研修事業報告1

教育改革FD/IT理事長・学長等会議開かれる


 去る、8月7日(木)日本大学の大学会館を会場に106大学10短期大学より207名の理事長、学長、学部長等が参加して開催。
 今年度は、学士課程教育の構築に求められる課題を確認する中で産学連携による学士力強化の可能性について共通理解を得る場とした。会は、戸高敏之会長(同志社大学)より「大学自らの教育改革に限界がある。大学連携、高大連携、産学連携の中で日本全体として力を結集することが喫緊の課題である」と開催趣旨の説明があり、次いで会場校を代表して、日本大学の小嶋勝衛総長(当時)より「時代を生き抜く強い精神力を身につけさせるには、人材育成のプロとして、教師の専門性が要求される」との挨拶があった。会は、引き続き講演、全体討議、関連情報の紹介に入った。以下に会議の概要を紹介する。


1.基調講演

「中央教育審議会での学士課程教育の構築について」

 鈴木敏之氏(前文部科学省高等教育政策室長、現東京大学本部統括長)より、概略次のような説明があった。

1) ユニバーサル化による進学率上昇と定員割れの二極化という入口の問題、産業界からの汎用的基礎力の要請という出口での問題等が顕在化し、諸環境を前提とした政策、施策の再点検が余儀なくされてきている。
2) 高等教育に対する投資が大きな問題となってきている。量的拡大を続け、質を低下させないで維持向上するための資金の捻出、配分をどうするか。経済界、教育再生会議では、「ひびの入った器に予算を入れても漏れるばかりで意味がない、器を直すのが先だという」議論が出て一定の理解を得てしまう。大学を見る視線の冷たさがある。
3) 7月に教育基本法の行動計画としての「教育振興基本計画」が閣議で5年間の政府としての施策プランの一つとして、学士力という学習成果の達成を目指していくことが決定された。現在、文部科学省中央教育審議会で9月の総会に向け、留学生30万人計画や予算など情勢変化を含め検討が続けられている。
4) 「グローバル化、ユニバーサル段階の基本認識」としては、過剰論を打ち消し、積極評価している。全体として今の現状をすべて肯定するのでなく、社会の負託・信頼に応えているのかどうか、教育のために本当に汗をかいているのかどうか、反省や見直しも多々求めている。
5) 具体策は第3章の通り、学位の授与、学習の評価という「出口」、教育の内容方法等の「中身」、高等学校の接続の「入口」の改革、条件整備としての教職員の職能開発、質保証のシステムの順で説き起こしている。ここでの狙いは、「どういう学生にどのような資質・能力を求めて受け入れ、どれだけの教育内容、学習内容を実施して、結果的にどれだけの力をどこまで深く極めたら社会に送り出すのか」という、入口、中身、出口の三つの方針が統合された教学の経営マネージメントになっているのかどうか強調している。
6) どこが大事か。今回は出口の学習の評価、いわゆる「学士力」を全面に出すようにした。欧米では、アウトカムを重視して改革が進められてきている。「何を教えるかではなく、何ができるようにするのか」という観点を変えることにした。学士力、教員のコンピテンシーなどの明確化への取り組みは、イギリスをはじめ国際的に広がりつつある。参考指針なので法的に義務付けたり、強制するようなものではない。13の能力の要素を掲げたわけで、深さ、水準は大学で考えていただくことになる。
7) 学士力の参考指針を一つの検討のきっかけとして、学習成果の目標、学習環境の整備、教員の教育力、多様な学生に直面する課題に向け、教育の方針を作る過程で、FDを組み込む中で教員間で共通の認識を作る必要がある。FDが実質的なものとなるよう、出口、中身、入口が教学経営の中で統合されるかが、成否を左右することになり、それがFDなのだということを強調したい。
8) 分野ごとの学習成果については、日本では学協会、大学団体による評価尺度作りの動きは進んでいないこともあり、学術会議に審議依頼して2年、3年かけて深めていくことになる。最初の1年は分野横断的な全体方針を議論し、早ければ来年度中に重点的にとりあげる分野について成果が得られるようにとのことで、時間かけるものについては3年目になるとのこと。
9) 学士力を単にスローガンではないものにしていくには、評価システムの在り方としても考えなければならない。評価との関係で分かりやすい例として、OECDでAHELO(Assessment of Higher Education Outcomes)として高等教育段階の学習成果を測定しようという動きがあり、日本もどのように対応するのか大きな議論になる。2年ないし3年実験的なフィジビリティスタディを踏まえて、日本として世界に通用するアウトプットをどのように作るのか、解決策を考えられるのか、大きな節目にもなってくるであろう。


