特集 連携で学生を創る
難波 美都里(南大阪地域大学コンソーシアム統括コーディネータ)
南大阪に位置する桃山学院大学、大阪府立大学、大阪大谷大学、帝塚山学院大学、羽衣国際大学、プール学院大学の6大学では、「実践力のある地域人材の輩出〜大学連携キャリア教育センターを核にして〜」をテーマに、平成20年度文部科学省戦略的大学連携支援事業に選定され、大学連携による人材育成機能強化と人材供給メカニズムの構築に取り組んでいます。本事業では、各大学における教育研究資源を有効活用することにより、地域の知の拠点となり、地域と一体となった人材育成の推進を図ることが大学に求められています。ここでは、連携6大学が実践している大学連携の取り組みについて紹介するとともに、連携に伴う大学間のハードルを乗り越える手段の一つとしてITの有効活用に取り組んでいる現状について述べていきたいと思います。
図1 事業イメージ図
本連携の取り組みで人材育成をテーマにした背景には、今日の分権化する知識基盤社会において、市民は自律的・継続的に能力を向上し、地域活性化の担い手として機能することが期待されており、高い実践力を備えた人材育成が喫急の課題となっている、との認識があります。しかし、実践力のある人材とは、地域活性化を担う人材、企業が求める人材、主体的な学び力をもつ人材など、その内容も専門性も多種多様であることから、大学はかつてないほど具体的な人材イメージをもった人材育成機能強化および人材輩出の仕組み構築が求められています。そこで本連携の取り組みでは、人材育成の効果的手法について、各大学の問題点を持ち寄ることで個別大学の事情を超えた共通課題を見出すとともに、各大学から参加する、異なる学問領域をバックグランドとする教員によって学際的・領域横断的に開発していくことを目指しています。
実践力のある人材を育成し輩出する仕組みを作るために、事業を1)キャリア教育・FD事業、2)キャリア形成支援事業、3)生涯学習事業、4)SD事業の四つの柱に分けてプログラム化することにしました。
1)キャリア教育・FD事業では、実効性ある人間基礎力育成プログラムを6大学で共同開発し、共同の教員研修を実施し、今年度から各大学で順次PP講座として開講しています。2)キャリア形成支援事業では、「働くことや生き方や社会の一員としての責任」などについて社会に出る前にちょっと立ち止まって考える場を提供し、学校から社会へとつないでいくためのキャリア形成支援「School to Work」をプログラム化しています。今春、南大阪の交通の結節点であり中心である難波に「大学連携キャリア教育センターC-Campus」を開設しました。3)生涯学習事業では、1)2)で培った実践力ある人材育成プログラムを活用し、育った人材が地域で活かされる仕組み構築を自治体と連携して目指しており、今夏から講座が始まります。4)SD事業は、1)で実践されるFDとともに、1)2)3)の先進的な事業を支えていく職員および教員の資質向上を6大学が連携して実現させていく強調発展型FD・SDを目指しています。段階的に連携6大学で協同しあう風土をつくり、大学に影響をもつ南大阪の地域課題解決に向けてスキルアップを図っていく予定です。
大学が連携してキャリア教育センターを開設するのは、全国でも新しい試みです。特に、キャリア支援は大学の出口指導として経営戦略に直結していることも多く、競争関係でこそあれ、共同で行うことにはそれ相応の目的と戦略が必要で、その成果が求められています。とはいえ、連携メリットを最大限に生かそうとするセンターの試みは、キャリア形成支援の大学共同モデル事業として大きな意義が含まれていると考えています。
センターでは、学生のキャリア形成支援と地域の知の拠点となることを目的としています。前者は、学生が社会に第1歩を踏み出すきっかけづくりの場として、「学び」と「社会体験」を融合させたキャリア形成支援を目指しています。後者では、センターは地域と一体となって地域人材を育成・輩出していく場であり、地域の知の拠点として産官学地域連携を推進し、地域活性化を図ることを目指します。上記目的を達成するために、以下の機能を持たせています、1)学生の就職活動拠点、2)各大学では実践したくてもできていないきめ細かで効果的なキャリア形成支援策の共同開発の場および実験場、3)学生たちが集まりたくなる場、4)連携大学の学生や社会人が集う異文化交流の場、5)大学のキャリア形成支援サテライトオフィス、6)地域の知の拠点として産官学地域連携推進の場など。
図2 大学連携キャリア教育センターC-Campus
