研修事業報告2

教育改革IT戦略大会 開催報告

 本大会は、文部科学省の後援を受け開催している。「教育改革を促進するため組織的な教育力向上の教育戦略、教育改善効果を高めるIT(情報技術)の活用法について情報提供、授業事例の紹介を行う」というこれまでの開催趣旨に、「教育現場の課題解決を模索するためテーマごとに研究討議する」ことを加えて教育改革をより重視するため、これまで6月に開催していた「教育改革ITフォーラム」と本大会を統合し開催することにした。また、名称を「大学情報化戦略大会」から「教育改革IT戦略大会」に改称し、趣旨に沿ったプログラムを企画することにした。
 今年度は9月2日から4日までの3日間、アルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)で開催し、参加者数は、382名(148大学、17短期大学、賛助会員20社)となった。
 初日の午前中は本協会の戸高敏之会長の開会挨拶の後、「社会の期待に応える大学教育とは〜学士課程教育の構築に関する答申」と題して、文部科学省の榎本 剛氏(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室長)より、文部科学省中央教育審議会でまとめられた学士課程教育の構築に関する答申を踏まえ、大学で取り組むべき課題や国として支援すべき課題について紹介いただいた。
 午後の前半では「教育改革推進に向けたFD活動」と題して、FDおよび学習の支援センターを中心とした具体的なFDの取り組みについて、山口大学の小川 勤氏(大学教育センター教授)と、大同工業大学の酒井 陽一氏(授業開発センター長)に紹介いただいた。
 午後の後半では「教育改革支援のためのSD活動」と題して、学校法人立命館の本間 政雄氏(副総長、大学行政研究・研修センター長)より教職員一体となった教育改革の実現に向けた職員の意識改革、企画・運営能力、コミュニケーション能力の育成について紹介いただいた。
 2日目はA、B、C、D、E、Fと並列に六つの会場に分かれて、教育や支援環境へのIT活用について81件の公募による発表を行った。また、最後に大学教職員や賛助会員企業のコミュニケーションの場として、情報交流会を行った。
 3日目はテーマ別自由討議として、「A:FD実質化への取り組み」、「B:学士力を高める教育システムの試み」、「C:学習支援組織とSD活動」、「D:初年次教育と学習スキルの定着」といったFDや教育システム、教育支援を中心に4テーマを設定し、分科会形式で行った。各分科会では2〜3名の課題提起者にテーマに沿った実践事例を紹介いただき、事例を踏まえて参加者が現状の問題点や課題を改めて認識するとともに、課題解決に向けた具体的な討議を行った。
 賛助会員の企業45社による展示会は、2日目の午後から3日目まで、教育支援システムや学生サービス業務、ネットワーク環境、セキュリティ対策など、大学に関連した製品やシステムの多くの展示が行われた。
 次に、各セッションの内容について報告する。


第1日目(9月2日)

報 告

「社会の期待に応える大学教育とは〜学士課程教育の構築に関する答申」

文部科学省高等教育局高等教育企画課
高等教育政策室長 榎本 剛氏

 文部科学省中央教育審議会でとりまとめている学士課程教育の構築に関する答申のねらいや方向性について、大学を取り巻く国内外の動きを踏まえて紹介された。
 先進主要国のGDPを見ても日本の国際的な競争力は下がっているという議論が出ており、教育でも、OECDやPISAなど国際的な学力テストの結果から、日本の小中学校の学力低下が問われている。OECDでは大学でも実施しようという議論もあり、大学の質保証は国境を超えた関心事となっている。文科省も支援しながら日本の大学の質保証のあり方を構築していきたいと思っている。
 文科省の中央教育審議会では、平成17年に将来像答申として高等教育の将来像を打ち出した。その後、大学院に関する答申をまとめ、今回の学士課程に関する議論に至っている。本大会で提示したものは、20年3月に出した審議まとめのうち主要な施策を抜き出したもので、大学の取り組みや国による支援取り組みについて100弱の提言にまとめており、大きく三つの方針(出口管理、教育課程と教育方法、入口)を出し、学士課程レベルにおける学生が卒業までにどのようなスキルを身につけたらよいかといった観点で整理している。また、この三つの方針を支えていく体制作りとして教職員の能力開発を提示している。答申は各大学の取り組みを尊重しながら、学習成果に関する参考指針として位置付けている。
 企業が消費者からの強いニーズを踏まえて多様化したサービスに対応するような時代において、学校教育ではどのように対応していくべきかが問われる。また国のあり方にも大きく影響しうるものである。進学率が高まる中で高等教育の規模の拡大という状況を好意的に受け止めて、その上で各大学はどのようにしていけばよいか、政府は何をすればよいかということを議論していくことが重要と考えている。
 国の教育振興基本計画では、社会全体での教育の向上、教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し社会の発展を支えること、質の高い教育環境の整備を論点として掲げているが、これを実現するために、文科省としても、大学との情報交換や連携を行いながら体制づくりをしていきたい。


事例紹介

「教育改革推進に向けたFD活動」

山口大学大学教育センター教授 小川 勤氏

 まずはじめに、FDとは単に授業改善活動とらえるのが一般的な認識(狭義のFD)であるが、本来FDとは教育改善活動や学習支援活動、カリキュラム改善なども含まれる(広義のFD)という説明があった。続いてGP(グラジェーション・ポリシー:大学が教育活動の成果として学生に保証する最低限の基本的な資質を示したもの)それを実現するためのカリキュラムマップ(GPと各授業科目の到達目標との関係性を示したもの)に関する解説が行われた。そして、GPやカリキュラムマップと関連して個々の授業の内容や評価方法を示すWebシラバスに関する解説があり、山口大学におけるPDCAサイクル(Plan: GP、カリキュラムマップ、Webシラバス、Do: 授業、Check: 学生授業評価、教員授業評価、ピア・レビュー、Action: FDを通じた改善)の説明があった。また、山口大学におけるFD活動の変遷および現状に関する解説も行われた。


大同工業大学授業開発センター長 酒井 陽一氏

 大同工業大学における「組織的FD取り組みの流れ」、「授業開発センター開設の背景/組織/任務」、「研究授業(公開)と授業研究会」、「学生アンケートによる授業の振り返り」、「取り組みの有効性/効果」等についての紹介および解説があった。特に「研究授業(公開)と授業研究会」に関しては、対象は非常勤教員も含む全教員の授業であること、デジタルアーカイブ化された研究授業はオンデマンド配信により全教職員および学外の教育関係者への公開されること、システマティックに実施されること、センター所報との関係等について具体的な説明があった。また、教員、学科・教室、授業開発センターの三層構造の中でそれぞれの視点で分析された学生による授業評価アンケートおよび学習評価アンケート結果は、それぞれにフィードバックされ授業改善に役立っている旨の報告があった。最後に教員自らによる授業改善は、教育改善において重要である一方、学生の基礎学力や学習意欲の向上のための施策も同時に必要であるという指摘があった。