2.講演

「初年次教育における大学戦略と課題」

 濱名 篤氏(関西国際大学理事長・学長)より概略次のような講演があった。

1) 何故今、初年次教育が必要なのか。海外の動向も含めて整理すると、一つは中退率の抑制に役立っている。アメリカでは学生のドロップアウトの減少に初年次教育が役立っている。二つは、学生の適応促進や学習への動機付け強化ができることから、教員へのFD効果がある。三つは、4年間の学士課程教育全体に対する視野をもっていることから、自己分析してライフプランを作っていかなければいけない。学期の履修ガイダンスでカバーできない奥行きのあるテーマを扱っている。
2) 全入時代の課題として、一つは、学力だけでなく学習動機、学習習慣が多様化してきている。二つは、教育している側が教育目標を共有できているのかどうか。医歯薬系、教員養成系以外は方向性がほどんど定まっていない。三つは、大学中退と5割以上が大学から社会への移行の途中でキャリア挫折している。就職後、3年で3割が離職している。
3) 中央教育審議会答申の中で大学に求める主な対応としては、一つは到達目標の明確化を検証・評価可能なアカウンタビリティを求めている。二つは、体系的・組織的な教育課程編成として、キャリア教育と初年次教育が学士課程教育の一部として位置付けられた。三つは単位の実質化、四つはティーチングからラーニング、体験重視の教育方法の改善、五つは卒業のアウトカム評価の方法となっている。六つは、高大接続のシステムの見直しがあげられている。
4) 初年次教育とは、高校から大学への移行と大学への適応を促進する教育プログラムで、アメリカの1年生の時の体験から始まった。ジェネリック(汎用的)の内容を重視しており、学士力や社会人基礎力の要素がかなり入っている。授業方法は学生に考えさせる、作業させる要素が強いのでジェネリックスキルを伸ばすことが可能。教育内容としては、大学生活への適応、読み、書き、批判的思考力、調査、時間管理などの学習技術の獲得、自己分析、ライフプランからキャリアプラン作りへの導入、それを受けて学習目標、学習動機の獲得、専門教育への導入の流れとなっており、これらの内容を大学の到達目標との関連の中で取捨選択して、カスタマイズする(図1)。
 
図1 初年次教育・導入教育・キャリア教育・
リメディアル教育との関係(概念図)
 
5) 初年次教育の一次効果としては、一つは1年生の早期に教育したほうが持続しやすい。二つは学生生活全体に積極性が出てくる。三つは学力の低い学生に効果が上がっている。ただし、2年、3年、4年とそれぞれの時点に応じた継続的支援が必要。
6) また、アクティブ・ラーニングの導入に初年次教育はメリットがある。ディスカッション、ディベート等により双方向対話型の授業を展開し、事前・事後の学習を通じて文章力、表現力、読解力、分析力、思考力といった学習を1年生にグループで行うことが学生をアクティブ・ラーナーに育てる。それには、次のような戦略が必要である。一つは、学生に具体的な学習目標と基準を提示すること、二つは教員が科目の目標を自覚しつづけること、三つは他の教員と連携して、授業目標を認識する中で共通素材の使用、共同すること、四つは学生を誉め、エンカレッジすること、五つは頻繁な添削・返却、六つは学生に成長を自覚させるためにポートフォリオを使用している。
7) )世界での動向は、孤独である学習者を作らない。グループによる協働履修で同じ科目を互いに傾向と対策を学習させる。教員もコミュニティを作って課題の与え方など調整する。専門科目と連動しながら地域貢献学習が増加している。同じ本を学生と教員が一緒に読むコモンリーディングや入学式等の共同体験によるキャンパス・コミュニティ作りが強化されてきている。コースマネージメントのソーシャルネットワークなど情報技術の活用、大学図書館機能が情報リテラシー技術重視へ、ライティングの重視、調査コースにおける批判的思考力の強調、小人数教育の重視、TAを一緒の授業に出させて学習支援センターでフォローアップする。学生自身の成長を測定・評価するポートフォリオが多用されてきている。
8) まとめとして、効果的な評価を上げるためには、一つ、目的・目標の設定から始める。二つ、総花的な評価、想定外の効果を期待せずに最も重要なことに集中する。三つ、主観的満足度だけに手を出さない。統制できないことに手を出さない。四つ、多元的な尺度の活用、評価プランのない実施計画では効果は証明できない。

