生参加型の授業を目指しています。学生が提出したかどうかを一覧で確認でき(図2参照)、また、一括ダウンロードによる保存機能を使って、まとめて閲覧することもできます。本試験においてもこの機能を活用して実践問題を解かせて提出させています。

図2 課題提出一覧画面の例


3.電子講義ノートの作成と公開

 テキストと画像を組み合わせて作成する電子講義ノートは、統計データのアップロードや参照Webサイトへのリンクなどにより、対面授業の補助手段として活用できますが、授業外のe-Learningによる繰り返し学習にも非常に役立つものと考えています。授業ではプレゼンテーション用のビジュアルな電子教材を使用することもありますが、ページ枠内で作成する資料は講義の補助資料としては有効ですが、それだけではe-Learningの資料としては説明不足になりがちです。大きさフリーな電子講義ノートのページはその欠点を補完する有効な教材です。
 ここでは科目「情報システム演習」を例に、作成した電子講義ノートについて紹介します。
 授業は、アンケート調査などで得られたデータを統計的に分析して意味のある情報として活用できる能力を養い、同時にデータ分析の楽しさを知り、専門科目の学習あるいは卒業後の仕事の中でデータを使って積極的に実証するようになることを目指しています。電子講義ノートの最初は、Webサイト、教科書、新聞や雑誌の記事、アンケート調査データ(受講生を対象に実施したものを含む)などから得た様々なデータを蓄積した一覧を載せています。これらを見せることにより学生のこれからの学習意欲を促しています(図3参照)。

図3 統計データ

各回の授業については、
 1)学習タイトルと学習内容の概要
 2)学習項目
 3)項目の説明
 4)具体例
 5)演習問題
を階層構造にして作っています(図4参照)。テキストとグラフやその他の画像を自由に組み合わせ、ページの大きさをフリーに考え、まとまりを重視して作成しています。画像については説明を分かりやすくするための補助として積極的に利用しています(図5参照)。なお、個別の内容についての学習以外に、学習したすべてを総結集して自らの課題にチャレンジする実証経験が将来に役立つと考え、グループでテーマを決めてデータを入手し、実証分析した結果を発表することが最後の課題となっています。発表会では用意した評価表を用いて全員で評価を行いますが、その集計結果もWeb上で公開しています。また、これまでの優秀作品の中から学生の許可を得たものもWeb上に載せています。受講生は、自分達の課題を考える時や発表時に参考にしていますが、意欲のある学生はもっと良いものを作ろうと刺激されているようです。

図4 講義ノートの階層構造の例

 ここで紹介しました授業以外にもWeb上の電子講義ノートを作成して授業を行っていますが、実際に、教材については多くの受講者から “非常に役に立つ”あるいは“役に立つ”という評価が得られています(評価の詳細は紙面の都合上省略します)。

図5 画像の例(分布と中心・ばらつき)


4.おわりに

 紹介しました授業は、私が他大学で約15年前から実施している内容を本大学向きに修正したものです。大学によってIT環境は、予算を含めてかなり違います。長い間、統計教育は教師の熱意、良い教材、そしてTAの支援が重要であると主張してきましたが、TAによる支援は本学ではまだ実現できていません。TAが自らの学習を含めてWeb上で作成する授業日誌は学生の視点に近い要素も多く、学生には非常に効果があるという経験をいつか実現したいと思っています。また統計は良い(面白い)データが必要ですが、有償データの入手は予算上困難な状況です。教員が一人で無償の良いデータを探し、そして様々な教材を用意して講義ノートを作成することの限界を感じています。今回紹介しました授業も、講義ノートに有効な画像を作成して載せていますが、これまでアニメーションを利用した教材などを作成して載せるといった工夫はしていません。現在学生の興味を引くようなマルチメディア教材(特に確率学習用)を作成し始めたところで、少しずつ講義ノートに追加していく予定ですが、合わせて統計教育に携わっている先生方の教材が蓄積されて利用できますならば、孤軍奮闘?している私には大変有難いことですし、何よりもこれからの統計教育の普及と充実に関わっているように思います。私立大学情報教育協会の活動を通して先生方の支援が得られることを期待しています。


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