特集 大学教育への社会の期待
現在、高等学校卒業生の大学への進学率は5割を超え、受験生は学校を選ばなければ全入時代となり、多くの大学で大学入試の選抜機能が低下し、入学者の学力水準が担保されない状態となりつつある。
そこで、中教審大学分科会の小委員会では昨年学生の能力低下を防ぐため、卒業要件の厳格化を柱とする報告書案をまとめた。それによれば、
大学は
1)人材養成の目的、学位授与方針を明確にして公開
2)成績評価、卒業認定の厳格化による“出口管理”を徹底
とある。
そして、学生に必要な「学士力」とは
1)専門分野の基本的知識を身に付け、歴史や社会と関連づけて理解する「知識・理解」
2)日本語と外国語を使って読み・書き・聞き・話が出来るなど社会人生活で必要な「汎用的技能」
3)協調性や倫理観などの「態度・志向性」
4)これらを活用して課題を解決する「創造的思考力」
の4分野を参考指針としている。この参考指針は、社会から見ても学生に必要な力としてはまさにその通りである。
しかしながら、こうした「大学改革」の部分的な方向性だけで、大学はこれからの我が国や世界にとって、真の人間力ある「有為な人材」を育成できるのだろうか。
教育の内容から言えば、これまでの我が国の教育は 小学校から一貫して、いわゆる知識の詰め込みに偏重しており、知識を土台として自ら考え、知恵を出す力をつける教育が欠如していると考えざるを得ない。
21世紀の教育のあるべき姿としては、人を教え育てる立場の人間は該博な知識だけでなく、「事象の観察力」「状況の判断力」「意思決定力」「指導力」をもって、はじめて真の人間力を培える教育ができると言えるのではないか。
要するに最も重要なことは単に知識を教えるだけでなく、学生たちの無限の可能性を引き出し、人間性を育み、社会への適応力をつけるべく、自らが高邁なる精神と、卓抜なる指導力を持った教員の育成が「大学改革」における喫緊の課題であると思われる。
さらに言えば「学士力」のなかにはこの急激に変化する社会において、最も大事な要素としての“リーダーシップ”の養成が欠けていると言わざるを得ない。
それは取りも直さず、大学の外部で「大学改革」を唱える政治家および財界人をはじめ、大学の中で教職員自ら“リーダーシップ”を発揮できる人がどれだけいるのか、そして、社会に通用する“リーダーシップ”のある学生を育成できる人材がどれだけ存在するのかということ、また「大学改革」は本当に実現できるのかということにもつながるのである。
現在、グローバル化が急速に進み「地球温暖化」「環境問題」「国際紛争」「南北経済格差」等、激動する国際社会の中で、日本は世界第二位の経済力に見合ったプレゼンスを発揮しなければならないのであるが、とてもそのような状態ではない。
むしろ、日本は今後さらに世界での存在感が希薄になりかねない状況にあるといえる。それは、今、日本には国家を代表し、国際社会の中で存在感を高め、物事の方向性やグローバルスタンダードの決定に深く関与できるだけのリーダー的人材がいないと言わざるを得ないからである。
ここで言う“リーダーシップ”とは何も国家レベルの話だけでではなく、社会にはあらゆる組織が存在し、そしてどのような小さな組織であってもリーダーの存在は必要であり、誰かが“リーダーシップ”を発揮しなければならないものだからである。
よって、今社会は大学においては「学士力」プラス以下のような要素を含む“リーダーシップ”を発揮できる人材の育成を早急に期待したい。
<リーダーシップの三要素>
1)将来の方向性を決める
達成するのに必要な変化を生み出すための戦略を作り上げる。
2)人をまとめる
協力が必要となるあらゆる人に言葉と行動をもって方向性を認識させる。
ビジョンを示し戦略をもって、そのチームに影響を与える。
3)動機付けと励まし
政治的、官僚的、資源的障害を乗り越えられるよう人に力を与える。
そのためには人間として基本的なニーズ(人間力)を満たす。
以上、私見ではあるが企業から見た社会が期待する人材をまとめた。