FD研究

薬学教育FD/IT活用研究集会報告
〜薬学5・6年次教育を考える〜

(平成20年3月25日実施)


1.はじめに

 薬学教育FD/IT活用研究委員会「薬学5・6年次教育を考える」(社団法人私立大学情報教育協会主催)が、平成20年3月25日(火)に共立薬科大学芝校舎1号館マルチメディア講堂において35大学、賛助会員企業1社で90名の参加者のもとに開催された(写真1参照)。

写真1 会場風景
写真1 会場風景
(共立薬科大学芝校舎1号館にて)

 平成18年度より薬学教育6年制が開始され、「質の高い薬剤師の育成」という目標達成に向けて各大学ともに教育内容の充実に日々研鑽している。特に5・6年次教育は、1〜4年次において習得した基礎的知識を臨床現場において適用するための応用力、すなわち基礎薬学・臨床薬学を横断した、医療人としての問題解決能力を育成することが求められている。しかしながら、各大学とも5・6年次における授業内容の具体化までには到らず、早急な検討が要請されているのが現状である。そこで、本協会薬学教育FD/IT活用研究委員会では、5・6年次における具体的な授業内容について情報交換し、今後の薬学教育発展に寄与することを目的とし、研究集会を開催することとした。
  本研究集会は、FD/IT活用研究委員会副委員長の松山賢治氏(共立薬科大学薬学部教授)による開会挨拶に始まり、次いで共立薬科大学の望月正隆氏(共立薬科大学学長)より、「薬学5・6年次教育の理念と求められる教育内容」というタイトルで基調講演をいただいた。その後、5・6年次の具体的教育内容の例示として、本委員会委員に所属している大学で検討が進められている教育内容についての報告があった。

 

2.基調講演「薬学5・6年次教育の理念と求められる教育内容」

  望月正隆氏(共立薬科大学学長)は、「薬学教育の歴史的経緯」、「6年制薬学教育の概要」、「薬学5・6年次教育について」を講演され、薬学5・6年次教育の歴史と現在の進行状況、そして今後に期待されることついて詳しく説明した。その中で、体系的に学習者が積み上げることによって体得する6年制薬学教育(図1参照)は、5・6年次教育の概ね参加型の長期実務実習、卒業実習、薬学アドバンスト教育によって完結する。また、6年制薬学教育が目指すところは、医療人である資質の高い薬剤師の養成であり、薬剤師として必要な基本的知識、技能および態度を修得しているだけでなく、問題発見・解決能力が要求されている。5・6年次に求められる教育内容は、実務実習は実務実習モデル・コアカリキュラム、卒業研究は卒業実習モデル・コアカリキュラムに準拠すると考えられるが、これはあくまでもガイドラインであり、各大学はそれぞれに独自性を活かした教育内容によるカリキュラムの構築が求められる。その意味で、5・6年次教育の特徴は、「大学の顔」となり「大学の志」となるものであり、その重要な時期を国家試験対策に費やすことのないよう、充実した5・6年次教育を行い、厳正な第三者評価を受けなければならないとの見解を述べた。

図1 6年制薬学教育における教育構築
図1 6年制薬学教育における教育構築


3.5・6年次における授業モデルの紹介

(1)「北海道薬科大学における5・6年次教育プログラムの基本的考え方」
  大和田榮治氏(北海道薬科大学学長)は、地域医療に焦点をあてた薬剤師教育の事例について講演した。「患者中心の視点で地域医療に貢献しうる薬剤師」、「医療過疎地における保健と医療の担い手」、「医療情報収集とコミュニケーション能力をもつ医療人」を6年制薬学教育で養成すべき薬剤師像とし、その具体的な取り組みの例として、「医療人GP」として採択された地域福祉、介護体験を行う参加型学習の「臨床能力を育む地域体験型学習とその支援プログラム」(図2)を紹介した。

図2 地域医療支援ネットワークの例
図2 地域医療支援ネットワークの例

  さらに、考える力を養うためには、早い時期から問題基盤型学習法(PBL)を導入する必要性があること、5・6年次の実務実習を充実したものにするためには、その前に行う「実務実習事前学習」が重要であることを力説した。また、症例を中心に今まで学習したすべてを統合的に関連させて学習する科目「臨床薬学総論」の例を紹介し、基礎教員と臨床教員が症例に基づき実践的に教える「統合型授業」の重要性を述べた。最後に5・6年次の卒業研究の例を挙げ、「基礎薬学研究参加型実習」、「薬剤疫学・調査研究」、「診療チーム参加型病院実習」、「地域医療参加型薬局実習」、そして共通プログラムとしての「エイジミキシング型教育体験」を紹介した。


