私情協ニュース1
「教育改革ITフォーラム」(文部科学省後援事業)が、6月15日(金)と16日(土)の二日間、明治大学駿河台校舎リバティータワーにおいて、延べ約300名の参加者の下で開催された。
第1日目の全体集会では、フォーラム運営委員長山崎和海氏(立正大学)の司会のもと、開会に先立ち戸高敏之会長(私立大学情報教育協会、同志社大学)による挨拶と、会場校を代表して吉田悦志氏(明治大学教育の情報化推進本部長兼二部教務部長)による教育改革への自負に富んだ挨拶が行われた。その後、今年度のフォーラム運営委員16名の紹介に引き続き、井端事務局長(私立大学情報教育協会)による協会の活動報告として「平成19年度の事業計画とその推進状況」や「大学教育への提言:FDとIT活用」、併せて「ソフトウェア適正管理のガイドライン」についての紹介と補足説明が行われた。
「教育改革ITフォーラム」と改称した2年目である今年の特別セッション(全体会)では「学ぶ力を高めるための教育改革:教育のオープン化」と題し、土方正夫氏(早稲田大学オープン教育センター所長)による事例紹介が行われた。なお、全体会の事例紹介については、後掲を参照。
全体会の後に今年度は装いも新たな「情報交流会」を開催し、都心が遠望できるリバティータワー23階で多数の参加者のもと、ITフォーラムという場を活用した情報交換と参加者相互の親睦を深め合うことができた。
第2日目(16日)の午前中は、フォーラム運営委員(各2名)による司会のもと、実質2時間半ほどのテーマ別自由討議(4分科会)を行った。分科会では、課題提起者(1名から複数名)を中心に参加者を交えた活発な討議が各会場で展開された。
午後は、約60分前後の事例紹介と約15分程度の質疑応答を中心とした分科会(4分科会)を行い、各大学(学部)や各教員による様々な教育改革の試みが披露された。
その後、自由解散となったが、一部の希望者は明治大学博物館見学に参加した。
フォーラムの趣旨でもある「教育改革のための課題を確認し、解決のための戦略を模索していくこと。またそれぞれの教育現場で実際に直面している問題/課題についての意見交換と情報の共有、会員同士の理解と協力を必要とする問題及び関連情報等について討議すること」が、全体的に活かされたフォーラムとなった。
最後にあたり、本フォーラムの会場校をお引き受け下さった明治大学の関係教職員の皆様に謝意を表します。
早稲田大学の土方正夫氏(オープン教育センター所長)の事例紹介に先立ち、教育改革フォーラム運営委員会を代表して山崎和海委員長より、今年度の全体会、事例紹介になぜこのテーマを設定したのか、運営委員会の大学教育に対する問題意識について約10分程度の紹介がなされた。
その後、土方氏より、履修者数などの数値を示しながら、早稲田大学オープン教育センターの具体的な取り組みについて以下のように紹介された。
2000年12月のセンターの設置に至る背景(学部教養教育の重要性など)と2007年4月のテーマスタディ(全学副専攻)の開始に至るまでの「1)センターの沿革」について、また初年度教育や教養教育の意義と広場の機能を担う「2)センターの目的」と「3)運営体制」について概要を紹介された。引き続いて、学際性を意識し、かつ多様な学習方法を導入した「4)カリキュラムの特徴」について、科目数や履修者数、テーマカレッジ科目数、さらに学部とセンター間の関係について具体的な講座の概要を含め紹介された。その後、2007年度から導入された「5)テーマスタディ」、「6)オープン教育センター成長の要因」、「7)今後の課題」について、DVDを利用した実演を踏まえつつ分かりやすく報告された。
引き続いて参加者との間で、「教員の負担、科目の改廃、費用負担や教室・施設、さらにセンターと理事会との関係」などについて、積極的な質疑応答が30分程度行われた。
本分科会では2件の課題提起があった。まず、玉川大学より菊池重雄氏(経営学部教授、コア・FYE教育センター長)から、大学大衆化の時代における初年次教育の意義と全学的な初年次教育の実践が紹介された。学習到達目標および目標実現のためのプログラムを明確化し、独自に編纂した教科書を活用した教育を組織的に実践している。このような取組みが評価され、米国における初年次教育国際会議の協賛大学として認められている。