事例紹介

「教育改革支援のためのSD活動」

学校法人立命館副総長
大学行政研究・研修センター長 本間 政雄氏

 現代の大学事務は、量的に増大し質的にも高度化している。これに大学評価や情報公開などの新しい業務が加わり、職員に求められる能力は多様化している。一方では、職員事務組織は伝統的に官僚制に陥り、その弊害も指摘されている。教育力強化のための職員の役割は、まず官僚制の弊害を取り除き、トップの明確な改革目標の下で、職員自身が改革案を研究し、その施策を企画し、実行していく意識改革が必要である。
 立命館では、2005年から幹部職員育成プログラムを開講し、通年30コマの専門職授業に加え、政策立案演習を行い、さらに実現する機会を与えて、昨年は29歳の特任課長を生んでいる。特に、教育力を強化する職員の役割で重要なことは、教員の研究内容を把握し産業界などと連携させる「研究プロジューサー」と各教員の利害を超越した実践的・包括的カリキュラムを作成する「カリキュラム・コーディネーター」である。


第2日目(9月3日)

大会発表(81件)
*敬称、副題略


A−1 大人数講義における電子掲示板の活用とその組織的支援
関西大学 岩崎千晶、久保田賢一、陶山計介

 多人数講義用授業に開発された学習実践モデル(LMS)を別の科目の大教室に利用した実験報告。この実験では、教育工学の大学院生を(Advisory Staff)が、講義前に教員やTAをサポートをし、学生が事前の課題に意見を発表・交換し、授業中に学生の意見をPPTで講義する方式で、学生アンケートでは82%(101名回収)がこのモデルの教育効果を認めた。学生を資源とするスタッフの活用とLMSにより、今後、本モデルの汎用化を目指す。


A−2 Felicaを用いた出席管理システムの開発と試用
東京情報大学 大見嘉弘

 六つの授業(320名)にFelicaを用いてシンプルなシステムで安価に出席管理を導入した実験報告。学生にFelicaを用意させ(導入時、学生の72%は既に保有済)、PCとカードリーダー(3000円程度)を教室に置き、RubyプログラムでCSVファイルとして保存。教員の目の前でリーダーにカードをかざすため代返防止にもなり、学生調査でも面倒さより楽が上回り、今後、学生証への利用などの学内普及とフリーソフトとしての公開も検討。

A−3 コースウェアとコールシステムを併用した講義システムの効果
流通科学大学 小無啓司

 情報処理の科目の到達目標を明確にして、これを達成するためInternetにLANとコース管理システム(Moodle)やPukiWikiのオープンソースを併用して授業を行い、77%(120名クラス)の学生が所定の学力に到達できた。到達目標を達成するには、Real Time監視システム(CalaboEx(株)チエル)を追加し、授業中作業が停止し、立ち止っている学生を瞬時に発見できるよう操作画面を工夫し、3名のTAがそのつど個別対応することにある。


A−4 音声認識方式による聴覚障害学生のためのリアルタイム講義保障システム
日本工業大学 磯野春雄、山口淳平

 音声認識ソフトと無線LANを利用して、聴覚障害者の学生に対してリアルタイムで講義内容を保証するシステムの報告。字幕生成部には“ドラゴンスピーチ2005”を使用し、字幕修正にはIPtalk[1]のアプリケーションソフトと学生ボランティア1−2名の協力を得た。字幕精度を上げればリアルタイム表示が遅れるという矛盾の中、画像と文字2画面方式を採用し、利用者のため字幕精度90%以上の必要性や、表示の遅れの許容限度が認識された。教職員の理解、学生の協力、予算など大学全体の支援体制が必要。


A−5 sFlowによるLANトラフィックから見た授業中の学生行動
日本大学  小林 貴之
アラクサラネットワークス(株)  鈴田伊知郎

 LANトラフィックのモニタリング手法として、SNMPを用いたMRTGが知られているが入力と出力の合計のモニターだけでは不十分である。このため、通信データの必要部分の解析ができ個人情報保護も配慮できるsFlowを利用し、160台PC教室で1分刻みのデータをグラフ化し、授業時間をまたぐ時間帯データなどを宛先別やプロトコル別に受送信量を視覚化することができた。授業科目・習熟度別のデータ管理も可能で、今後はsplunkなど併用した汎用化が課題である。


A−6 発表中止


A−7 学生の手によるwikiベース自己学習支援サイトの制作
山口大学 篠原紀幸

 学習情報を日頃の学習や国家試験受験に活用できるよう2部構成(教材、国家試験)のWEBサイトを立ち上げた。学生には自分達が学んだことをwikiベースで教材サイトに掲載させた。このwikiを使った新しい学習環境を紹介するとともに問題点についても報告した。


A−8 学生のためのホームページ作成環境整備と成果
新潟工科大学 渡邊壮一

 これまで卒業研究の進捗を紙ベースの作業日誌で管理していたが、問題解決プロセスが定着していないために教員が効果的な助言を行うことが困難だった。本システムでは具体的な内容を簡単に記載可能にすることで、学生が何を問題点として捕らえているかが明確にわかるよう構築した。


A−9 コンテンツ登録が容易なアーカイブシステムの構築
東海大学 片岡勲人、田中啓夫、野須 潔、大塚志穂

 登録作業の難しさや作業量による負担増から、LMSの積極的な活用や学習支援の有効性の理解が進まないことから、教育成果(デジタル・コンテンツ)の登録方法を改善したシステムを構築し、学習改善に結びつくような情報を提示するとともに、情報の共有化を図り組織的教育の質的向上に貢献している。


A−10 フィールドワークにおけるレポート作成支援システム
東和大学  若菜啓孝、吉住和翁
西日本短期大学  大隣昭作

 SNSと安価なGPSロガーを利用し、フィールドワークの作業負担を軽減させるとともに、収集した資料を効率的よく整理して閲覧できるシステムを構築した。河川の水質調査にこのシステムを利用してみたが、今後は橋梁・道路のアセットマネージメントシステムへの利用や交通渋滞の緩和などにも活用したい。


A−11 フィールドワーク教育支援のためのPDA用ソフトの開発とフィールドワーク手法の探求
広島工業大学  三好孝治、上嶋英機、青山吉隆
(有)SNQ  中本 修
(株)JBS  池本康洋

 学生の教育にフィールドワークを重視し、加えてまちづくりプランナーを育成することを目的に、フィールドワーク教育支援ツールとしてGPS付きPDA等を装備したソフトを開発した。フィールドワークで収集したデータは、GIS等の情報技術を用いて分析することができるよう工夫している。


A−12 携帯電話を利用した回収不要出席カードシステム
三重中京大学 岡田良明、清水 亮

 教員、学生、システム、施設設備、そしてコストに過大な負担をかけずに、データがチェック可能なユニークな情報を入れた出席カードを開発した。紙媒体とネットを組み合わせることで授業終了後でも正確に出席が取れるよう工夫した。集計処理が容易で、出席確認と同時に授業に対する学生の理解度等のフィードバックが得られる。