 

「欧州等における大学教員に求められる教育力」

 加藤かおり氏(新潟大学大学教育開発研究センター准教授)より概略次のような講演があった。

1) なぜ、大学教員の教育力が欧州で課題となっているのか、その背景としては、一つは知識基盤社会の影響で、知識社会では体系化された知識よりも、学習者自身が目的的に再構成し、知識を創り使いこなすことができることが重要になってきた。学生の学習の動機付を高めること、達成感をもたらすことが教育の成果として重要になってきた。二つは生涯学習社会の影響で、激変する社会を生き抜くため、一生涯が学習のプロセスであるため、自立した学習活動(自身で学習目標を立て、計画し、実行して振り返ることができる)を可能にすることが優先されるよう「学習者の支援」を重視する教育が必要となってきた。三つはグローバル化の影響で、何をどこまで身につけたのか、学習歴が国際的に通用することが必要となるとともに、学位の質の標準化として教育の質の保証について責任を求められてきている。
2) これらの社会で大学教員に求められることは、学習者中心の授業を設計し実践できる。学習を可能にする教育課程や教育体制を計画・実行できる。担当科目だけでなく、プログラムの視点で学習を支援できる。大学の教育方針に沿って質の基準に照らして学習内容や方法を解りやすく説明し、質の保証に取り組めるまたは協力する姿勢が重要になってきている。欧州では大学教員の教授資格化(プロフェッショナル化)と教育力証明の基準作りが行われている。
3) 欧州圏の実際の取り組みは、2004年から2008年にかけて26カ国が参加する欧州委員会ソクラテス計画のプロジェクトとして、NETTLE(大学教育レベルの教育者のネットワーク)による大学教育に関する欧州基準のメタフレームワーク作りが行われた。ここでは、一つは共通する大学教育の背景として教授資格化、組織の一員としての教員の意識化、分野別教育の開発が必要とされていること、学生が学習を深めることを促進することが高等教育の目標であることを提示した。二つはティーチングのための四つの知識として、教育内容について自分勝手に決めるのではなく、専門分野の規範・要件など全体としての標準を把握すること、三つは学習、ティーチング、成績評価についての理論と実践、四つは学生の能力と期待を把握しておくことが必要とした。五つはティーチングに必要な大学教育のプロフェッショナルとしての美徳・原則(姿勢・態度)が必要。
4) ティーチングのコンピテンシーとして、学習・教授の方法の明確化、学習を支援、評点をつけフィードバック、教育実践の効果について客観的に見直して効果の向上を継続的に行う。26カ国によって順位づけられたコンピテンシーの27項目をまとめると、授業では学生の学習を促進する授業運営、省察的な教育実践、教育課程では事実的な学習を可能にするプログラムの編成と質保証への協力、大学全体では学習を奨励する環境作りなどとなっている。
5) 英国における取り組みとしては、2006年に全英レベルの大学教育の教育職能に関する基準枠組みを作成した。2006年以降、大学は修士レベルの教授資格課程(PGCHE)修了証明書の取得を新任3年間の仮採用中の教員に義務付けた。英国では、3年の間に先輩の教授に自分の職業、職務に必要なキャリア教育を受けることが職務規程として定められている。とりわけ教員評価と開発がセットでとらえられ、職能開発は義務というよりは教員の権利というようにとられている。各大学で教授資格課程を開発し、高等教育アカデミーで認定している。ここで認定している基準枠組みは以下の通りで、学習者中心の教育デザイン、学習支援、研究と教育の統合、教育開発、専門職能開発への自主的取り組み、大学教育プロフェッショナルとしての姿勢が重視されている(図2)。
 
