教育支援環境とIT

バーチャルリアリティ、3次元可視化を生かした教育〜埼玉工業大学〜



1.本学の構成

埼玉工業大学は、1976年に埼玉県の北部、岡部町(熊谷と群馬県高崎の中点当たり)に設置されたまだ若い大学です。総学生数は約2,300名、職員数は、167名。比較的規模の小さい2学部体制(工学部、人間社会学部)の大学です。工学部は、機械工学科、環境生命化学科、情報システム学科、ヒューマン・ロボット学科の4学科からなり、学生定員は320名です。人間社会学部は、平成14年度より新設された新しい学科であり、情報社会学科、心理学科からなります。学生定員は200名です。


2.教育理念、教育方針

 埼玉工業大学の設立母体は、学校法人智香寺学園です。そのまた母体は、東京都文京区にある智香寺(浄土宗)です。建学の精神は、仏教精神と近代科学精神の融合です。今、世の中は仏教ブームのようですが、本学の教育精神は心の問題と人間福祉のための科学技術の問題をともに扱うというものです。「テクノロジーとヒューマニティの融合と調和」という言葉で、教育が考えられています。
 情報教育は、科学的教育、人間的教育のインフラストラクチャと位置づけられており、全学での情報処理に関するリテラシー教育には重点が置かれています。工学部では、実習でもPCを用いることが多いことから、情報基盤センターにおけるPC教室でのコンピュータ実習および専門的な情報教育(例えば、CAD、CG、VR、プログラミング、マルチメディア、数値解析、など)が行われています。人間社会学部(情報社会学科、心理学科)では、コンピュータ実習のほかにも、e-LearningなどでPCを用いることが多いことから、入学時にノートPCが各人に支給されています。
 全学のe-Learningも開始されています。現在は、情報倫理については特に重点的な学習が行われています。文書処理、プレゼンテーション、表計算、コンピュータ入門などのWeb教材は情報基盤センターで用意しており、全学に配信しています。
 また、受験生、科目等履修希望者のためには、ビデオ配信による模擬授業のコンテンツなどを用意し始めています。テレビ会議システムによる遠隔授業も試行的にではありますが、国内のほかの大学、国外の大学との間でも実施され始めています。


3.電子教材

 教材開発は、学内での自主開発と学外の電子教材の利用の両方を行っています。学内における教材開発は、e-Learning開発委員会を組織して、学内の関係者の要望に従ってデジタルコンテンツとしての教材(いわゆる電子教材)の開発を、教員、職員、学生により、開発を進めています。開発と配信システムを図1に示します。主たる教材の形式は、Web上のホームページの形ですが、ビデオ教材も開発されています。その例は、教職科目の「学習指導」です。学生の模擬授業をビデオに撮り、各自自宅などでストリーミング配信のビデオを評価します。

図1 e-Learning学習支援コンテンツの開発と配信


4.ITを活用した教育

 情報教育をより集中的に行うための教育には、工学部・情報システム学科、人間社会学部・情報社会学科が当たっています。情報システム学科では、専門教育としては、1)数理情報、2)知能情報、3)情報ネットワーク、4)電子回路、5)電子材料などの技術的な情報分野を大きな柱とし、合わせてC、Javaのプログラミングなどの基礎的な情報教育を行うことを目指しています。人間社会学部の情報社会学科においては、一昨年から、1)ネットワーク社会コース、2)文化コミュニケーションコース、3)デジタル表現コース、の3コース制を導入しました。特に、3)では、デジタルコンテンツの開発を目指しています。
 これらの学科の専門的な情報教育では、1)PCおよびUNIXサーバによる教育環境、2)e-LearningおよびVODなどの教育支援システムの活用、3)バーチャルリアリティ(VR)、知能ロボット、などの先進的技術の講義・実習への取り込み、4)デジタルコンテンツの開発を通じた教育などを主眼としています。
 情報教育にもバーチャルリアリティ(VR)を用いることで、より高度な可視化、デジタル画像の合成、3次元空間認知などが行えるようになっています。CAVEのような没入型VRシステムでは、まず体験するということが重要です。磁場形状の立体構造なども、CAVEに表示することにより、立体視でき、理解も深まります(図2)。よく用いられる3次元可視化の事例は、分子構造、機械構造、建造物、各種流体(燃焼と流れ、血液の流れ)、生体構造(眼球、心臓)、オーロラ、宇宙構造、などの解析でした。また、3次元CG、数学シミュレーション(例えば3次元ライフゲーム)なども、研究のみでなく、教育面でも注目されるものです。図3は、3次元CGの結果をVRに表示しています。図4では、3次元CGをARシステムに表示している様子を示しています。

図2 磁場形状の立体構造
図3 3次元CGの結果
図4 3次元CGのARシステム表示


5.3次元CG教育と地域連携

 今は、3次元のCG作成ツールが整備され、中学生、高校生らでも容易に3次元のCGモデルとアニメーションを作ることができるようになりました。そのため、CG教育は、学部学生のみでなく、科学技術振興機構(JST)の支援によるSPP(サイエンスパートナーシッププロジェクト)および高大連携においても、CG教室を行うことができました。今年度は特に合宿方式のCGとVR教室を含めて、合計5件のCG・VR教室を行うことができました。また、学園祭、本学主催の「ロボットエキスポ」などにおいても、CG教室、VR装置の公開などを行うことができ、地域との連携を行うことができました。地域連携のプロジェクトを行うことにより、担当した学生たち自身が大きく育つことが大学としての成果にもなっています。図5は、Web上の3次元VRMLモデル(ブドウ)をCAVEに表示し、地域の中学校の生徒たちが見ている様子です。

図5 CAVEに表示された3次元VRMLモデル
(ブドウ)を見ている様子

 3次元没入型のVR装置(CAVE)では、3次元の科学的データ、3次元CGなどの表示には、主に3次元可視化ソフトのAVSを使っています。サイトライセンスのため、教室で大勢の学生を対象とした授業(講義、実習)においても、可視化を行うことができます。図6は、表面に波動のあるトーラスを、偏光方式による立体視スクリーンに表示し、偏光メガネにより観測している様子を示します。先述のSPPの可視化実験を近隣の高校で行ったときの様子です。実際に、回転、拡大・縮小、光源の追加など行うことができ、3次元の図形の理解を図ることができます。合宿形式のSPPでは、CG作成の他に、果物のスライスを行い、切断面の写真を3次元的に合成することにより、3次元可視化を行いました。ヨウナシの3次元データを作成し、AVSで表示した様子を図7に示します。

図6 波動のある表面を持つトーラス図形を偏光方式により立体視表示を行った様子
図7 ヨウナシの3次元データの表示

 このように、学部での教育に用いているCG作成、3次元可視化などを、教育連携においても活用しています。
 また、こうした地域との連携の下に学内外のコンテンツを集めてのCGコンテストも大学として行っています。


6.キャンパスのデジタル化

 講義情報、レポートに関する情報、などは、e-Learningシステム、電子掲示板などを利用して配信されています。また、シラバスも電子化され、Webにおいて見ることができます(ただし、パスワードが必要)。
 今後、試していきたいものは、学生たち自身の疑問、コメント、相互教示、などをWeb配信、Web教材を通じて、より促進できないかということです。教育では、一方的に教授するのではなく、わからないところを自分たちで発見し、解答なり関連情報なりを自己発見していくことをIT環境により支援できないか、と考えています。システムの進化をITによる教材と教育の進化に結びつける方法を常時模索していきたいと思っています。

文責: 埼玉工業大学情報基盤センター長
情報システム学科教授 井門 俊治


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