A-13 (発表中止)

A-14 (発表中止)


A−15 携帯電話による小テスト自習システムの試作
朝日大学 栗原和夫、海野昭史、田口知弘

 これまで授業を補完する目的で小テスト自習システムを構築し、学力に応じて講義外で学生に自習させ、その結果を講義中やオフィスアワーにおいて活用してきた。携帯メールの利用拡大から、小テストを携帯メールで提供するシステムを試作し、教育効果を含め様々な知見を得た。


A−16 私語改善への試み−携帯電話を使った学習支援ツールを活用して−
日本女子体育大学 影山陽子、雨宮由紀枝

 携帯電話を使った学習支援システムのモニター機能を活用して、学生達に私語に対する意識をアンケート形式で問い、学生達に私語について考える機会を与えた。現代の大学生は、教育サービスの消費者として教室に現れるが、そういった彼らを授業の参加者として変えていく工夫がユニークだと考える。


A−17 携帯電話を用いた授業支援システム
日本歯科大学 藤井一維、宮川行男、五十嵐勝、村上俊樹、田中 彰

 学生全員に携帯電話は「教材」という位置づけ、所有を義務付けているところがユニークである。今回は、その活用例として、1)プレ、中間、ポストテストの実施で教授錯覚等の気付きと修正・補正が素早くできる、2)ロスタイム無く、平均点・識別指数等を瞬時に確認できる、などその効果を含め報告があった。

 

B−1 直感力向上に着目したピアレビューと実践型教育の融合
流通科学大学 来栖正利、小野寺昭史

 直感力、観察力の向上を目的とした教育方法の報告である。3名から5名のチームを作り、企業へのインタビューを行う。また、学生のレポートは匿名の教員がレビューしてフィードバックを行う。これは学生に緊張感を与えるためである。


B−2 地域活性化を目的とした地域資源の映像コンテンツ制作とその指導方法
会津大学短期大学部 横尾 誠

 コンテンツデザインの授業の一環として映像制作を行った。福島県会津地方振興局との協働事業で、地域活性化による地域貢献になっている。映像コンテンツへの理解が深まるとともに、学外での活動となるため、広い視野と社会的コミュニケーションの養成になると考えられる。


B−3 Moodleによる国際ビジネスゲームのサポート
大阪国際大学 韓 尚秀、田窪美葉、市川直樹

 多国語対応e-learningシステムと翻訳ソフトウェアを用いて、留学生とコミュニケーションをとりながらビジネスゲームを行う教育法方を報告する。留学生の日本語レベルが低いため、日本語タイピング、韓国語のメールや教材、翻訳ソフトを使った課題提出などのサポートを行った。日本人学生と留学生を交えて模擬株主総会を行い、非常によい国際交流の機会となった。


B−4 二大学間における双方向授業の試み
神戸女子大学 安原順子

 ニュージーランドの大学における日本語教育と、日本の大学における日本語教員養成を結びつけた双方向授業を行っている。ニュージーランドの学生が日本語で書いたブログに、日本の学生がコメントをつける。また、ポッドキャスティングを用い、日本の学生が聴解問題を作成し、ニュージーランドの学生がそれに答える。学生の学習意欲が高まるなどの効果があった。


B−5 海外研究拠点を基点とした国際遠隔授業の実践
法政大学 武藤博己、林 公美、倉林昭浩

 ロンドンの研究拠点と日本のキャンパスをテレビ会議システムで結び、国際遠隔授業を行った。特に大きな障害はなく、また、学生が緊張感を持つというプラス面もあった。今後の課題としては、講義をしながら操作するために、操作自体を簡単にすることや、障害に備えた明確なマニュアルの整備などが挙げられる。


B−6 導入前におけるeラーニングに対する教員の意識調査
長崎大学 丸田英徳、西田孝洋、鈴木 斉、黒川不二雄

 eラーニングを導入する前の段階での教員の意識調査を行った。その結果、講義時間外での自習環境の提供が期待されていること、教材や資料の準備時間への不安が大きいこと、機器の操作はそれほど懸念されていないことなどが分かった。


B−7 教員の持つ、教え・学びの哲学とICT活用形態の関係
関西大学 田中俊也、岩崎千晶、齊尾恭子

 eラーニングシステムを利用した教員を対象に、その担当教科に対する認識や、教え学びの哲学についての調査を行った。質問項目の相関関係から、非調査者を6種類のタイプに分類することができ、さらにそれを4種類の授業にまとめて分析することができた。


B−8 イーラーニングコミュニティサイトの形成に関する研究
金沢大学 森 祥寛、鈴木恒雄、大野浩之、松本豊司、鎌田康裕、瀬川 忍

 学生同士が互いに教え合うようなコミュニティを形成することを目標にして、SNSを作成した。今のところ、コミュニケーションが連続するような書き込みは少なく、目標は達成されていない。このことから、システムに加えて、コミュニティを活性化させるような何らかの「仕掛け」が必要と思われる。


B−9 インターネットによる英単語学習システム“ネッ単”の改良
日本大学 葉島千歌、福田 敦、石坂哲宏

 1ステップの単語が固定していた“ネッ単テスト”に加え、不正解単語のみをランダムに選択して出題する“ネッ単小テスト”を導入し、旧来のネッ単テストの前後に配置することで、継続性のあるインセンティブを与えることができ、同じ50単語の学習時間に要する時間が旧システムより平均20分短縮された。


B−10 eラーニング普及へ向けた自学自習用オープンコースの作成
長崎大学 西田孝洋、丸田英徳、鈴木 斉、黒川不二雄

 全学的に共通な情報教育、統計解析、科学英語、さらには薬剤師国家試験対策に関して、独自のコンテンツに基づいた自学自習用オープンコースをWebClass 上に構築し、運用を開始した。薬剤師国家試験に関連する科目や通常の授業科目と密接に関係するコンテンツに対するアクセスの頻度は高かった。


B−11 全人的教養教育を支援するe-learningシステムSPES NOVAの運用
東京理科大学 佐藤喜一郎、本田宏隆、野澤 肇、竹内 謙、村上 学

 SPESNOVAは全人的教養教育を支援・ブラッシュアップするためのe-Learningシステムであり、四つのe-Learningサブシステムとこれらのサブシステムで発生する学習記録や動的コンテンツをまとめるためのデータベースを背後にもつポータルサイトである。既存の教育支援システムと併用され、再帰的な評価を行うシステムとなる。


B−12 担当授業におけるBラーニング−ICT活用のリメディアル教育−
山陽学園大学 川端淑子

 MSワード利用の「ビジネス文書作成」、MSエクセル利用の「ビジネスデータ処理」の二つのコンピュータリテラシー授業において、教員からの配布資料や学生からの提出物は学内LANの共通フォルダを介して行われた。また、基礎知識CAIソフトウエアをPCと学内LANで利用可能にし、学習効果を向上させた。