図2 英国のPSFにおける教育職能の内容
 
6) こうした取り組みへの背景に欧州における教育の質保証にかかわる動きがある。その一つが欧州高等教育質保証協会が2005年に作成。その中で「教育スタッフの質の保証」として、「各機関はスタッフ採用や選定の手続きにおいて、すべての新スタッフが少なくとも最小限必要な能力レベルを持っていることを確認しなければならない」「教育スタッフは、その教育の能力を向上させる機会を与えられなければならず、そのスキル価値を高めるよう奨励されるべきである」として、教員の自己努力だけで教育能力を高めるのではなく、支援されるべきものであること、高等教育機関として、基本的な教育力について説明できるのか、どのような基準に基づいて、どのような教育力を保証しているのか、教育力を向上する機会の保証などの対応が問われている。
7) 以上、欧州の事例から、日本の高等教育機関における教育の質が世界標準に通用するものであるためには、教育システムや教育内容だけでなく、その担い手である教育者の質の保証も必要である。それには、教員の基本的な教育力を証明する手段、基本的な教育力について何等かの基準を持っている必要がある。我が国としても、各機関および機関を超えるネットワークで基本的な教育力の基準枠組み、授業運営をはじめとするプロジェクト・マネージメント能力も含め、教員のプロフェッショナリズムを時間かけて作ることができるのではないか。教育力の転換への取り組みに関しては、競争よりも協働が必要なのではないか。

[質 疑]

Q1 :ティーチングコンピテンシーでの学習教授法、学習支援の方法、効果を省察して理解するなどの具体的な方法とは。
例えば、PBLを学部・学科で必要とされている課題は何なのかをとらえ、学生が学習の中心にくるようないい方法を一緒に考えていける能力が必要。重要なのは学習者中心にPBLをトピックとして入れる大学もあれば、大人数授業ではPBLを行うのは難しいので、課題のトピックとしては双方向性を入れるというようなことになる。
Q2 :どのような教育をどのようにFDして、どのような教育システムにするのか、新たな提案があれば。
授業では、アクティブ・ラーニングを取り入れる。プログラムレベルでは、アクション・ラーニング。授業の中で学んだことを実習等をで体験し、また授業の中でグループで振り返り、学生自身で課題を見付けて取り組むような教育方法がある。
Q3 :ヨーロッパにおいては生涯学習社会をどのように具体的に展開されているのか。ITを利用した教育の展開がなされる可能性があるのでは。
若年層だけでなく欧米では社会人入学者が多くなっている。高齢者は多くはない。日本のように教育の最終段階ではなく、生涯というプロセスの中の一つとしてとらえている。大学ですべて教えられるわけがないし、また教える必要もない。自分で学習を組み立てられる能力を身につけて自ら学習していける能力を付けていくことが一番基礎にある。一度社会に出て戻ってきた成人を日本よりも意識して、成人学習などの中で学習理論として積み上げて教育改革を進めている。eラーニングなどについてもできることと、できないことを使い分けて教育開発を進めていくことが必要であるという議論が進み、開発が進んでいる。