4.「有機化学、薬理学、薬剤学の統合型授業モデルの構築」

  齊藤浩司氏(北海道医療大学薬学部薬剤学講座教授)は、有機化学、薬理学、薬剤学の統合型授業モデルの例(図3)について講演した。

図3 薬理学、薬剤学、有機化学の統合モデル
図3 薬理学、薬剤学、有機化学の統合モデル

  医薬品に治療効果や副作用の発現は、その体内動態と密接に関連しており、医薬品の有効性と安全性を確保し医薬品の適正使用を推進する上で、その関連を理解することは極めて重要である。そして、これからの薬剤師には薬のスペシャリストとして、医薬品の構造相関から治療効果や副作用、体内動態の違いなどをシミュレートできる能力を見つける能力が益々必要になる。これらを補い、医療薬学に関する知識を総合的にレベルアップするためには、有機化学、薬理学、薬剤学の統合型授業が有効な手段であることを説明した。さらに、実際の授業の進め方やファシリテーターの役割について、抗生物質をテーマとした授業の進め方についても詳しく説明した。また、この授業モデルの利点として、取り上げる医薬品群を毎年、少しずつ変更することで統合型授業に使用する教材の充実を図ることができること、当該年度に講義で取り上げなかった医薬品群について、学生がWeb上でそれを閲覧できるようにし、自習用としても活用させることができること、統合型授業の担当する教員も知識のリフレッシュができることなどを紹介した。


5.「医薬連携による臨床薬剤師教育プログラム」

  大鳥徹氏(近畿大学薬学部臨床薬学部門講師)は、近畿大学で実施している医薬連携の臨床薬剤師教育プログラムを紹介した。このプログラムの特徴は、問題準拠型学習(PBL)を導入したスモールグループディスカッション(SGD)(写真2)と模擬患者を用いたロールプレイによる薬学的問題解決の演習について、薬学部学生と医学部学生が一緒に行う点にある。その具体的実施例について、課題内容を示しながら詳しく説明した。実施の利点として、両学部生が合同SGDを積極的に行うことにより、チーム医療での医師と薬剤師の関係を早い段階から意識し、医療従事者間のコミュニケーション能力をトレーニングすることができること、問題準拠型学習(PBL)で模擬症例を経験することにより、教科書横断的な思考による問題解決能力をトレーニングすることができることなどが挙げられた。

写真2 医学部・薬学部合同SGDの風景
写真2 
医学部・薬学部合同SGDの風景

 このプログラム終了後の学生アンケートからは、医学部生と薬学部生の交流は必要でありお互いに刺激になったこと、知識の共有は大変有意義であり勉強になったこと、医療従事者間の交流は卒後のチーム医療につながること、一方薬学部生からは、病態などの知識が少なく勉強の必要性を感じたこと、医学部生からは、薬学部生も医学部生を上回る生理学や臨床知識を持っていることに刺激されたなどの回答が得られた。


6.「遠隔地での地域看護学実習におけるe-Learningの活用」

 中谷久恵氏(島根大学医学部看護学科教授)は、看護学地域実習の中で行っているe-Learning活用について講演した。地域看護学実習におけるねらいは、住民との交流を通し生活者主体の看護が提供できる専門職を養成することである。しかしながら、その実施にあたっては、地域への志向性が育めない、家族や友人と離れた孤独な生活、教員や実習指導者の人員不足、宿泊を伴い生活が安定しない、食費や移動などに費用がかさむなどの多くの問題がある。一方、看護学においては、医療の専門分化、豊富な知識や確かな看護実践技術が必要とされ、より高い到達目標が学生に求められている(図4参照)。

図4 地域看護学におけるe-ラーニング導入の背景
図4 地域看護学におけるe-ラーニング導入の背景

 そこで、これらのニーズに応え実習をより魅力あるものにするために、看護学地域実習にe-Learningを導入し、若者が興味を惹く移動体通信機器を生かし、教員・大学との双方向通信による支援を行い、僻地でも学習ニーズに対応できる遠隔教育システムを構築する試みを行った。導入後のアンケートでは、メールによる学生からの報告・連絡頻度が増えた、教員が作成したコンテンツへの興味が深まった、学生が実習での健康教育に積極的になった、後輩へのメッセージや教材を残す意欲が向上した、他領域の看護教員にe-Learning意識が波及した、教員にIT技術の向上につながったなどの回答が得られ、e-Learning活用の効果が示された。


7.おわりに

 最終討論では活発な意見交換がなされ、最後まで会場は熱気に溢れていた。今回の研究集会では、有効な学習方法、実務実習における学生支援、指導体制の確保やインターネットを活用した支援体制なども含めいろいろな取り組み事例が紹介されたが、とりわけ今後の課題としては、統合型授業の重要性を再認識するとともに、それを実現するためには大学間による連携が必要となるなど、各大学にとっても5・6年次プログラムを構築する上で大変、参考になったものと考えられる。この研究集会が資質の高い薬剤師養成に役立つことを願うとともに、今回、会場校をお引き受け下さった共立薬科大学に厚く感謝します。

文責: 薬学教育IT活用研究委員会委員
黒澤 菜穂子(北海道薬科大学医薬情報解析学分野教授)


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