次に創価大学の高木 功氏(経済学部教授教育・学習支援センターCETL運営委員)より、全学的教育学習支援組織CETL開設の背景と取り組みについて説明があり、経済学部での入学前教育と初年時教育の実践、学生への細やかな学習指導、教育学習支援組織CETLとの組織的連携が紹介された。
両大学は初年次教育に関して先端的な実践をしているが、共に支援体制を確立しており、大学としての組織的運営が特徴である。
課題提起に引き続き討議が行われ、FDとの関連、授業評価、学生へのケアなどの論点を中心に活発な意見交換がなされた。これまでの高等教育にはなかった初年次教育は、入学したばかりの学生を大学での学習に適応させるために特別なケアが必要になってくる。低学力学生のモチベーションアップ、細やかな学習指導、担当教員との人間関係など両大学の苦労の中に、教員相互のコミュニケーション強化、そのための支援組織の重要性、全履修プロセスにおける位置づけの明確化、学生のニーズ把握といった今後の大学教育で取り組むべきの要点が明らかとなった議論であった。
最初に、大手前短期大学の佐々木英洋氏(講師)から、「携帯電話によるリアルタイム授業評価システム(C-POS)」について、事例紹介およびテレビ放映の映像紹介があった。
大手前短期大学では、1998年度より紙ベースの授業評価アンケートが行われていたが、これらの授業評価がまとめられ、教員に手渡されるのは授業終了後何ヶ月も経ってからであった。この欠点を改善するため、2004年度から学生たちに携帯電話で授業評価をさせることになった。毎回授業評価させることも可能であるが、現在は学期ごとに2回行っている。選択するものだけでなく、自由記述もできるようにし、自由記述を集計できるシステムを導入した。教員の反応は、当初心配されていたようなこともなく、おおむね好評だそうである。
次に、明治大学の川島高峰氏(情報コミュニケーション学部准教授)から、「教育の情報化からユビキタス化へ」について、事例紹介およびテレビ放映の映像紹介があった。2003年度より携帯電話を大教室での授業に活用し始め、2005年度から情報コミュニケーション学部新設と同時に学部独自のシステムとなり、現在では他学部の教員も含めて28名の教員が活用するようになっている。
ここでは、アンケート、出席管理、テスト、授業評価、座席位置の管理、学生コメント集成およびダウンロードなどができるようになっている。また、遠隔授業でも携帯電話を活用して授業を行った。オン・ザ・スポット性の高い携帯電話を用いることにより、学生が授業へ多く参画することになり、お互いのデータを共有することで授業への参画が拡大した。
事例紹介の後、教員の携帯電話利用に対する不平や不満をどのように解決したのか、無関心の教員にどのように対応しているのか、携帯電話を使うことで学生の対面コミュニケーション能力が低下するのではないかなどの質問があった。
本分科会では酒井陽一氏(大同工業大学授業開発センター長)より課題提起いただいた。
大同工業大学では、大学教育解体の危機を自覚し、1995年度に「教育重視型大学への自覚的転位」を教授会で宣言し、01年には「大同工業大学授業憲章2001」宣言を採択して、教育改革に取り組んできている。その特徴として、2001年度から全教員(非常勤も含めて)の授業を対象に公開研究授業と授業研究会を実施したことにある。毎週1回、半期9回、年間18回を目途に全学科ローテーションで行われ、授業参観者は学内の専任・非常勤教員と事務職員、学外の教員となっている。また、公開研究授業を受けて行われる授業研究会への参加者は、学内外とも教員のみとしている。この様子はセンター所報「授業批評」ですべての大学構成員に配布されている。過去6年間に113回の研究授業および授業研究会が開催され、授業参観者は延べで教員1087名、事務203名、1回平均11名強、また授業研究会へは延べ905名の教員、1回平均8名の出席となっている。こうした地道な活動は学生のやる気を喚起し、学習到達度アンケートの評価結果に現れてきている。
後半は課題提起に対して、質疑応答が行われた。学生の学力低下、学習意欲の希薄化に伴い、すべての大学が授業運営に対し危機感を抱いており、活発な質疑がなされた。「教育重視型大学への自覚的転位」への合意の形成は?、授業公開を教員に納得させるための説明は?、教員意識の改革はどのように進んでいるか?などが主だった議論の焦点となった。危機感と強いリーダーシップによって現状があること、様々なアンケートでの学生の満足度が本システムの導入で大幅に上昇した点など、一定の成果が上がっていることが示され、最後まで活発な議論がなされた。
