特集 大学教育への社会の期待


特色ある「学びの場」の創出に期待〜アップルジャパン株式会社〜


坂本 憲志(アップルジャパン株式会社 教育プログラム推進本部長)


1.はじめに

 「教育とは、学校で習ったことをすべて忘れたあとに残っているものである。」アインシュタインが、教育について語った一節である。これは、受動的に受けた授業で「習った」知識が与える影響より、そこで得た経験や「学び」による刺激、自ら「探索」し課題に対して向き合った体験、相手を説得するために駆使した「論理的思考」など、体感し記憶に刻まれたものこそが、人間力やコミュニケーション力等、「生きる力」を育む礎となることを表現したものであろう。受験指向の初等中等教育で「習った」ことは、大学受験の終了により活用されなくなり、一時的に「覚え」たことは一部の興味を持ったことを除き、速やかに「忘れ」られていく。一方、自らが興味を持ち「学び」、「探索」した経験は、「体験」に変化し「記憶」に刻まれることとなる。社会の中を生き抜く力は、「失敗」を含む「経験」から会得され、変化に対応できる柔軟性を身につけるようになる。これらを演出することが、今の教育に必要なことではないだろうか。


2.企業が求める人材とは?

 最近の就職面接では、質問に対する模範解答が多く、個性が感じられない学生が増えてきていると感じる。また、質問を求めても通り一遍の内容が多く、質問に個性を感じることも少ない。
 これは、学校に限らずすべての発達段階において自分の意見を発言する機会が少なく、受動的な教育を学校や家庭で受けてきた弊害ではないだろうか。高校や大学で講師をさせていただいた経験から、自発的に質問や発言をする生徒は非常に少ないものの、集合教育の場では目立たない学生が個別に話を聞くと、とても貴重な意見や考えを持っていることがある。また、講義の中で意見を闘わせても、なかなか討論にならなかったり、自己主張が激しすぎて論理的な説得というよりは、いわゆる「意見のぶつけあい」になってしまうことも多い。それは、ディベートやプレゼンテーションのように、「一定のルールのもとに相手の主張を理解した上で、自分の意見を論理的に展開する」といった訓練がなされていないからではなかろうか。
 一般に企業が求めているのは、「倫理観」や「教養」はもとより、

といった、コンピテンシである。
 専門性を追求する意欲を持っていれば、ぜひとも専門職を目指したり、大学院や研究所等で研究を進めて活躍していただきたい。
 最近の企業の採用においては、出身校や試験のみでの選考は行っていない。取得資格等についても専門性を求められる職種を除けば、もはや必要ではないといっても過言ではないだろう。


3.高等教育に期待すること

 「自ら課題を抽出し、解決策を導きだすために情報収集や分析を行い、論理を組み上げ、相手の理解を得るために説明をし、目的を実現する」といった経験を持った人材こそが、早い時期に戦力となる優秀な人財となることは言うまでもない。
 企業は新卒社員に既定路線での即戦力を求めているわけではない。
 既成概念にとらわれない若い社員たちが、新しい発想で積極的に発言し、責任を持って実行することによる会社全体の活性化を期待している。
 これからの大学に必要なのは、自由な発想を持った学生と、企業人など外部人材の積極的活用による特色ある「学びの場」の創出である。
 学生たちの潜在能力や可能性を最大限引き出すためにも、「評論」や「理論」のみではない、新しい発想や刺激を重視した教育が行われることを期待している。


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