研修事業報告4
大学職員情報化研究講習会〜応用コース〜報告
本講習会応用コースは10月15日(水)〜17日(金)の3日間、静岡県の浜名湖ロイヤルホテルにおいて開催し、101大学、賛助会員5社から173名が参加した。
本年度は、大学職員を対象とした従来の研修プログラムを統合、再編し、本講習会は、7月に開催した「大学職員情報研究講習会〜基礎講習コース」の応用編と位置づけた。情報化戦略の視点からIT活用の先進事例に学ぶとともに、大学改革の諸課題に対応した八つのテーマ別分科会における、自由な意見交流と創造的な討議を通じて、実践的なスキルと態度を養うことを目的とした。なお、本協会の社会的役割に鑑み、本年度から参加資格を非会員の私立大学まで拡大し、研修成果をすべての私立大学における教育支援活動、人材育成支援活動にフィードバックすることを目指した。
−全体会の概要−
【趣旨説明】
冒頭、研修運営委員長の山田憲男氏(日本女子大学)より「あなたにとって大学職員はやりがいのある仕事ですか?」という問いかけとともに、本講習会の趣旨説明が行われた。「大学が社会からの信頼に応えるためには、環境の変化に的確に対応した組織的な取り組みが不可欠である。私たち大学職員一人ひとりが“組織に必要とされる人材”となるべく意識改革と能力開発に努め、継続的な自己実現を目指すことが大切である」という語りかけは、参加者の心に強く響き、「積極的に討議に参加したい」、「全国の大学職員とのネットワークを築きたい」、「研修の成果を自大学の業務に活かしたい」という講習会への参加意欲を喚起するものであった。
【事例研究】
文部科学省のGPにも採択された二つの事例紹介があった。参加者は、発表者との質疑応答を通じて取り組みの背景にある本質的な課題の認識を深めるとともに、これからの時代に大学職員が果たすべき役割について考察する機会を得た。
1. |
eポートフォリオを活用した教育改善 |
岩井 洋氏(関西国際大学教授、学長補佐) |
関西国際大学では、ポートフォリオの導入によって学生の学びのプロセスをきめ細かく支援し、これをITによって効率化している。参加者は、「学習目標の明確化」と「ふりかえり」を促すポートフォリオの教育的意義について理解を深め、学生を主体的な学び手に変革するための組織的な教育支援のあり方について考察した。 |
|
2. |
図書館員による学習支援 |
飯澤 文夫氏(明治大学学術・社会連携部長) |
明治大学では、図書館を“教育の場”として位置づけ、教員と職員がそれぞれの専門性を発揮し、相互に連携しながら学生の学びを支援している。さらに、これを担う図書館職員像を具体化し、組織的、体系的な職能開発(スタッフ・ディベロップメント・プログラム)に取り組んでいる。参加者は、教育改革の実践を支える職員の役割や機能について新たな視点を獲得するとともに、職員の人材育成の重要性について認識を深めることができた。 |
−分科会の概要−
分科会形式によるテーマ別討議を行った。各分科会とも先進的な実践事例の紹介を織り交ぜ、メーリングリストなどによる事前研修も取り入れながら、討議の活性化を図った。
第1分科会 学生の主体的な学びを喚起する学修支援
本分科会では、学生の主体的な学びを喚起するための情報活用、さらには組織的な学修支援のあり方について、その可能性と課題を明らかにし、学生の「学習成果」に着目したIT活用法を模索した。
討議では、19名の参加者を2グループに分け議論を進めた。各グループは、まず大学の抱える問題点を把握・整理し、その後、その問題を解決するためのIT活用法について、学生の主体的な学びを喚起するのに必要な視点を踏まえながら、様々なアイディアを提案することによって創造的ディスカションを実践した。
最終日には、IT活用による問題解決のアイディアなど、各グループで討議した成果を発表した。大学に対して特に関心のない中間層に属する多数の学生への対応として、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用して学生同士で学習を喚起させる仕組みや、入学前の学生にはe-Learningを使って学力の向上を図るとともに、ポートフォリオも取り入れて、大学に入学した思いや期待を大学が把握し支援を行い、入学前から大学に馴染んでもらう取り組み、さらにはe-Learningコンテンツの作成に学生も加わり、学生同士で学習意欲を高めるなど、非常に興味深いアイディアが発表された。