教育改革や大学改革を実効性のあるものにするには、教育熱心な一部の教員の努力だけではなく、教員・職員が連携した組織的な取り組みが不可欠である。本分科会では、この領域で先進的な試みを続けている立命館大学の教職連携・産学連携の事例を杉町 宏氏(立命館大学情報理工学部事務長)に紹介いただいた。
大学における職員(スタッフ)の役割は、教員との担務区分で議論されることが多く、事務中心に整理されがちであるが、立命館大学理工学部では、まず職員が自ら教育に深く関わるという自覚を持つことから始まる。学生の目線で教育を語り、教育的視点から教員を支援することがすべての職員に求められる。教員に加えて職員が教育に参加することによって、教育にかける人的リソースが増加するため、職員は教員とは異なる資質をもって、このリソース増加に見合う教育的価値を生み出す必要がある。立命館大学では、産学連携に関わる研究・教育企画、実務、マネジメントの体制を職員中心に組み立て、教育における職員の新しい役割を探索している。各職員は半期ごとの上司との面談において、教育に関わる企画を自ら立案し、後に評価を受ける。SDを積極的に進めるための組織として大学行政研究・研修センターを設け、前述のような資質を持つ職員を養成するプログラムを設定している。
事例紹介後、具体的な組織や制度、職員の評価・処遇などについて、時間いっぱいまで熱心な討論が行われ、参加者の関心の高さが窺われた。
本分科会では岸田賢治氏(名古屋学院大学商学部教授)より、事例紹介いただいた。
現在、進学率の上昇や入学者の全体的な学力レベルの低下がみられ、学生も学問知識ではなく実社会で役に立つ知識を求めるようになった。一方、教授者側は、従来どおり学問分野における理論的概念を理解させようとしている。多くの大学教育現場でみられる、このようなミスマッチを解消するための実践的な方法論が提案された。
次のような5段階の教育目標達成のレベルをモデルとして提案し、これに対応した定期試験問題の内容・形式や教室運営のモデル事例(会計学分野)が紹介された。
●レベル1:講義内容を確実に記憶している(入門レベルの講義の達成基準)。
●レベル2:講義内容から単純な推計ができる(専門科目)。
●レベル3:習得した内容を自分の言葉で表現できる(専門科目およびゼミ)。
●レベル4:ケースについて具体的な判断ができる。
●レベル5:新しい知識を実際に応用できる定期試験の出題形式としては、以下の通りである。
●レベル1:講義で話した内容が記憶に定着していることの確認。9択マーク方式50問としている。
●レベル2:日商検定試験2〜3級程度(中小企業の経理実務能力相当)レベルの単純な計算問題。
●レベル3:企業会計原則などの制度に関して、自分の言葉で表現できることを確認する10行程度の記述式。
●レベル4、レベル5(教育目標:専門家養成):理論の理解を中心とする全面記述問題。
レベル1の教室運営で考慮すべき前提条件と工夫としては、欠席させない仕組み、聞いたことをまとめる仕組み、興味を持たせること、講義内容の理解程度を逐次把握するなどである。
eラーニング設計方針としては、講義進度との連携、講義中のキーワードの記述、そこでの学習内容の確認課題の掲載、などである。
本分科会では「インタラクティブ・ゲーム制作の実践教育」について、まず金子 満氏(東京工科大学大学院メディアサイエンス専攻教授/片柳研究所クリエイティブ・ラボ)から、その概要、歴史およびコンテンツ工学・教育におけるインタラクティブコンテンツの位置づけの紹介をいただき、続いて、三上浩司氏(同大学メディア学部講師/片柳研究所クリエイティブ・ラボ)から、産学の協働で開発した「インタラクティブ・ゲーム制作の実践教育」の教育プログラムの紹介があった。メディアラボは教育、システム開発、実証制作の三つの柱を中心に、大学学部の教員、専属の教員、嘱託研究員、外部研究員、大学院生、学部生で構成され、ゲーム制作に適用できる技術開発とそれらの技術を蓄積していくための仕組みであること、それらの活動を通した教育活動の実践事例が紹介された。実証制作は多くを産学協同で行っており、大学側が企業における従来の制作方法とは異なった制作技術・方法を新たに開発し、産業界の従来方法との比較を行っている。取組事例として3DCG技術を従来型のアニメに活用例(新手法(3D)の実証、未知なる制作への挑戦)が紹介され、そのような実践を通して得られた知見をアニメーション技術の統合マニュアルとしてまとめている。