B-13 eラーニングを活用した予習・復習の徹底による授業の実質化
帝塚山大学 日置慎治

 学生の学習意欲を維持するためにeラーニングを積極的に活用し、予習・復習を厳密に点数化し、その積み上げとしての「単位取得」という結果を明確にすることによって授業を実質化し、学生の授業内容に対する理解度を高め、同時に学習への動機付けを維持できる可能性が示された。


B−14 サイバーキャンパスを支えるLMS「MOMOTARO」の開発
岡山理科大学  大西荘一、北川文夫、榊原道夫、河野敏行
加計学園  西崎書彦

 インターネット上に大学間連携及び高大連携を実現する加計サイバーキャンパス(KCC)を構築し、KCCは筆者らが独自に開発したLMS「MOMOTARO」で運営されている。連携大学の5大学1短大がそれぞれの大学の特徴的な科目をKCCに提供し、それぞれの大学の学生が単位互換制度で履修している。


B−15 薬学領域のヒューマニズム教育におけるIT活用と学びのふり返り
慶應義塾大学 飯島史朗、石川さと子、小林静子、江原吉博

 ヒューマニズム教育ため、掲示板機能、ディスカッション機能を持った学習支援システムの運用を開始し、学内外からのアクセスで、講義資料の配布、レポート提出や添削が可能にしている。さらに蓄積されたデータに対し、検索、整理分類を可能とする学習履歴サイトを新たに開発し、ふり返り学習を支援している。


B−16 初年次セミナー運営におけるmoodle利用
大阪国際大学 矢島 彰、石川高行、安保克也、山本 博

 初年次教育の目標をGeneric Skillsとして掲げ、明確な分析に基づいて作成した共通プログラムを円滑に運営するためにmoodle 導入を導入した。さらに、学生と教員間のコミュニケーションツールの確立、ゼミ担当教員間のコミュニケーションツールの確立、教員のICT 活用能力向上を図った。


B−17 教育効果の向上を目指すブレンディッドラーニングの開発と実施
東北大学 伊東俊彦

 東北大学大学院経済学研究科会計専門職専攻で初の独自手法によるeラーニング・コンテンツの開発がインストラクショナルデザイン手法に則って行われた。対面教育と組み合わせるブレンディッドラーニングとして実施した結果、画面デザインの点からもコースの内容の点からも高評価が得られた。

 

C−1 高等学校教科「情報」の実施状況と情報教育について
いわき明星大学  中尾 剛、渡邉景子
いわき総合高等学校  柴田和聖

 新課程による高等学校既卒者を対象とした、教科「情報」の授業に関する3年間の調査結果や今後の課題を紹介した。調査結果では、情報活用能力の格差は減少しているが、情報倫理や情報判断能力の教育が不足していることがわかり、地域の大学がカリキュラムや授業方法の情報提供や研修会を行う必要性もあるとした。


C−2 情報教育からキャリア教育へ−高大連携による接続教育プログラム
湘北短期大学  小棹理子、伊藤善隆、岩崎敏之、藤澤みどり、高橋可奈子
藤沢高等学校  住谷 勉
川崎総合科学高等学校  原 満

 大学入学前のキャリア教育として基礎能力育成科目を開発するため、高校に対してアンケート調査を行った結果、「コミュニケーション能力」の必要性が高いことなどがわかった。この結果を踏まえて、高校と大学の教職員による研究会で高校卒業時に不足と考えられる情報能力を明らかにし、それを補い発展させる講座を開発し、実施した。


C−3 ロボットとITを活用した中高大連携・理工系学習意欲向上の取り組み
日本大学 内木場文男

 若年層にも親しみやすい「ロボット」を題材に、ロボットとWebページを利用したIT技術を用いた中高大連携活動を実施し、理系離れの抑制と理系進学促進を試みた。付属校以外の一般校へも活動を拡大し、学生の物理への興味が喚起され、当初の目的は概ね達成された。


C−4 大学入学時のデジタルディバイド
東洋大学  愛沢祥子
東京国際大学  中挟義夫

 初等教育や高校での情報リテラシー教育について学生にアンケート調査し、小・中・高の教員にも、教職課程で学んだ情報リテラシー教育と実際の現場との違いをアンケートおよびヒアリング調査した。その結果、大学前の教育で、基本的なリテラシー教育に格差があり、高校では受験科目優先でのために「情報」は選択科目となっており、教育段階での格差が大学での授業内容に大きく影響していることがわかった。


C−5 新入生全員に対する導入教育(終日集中による情報リテラシ教育)
成蹊大学 惠良和代、千葉邦子

 情報倫理面などの教育が遅れている新入生に対してオリエンテーションの一環で情報リテラシーの導入教育を行った。これにより、授業開始後の教員の負担を軽減でき、ユーザ登録の確認や一斉ログオンのテストなど運用上の確認を授業開始前に行い、パソコン教室利用のルールとマナーを徹底し、ユーザへのヘルプがスムーズに行うことができた。


C−6 短期大学における情報教育カリキュラム改定の検証
池坊短期大学 杉野真紀、山崎直子

 短大生の基礎教育の一つとして初年次に実習形式の情報科目を設置しているが、ゼミの卒業研究発表会でのパネル展示、研究レポート執筆、舞台発表、口頭発表等に対応させるため、情報の扱い方に関する正しい知識も学べるよう、ビジネスソフト操作を中心とした従来のカリキュラムの見直しを行った。


C−7 情報基礎科目の実施評価と企業要求レベルの比較分析
愛知学院大学 稲垣充廣、清水和美

 高校における情報教育やそれを取り巻く教育環境の変化による、大学の情報教育を見直しを行った。高校卒業後の情報教育レベルを踏まえて、大学の授業で重点を置く内容を把握し、大学卒業後に就職する企業の要求レベルに合っているか評価し、重点化の方向性について確認した。


C−8 医療系大学1年生のコンピューター利用の現状とコンピュータリテラシー教育
国際医療福祉大学 石川 徹、長谷川高志、黒田史博、清水隆明、今田敬子、外山比南子

 医療系大学の適切な情報リテラシー教育のために、授業内容や理解度のアンケート調査を実施し、コンピューター利用の状況、授業内容の評価、学期末試験の成績とこれらのアンケート調査結果の関係について報告した。


C−9 薬学生のヒューマニズム醸成を目指した情報科学教育の実践
慶應義塾大学 石川さと子、飯島史朗、小林静子、江原吉博

 薬学準備教育として、情報の収集・解釈・伝達を主眼とした「IT」と「プレゼンテーション」の教育を目的に、1年次から6人程度の少人数グループ学習を行った。「患者の気持ち」「生と死」などのテーマの下、情報収集・解析・発信の講義を行い、ホームページ作成や発表会に結実させた。ヒューマニズムに関する深いディスカッションも可能となり、準備教育として有効であった。情報の信憑性について学ぶ機会を増やす必要がある。


