巻頭言

立正大学における教育システムの再構築への取り組み


山崎 和海(立正大学副学長・常任理事)

 高等教育機関を取り巻く内外の環境が大きく変容している。「大衆化、高学歴化、生涯学習化やユニバーサル化」の波の一方で、「先端的学問分野の進展」「学際化、総合化、融合化によるボーダレス化」の波は「文理融合」という形で理科系と文科系の垣根さえ取り外しつつある。同時に、多様な入試制度の下で、多様な大学入学者がおり、学生の学習意欲のバラツキも多く見られる。このような状況下にあって、日本の大学の本質的な危機とは「入学者数の減少」や「権威の失墜」にあるのではなく、「知の集積地」としての高等教育・研究機関としての教育システムそのものにある。
  ICTの進展とともに進む知識産業社会にあって、現代的な「知」の課題への教育的対応や、『「卒業・成績管理」から「キャリアデザイン」や「人材育成」の視点からの教育システムの再構築』が求められている。教育システムの再構築とその組織化に際しては、内外の大学との連携をはじめ、中等教育機関、さらには産業界との連携などもその視野に入れていかなければならない。
  『「教育」から「共育(共に育む)」という観点よりの教育システムの再構築』も必要ではないかと思う。ICTの進展により「情報が情報を呼ぶ中で組織としての学習」が展開しつつあり、eラーニングで論じられているような「組織が学習していくプロセス・マネジメントの実践」の時を迎えている。学生の成長が、大学・学部組織の成長に結びついていくようなマネジメント・スキームが考えられる。学生個人の学習の仕組みづくりとともに、組織体としての学習が求められる潮流が「教育の総合化」ではないかと思う。
  8学部14学科・7大学院研究科で構成される立正大学では、2004年に学園振興政策プロジェクト会議(ブランディングの展開)を再立ち上げし、「優れた人材を集め、優れた人材を育て、そして優れた人材を輩出する」という好循環型ループを構築することで社会的責任を高度に果たしていくことを、改めて決意した。多様な倫理観・価値観を「学」として総合的に学ぶ中で、自分の考え方や判断基準を明確化し、人生の中で自らのビジョンを描き、そして専門領域と組み合わせることで「実社会=他者とのリアルな関わり合い」の中で存分に能力を発揮できる人材(「モラリスト×エキスパート」)を輩出していくことに主眼を置いたものである。彼らや彼女らが周囲にモラルについて考えるきっかけを与え、社会を良くする原動力になってもらいたい。
  さらに総合大学として「モラルと専門性の融合」を通じて、「心・身体/人間/社会/地球をケア」し、正常で豊かな状態を創造するための学(「ケアロジー(ケア学)」)の確立とその実践に努めている。社会で活躍しうる人材とは単に知識・技能に優れているだけではなく、人との係わりや連係の中で、陶冶された人格を有し人類社会発展への貢献の意志を備えた人物でなければならない。「ケアロジー」の理念化を通して、複雑化・複合化する複雑系社会(人間・社会・地球)への総合化・学際的アプローチの涵養に努めるため、新たな「全学共通科目(導入科目)」の開設と「GPAによる成績評価の厳格化」などを踏まえた学生情報システムの再構築も同時に進めている。
  また学術情報のあり方が紙情報から電子情報へシフトしている中で「図書館における情報化の推進」と「ICTを活用した授業改善への支援」などに重きを置いた組織の改編や、教育・事務環境といった境界に拘らない相互に補完しあう総合サービス的なシステム、例えば学生ポータルサイトやFD活動と連動したeラーニングシステムや、学生・教員・職員間での相互コミュニケーションを円滑にする仕組み作りに取り組んでいるが、今後は教育支援を効率よく、かつ強力に進めるために特化した授業支援体制(「ICT授業支援室(仮称)」のような組織化)を整える必要があると考えている。


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