参加者からは今回の研修を通して、短時間でも集中して問題に取り組めば解決策は見出せること、また、この研修の成果を自分の大学に持ち帰ってスタッフを集めて検討を深めたいなどの意見があった。これは今回の研修で挙げている“自大学の現状や課題の発見”、“コーディネートやマネジメントに関わろうとする意識の獲得”などの期待される成果を十分に達成したものと考えられる。
第2分科会 教職員が連携した戦略的な教育支援
本分科会では、「ITを活用した戦略的教育支援モデル」を導き出す活動を通じて、教育改革を推進するにあたっての課題を認識し、これを組織的に解決する際に備えるべき視点を獲得することを目指した。
参加者は、研修に先立ち自大学の取り組みや問題意識をメーリングリスト上で交換し、分科会の冒頭で入学前教育におけるe-Learning活用事例があり、IT活用の可能性と課題について認識を深めるとともに、岩井洋氏(関西国際大学教授)とのディスカッションを通じ、教育目標を明確化し、PDCAサイクルに基づくシステム的なアプローチで教育改革に向き合うことの重要性を学んだ。その後、7名ずつの2グループに分けて、戦略的な教育支援モデルの創出に取り組んだ。完成したモデルは、教育の情報化をPDCAの枠組みで推進する教職連携の支援体制であり、教員の目標マップを取り入れた独創的な教授法改善プログラムであった。
最終日にはグループ間の相互評価により自グループの検討経過を振り返り、研修後もメーリングリスト上で初期モデルの改訂作業を進めることとした。
組織的な教育支援の取り組みは、今なお多くの大学で構築途上にある。今後も手段としてのIT活用事例を参照しながら、本質的な議論の中から教育改革をマネジメントする意欲と資質を磨く実践的な研修が求められよう。参加者から提示されたアクションプランを見ると、研修の成果を関係職員や関連部局に示しながら自大学の教育改革にフィードバックしたいという意欲的な態度が認められ、本分科会の目標は十分に達成されたと考える。
第3分科会 キャンパスライフを支援する効果的なIT活用法
本分科会は、学生のキャンパスライフを支援するためのITの活用について先進的な事例を学ぶとともに、参加者相互の意見交換により、参加者一人ひとりの問題意識の高揚と意識改革のきっかけを提供することをねらいとした。参加者は予め各大学の「現状」「問題」「今後」について事前にレポートを作成して、問題点の明確化を図るとともに、レポートをグループ討議の基礎資料とした。
冒頭、大阪学院大学と関東学院大学から実践事例の紹介があった。前者は、情報リテラシーの向上をテーマとしたもの、後者は入学前教育をテーマとしたものであり、いずれも先進的事例であったため、参加者にとって有益なものとなった。
グループ討議は15人ずつ程度の2グループに分けて行った。両グループとも「学生生活に役立つポータルサイトのあり方」を中心に、その他のサブテーマ(「携帯電話・携帯端末等を用いた学生支援のIT活用モデル」、「多様化する学生への個別指導・個別支援に有効なIT活用」、「多種多様なサービスの整理統合」)と関連付けながら討議を進めた。ポータルサイトの機能面での検討については、必要な機能を利用者(学生)側に立って分析し改善に繋げることが肝要であると結論付けられた。また、運用面からの検討では、コミュニケーション・ツールとしての限界を検証する必要性があること、より有効な活用のために教職員の意識改革が必要であることが確認された。
テーマの特性上、多様な観点から複数の課題を整理しなければならず、時間の制約上、必ずしも議論が収束しない場面もあったが、一方で各大学の実情や問題意識を交換するプロセスを通じて、参加者が自大学で抱える課題を再確認し、その認識を深め、問題解決のアプローチについて示唆を得るなど実践的な研修成果を得ることができた。
第4分科会 大学広報におけるWebサイトの戦略的構築と差別化
本分科会では、大学Web広報の現状・課題について、ステークホルダーに訴求する大学情報の収集と精選、インタラクティブ性、コンテンツ・品質管理のあり方等について分析し、問題解決のための課題の確認、新しい提案の発掘とその可能性について有意義な討議が展開され、所期のねらいは達成できた。
本分科会の参加者(24名)には事前研修として三つの討議テーマに関する自大学の現状と課題、今後の計画や提案に関しての事前レポートを課した。このレポートは参加者の課題意識を喚起し、分科会活動の基礎として有効に活用された。
分科会はミニ事例発表3校、運営委員による講演、グループ討議を実施し、最終日には、成果発表と相互評価を実施し、研修成果を参加者全員で共有した。