C−10 スポーツにおける競技力向上のためのITリテラシープログラム開発
仙台大学 粟木一博、藤本晋也、勝田 隆

 地域自治体でタレント発掘事業が盛んであり、「育てるプログラム」も注目され、「コーチング」が重視されている。特に競技者自身の内面にもよいコーチを育てるため、自分の能力を分析、問題を発見、解決する能力が要求される。そこで、スポーツ競技で、ITを通じて配信される科学情報を活用するITリテラシーを主体とした「知的能力の開発・育成プログラム」の開発を行い、実施している。


C−11 学習意欲を誘発するSNSの開発と運用〜PBL教育の実践を通して〜
同志社大学 山田和人

 市民などからテーマを募集、「プロジェクト科目」としてPBLを基本とした少人数学習を行った。その際、Community, Communication, Collaborationをサポート、PBL支援のためのコミュニケーションシステムとして独自開発(SIGELと共同開発)のSNSを導入した。利用者ごとの操作権限の設定、階層管理、豊富なコミュニティ設定、スケジューラ・タスク管理などに特徴がある。本科目遂行において有効であった。さらに多様な利用方法が期待される。


C−12 SNSによる学習コミュニティ形成
愛知大学短期大学部 龍 昌治

 学生・教員のコミュニティ造りを支援するため、オープンソースのOpenPNEを利用して独自開発のSNSを立ち上げた。2年間で20サークル、160名くらいの参加であった。学習に結びつくものが多くなかったが、コミュニティ形成には成果があった。利用しやすさと学習支援のための組織的な取り組みが必要と考えられる。


C−13 SNSを用いた学部運営 −より広範なコミュニケーション空間の構築に向けて−
城西国際大学 寺本卓史、小淵 究、松平康秀

 学生や教員のコミュニケーションを支援するため、学部でのSNSを構築した。オープンソースのOpenPNEを利用、廉価に、メンテナンスをしやすく、学生の運営によるシステムにした。1年程度で、25コミュニティ、120名くらいの利用である。幅広いネットワークの形成や教職員からの学生への連絡の充実など成果が認められた。利用にばらつきがあり、利用促進の工夫、さらにはSNSシステムの改善も必要である。


C−14 サイバーキャンパスコミュニケーション機能
明治薬科大学 植沢芳広、足立 茂、石井一行、石橋賢一、石橋芳雄、高取和彦、高波利克、林 弘美、菱沼 滋、日野文男、向日良夫

 キャンパス機能をネットワーク中に構築した独自のサイバーキャンパスの拡張を行った。レポート管理システムを利用、コミュニケーション機能を充実した。情報処理演習で1クラス130名の学生、3クラスに対し週2コマを6週行い、レポート8点を提出させた。複数教員による評価に際し、レポートの整理や分配などの効率が格段に上がり、学生とのコミュニケーションも密になった。しかし形式的作業に片寄り、学生の個性発見には困難があった。対面教育の補足道具と捉えるべきであろう。


C−15 総合的キャリア教育を支援する情報管理システムの開発と運用
中村学園大学短期大学部 梶田鈴子、清水 誠、花隈悦子、栗木紘美

 キャリア教育支援のため、アクセスを利用したキャリア情報管理システムを立ち上げた。学生の公的資格取得状況や進路希望、就職活動状況などの情報のデータベース化をし、学生が自己管理できる環境とした。個人情報保護との関係で、大学の基本情報システムとは切り離した。学生の資格取得などへの意識向上や教職員の学生動向の把握に有効であった。面談記録システムなどのさらなる充実を目指す。ただ、個人情報保護との関わりから、システム管理の強化などの問題が残る。


C−16 学生カルテシステムによる初年次教育の充実
広島女学院大学 中田美喜子、記谷康之

 初年次教育の「基礎セミナーI」においてチューター体制をとり、面接などの情報を学生カルテとした全教員共有の指導体制を試みた。SQLサーバーを利用した。学生の自己評価なども入力できるようにし、個々の学生の情報を表示可能とした。個々の学生をきめ細かく指導できると期待している。導入後半年であり、効果は未定である。使い易さおよび個人情報保護との関係が今後の検討事項である。

 

D−1 相関分析と回帰分析学習支援e−ラーニングコンテンツの開発
甲南大学 服部雄一

 臨床医療に必要とされる相関分析と回帰分析の学習支援を目的とした統計分析のeラーニングコンテンツの開発と紹介である。科学的根拠に基づく医療の実施のために有用であり、統計学の自学自習、授業補助の教材としても有効である。他の分野への応用性も高い。


D−2 シミュレーションベースの統計学eラーニング教材の開発と教育実践
京都女子大学 小波秀雄

 統計学のeラーニング教材の開発によって、学生にシミュレーションベース学習を可能とした教育実践の事例である。特に文系学生を対象として、ウェブベースの演習システムを開発することによって、統計学の体系的な理解と概念形成を可能としている。


D−3 表計算ソフトとWebを用いた確率分布シミュレーション教材
尚絅学院大学 木村 清

 推測統計の概念理解を促すために、統計eラーニング教材を開発し、学生の主体的な参加による学習理解を可能とした教育実践の事例報告である。開発されたシミュレーション教材は特に確立変数、確率分布の概念理解を対面授業において学習者参加により効果を挙げるよう工夫されている。


D−4 コミュニケーションツールとしてのタブレットPC活用
戸板女子短期大学 別宮 玲

 近年、社会生活において急速に普及しているタッチパネル機能を搭載したタブレットPCをコミュニケーションツールとして活用した教育方法・効果についての報告である。具体的には、掲示板や遠隔ミーティング、そしてインタラクティブな教材として効果が期待される。


D−5 芸術大学保育系学部におけるオープンキャンパス連携Webコンテンツの制作
名古屋芸術大学 加藤智也

 芸術大学保育系学部が積極的にその教育理念、教育内容、求める人材像を高校生に向けて発信し、学部教育の特徴を理解できるよう工夫された参加型Webコンテンツの開発の事例である。オープンキャンパスでの活用のみならず大学HPの訪問を促進することが期待される。


D−6 電子教材を用いた美術教育の試み
武庫川女子大学 野津義輝、岡田由紀子

 従来の実技や鑑賞授業に加えて、画像や動画を含む電子教材によるeラーニング教育を実施した事例報告である。学内の学習支援システムを活用するとともにWeb上においてジャーナルを創刊するなど教育効果を高めるうよう工夫されている。


D−7 ネットワーク時代の価値軸と源氏物語
実践女子大学 犬塚潤一郎

 人類の知的遺産ともいえる「源氏物語」をモチーフとして、学生が自由に動画を用いて自己表現するよう工夫された教育実践の事例である。観念的な学習を超えてビジュアルな表現領域の実践によって主体的な学習姿勢の涵養を可能としている。


D−8 ヨーロッパの服飾文化とそのデータベース化に関する研究
東京家政大学 菅野ももこ、松木孝幸

 イギリスの服飾文化史の研究において有用な雑誌記事『パンチ』のデータベース構築に関する事例報告である。女性ファッション、デザイナー名、衣服名等に関するキーワード検索が可能となれば、新たな研究の展開、さらに教育への活用が期待される。