センターは大学のキャリア教育センターとして、各大学のキャリア形成支援機能を高めるとともに合理化・効率化を果たす役割を担っています。そのために、大学独自でできることと、連携することでメリットが最大化されるものについて、大学とセンター間で役割や機能分化を図ることがセンター成功の鍵となると考えています。現在、「キャリア形成支援プログラム/ミニ講座ライブラリー100」と銘打った多種多様でパッケージ化されたキャリア教育プログラムの共同開発・共同利用や、協力企業が登録する「企業バンク100」による地域と一体となった人材育成の環境づくり等、連携による人材育成機能強化と合理化・効率化を実現できる取り組みを始めています。
連携校が中心をなす南大阪地域大学コンソーシアム(以下、南コンソと記す。)では、平成17年度から経済産業省委託事業としてキャリア教育プログラムの開発・実践に力を入れており、その成果を本連携の取り組みにおけるキャリア教育科目の共同開発にも生かしています。そこでは、キャリア教育の効果を測定するために、育成された能力15項目および自己意識に関わる6項目を抽出し測定しています(表1)。本取り組みでは、ここで開発された効果測定の手法をさらに改善し、ITを活用した「Web上でのキャリア教育効果測定システム」(以下、効果測定システムと記す。)を開発し、活用を始めています。
表1 集約した8項目と基になった21項目の対応表 | |||||||||||||||||||
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(『キャリア教育プロジェクト研究会報告書』 南大阪地域大学コンソーシアム、2008年より抜粋) |
効果測定システムの開発にあたっては、共同で開発した教育プログラムが能力開発の上でどのような効果を生んでいるかを測定するとともに、本教育プログラムへの学生の参加の状態を測定することでFDとして教育改善につなげていくことができることを開発目標としました。具体的には、1)育成された能力(学士力)の変化、2)受講生の活動への関わり方の変化、の二つの項目の変化を測定することができるように開発しています。
表2 1)育成能力変化を示すレーダーチャート
表3 2)活動参加の変化を表すグラフ
本システムを利用する学生は、まず「キャリア形成支援システム」(後述)に個人情報を登録し、登録完了後に届くIDとパスワードによって「効果測定システム」に入り、講座の前後及び毎回の講座終了後に測定結果を入力します。入力はモバイルからも可能です。教員は、講座を開設し学生が入力できる環境整備を行います。結果は、画面上やデータとしてダウンロードすることができ、その結果を分析し授業改善に生かします。
本システムでは、現在の自分自身の能力がどの程度にあるのかを知ることもできます。そこで、1)現時点での自己の人間基礎力測定、2)受講生全員の現状能力把握など、効果的な授業計画を策定するためのFDの授業改善ツールとしても有効活用していく予定です。
大学連携事業では、大学間の距離が離れていることがデメリットとして挙げられることから、この距離を縮めるための方法としてITを活用することとしました。それが「キャリア形成支援システム」です。学生たちがキャリア形成支援の取り組みを受けやすくするためのシステムサポートの側面と、大学・センター間および大学間をつなぐ役割を担うものが必要である、という二つの側面から開発を決めたものです。忙しい教職員のために、SDでは大学間でいつでもどこでも会議できるようWeb上で意見交換できるページを組み込んでいます。本システムでできることは、1)登録機能(学生、教職員、企業)、2)教育効果測定結果登録・結果確認 (効果測定システム)、3)セミナー情報の閲覧・申込 、4)インターンシップ情報の閲覧、5)PP講座情報の閲覧、6)学生の活動履歴確認、7)SD研修用Web会議等です。
また、本取組の内容および成果を積極的かつ速やかに情報発信するために、技術上の壁を取り除き専門技術がなくても情報発信できる「Web作成システム」を開発し、ホームページ上から積極的な情報発信を行っています。
本事業は、大学単独で実施する事業と比べると大きな取り組みへの可能性が広がり、より高い成果を出すことが期待できます。一方で、それぞれ独自の個性と文化を有する6大学が歩調を合わせ、円滑に連携事業を進めていくことには相応の難しさを伴うことも事実です。連携6大学は、南コンソの会員大学として日常的に連携して活動を行ってきている大学同士です。しかし、南コンソは大学にとっては外在する組織であり、本連携の取り組み事業のように大学組織そのものが事業主体として連携しあうことは初めての試みです。そこで、円滑な連携を推進するための工夫として、上記のITの活用の他、連携6大学間で協定書並びに契約書を締結して合意形成を図るとともに、事業運営にあたっては、規定、各種定型書類を定めることで大学間の円滑な基本的流れを作っています。今後、大学連携事業への期待はますます大きくなることが予想されますが、このような連携に対する本取組の対応が円滑な連携を進めていくための一つのモデルとなることを期待しています。