研修事業報告2

大学職員情報化研究講習会〜基礎講習コース〜


 本協会では、これまで大学職員対象の講習会や研修会は「大学情報化職員基礎講習会」と「大学情報化職員研修会」の二つで実施していたが、今年度から「大学職員情報化研究講習会」に統合し、「基礎講習コース」(7月開催)、「応用コース」(10月開催)の2コースに分けて実施することにした。また、参加対象も非会員校の職員も含めることにした。
 今年度の「基礎講習コース」は、7月9日〜11日の3日間、静岡県の浜名湖ロイヤルホテルで開催し、参加者数は188名(昨年194名)であった。
 学士課程で身に付ける学習成果(学士力)の達成を目指すため、国・社会から大学に対して教育内容の改善や、教員の教育力向上のための取り組みが要求されている。本コースは、講義や事例研究、グループ討議を通して、教育改革を効果的に進めるための職員の役割や責任の理解と、そのためのIT知識の習得を目的として実施した。
 講習会での具体的な成果としては、1)ITを活用した教育支援の理解と最新技術動向の把握、2)グループ討議を通じた課題発見能力、創造的思考力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力の向上、3)本コースでの学びを大学の教育改善に反映しようとする姿勢の涵養、4)参加者間の人的ネットワーク構築を目指した。


1.講 義

 講習会は「講義の部」と「グループ討議の部」の二つに分けて実施し、初日は、開催趣旨説明において山田憲男委員長(日本女子大学)による大学職員の役割や責任について共通理解を得た後、講義1と講義2を行い、2日目に講義3を行った。講義内容は、大学職員としての役割や責任、大学改革におけるITの活用について、体系的に理解できるよう構成した。詳細は次の通りである。


講義−1「大学運営と情報の活用」
講師:梶田 晶子氏(東海大学総合情報センター情報システム開発課課長)

 大学における情報環境や情報システムは、既に、教育・研究・社会貢献など大学の使命を遂行するためのライフラインとなっている。また、大学が組織として意思決定する場合には、教育・研究情報、教育環境、財務情報、自大学の強みと弱み、優れた教育実践事例といった情報を客観的、総合的に把握・分析し、戦略的な将来計画に繋げることも可能となった。
 そこで、本講義では、大学運営に求められる情報戦略や情報環境の利用のあり方について、東海大学の事例を交えながら解説を行った。
 まず、「学士力」を保障する学部教育の再構築など、国、社会レベルからの要請が強まっていること、基礎学力不足や学習意欲低下の学生の増大、受験生の減少など大学を取り巻く環境の著しい変化などに触れながら、大学改革を推進するためには、自大学の強みや弱みは何であるのか、社会的評価はどうか等について現状を把握することが重要であることを示した。
 次に、情報技術の特徴を活かした方法で問題解決を図るためには、必要な情報が必要なときに引き出せる情報環境の構築が求められるが、それには組織や制度作り、インフラ整備、システム構築など、情報格差のない全員利用を目指した学内体制が必要であるとした。
 また、情報の活用により可能となる支援として、DWH(データウェアハウス:情報の倉庫)や地図システムなど情報解析による大学運営(経営)の支援、ポータルやグループウェアなど情報共有・情報流通の促進、効率化による業務支援、電子メール、携帯メール、電子掲示板、SNS、ブログ、TV会議システムなどツールによるコミュニケーション支援などを示した。
 この後、東海大学の事例として、本年4月に東海大学、九州東海大学、北海道東海大学の3大学が統合した際の情報戦略について紹介した。統合にあたっては、キャンパスが遠隔地であること、学部・学科が多種多様であること、今までの大学文化が異なることが大きな課題であったが、情報インフラの整備、コミュニケーションの標準化、システムの統合などを行うことで成果が得られた。特に、情報の共有・流通を促進することで、新しい統合東海大学における建学の精神の更なる実現についての共通認識を図ることができた。
 最後に、事例のような情報戦略による問題解決は大規模大学に限りできるという訳ではなく、どの大学にもそれぞれの課題を抱えており、その問題解決の方法も様々である。大切なことは教職員が一体となって変化に柔軟に対応していくことであり、その手段として情報技術の活用は有効であると示した。