D−9 病理診断学へのバーチャルスライド導入と自主学習支援プログラム
日本歯科大学 佐藤かおり、島津徳人、柳下寿郎、青葉孝昭

 病理組織標本全体を高画質でデジタル化したバーチャルスライドを学内LANで配信する環境を使った病理診断学の自主学習支援とその学習効果について発表された。


D−10 健康増進を支援する水中療法士の提案と可視化e-learningシステムの開発と評価
城西短期大学  渋井二三男
秀明大学  鳥谷尾秀行

 健康増進を目的としたスポーツは陸上でのものが主流である。一方、水中では中高年を対象とした水泳スポーツ、水球があるが、水中での療法として、我が国ではほとんど認知されていない。水中での療法のラーニングシステムについて発表された。


D−11 e−learningによる救急看護実践能力の育成−救急隊・ER連携での事例提供−
聖マリア学院大学  石橋カズヨ、牧 香里、佐藤亜紀
聖マリア病院  七田理恵子
鳥栖市消防本部  山津靖宏

 救急医療の実際をリアリティのあるコンテンツとして作成と、事例に対する観察・判断・ケアの選択をe-Learningを通して反復学習できるシステムについて発表された。


D−12 Web利用の技術英語学習サポートシステム
玉川大学 和高慶夫

 Web上の英語教材を忠実で正しい表現の日本語に翻訳することを目的とした技術英語の学習システムと課題提出システムとを統合した総合学習システムの構築について発表された。


D−13 ITを活用した多次元的英語教材プレゼンテーション
太成学院大学  松浦宏之
高野山大学  高倉正行

 水中での療法インターネット上にあふれる英語情報を英語コーパスと捉え、多角度的な情報の組み込こみや、より一層効果的なマルチインフォメーションの提示法について発表された。


D−14 中核校におけるPowerPointを使った自前の基礎英文法教材作成
帝京大学 中村浩一郎、溝尾桂子、前原由幸、今関雅夫、上田仁志、Kenneth Jones

 AO入試等で大学生の基礎学力が下がっているなかで、自前の基礎教材を作成する様々な自発的な動きが生じている。ここではPowerPointを使用した基礎英文法教材について発表された。


D−15 screenshot capturing toolによる教材作成
大阪国際大学 石川高行、矢島 彰

 情報教育には、PCの画面(screenshot)を取り込んで(capture)動画を作成し、これを学生に提示する方法が、学生にとって最も分かりやすい。ここでは、動画作成のコツ、留意点および、これを用いたmoodle上の実践について発表された。


D−16 商用3DCGソフトによる教材映像ジェネレータの開発
大阪国際大学 下條善史

 映像は、学生の注目をひきやすく、効果的な伝達が容易であるだけでなく、教材の複製・変更・修正のコストが低く、また音声や映像を含めた多様なメディアが利用でき。ここでは、教材映像を生成するシステム(AG4TM:3DCG Animation Generator for Teaching Materials)の開発について発表された。


D−17 受講学生が随時利用できる講義DVDの作製、貸出しによる学習支援
静岡県立大学短期大学部 田中丸治宣

 近年、大学の授業において種々の形式(eラーニング、遠隔授業等)が取り入れられ、効果をあげている。ここでは、担当科目の授業を、音声付きの映像としてDVDに記録し、授業中には十分に理解できなかった部分の補充に役立てるシステムについて発表された。

 

E−1 情報演習室環境におけるコンピュータの効率的な整備手法
金沢星稜大学 井上清一、二口 聡

 DosやWindows環境下で動作するバッチファイルを開発し、これらを利用することにより、各PCの効率的な環境整備を可能にしたという事例の報告がされた。この整備手法の導入により作業時間が10時間から1時間に短縮できたという導入効果を提示している。


E−2 オンデマンド・アプリケーション配信、シンクライアントによる教育用PC環境の構築
北海学園大学 竹内 潔、福永 厚、天笠道裕、杉村 徹、岡本泰典、茶畠 浩

 ソフトウェア環境をサーバで一括提供するシンクライアントによるPC環境の構築についての報告がされた。これにより、WindowsとLinuxのマルチOSを利用可能な学習環境を提供できるようになり、利用者からも高い評価を得たようである。


E−3 OSSP方式によるパソコンレス情報処理教室の構築運用
京都産業大学 大本英徹

 学生個人所有のパソコンを、常時は個人固有の環境で使用できながら、大学の教室では集合教育の環境を備えた演習用パソコンとして利用できるという教育環境を構築したという報告であった。その結果として、パソコンレスの情報処理教室を実現しており、先進的で興味のある報告であった。


E−4 コース管理システムを開講当初から利用可能にする教員向けサービス
帝京大学 古川文人、及川芳恵、高井久美子、柳田京子、渡辺博芳、熊澤弘之

 履修登録の確定までの2〜3週間はコース管理システムを使用できないという従来の問題を、学生補助員を使っての学生証のカードリーダによる読み取りや、自作ソフトによる学生登録用ファイルの自動生成などの手法により、開講当初からコース管理システムを利用可能にしたという報告がされた。


E−5 ホスティング型アプリケーションサービスを有効に利用した学生サービス提供について
西日本短期大学 大隣昭作、松内金也、松川 創、古川富美子

 ホスティング型アプリケーションサービスを用いて手間とコストをかけずに学生サービス用のWebサイトを作成した実践事例の報告がされた。提供コンテンツは、お知らせや休講情報、Webメール、進路情報などである。運用試験の結果、機能的な問題はなく、利用規定の整備などが今後の課題であるとしている。


E−6 プログラミング教育に統計学教育を織り込んだ授業の実践
比治山大学 山田耕太郎

 日本語プログラミング言語を用いた統計学教育の実践的な取り組みに関する報告であった。日本語プログラミングを用いることにより、英語ライクの言語による敷居の高さを取り除くことを意図している。アンケート集計を目的とする統計の基礎を教材とし、学生に興味を持たせるよう工夫している。


E−7 実習型マルチメディア基礎技術教育
京都創成大学 神谷達夫

 表計算ソフトを利用したマルチメディア教育の実践事例についての報告がされた。具体的には、表計算ソフトを用いて、正弦波の生成や平均律と純正律の和音を生成させ、生成された音の違いを体験させるという内容の教育方法であった。数学の苦手な学生にも興味を持たせようとする姿勢を感じた。


E−8 Web環境を利用した協調形3Dグラフィックス教育支援システムの試作
いわき明星大学 高山文雄、大表良一

 フリーソフトウェアを用いて3Dグラフィックスの教育を支援するシステムの報告がなされた。このシステムはWebから利用し、学生の作成した3Dグラフィックスの作品を閲覧したり、作品に対するコメントを書き込めたりできる点に特徴がある。これにより協調学習の効果が出てくるのではないかと期待している。