3.全体討議

「大学、国、社会連携による学士力強化の可能性を考える」

 向殿政男座長(明治大学)より、基調講演、講演を受けて部分的には既に取り組まれている大学等があると思うが、個々の大学がどのような方法で課題に応えればよいのか。建学の理念に基づき社会の信頼に応え得る人材育成強化の目標を明確化し、その実現に向け行動計画を策定し、理事会、教職員が一体となって確実に実行していくことではないか。しかし、一大学での努力にも限界がある。大学連携、国・社会・企業等による支援がなければ教育の質保証の実現が大きく後退する虞れがあるとして、テーマを設定したことの趣旨説明があり、問題提起者として椎名市郎氏(中央学院大学学長)の紹介があり、同氏より、教員による授業改善調査の結果(白書)を踏まえ、次のような四つの問題提起があった。
 一つは、「産学連携による教育の質を保証するセンターの形成」として、医歯薬系は学習到達目標に基づくコア・カリキュラムの策定、到達度の測定が実施されているが、人文・社会系は学士力の質保証への総合的な対応や測定方法の研究が進んでいない。知識基盤社会の人材育成として出口管理強化と国際的に通用する教育を実現するには、到達目標、コア・カリキュラムのモデル化などオープンなナショナルセンターのようなシステムが期待される。また、米国では会計学の教員は9ケ月しか給料が出ておりませんので、夏は公認会計士として会計事務所に入り2ケ月間フィールドワークを積んで9月の新学期から新しい実務の動きを見ながら教壇に立つという教員のフィールドワーク体験が教育の質保証に大きく貢献している。企業関係者との人材育成ニーズのミスマッチを解消するために、企業等のとの連携の中で教員によるフィールドワーク体験も有効である。
 二つは、「文部科学省と大学が連携したFD事例のアーカイブ化」で、FDには職務意識・倫理の徹底、教育態度の点検、学識力の向上、IT含めた教育技術や授業改善のための実践力の発揮、カリキュラム再編への協力、筆記試験に依存しない成績評価の構築など取り組むべき課題が多い。大学が取り組んでいるFDを公開し、アーカイブすることで他大学の取り組みを学び最適なFDを選択・創出することが可能となることから、ナショナルセンターなどの設立が急がれる。
 三つは、「大学連携による教育資産の共有化」で、学士力を高める環境として、初年次教育や補習教育、分野別コンテンツを効果的に使用するシラバス情報とリンクしたポータルサイトの構築が急がれる。国公私立大学も含めた教育アセットの構築を私情協に期待したい。
 四つは、「産学連携による教育サポータ制度の実現」で、教員が授業で直面している最大の課題は学習の動機付け、学習意欲を高める授業デザインの工夫・向上にある。それには、手段として学生を授業にひきつけるための社会現場での学びの重要性を紹介する映像による現場情報、体験情報、エビデンスが必要である。授業の社会的必要性を学生が認識しやすくするため、経営者の成功・失敗談などの紹介や指導を通じて人間力も養成できると考える。会計学の世界でも産業界を交えてシンポジウムを開催したが参加が思わしくない。経済団体連合会のワーキンググループでも産業界は大学との連携に関して抵抗感、不安感があるとのことで、産業界、地域社会による大学教育サポータ制度の構築と普及が望まれる。
 なお、若干の危惧として、欧米のモデルを参考にポリシーを構築し、PDCAで管理しても、学士力の質保証の計数的測定な問題もあり、文系では普及できるであろうか。産学連携は特定の教員と企業による「点」となっており、「線」となっていない。他えば、窓口は学部長を中心にすすめるなど、教員と事務局が一体となった組織的な対応がガバナンスとして求められる。

[討 議]