講義−2「情報基盤の整備と大学の新たな可能性」
講師:山崎 達朗氏(芝浦工業大学学術情報センター事務部長)

 情報技術の革新により授業等の教学現場や法人業務を含む事務現場等の大学の様々な場面で情報技術は必要不可欠のものとなっている。既存の情報システムを効果的に活用するだけでなく最新の技術動向に目を向けることによって、自大学の教育・研究・経営の課題を把握するとともに、柔軟な発想と技術的な裏づけをもって大学運営の改善につながる仕組みを提案、構築することが大学職員の重要な役割となっている。その一方で、情報の集積が拡大することによって、情報の取り扱いにおける慎重さと積極的な活用をバランスよく保つことが強く求められている。
 本講義では、最新の技術動向の紹介を交えながら職員に求められる情報活用能力向上の方向性について芝浦工業大学の事例をもとに解説した。
 まず、教育・研究・業務の支援に必要な情報通信技術(ICT)や環境とはどのようなものか、学内に設置される情報機器、基幹情報システム機材、ネットワーク機材の写真、また大学の情報ネットワーク構成図等を例示することによって具体的に解説した。さらに情報基盤整備にかかる経費に関して、システムの構築経費、補助金の有効活用、大学の総経費に占める情報システムの維持(管理運用)を含めたICT経費の規模の妥当性について概観した。
 次に、教育・学習を支援する情報システムの一つとして、芝浦工業大学のe-Learningおよびポータルシステムを例にとり、教員と学生の両面からWebをベースとした支援システムの具体的な運用実態を解説した。このシステムは、ポータルサイトを利用した教員自身による授業内容の確認や評価による授業の質的向上、また学生にとっては習熟度向上のための反復学習の保障、さらに授業コンテンツの一般公開等による大学の社会的責任の遂行等を目的に構築されている。芝浦工業大学ではすべての教室で授業の収録が可能となることを目標とした教室の設計を行った。また、収録された授業映像が自動的にコンテンツとして編集・蓄積され、その授業コンテンツがスムーズにネットワーク配信できるようネットワーク回線の大容量化をも考慮されている。一方、こうした教育環境を安全に安定して稼動させるためにデータが散逸、流失しないようなデータベースシステムの管理と全学的な情報漏えい対策が必要となる。その一環として、データベースの統合化やPKI、生体認証の導入、さらにシンクライアントシステムの構築・運用等により学内でのコンプライアンスの徹底が重要となることが説明された。
 最後に、大学での教育学習活動においてICTを活用することが教育効果の飛躍的向上のための基本的なプラットホームとなることを踏まえ、学生の学士力(学生が卒業するまでに身につける能力)の修得を支援する環境の整備・運用という役割の重要性を自覚し、真摯な姿勢でこれらに取り組むことが職員個々に求められているとした。


講義−3「情報技術の活用による教育支援・人材育成支援」
講師:斉藤 和郎氏(札幌学院大学情報処理課長)
事例紹介:仲道 雅輝氏(日本福祉大学教育開発室教育デザイン研究室主幹)

 講義1と講義2の理解を深めるため、「情報技術を活用した教育支援・人材育成支援とは何か」について、大学の情報化に必要な視点を獲得すること、大学の情報化を推進する職員像、組織像を思い描けるようになることを目的にIT活用の優れた実践事例を紹介しながら解説した。
 まず、「情報活用」と「データ処理」の違いについて明示した上で、すべての業務は教育支援、人材育成支援に関与しており、個々の教職員の活動の総体が大学の教育活動につながっているので、情報技術活用にあたっては、常に「建学の理念」や「教育目標」を念頭に置き、何が必要か、なぜ必要か、物事の本質を見抜こうとする意識が重要であることを説明した。
 次に、以下の三つの点について解説した。