E−9 UMLとJavaの統合によるオブジェクト指向ソフト開発スキルの考察
城西大学 加藤武信

 ソフトウェア開発ツールの一つであるUMLを用いた教育方法の構想についての報告がされた。UMLを用いて、開発するシステムを仕様化し、構成し、文書化するまでの一連の作業を視覚化しながら統一的にモデリングを行うことを体験させ、システム開発のスキルを学ばせる授業構想のようである。今後の展開が期待される。


E−10 プロジェクトマネジメント学習の改善
九州情報大学 岸川 洋、岡 久登、福田耕治、合田和正

 プロジェクト管理の学習を市販のプロジェクト管理ソフトを利用して行った授業事例についての報告がされた。これにより、部品関連の資料とプロジェクト関連の資料が一元管理できるようになり、また、プロジェクト全体の状況を視覚的に理解できるようになったという報告がされた。


E−11 集合教育における地理情報教育の実践
久留米工業大学  西尾雅弘
近畿大学  森 正寿

 フリーソフトであるカシミール3Dを地理情報システムの授業に利用する試みについて報告された。具体的には、カシミール3Dを使用して国土地理院の数値地図の3次元表示を行い、さまざまな角度から地図を俯瞰できる現実感のある鳥瞰図の表示を可能とした。


E−12 微積分を視覚的に学ぶことで期待される効果について
日本大学 山本修一

 Mathmaticaを活用した微分積分学の授業実践と米国イリノイ大学(アーバナ・シャンペーン校)での授業「Calculus & Math」で使用されている教材の紹介があった。授業実践の結果、イメージ化による理解の深まりや情報社会に必要な応用力の育成という点で効果があるとの報告があった。


E−13 パソコン活用による数学定理の発見
東海大学  渡辺 信
筑波学院大学  垣花京子
帝京大学  福田千枝子

 表計算ソフト、グラフ作成ソフト、作図ソフトを活用して発見的に数学の定理を学習する具体的な取り組みの紹介があった。学生は授業中に自分自身で考えるようになり数学の定理を積極的に日常の中に取り入れることができるようになるという示唆があった。


E−14 幾何学の対話型教材の作成
北海道工業大学 佐藤宏一、荒井俊之

 GeoGebraというフリーの幾何学ソフト上の紹介とそれを利用した対話型の教材作成についての解説があった。GeoGebraには代数ウィンドウと作図用のドローイングパッドがあり、例えばドローイングパッドに円を描けば代数ウインドウに円の方程式が表示され、逆に方程式を修正するとそれにあわせて図が修正されるということであった。


E−15 TeX描画のための数式処理マクロパッケージKETpicを用いた数学教材作成
東邦大学  高遠節夫
工学院大学  北原清志
木更津高専  阿部孝之、泉 源、金子真隆、関口昌由、山下 哲
呉高専  深澤謙次

 MathmaticaやMaple等の数式処理システムを利用してTEX文書中に正確で美しい図を手軽に挿入できるマクロパッケージKETpicの紹介とそれを使った数学教材の作成に関する解説があった。KETpicを用いれば、試験問題等の印刷用に適した単色線画をEPSではなくより手軽なマクロとしてTEXに埋め込むことが可能となる。


E−16 物理学とプログラミングを連携させた演習授業の設計
大阪電気通信大学 高見友幸、吉良博行、樋口 豪、平井史郎

 Actionscript 3.0を活用して、物理学演習とプログラミング演習を連携させた授業実践の紹介があった。Actionscript 3.0を活用することにより物理学演習の解を数値や数式だけではなく比較的容易にアニメーションで表示させることが可能となる。


E−17 電気工学実験VOD教育支援教材の開発と実践
広島工業大学 古川輝雄、大村道郎

 小規模研究用VODシステムを用いた、電気工学実験のチュートリアル用教育支援教材27テーマの開発についての報告があった。学生アルバイトによる開発にも関わらず、視聴者アンケートでは実験の予習に関して有効であるとの結果が得られた。


第3日目(9月4日)

テーマ別自由討議

分科会A 「FD実質化への取り組み」

<課題提起>
上智大学文学部教授 山本 浩氏
近畿大学副学長(当時)、理工学部教授 宗像 惠氏
流通科学大学教育高度化推進センター長 南木 睦彦氏

 本分科会では3件の課題提起があった。まず、上智大学の山本浩氏から、「授業アンケートに基づく教育改善」についての報告がされた。1990年代初めに導入された「授業評価アンケート」は当初は導入に対する抵抗も存在していたが、現在ではFDの中心的存在になってきていること、しかしアンケートそのものの目的をみうしないつつあるのも現実である。授業評価アンケートは、「授業改善のためのアンケート」に徹するべきであり、学期末のみならず、学期途中でも実施することが望ましく、そのためにはこれまでの紙媒体でのアンケートからWebでのアンケートの実施がより効果的であるとの提言がなされた。
 次に近畿大学の宗像惠氏(副学長、理工学部教授)より、「授業内容の“見える化”による授業改善促進と教員評価の導入」についての報告がなされた。近畿大学理工学部においては、授業評価アンケートを継続的に実施し、学生からの授業改善要求に対して教員は「リフレクション・ペーパー(授業改善プラン)」を示さなくてはならず、その努力を教育業績として評価し、手当等の支給を含め新しい教員評価制度を導入した。しかしながら、教育改革は制度をいじるだけでは解決されるものではなく、こうした制度を通しての教員の意識改革がもっとも必要である点が強調された。
 最後に流通科学大学の南木睦彦氏による「全学一斉授業公開制度を軸とするFD活動」についての報告が行われた。流通科学大学では、各セメスターの3週間、専任教員の全授業を参観可能とし、参観申し込みのあった授業を公開してきた。こうした公開を通し、参観者と公開者の意見交換が行われ、より効果的な授業改善へと結びつくことが確認された。
 課題提起に引き続き討議が行われ、これまで「授業評価アンケート」イコール「FD」と認識されてきたが、次第に授業改善へと結びつける制度の改善や、業績評価、さらに授業公開といった所まで踏み込んだ改革がなされ、FDの実質化がそれぞれの大学でなされてきていることが示され、それぞれについての質疑が行われた。


分科会B 「学士力を高める教育システムの試み」

<課題提起>
三重大学高等教育創造開発センター 教育開発部門教授 高山  進氏
名古屋学院大学経済学部教授 児島 完二氏
神奈川工科大学情報教育研究センター所長 機械工学科教授 田辺  誠氏