討議の過程で新たに浮かび上がった課題は、大学の広報マインドを組織内にいかに醸成するかという点である。つまり、一般的に広報戦略は学外ステークホルダーへの対応に注力しがちである。しかし、ブランディングや差別化を図る上で、広報に関する学内構成員間の意識共有や相互連携こそが重要な要素であり、これを活性化する施策が強く求められているという課題認識である。
学外・学内に視点を向けられる本分科会のテーマは現代の大学が置かれている環境において意義あるものであると考える。今後はさらにITを活用した具体的なアクションプランの作成まで討議を深められるように工夫を重ね、大学Webサイトの戦略的構築が教育改革の推進力となることを期待したい。
第5分科会 多様な学生に対するきめ細かなキャリア形成支援
本分科会は、事前レポートにより各校の現状と抱えている課題を提示してもらい、それらを踏まえた上で、討議の中心テーマを検討することから始めた。
今回は参加者が7名と少なかったことを生かして、討議をできるだけ丁寧に進めるよう心がけた。まず、事前レポートに基づいて各校の実情を全員が確認し、次に、その中の1校からミニ事例紹介として、IT活用の具体例を報告してもらったところ、それを契機に種々の意見が活発に述べられるようになった。そして皆の関心事の最大公約数として、現役学生がなかなかOBと触れ合う機会がなく、社会への関心を高め、職業観を醸成する契機が不足がちであるという現状があげられ、「IT活用によるOBを巻き込んだ双方向キャリア開発支援」が具体的なテーマとなった。
分科会の討議を纏めるにあたっては最終的に「現代GP」の申請書の形に落とし込むことを課したため、全体への目配りが先にたち、若干、議論に深みが足らず、形式的・表面的に流れた点もあったが、概ね問題点は共有され、SNSやバーチャル訪問、サテライトガイダンスなど、ITをいかに組み合わせればより効果的サポートができるかを検討し、一応の成果は得られたものと考えられる。
ただ反省点として、企業側の参画を促す施策が明確でなく、企業の協力が得られやすくする視点が不足していたように思われる。
第6分科会 学生の自立的な学びを支援する大学図書館の役割
主体的に学ぶことが要求される大学の授業において、学生のスタディスキルズ(学びの技法)が十分でない中、図書館が正課カリキュラムと連携しながら学習支援を展開するケースが出てきた。その先進的な事例が、全体会で紹介された明治大学の取り組み(昨年度特色GP採択)である。分科会では、この事例紹介を受け、また、講師の飯澤文夫氏(明治大学)、アドバイザーの牛崎進氏(立教大学)を交えて、議論を進めた。研修に先立ち、事前研修としてレポートとメーリングリストを通じての討議(自大学の取り組み)を実施し、ある程度、参加者の相互理解とテーマの共通認識ができた。
スタディスキルを育む支援については、明治大学や参加大学の事例を参考に論議され、イメージを描くことができた。スタディスキルは初年次で取り組む例が多いが、論文作成は3年次以降に必要性が高くなることも論議された。活字離れや図書館来館が積極的でない現状を見据え、来館を受動的に待つのではなく、Webを活用しながら図書館から学生、教職員へ様々な施策を働きかける積極的な提案された。図書館職員という枠に閉じこもらず、大学構成員としての意識の変革をしつつ、教員や他部署と連携し、図書館員が持つ専門性やスキルを発揮する必要もあるとの提案もされた。論議の中では、各大学図書館が各々努力と工夫を重ね実施している取り組みの紹介や活発な意見交換が行われた。参加者は、それらを自分の状況に重ね合わせ、ヒントやアイディアあるいは気付きを得て、研修成果として持ち帰ることができた。
事後研修としては、メーリングリスト上で、グループ討議のまとめを行うこと、個人活動として分科会終了時に作成したアクションプランのうち「自大学に帰ってからすぐに手がけること」の実施状況を報告することの二つを行うこととした。
第7分科会 大学を取り巻く環境の変化に対応した情報システム部門の役割
本分科会は、大学を取り巻く環境の変化を背景に大学の将来像を描き、情報システム部門の役割について考え、将来のシステム構築に有効と思われる技術やサービス、運営等について討議し、費用対効果、リスク等の観点から多面的な評価を行うことを目的とした。
研修に必要となる基礎知識や情報の修得の一助として、大学を取り巻く環境変化、大学の将来像、情報部門の役割についての事前レポートを課し、また、参考事例として、フリーメール、遠隔授業システム、サーバ仮想化、電子購買システム等の紹介を行い、それらを踏まえてグループ討議を行った。
