特集 分野別学士力の提言 平成20年11月17日 社団法人私立大学情報教育協会
政府は、「教育基本法」に基づき、今後5年間に取り組むべき行動計画「教育振興基本計画」を20年7月1日に決定し、高等教育については、文部科学省の中央教育審議会のまとめを受けて、各専攻分野を通じて培う「学士力」(学習成果)の参考指針を作成し、今後、各大学に共通に身に付ける学習成果の明確化、分野別教育の質の向上・保証を行うための「学習成果」や「到達目標」の設定などの取り組みを促すとともに、教育の分野別質保証の在り方について日本学術会議で、それぞれの質保証に向けた枠組みづくりを進めることになっている。
そこで、質保証の審議について私学関係者の意見を参考に広範かつ慎重な検討が行われるべく、本協会では分野別「学士力」をとりまとめ、私立大学の教員の声として文部科学省に提言した。当協会による分野別「学士力」は、中央教育審議会の「学士課程共通の学習成果に関する参考指針」を基礎に、分野別の教育で最低限身に付けることが望ましい能力(分野ごとの固有の学習成果)を本協会の関係委員会で作成し、私立大学の教員約8,700名に意見聴取した上で手直しを行ったものである。今後さらに検討し、分野共通の能力を含めた詳細な学士力をとりまとめることにしている。
なお、以下の分野別「学士力」は、中央教育審議会の参考指針に合わせて「端的で簡潔」な表現になるようにまとめた。
1. | 身近な事柄について簡単な会話ができ、比較的短い文章を読み書きできる。 |
2. | 日常生活の話題や関心事について聞き話し、まとまりのある文章を読み書きできる。 |
3. | 必要な情報や説明を的確に把握し、要点を伝達して理解を得ることができる。 |
1. | 人間の心や行動が、生物学的要因、個人的要因および社会・文化的要因の影響を受けていることを理解できる。 |
2. | 人間の心や行動に関わる現象の要因を、科学的な手法を用いて明らかにできる。 |
3. | 心理学的理論や手法を、自己および社会の諸現象の理解に応用できる。 |
1. | 実定法の体系についての全体像と、基本的な実定法の原則・概念・ルールの意義を、定義並びに具体例で説明できる。 |
2. | 事例(基本的問題から複雑な問題まで)の概要を客観的に把握し、根拠となる法を発見し、事実に法を適用した法的結論を創造・正当化し、第三者に分かるように説明できる。 |
3. | 広い視野から、法の背景あるいは基礎を構成する原理に基づき、法を批判的に分析・評価できる。 |
1. | 日常の経済生活や経済全体の基礎的な理論を理解できる。 |
2. | 経済の歴史や制度と今日の経済情勢の知識を身に付ける。 |
3. | 国内外のさまざまな経済政策の基礎的な知識を理解できる。 |
4. | 経済データの意味を理解し、必要なデータを収集・整理して、統計的な処理ができる。 |
5. | 現代社会の経済問題の倫理的側面の重要性を理解できる。 |
6. | 経済問題を総合的に分析し、自主的な意思決定に活用できる。 |
1. | 企業をはじめとする「組織」の全体的な仕組みを経営資源と関連付けて理解できる。 |
2. | 経営理論に基づき現実の組織行動を論理・実証的に捉えることができる。 |
3. | 企業をはじめとする組織の一員として、現実の問題に対して解決策を提案・実践しようとする姿勢を持つことができる。 |
4. | 企業をはじめとする組織の社会的責任の重要性について認識できる。 |
1. | 会計情報の特徴や作成プロセスが理解できる。 |
2. | 組織活動の財やサービスを計数的に測定し、伝達できる。 |
3. | 組織の経済活動の実態を会計情報として体系的に把握し、問題発見・解決のために利用できる。 |
4. | 会計情報の有用性を理解し、経済的意思決定ができる。 |
1. | 人間と社会環境の視点から、現代社会の生活に関わる諸問題を把握し、改善・解決に必要な社会福祉の仕組みを理解できる。 |
2. | 人権尊重及び社会正義の理念を確認し、ソーシャルワークの目的・価値・倫理の概要を理解できる。 |
3. | 利用者を理解し、利用者ニーズを分析できる。 |
4. | ソーシャルワークの専門的な知識及び技術を身につけることができる。 |