 本分科会では前半に3件の課題提起があり、具体的取り組み事例と、学士力の評価方法について欧米との比較も含めた総括的な考え方の紹介があった。
 三重大学の高山進氏より「問題発見・解決型学習(PBL:Problem-Based and Project-Based Learning)の導入」について事例紹介があった。週2コマ4単位の少人数セミナーで、学生が自主的・能動的に課題を発見し解決し最終的に公開発表まで行う。20以上のセミナーが開設されており講義形式ではなく自己学習とグループワークを主としている。履修学生の授業評価で総合満足度は講義科目や共通セミナーと比較して最も高い評価を得ていることが示された。
 名古屋学院大の児島完二氏より「経済学基礎知識1000題の実践事例」について事例紹介があった。経済学基礎知識1000題は経済学部の全教員が5択式の問題を作成し、Webに公開して携帯からの利用も可能としたものである。このシステムは学生の自学自習を促すような様々な仕組み(例えば自身の成長を卵→・・→雛→・→鳳凰と)を持ち、多様化した学力の学生の底上げに役立っている。同時に、教員側では学習履歴データを分析し活用することでFDへ結びついていることが示された。
 神奈川工科大学の田辺誠氏より「学士力を高め発揮するための多元的な成績評価について」考えが提示された。多元的成績評価では、学士力を1)知識・理解(学士基礎学力)、2)汎用的技能(コミニュケーションスキル、数量的スキル、情報リテラシー、論理思考力、問題解決力)、3)態度・志向性(自己管理力、チームワーク、リ−ダシップ、倫理観、社会的責任、生涯学習力)、4)総合的な学習経験と創造的思考、の四つの項目で評価すべきであり、1)の学士基礎力は主としてGPAで評価し、2)−4)を学士人間力として筆記試験だけではなく多元的に、社会との連携も含めて学習評価すべきとの考え方が示された。
 後半では、PBLについては授業設計の方法と進め方、成績評価方法、公開発表の運営などについての突っ込んだ質問があり、具体的な例で説明された。基礎知識1000題では問題についての各教員間の意見の食い違いの調整、問題作成からWebへのアップまでの道筋、学生へのインセンティブなどについての質疑応答があった。多元的成績評価に対しては、学士力到達レベルの設定について、理工系では修士課程修了時に対応するほうが妥当である、初等・中等教育の到達レベルとの関係、旧来の124単位システムのままで出口の学士力評価が適切か?学習ポートフォリオの試案、などについて活発な議論が行われた。
 全体として、社会への入り口となる高等教育の出口管理として学士力が問われてきており、学士力向上には自立的学習姿勢を身につけさせること、それに導く仕組みをどうつくるか、継続のための教員からのサポート(褒める)の姿勢、社会とのつながりを意識させること、が重要であると大方の認識で一致した。


分科会C 「学習支援組織とSD活動」

<課題提起>
広島修道大学学習支援センター長 法学部准教授 矢田部順二氏
広島修道大学学習支援センター課長 加利川友子氏
山形大学高等教育研究企画センター 企画マネージメント部門長 地域教育文化学部教授 小田 隆治氏

 本分科会では、学習支援センターを中心とした全学的初年次教育の実践事例、および積極的な職員の能力開発の事例2件の課題提起があった。
 まず広島修道大学の矢田部順二氏、加利川友子氏より、同大学における初年次教育の実践、学習支援センターを中心とした学習支援活動が報告された。広島修道大学では、初年次教育に職員が積極的に関わっており、一部の講義を教員と分担して職員が行っている。大学組織全体で学生との接点をより密接に保つ観点からも特徴ある取り組みである。一方、職員が講義を受け持つことの難しさもあるとのことであった。
 続いて山形大学の小田隆治氏よりSD活動の実践が報告された。同大学では平成15年から職員のプロジェクトによって大学外にまで広げた地域貢献を積極的に進めており、大学が地域に根ざした存在となるべく職員の職務を超えた取り組みが大きな成果を上げている。
 両大学とも強いリーダシップのもと、これまでの常識にとらわれない活動が特徴である。
 課題提起に引き続き討議が行われ、職員の能力開発、支援組織、能力評価など多岐にわたって意見交換がなされた。この中で、教員と職員との連携、職員同士の恊働作業の重要性、組織間の壁の課題、リーダシップ、業務の到達目標の明確化、視野を広く持つことや所属大学自身を知ることの重要性、モチベーションや達成感の演出など大学が抱える共通の課題が明らかとなった。「SDにスタンダードはあり得ない。他大学の取り組みはあくまで参考であり、段階を踏んで達成感をプロデュースできる力を各大学が実践すること」(小田氏)が共通認識として得られた。


分科会D 「初年次教育と学習スキルの定着」

<課題提起>
創価大学経済学部教授 高木  功氏
千歳科学技術大学光科学部教授 小松川 浩氏

 どのような学生を入学させどのように育てるかは大学の課程設計における最重要課題である。入学学生の多様性が広がることによって各科目の設計の難しさが倍加する。ゆえに入学学生の学力および意欲のレベルをある程度揃える初年次教育や学習スキル定着の手立てが現実の教育には欠かせない。本分科会では、この領域に早くから取り組み、着実な成果を上げている千歳科学技術大学の小松川浩氏並びに創価大学の高木功氏に具体的事例を通して課題提起いただいた。
 千歳科学技術大学の小松川浩氏からの課題提起は、千歳科学技術大学では独自に開発したeラーニングシステムCIST Solomonを用いて、高大連携の一環としての入学前学生の基礎教育及び初年次学生のリメディアル教育に取り組んでいる。特にeラーニングのための教育コンテンツの整備・拡大を、学生プロジェクトによって進め、高大教員の連携によって品質を確保していく手法は、学生の動機付けと教員の負荷抑制を同時に満たしており、これからこの領域に取り組む多くの大学にとってよい手本となろう。また、入学前教育の重点を学力向上よりもむしろ「学習の継続性」とする視点も、本質をついている。
 創価大学の高木功氏からの課題提起は、創価大学における初年次教育の取り組みは、まずその総合性・多岐性に驚かされる。輩出する学生像をはっきりとイメージし、全体の課程設計の中から初年度教育の役割を明確にする。そしてその具体化として、教養スタンダードや副専攻の設置、語学力や日本語運営能力をも含む勉強法のサポート、数学力の高い学生と中程度の学生を組ませる自習チーム学習、読書の励行・報奨、Global Village(10言語会話)、など多くの施策を互いに有機的に関係付けながら進めている。また総合的な取り組みの中で、各施策を評価し検証する仕組みも構築している。どれ一つとっても、参考になることばかりである。さらに、前述の千歳科学技術大学のシステムを一部利用している旨の言及もあり、この領域で先行する大学間には密な連携ができつつあることが示唆された。
 課題提起の後、両講師と参加者とで沢山の質疑応答がなされた。千歳科学技術大学の教育コンテンツ整備の学生プロジェクトは、草の根から始めて7年かけて培ってきたこと、現在は専任スタッフと学生20名に成長したこと、参加する学生への極めて強い動機づけに成功したことなどが追加説明された。また、創価大学においては学生の指導にGPAを用いていること、容易な科目に学生が流れないように、教員間でGPA分布を公開し調整していること、学生の総合的自己管理のツールとして、eポートフォリオの導入を計画していることなどが説明された。
 質疑尽きることなく、予定時間を越えてもさらに詳細を求めて熱心な討議が行われた。今回取り上げた初年次教育及び学習スキル定着の諸課題は、小・中・高・大を俯瞰する大きな視点において、今後さらに重要になっていくと思われる。

文責: 教育改革IT戦略大会運営委員会

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