グループ討議は参加者の担当業務により教育研究、業務、総合に分かれて行い、教育研究グループは、「5年後の大学夢プランを提案する」ことを目標に、魅力ある大学をITで実現する提案をまとめた。業務グループは、部門が抱える課題としてコスト、新技術への対応、要員の育成と確保、ベンダコントロール等について解決策を模索した。総合グループは、新技術の活用を中心に、システムの構築・リプレースの際のコスト面や教育コンテンツの管理面等で、大学共通の基盤作りと、関連団体や業者、教員との密接な連携の重要性に着目して解決策の討議を行った。
本分科会には多様な雇用形態、前歴、業務経験を持った方々が参加していた。そこで、「大学の将来像を描く」という状況設定を行い、相互の違いを超えて共通のテーマに取り組むことで、議論の深化を促した。しかしながら、これが必ずしも十分に機能しなかった部分があり、今後の課題として、事前レポートの締め切りを早めて事前学習の段階でグループ分けを行う、講習会前にメール等によるディスカッションの場を提供する、討議の進行において早めのアドバイスを行う等、さらなる検討が必要なことを認識した。
第8分科会 教職員の協働を推進するITを活用したコミュニケーション
本分科会は、ITを活用したコミュニケーション・ツールと教職員の協働の重要性についての認識を深めるとともに、自大学でのコミュニケーション・ツールの改善例や情報化を推進しようとする際に向き合わなければならない課題の認識、さらに、解決する視点を見出すことをねらいとした。
研修に先立ち、参加者は分科会への参加目的・達成目標・自大学が抱える課題、討議希望テーマのレポートを提出し、また、メーリングリスト上で参加者同士の交流を深めた。分科会参加者13名は2グループに分かれ、「ITを活用した教職員の協働の可能性」と「教職員の協働を推進するITコミュニケーション・ツール」をそれぞれ討議テーマとした。前者のグループでは、協働を阻む要因や協働を推進するにあたってIT導入段階、運用段階での留意点が討議された。また、後者のグループでは、教職員の協働を推進するコミュニケーション・ツールのモデル構築が試みられた。そして、最終日にはグループ発表と相互評価により、両グループは検討経過を振り返り、研修後もメーリングリストを活用して最終結論をまとめている。参加者は大学の規模、状況を越えて、教職員の協働の実現に向けての課題に向き合い、課題解決の視点を見出そうとする創造的な討議ができ、さらには、自大学へ戻ってからの改善策を模索しようとする姿勢が見られた。研修後の参加者の評価シートを見ても、講習会のねらい、目標は概ね達成できたと評価される。しかし、討議の視点が職員や教員に留まり、卒業生や地域社会などのステークホルダーまで含めた包括的な討議まで発展しなかった点は今後の課題と考える。
−研修成果−
目標達成度について参加者の自己評価を集計したところ、「大学を取り巻く環境への認識を深め、自大学における課題を発見することができた」と回答した割合は8割を越えた(81.7%)。
しかし、「職員に求められる役割を再認識し、コーディネートやマネジメントに関わろうとする意識が高まった」はこれより6ポイント低く(75.5%)、「情報化推進に求められる視点を獲得できた」はさらに7ポイント低い結果となった(67.9%)。この背景には、基本的な課題認識を深めるための本質的な議論が尽くされた一方で、その解決にあたって大学職員が果たすべき役割や情報化戦略の具体的イメージを描く議論にまで十分に踏み込めなかったと思われる。参加者からの評価を分析し、テーマ設定の妥当性や討議の流れを支援する運営委員の働きかけなど、改善すべき課題を明らかにすることが求められる。
また、3日間という日程を越えた研修運営のあり方について、例えば研修後に参加者が自らの成長を振り返り、ここで培われた人的ネットワークを通じて相互交流を図りながら、講習会を真の「学びの場」として発展的、継続的に活用するような方策を検討すべきであろう。本年度、いくつかの分科会では事後研修を設け、「アクションプランの提出とその実践報告」などを課して、学びの成果を業務に生かすことを導くプログラムを用意した。これがうまく機能すれば目標達成度の向上も期待でき、実践的な人材育成研修としての本講習会の存在意義がさらに高まるものと考える。
【目次へ戻る】
【バックナンバー 一覧へ戻る】