(1)情報技術を戦略的に活用することはどのようなことか
 目的は何であるのか、大学の教育目標を達成するために何が必要でなぜ必要であるのか、また、評価手法は適切であるのかを確認し、到達目標を明確化することが大切である。

(2)情報システムを導入さえすれば問題が解決するのか
 問題を解決するためには、単に情報システム導入して情報を閲覧、共有するだけでなく、学生を支援する能力を職員が身につけ、教職員のモチベーションを喚起し、行動に結びつくような「活きた情報」を創り出して、情報や知識の「価値」、「概念」を共有することが重要である。

(3)職員に求められる役割とは何か
 一つは「新たなアイディアを提案する能力」で、社会、教員、学生からの多様なニーズに対応するため、建学の精神や教育目標に照らし、学外との連携も含めた広い視点からアイディアを提案できる能力である。もう一つは「優れたアイディアを実現、実践する能力」で、部署を越えたプロジェクトの推進や教員との協働、「Plan→Do→Check→Action」の科学的なアプローチにより、新たな価値を生む創造的な思考と対話のできる能力である。

 その後、実践事例として日本福祉大学より、教育改善の施策への職員の関与やe-Learningの手法、FD・教育改革の推進について紹介され、さらに、全学的なe-Learning推進による教育改革への試みとして、科目ガイダンスのオンデマン化への取り組みの他、2007年度現代GPの採択事例、ブレンデッド学習による学生中心の教育改革について紹介された。
 最後に、講義内容と実践事例を照らし合わせ、職員がどのように実践し、それにより教員がどのように変わったのか、また今後、どのような発展が期待されるのかについて、参加者各自が考察した。


2.グループ討議

 参加者が五つの班に分かれ、さらに各班で7〜8名の五つのグループを作ってグループ討議を行った。五つの班にはコーディネーター役の研修運営委員が1名ずつ付き、班やグループの構成は年齢、性別、業務部門等に偏りのないようにした。また、単なる情報交換や議論の発散にならないよう講義に沿った討議テーマの設定、到達度評価の導入による段階ごとの目的の明確化と成果の自己評価、グループ討議のレポート提出を通じた振り返りによる成果の定着といった工夫を行った。
 討議では、講義の中から汲み取った課題や具体的な先進事例を参考に、大学が抱える問題を1テーマ設定し、ITを積極的に活用した問題解決の方策を検討した上でまとめ、グループ単位で発表する方法を試みた。また、各段階での目標を掲げ、参加者自身による到達度評価を実施した。


3.レポート

 最終日に発表した内容を後日グループごとにまとめて提出してもらった。討議をコーディネートした委員からは「大きな課題を取り上げたが、観念的な話にならず自分たちの問題として、若々しい感性で問題解決方法の検討ができたと思う」とのコメントもあり、講義内容を十分に理解して討議に生かして、ITにとらわれない、学生の立場に立った解決策も多く見られた。また、長時間の討議により、参加者相互の人的ネットワークを広げるという目的もある程度達成することができたと思われる。


4.まとめ

 今年度の基礎講習コースは、参加者アンケートの結果からも目標達成度が高く、期待以上の成果を上げることができたと言えよう。一方、多くのグループでは討議記録や発表準備でパソコンを1台ずつ使うことができなかったので、設備面の充足は来年度の検討課題である。
 参加者の意識レベルや、各大学の置かれている現状・問題点のギャップをいかに埋めていくかは、様々な立場の参加者が多数集う研修会では常に意識しなければならない懸案事項である。今後の講習の成否は、共通認識として学ぶべき時宜にかなった講義を、体系的に準備することができるかによるところが大きい。ディスカッションの更なる質的向上も必要であろう。

 

文責: 研修運営委員会


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