次に、産業界側の立場から、山路和紀氏((株)プレミアムエージェンシー代表取締役社長/同大学メディア学部兼任講師)が、ゲーム開発における産学連携の必要性について、総合技術力で欧米と日本との格差が広がっており、大学との連携が技術開発とゲーム開発への適用を促進することへの期待が報告された。
会場からの質問では、コンテンツ制作の教育プログラムを有している大学関係者から、入学時に学生が抱いている夢が在学中に変わってくる背景の一つとして、ゲーム業界のキャリアパスの課題が提起され産学連携に関して活発な議論が行われた。
本分科会では関西国際大学の山下泰生氏(副学長)より課題提起いただいた。
課題は、2006年度特色GP「初年次教育の総合化と学士課程教育の展開」、現代GP「大学、住民及び行政等の協働と地域活性化」の双方が文部科学省から採択されており、それに対する成果の紹介ともなっていた。
まずは「学習支援に関する発展的な取り組みと支援制度」として、初年次教育に始まる「学習支援センター」の組織改変の仕組みが紹介され、一定の成績を収めた全学生を対象とする「学習奨励金制度」(学費を割り引くとか図書カードを渡す)や、成績や資格の取得、授業外活動などを対象としたポイントシステムとして「キャンパスマイレージ制度」の導入について紹介された。
次に「学士教育課程における質的保証と重層的な学習支援」として「学習ベンチマーク」、「E-ポートフォリオ」が紹介された。ベンチマークは大学在学中に身につけるべき具体的な到達目標を掲げ、さらに担当する授業科目においても到達目標を立て、チェック項目をシラバスに明記するようにして、達成度合いの確認を学生自身が確認できるようにしている。E-ポートフォリオについては学生の学習記録を成果として蓄積させるもので、定期的にアドバイザーからチェックを受けるものである。学生が学習記録から自分の成長を知ることができるようになっている。今後は学習支援に加えて学年別の段階的支援活動が考えられているという。こうした活動は高等教育開発センターを中心に全学のFD活動として進められており、専任教員の参加率は70〜100%であるという。
この分科会は、当日開催された分科会の中でも一番参加者の多い(86名)セッションであった。討議の時間は少なかったが、全学FDに関する予算、教員の反対の存在の有無、E-ポートフォリオやベンチマークに関する個人情報保護、アドバイザーの在り方等についての質問があり、中身の充実した議論が行われた。
上智大学の曽我部 潔氏(理工学部長)から事例紹介が行われた。まず、理工系の教育現場の現状分析とその課題として、学生側には「興味やモチベーションの低下、忍耐力・集中力の低下」、大学と教員側には「FDの体制と意識の遅れ」の問題点が指摘された。その結果、従来型の一方向の教育では授業実施が困難となってきている。これらの問題を解決するためには、教員と学生双方による協調型教育が有効であることが示された。協調型教育とは、学生が自主的に頭と手を働かせる作業をともなうテーマと教材を用意し、教員はその作業をコーチするというような授業形態である。次に、この線に沿った授業設計・開発・運営の方向として、実社会と連携したプロジェクト学習、チーム学習による学習意欲の持続化、現場映像など情報の提示によるモチベーションの持続化、IT教材の利用などが必要であること、同時にきめ細かい成績評価法が必要であることが示された。これを前提とした具体的な授業モデルとして次の四つの事例が紹介された。
1)産学連携による数値計算技術の遠隔授業
2)オンデマンド方式による力学解析演習授業
3)デジタルエンジニアリングを活用した機械設計授業
4)javaによるシミュレーションを活用した振動工学の授業
この中で、各々の授業における授業のねらい、授業のシナリオ、IT活用の詳細、授業効果、今後の課題、が説明され、具体的な教材も提示された。また、演習では習熟度別オンデマンド授業が有効であること、コンテンツ作りには製作協力体制が必要なことが示された。本事例は理工系教育での教育改善プロセスの一つとして十分参考になる事例であった。会場からは、遠隔教育の設備、教材の内容、いろいろな問題を抱えた学生に対する対応、教育効果など具体的内容についての質疑があった。
文責: | 教育改革ITフォーラム運営委員会 |