教育事例紹介 政治学
筆者が担当する政治経済学部政治学科コア科目行政学は、2003年度以来フルオンデマンド型講義として設定され、本2007年度で5年を経過しました。この間、技術的側面は断続的に改善され、本年度から、本学全体に講義支援プラットフォームとしてのCourse N@vi[1]が導入されたことにより、一段と受講環境が改善されました。そこで本稿では、本講義の受講環境を紹介し、その特徴を検討して、今後の課題と展望を見たいと思います。
本学が本格的に遠隔講義を実施し始めたのは、2000年度です。この時点で遠隔講義運営を担当したのは、メディアネットワークセンター(MNC)[2]です。国内14大学と提携し、本学からリアルタイムの教室講義をこれらの大学に配信しました。この当時で、42科目が設定されました。このときの経験から、遠隔講義では、同時配信は奏功せず、非同時体制の構築が不可欠であることが分かりました。なぜなら、時間割設定のずれや繰返し視聴の不可等で、必ずしも時間的に十分な余裕をもって受講してもらえなかったからです。これ以降、オンデマンド型講義への全面転換が進んでいきます。
こうしたオンデマンド講義を現在統括するのは、2002年にMNCから分離設置された遠隔教育センター[3]です。同センターは、本学全体の関連講義を製作・配信し、また対外的な著作権調整や、対外的協力関係の構築・発展を図っています。オンデマンド講義とは、あらかじめ収録された講義映像と電子教材を組み合せた授業コンテントをインターネットで配信することにより、学生がいつでも、どこからでも自分のスケデュールに合わせて学習することができる授業形態と定義されます。本学では、オンデマンド講義をさらに3類型に大別しています。パーフェクト型、フル型、及びハイブリッド型です。第一類型は、オリエンテーションから試験実施まで、一講義のすべての要素をオンデマンドにて実施するものです。第二類型は、講義自身はオンデマンドで実施し、これに教室でのオリエンテーションや試験を加味するもので、本講義はこれに属します。そして最後の類型は、通常の教室講義とオンデマンドを併用するものです。また、オンデマンド講義のコンテントは、ビデオ・PowerPoint(以下、PPT)連動型とビデオ型に大別され、後者は、いわゆる放送大学のイメージで、動画映像のみのコンテントです。他方前者は、講義ビデオとPPT教材が画面上で連動するタイプです。本講義は、後者に属します。したがって、ビデオ・PPT連動によるフルオンデマンド型講義と呼び得ます。同センターのデータでは、本2007年度で本学が提供する各種オンデマンド講義の総数は、少なくとも857科目です。こうした組織体制と一般類型を前提に、本講義の具体的解説を行います。
図1が、上記のCourse N@viの教員用ホームです。これには、一段階上のレベルであるWaseda-net Portalにログインして、そのメニューから到達します。ここに、担当科目一覧が表示されています。学生の場合は、ここに履修科目一覧がほぼ同じ形で表示されます。本稿では、当方の教員用を実例に掲示しますが、学生の場合もほぼ同じと考えて下さい。最下行にある行政学を二度クリックすると、受講ページに到達します。図2が、行政学における毎回の講義内容を掲示した典型例です。図2の「第一章」と記されているところをクリックすると、受講画面が登場します。
図1 Course N@vi教員用ホーム
図2 講義構成画面A
当該画面の外形は、図3の通りです。受講画面は、PPTによる資料提示、講義者動画、および目次画面から構成され、講義者動画は、Windows
Media Playerを基調として、画像と音声が配信されます。PPT資料は、動画・音声の進行に伴って次ページへと移動していきます。受講者にとっては、目次上の区分に従って区分単位毎に、For-/Backwardが可能であり、また講義者画面上のバー調整を用いて微調整が可能です。なお、上記ビデオ型オンデマンド講義の場合は、PPTによる資料提示と目次画面が伴いません。
PPT資料は、図2の最下行にある「資料10」をクリックすれば、図3の資料画面に順次掲示されていくスライドと同一のものが、PDFファイルとしてダウンロード可能です。講義者としては、受講者があらかじめ当該PDFファイルを印刷してWeb受講中に携えることを、奨励しています。当該PDFファイルは、A4判横置きで、1ページに4枚のPPTファイルが印刷されています。図4が、資料の典型例です。したがって、受講者は、受信しながら印刷したPPTファイルにメモを取ることが可能です。また、図3の形態で、メモパッドを画面併存させることが可能なため、ファイルとしてメモを取ることも可能です。また、図2の「第0講はじめにBBS」をクリックすれば、BBSにおいて質問提示・議論展開が可能です。このように、図2の画面状況を以って、当該講義の資料入手と実際の受講、およびBBSへの参加が実施できます。特に図4のように、ディベート形式の問いかけを行っておくと、BBS上の学生間討論を促すことができます。
図3 講義配信画面
図4 資料ファイル一例
図2の状況は、典型例として一番最初の配信日のものですが、すべての配信日について、同様の構成を執っています。本講義は、本学部の規則に従い、セメスター形式として一学期毎週2回配信(月・木曜日)で、26講からなっています。原則として、配信日に受講されることが望ましいのですが、もちろんバックナンバー受講が可能です。したがって、まさにオンデマンド形式で受講可能となっています。筆者が併任されている専門職大学院でもまったく同形態のオンデマンド講義を設定した経験がありますが、海外出張中の社会人学生が当該講義をWeb視聴してくれて、重宝がられました。