Q1 :学士力について客観性を持った評価のできない理由はいくらでもあげられるが、日本全体で学士力を評価するような手法、開発しようとする方向性はどうか。分野が限られていてもやがて拡大していけばいい。日本でも「社会人キャリア力育成検定」などがあり、神奈川工科大学でも300名受けさせて学士力の変化をみることができた。今後日本にこのような動きはあっていいのではないか。
計数化は非常に難しいが、米国では300大学7万人が使用しているCLA(Collegiate lerning Assessment)がある。批判的思考力、分析的論理付力、問題解決力など文章題で評価している。日本が非常に遅れている。教育は計数ではかれない、でも計数は必要である。ヨーロッパでは点数化ではなく、学生自身がどのように変化したのかポートフォリオなどで総合的に評価していくとのことで、数値化はまだ難しいかと思う。
質保証は各大学が決めることになる問題で団体として結論つけるものではないが、何等かのレベルを提言するような会は持ちたい。
国家試験を実施の医学、歯学、薬学では大学共用試験を毎年関連の大学から試験問題を募集し、コア・カリキュラムに沿った問題を選定し、アーカイブ化してコンピュータを介して学内での到達試験に活用している。知識だけでなく技能、態度についてもビデオでの模擬診察を見て評価しており、共用試験も一つの方法ではないか。また、経済学でも学会レベルで試験を実施して到達度を測定することが始まった。
Q2 :産学連携の在り方としていろいろあるが、トップレベルの産業界の方にかかわっていただくために何かヒントはないか。教育資産のアーカイブ化にはコンテンツの種類、サイズなり何か示唆できるといいのだが。
経済同友会では小学校にトップレベルの経営者が働くことの重要性など人材教育を無料で出前教育している。そのような人間力を養成する講座なりを、10分でも生講義いただき、それをビデオ・オンデマンドで配信できるようにしてはどうかと考えている。私情協としてもFD、教育、学士力の向上には様々な産学連携があるので、協力できることを探りながら提案していきたい。

<まとめ>

 これまでの意見を踏まえて、座長より全体会議でのまとめが提示された。

一、 社会の信頼に応え得るよう、学士課程教育における到達目標の明確化に努める。
二、 産学官連携による教育の質保証に関する研究を積極化する。
三、 文部科学省のFDナショナルセンタの設置を支持する。
四、 教育資産のデジタル化を進め、大学間での相互利用に努める。
五、 教育改善の実現に向け、産業界、地域社会等による支援を積極的に要請する。


4.関連情報提供

「私立大学教員による授業改善調査の結果」

 19年度時点での授業改善白書が新聞各社で報道された。一部には、教員からみた大学の問題点として、「組織的支援がない、教育の質保証に対する危機意識が希薄」としていることに、「学生のレベル低下に無頓着な大学が少なくないことが伺える」との報道もあった。授業でのIT使用は、学習支援にWebサイトを使用している割合は25%程度で拡大していない。調べごとには使用しているが自学自習での使用が停滞している。3年前の16年度時点で3年後に期待した19年度の使用が、ほとんど実現されておらず、大学の支援に裏付けされていないことが明らかになった。また、IT使用の効果では、授業に刺激を与える効果はあるが、成績向上につながらない。ITだけの使用に依存しても限界がある。課題は、バランスのある授業設計の教育力を教員が身につけるとともに、学生がノートをとれるよう初年次教育の徹底などの学習支援が併せて必要であることが明らかになった。


「教育の情報化投資の実態」

 19年度決算によると、教育研究部門の1大学当たりの投資額は2.4%増加した。短期大学も4.2%増加した。ただし、短期大学法人では20.9%減少した。設備関係の投資状況をみると、大学は減少58%、増加41%、短期大学は減少60%、増加39%と減少傾向にある。工事関係は大学減少44%、増加36%、短期大学は増加36%、減少30%と増加傾向にある。経費面では、大学は、設備費の技術革新による低廉化により4%前後減少する替わり、ソフトウエア関係40%の増、保守・管理費16%の増となるなど、教育研究の質の向上、維持管理に重点化してきていることが伺える。なお、短期大学は設備費17%増となっており、インフラとしての環境整備の遅れを補っていることが伺える。昼間部の学生平均の一人当たりは、大学で5.8万円で前年同額、短期大学は4.3万円と0.1万円上昇した。
 規模別の詳細は、以下の通りである。

表 大学規模別 教育研究部門の情報投資額


「著作権手続きネットワ−ク代行事業」

 本協会は文化庁の著作権等管理事業として国、公、私立大学における教育研究の電子著作物の流通事業を進めている。これまでは無料のコンテンツを対象に事業を展開してきたが、20年度からは有料コンテンツについても仲介できるようにした。協会の事業は、コンテンツの相互利用、著作権処理の簡便化、企業等との権利処理の仲介を無料で実施しており、さらに提供者には大学の授業での利用履歴情報をフィードバックすることにより、教育業績のエビデンスに活用できる機能を有している。

図3 電子著作物権利処理事業の概要


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