5. | 社会福祉に関する制度・政策を客観的に分析し、社会に必要な資源やサービスプログラムを企画する応用力を身につけることができる。 |
1. | 現代の国家、地域、国際組織などで構成する国際関係の基礎的な仕組みとその背景を理解できる。 |
2. | 国際的な課題等について国家、地域、国際社会の観点から調査・考察し、多元的・複合的な分析ができる。 |
3. | 国際社会と国家、地域、個人との関係を認識し、国境を越えて協力し、支えあう態度を身に付けることができる。 |
1. | 数学のさまざまな概念を習得し、社会生活の中でそれらの意味を的確に理解できる。 |
2. | 数量化・図形化・記号化などの手法により、自然・社会現象を数理的に表現することができる。 |
3. | 数理モデルを活用して、確実に問題の処理ができる。 |
4. | 数学の学習を通じて論理的姿勢を身につけることができる。 |
1. | 物理学の法則と概念の基礎を理解している。 |
2. | 自然現象を科学的に考察するために、仮説を立て、モデル化し、数理的技法を活用することができる。 |
3. | 実験結果や観察に基づき、自然現象のしくみを客観的に捉える態度を身につけている。 |
1. | 物質科学の観点から、身の回りの現象・事象や環境・食料・エネルギーなど多くの問題を適切に認識し、判断できる。 |
2. | 化学物質の性状や化学反応の基礎知識、実験技術および数値解析技術を用いて問題解決に取り組むことができる。 |
3. | 現代化学における新たな知見に基づいて論理的思考を行い、持続可能性・安全性・信頼性などに配慮して、物質を適切に活用することができる。 |
1. | 生命の本質や生物の基本単位である細胞の構造と機能およびそれらを支える遺伝子とそこから導き出される生体分子の働きなどを理解できる。 |
2. | 生命誕生以来の長い進化の歴史の中で獲得された生物の共通性と多様性を理解できる。 |
3. | 生態系の機能と構造が理解できる。 |
4. | 観察や実験で得られた結果の図式化、モデル化による提示・発表ができる。 |
5. | 多様な生物や生命現象の観察・実験を行うことにより、実証に基づいた自然科学的で客観的な論理性を身につけることができる。 |
6. | 生命の尊厳や生命倫理について適切に配慮できる。 |
7. | 進展するバイオテクノロジーを理解し、生命倫理と安全性に配慮した判断ができる。 |
8. | ヒトの健康の維持・管理や食の安全に配慮できる。 |
9. | 生態系の維持や環境・エネルギー問題などを理解し、地球環境の持続的維持に配慮できる。 |
10. | 生物学で学んだ知識・技術・態度を統合し、豊かな社会の構築に配慮できる。 |
1. | 人間や社会に有益な機械・システムを構想できる。 |
2. | 力学系、熱・エネルギー系、材料系、制御技術系、数理・情報技術系等の基礎知識を理解し、CAD/CAE等の技術を活用して、機械・システムを設計できる。 |
3. | 設計した機械・システムを製造するために、加工学・生産工学等の基礎知識やCAM等の情報基礎技術を理解することができる。 |
4. | 機械・システムの設計・製造および運用・管理の中で、自然との共生、安全性や倫理性等に十分配慮することができる。 |
5. | 身の回りの機械・システムに対し、その問題点を指摘したり、改善案を持つことができる。 |
1. | 電気工学、通信工学、電子工学の基礎知識を持ち、エネルギー、ネットワーク、コンピュータ、材料・デバイス、計測・制御等の関連技術の基礎を理解できる。 |
2. | 電気通信関連分野における種々の問題解決に際して、設計、シミュレーション、プログラミング、試作などの基礎技術を身に付けている。 |
3. | 社会の基盤である電気通信技術の重要性を理解する中で、自然環境や社会環境との関わりを常に認識し、安全・安心に配慮することができる。 |
4. | 電気通信技術者として、社会のニーズに応える最新技術の動向を把握し、積極的に取り入れ、活用できる。 |
1. | 力学系、測量系、地盤系、コンクリート系、水理系、環境系、計画系など、土木工学の専門基礎を理解できる。 |