オンデマンドとしての行政学コンテントは、当方が当該科目担当を開始した1998年以来更新・蓄積してきたものです。当方は、あらゆる講義の最初からテクストファイルないしPPTファイルをOHPスライドとして用いて講義していたため、2002年にオンデマンドへ移行した際も、資料作成に特段の変化は生じませんでした。オンデマンド講義の収録は、本学内の遠隔教育センター専用スタジオにて行われます。収録当日までに、当該PPTファイルをWeb送付し、収録担当者があらかじめ外形確認します。収録は、編集ソフト上で講義しながらPPTスライドを順次進める形を執ります。また、一昨年から、カメラがマジックミラーディスプレイと連動した形式(プロンプターと同じ効果)となったため、講義者としては、PPTファイルが提示されているディスプレイを見ながら話せば、自動的にカメラを見つめる形となり、収録がほとんどカメラ目線となります。
また、行政学という時宜性を問われる講義内容の性格上、「コラム」として、最新事情を講義そのもの以外に適宜配信しています。これは、講義者動画を伴わない音声とPPTだけのコンテントで、一定の収録ソフトを用いて、自宅で収録しています。例えば、本稿執筆時点であれば、日銀総裁後継問題が喧しいのですが、この点を制度的側面から簡便に解説するコラムが作成可能です。自宅で作成することで、できるだけの時宜性が確保されます。自宅作成のファイルは、FTPベイスで担当者へ送付され、掲出されます。
図5は、図2を少々上方にスライドさせたものですが、「お知らせ」を用いて、適宜必要な告知を行うことが可能であり、その典型的なものが、「2007年度後期中間レポート」および「後期期末試験」です。中間レポートでは、この画面で課題提示し、受講者としては、その画面上で規定形式のDocファイルレポートを直接提出できます。本年度本講義履修者総数は、403名で、この直接Web提出に応じたものは、367名(90%以上の対応)で、本学部としては初めてWeb提出を実施したため、この対応率を以って一応成功と見なしています。なお、本講義では、期末試験は必ず教室試験を実施し、本人の答案執筆・提出をより確実にしています。
図5 講義構成画面B
また当然のことながら、本講義の視聴はログイン後に行われるため、どの学生がいつ視聴を開始したかは、すべて記録されています。これは、Course N@vi上で一覧把握できるため、成績評価に際して参照できます。図6は、その画面先頭部分です。ここには、図1の左側カラムの「学習状況」をクリックすることで到達できます。また、上記中間レポートの評価、学期中に小テストを行った場合のその評価、教室試験の評価等も、すべてCourse N@vi上で管理でき、状況によっては、最終的な成績評価もCourse N@viで提出できるかもしれません。
図6 学習状況画面(一部抹消)
さらに、図7はCourse N@vi上で授業評価を行った場合の結果表示画面です。授業評価項目は、本学共通に設定された観点と、講義担当者が独自に設定できる観点とから構成されます。筆者は、むしろ中間レポートと期末試験時に併せて記入してもらう形式を、あらゆる講義を担当し始めた頃から採用しているため、履修者はそちらで積極的に貢献してくれる場合が多いようです。なお本学では、Course N@viで行う授業評価は、学部レベルで必須事項とされ、授業評価の対社会的公表が、学部単位で行われると同時に、講義者個々には、ここで示した通り、Course N@vi上でフィードバックされます。
図7 講義評価結果表示画面(一部抹消)
オンデマンド型講義共通の最大の問題点は、講義者と履修者のコミュニケーションです。BBSがそれを繋ぐ有力な手段ですが、本講義では、常に履修者数が学部設定上限となるため、メンターを導入したとしても、十分には対応できません。また、教室講義の場合であっても、履修者数が数百の場合は、個々の履修者と講義者が均等にコミュニケーションすることもまた、不可能です。したがって、筆者としては、むしろ講義内でディベート課題をできるだけ設定することで、履修者間のコミュニケーションを引続き促進したいと考えています。加えて、学期中はオフィスアワーにおいて直接の質問を受けています。
オンデマンド講義としての外形、配信システム、そのプラットフォーム、そしてまがりなりにも専門科目としてのコンテント、こうした観点では、本講義は、大学全体のシステム向上に支えられて、相当程度充実してきたと、少なからず自負しています。筆者の持論として、いわゆる講義科目は、学生にとってのきっかけに過ぎない、と考えています。そのきっかけをどのように活かすかは、学生自身の問題です。この意味で、講義科目がオンデマンド形式で行われることは、学生側の事情に合わせた視聴が可能という観点からも、有意義と考えています。ただし、卒業や修了といった一定の課程を了えるという意味では、やはりface
to faceの指導が大きな意味を持っていることは、論を待たないでしょう。
参考文献および関連URL | |
[1] | http://www.socs.waseda.ac.jp/s/ |
E-mail:std/n@vi.pdf (アドレスは全角文字で表示しています) |
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[2] | MNCを中心とした本学における情報化の進展については、例えば以下を参照されたい。 縣公一郎:情報化と学生支援―早稲田大学における展開と展望. 大学と学生, 第45号所収, pp.15-23, 2007.およびhttp://www.waseda.jp/mnc/ |
[3] | http://www.waseda.jp/dlc/ |