2. | 「設計、施工、維持、管理」に関わる総合的マネジメントおよび各工程における現実的な課題を見出すことができる。 |
3. | 社会基盤整備において、土木技術者が自然および社会に及ぼす影響・効果の重大性を理解し、技術者としての倫理の重要性を認識できる。 |
4. | 自然・社会・文化・歴史などに親しみ、土木技術者として「自然環境と社会との調和」の重要性を理解できる。 |
1. | 建築に関する学術、技術および芸術の包括的な専門知識を修得できる。 |
2. | 生活環境の継承および構築に必要な建築の技法を身につけることができる。 |
3. | 生命の安全、財産の保護、公共の福祉の視点から、建築を考えることができる。 |
4. | 建築に関する問題解決力や創造的思考力の基礎を身に付けることができる。 |
1. | 経営資源を有効活用するために、企業や組織体の活動を科学的に調査し、分析できる。 |
2. | 企業や組織体の活動に関して課題の発見、課題の構造化、課題の解決に必要な基礎能力を身に付けることができる。 |
3. | 企業や組織体の活動に必要なシステムの計画、設計、運用、管理、改善の基礎知識・技能を身に付けることができる。 |
4. | 技術と経営およびこれらを取り巻く社会との関わりを理解し、社会的責任に配慮することができる。 |
1. | 情報通信技術の基本原理および技術的要素の基礎を理解している。 |
2. | 情報通信技術の基本的なツールを必要に応じて、問題発見・解決に利用することができる。 |
3. | 情報通信技術を応用したシステムのライフサイクル(要件定義、設計、開発、構築、運用、保守)の概要を理解している。 |
4. | 情報通信技術の利用を通じて、社会の安全・安心を考えることができる。 |
1. | 栄養・食生活と心身の健康との相互関係を理解できる。 |
2. | 栄養・食品・調理の知識を持って、個人および集団の健康増進・維持・管理に関する栄養教育ができる。 |
3. | 疾病の予防・治癒および再発を防ぐための食事・栄養療法について、科学的根拠に基づき説明できる。 |
4. | 食環境づくり(食情報・食物確保・食の安全など)の必要性を理解できる。 |
5. | 栄養マネージメントの基礎となる栄養評価と栄養改善計画が実施できる。 |
1. | 被服の歴史・文化や役割を理解し、表現する能力を身につけている。 |
2. | 人体と被服構造・構成の関係を理解し、表現できる。 |
3. | 被服材料の特性を理解し、企画設計、着用評価、維持管理ができる。 |
4. | 被服関連産業を理解し、社会のニーズを把握する方法論を身に付ける。 |
5. | 被服と環境との関わりの重要性を意識し、生活の質の向上に配慮することができる。 |
1. | 学びの意義と教育の必要性を論理的、分析的に理解できる。 |
2. | 意欲と能力に応じた学びに配慮した教育をデザイン(設計、実施、評価、改善)できる。 |
3. | 教育が直面する課題や問題に自らが積極的に関心を持つことができる。 |
4. | 教育学を学んだ者としての責任と義務について、その重要性を自覚できる。 |
1. | 身体運動を通して、健康の維持増進の重要性を学術的に理解できる。 |
2. | 身体を動かす喜びを実感し、個人および社会の生活の質の向上に役立てることができる。 |
3. | 身体活動・表現を通して、コミュニケーション、リーダーシップの向上に役立てることができる。 |
4. | スポーツ競技に関する知識・技能を習得し、スポーツの発展に役立てることができる。 |
1. | 社会、歴史、科学などの観点から芸術を理解できる。 |
2. | 感受性に富み、創作を通じて独創的な表現ができる。 |
3. | 芸術系分野における専門の理論と技術を結合し、社会の中で活用できる。 |
1. | 社会における統計データの重要性を理解でき、それから導かれた結果を客観的に評価できる。 |
2. | データを統計的に整理し、表やグラフを用いてデータの特徴を説明できる。 |
3. | 統計的な調査や実験の仕組みを理解し、母集団の特徴を表現できる。 |
4. | 因果関係を検証するために統計的手法を活用できる。 |
5. | 統計的な考え方・技能を活用して、実際上の問題に取り組むことができる。 |