人材育成のための授業紹介・教育学
自律的授業参画の道具としてのMoodleの活用例
難波 豊 (桜美林大学教授)
1.はじめに(初心者でもICT教育は可能)
本稿は、大々的にICT教育を紹介できる画期的内容の授業ではありませんが、学生のためにやる気をもてばe-Learningの知識やパソコン操作の初心者でも、ICTを活用した授業運営は可能であるという授業事例です。大学が教育・学習支援として用意したMoodle(注1)を2006年度秋学期の教育心理学の授業から始め、翌年度からは教職課程担当科目すべてに活用しています。ただし、簡単なフォーラム(ディスカッションルーム)だけの利用です。
2.教員の講義は極力短く、学生の協学時間は大いに長く
2009年度春学期担当の教職課程科目(表1)すべてを班構成にして、自律的に協学精神を生かす授業に取り組んでいます。どの教室も活気に満ち、楽しい授業です。
表1 2009年度春学期担当科目と履修者数 |
火1 |
2年次 |
教育方法論 |
22名 |
火4 |
2年次 |
生徒指導論 |
29名 |
水2 |
2年次 |
教育方法論 |
71名 |
水3 |
1年次 |
教職入門 |
30名 |
木5 |
4年次 |
教育実習事前・事後指導B |
42名 |
木6 |
3年次 |
教育実習事前・事後指導A |
32名 |
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(1)テキスト範囲の予習・復習、Moodle使用をシラバスに明示[1]
予習・復習と資料収集を要求していますから、怠学姿勢では授業が成立しないことを学生は回を重ねるうちに体得していきます。その一例が、火曜1限のS.Kさんです。
彼は、3回目の授業までMoodleの利用をせず、課題ペーパーには誤字が目立ち、発言内容もその場凌ぎでした。毎回の課題ペーパーのコメント欄や机間指導中に、さらなる奮起を促したところ、班員の助けを借り、図1の書き込みをしました。以後、積極的に全体討論の司会やディスカッションルームに8回に及ぶ書き込みを行うに至っています。
28日に話し合ったvこと
2009年 05月 14日(木曜日) 11:18 -S.Kの投稿
どうもはじめまして。初めて書き込みするS.Kと申します。
自分はまだまだ自分の力や気力などが足りないので、
がんばって勉強しています。(後略) 編集 | 削除 | 返信 |
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図1 S.Kさんの初めての書き込み |
(2)教室にノートパソコン持参を歓迎
授業時には、その日の授業の時間的流れを説明した教員手作りの「授業メモ」[1]とその日の課題整理用の「課題ペーパー」を配布します。一方、学生は当日のリーダーの指揮のもとに本学貸与のノートパソコン1〜2台を班単位で利用して、当日の学びを深めます。机間指導中、教室の常設パソコンを無線LAN接続の状態にして、必要に応じて情報の交換や個人あるいは班単位の質問を受けつつ、学生の授業態度、意欲、予習・復習状況、理解度をチェックします。これらは、提出物と合わせて成績評価資料となり、教員にとっては、授業終了後の反省と次週へ向けての授業準備資料となります。
3.Moodleのフォーラム(ディスカッションルーム)の活用
(1)班単位の協働意欲、協学による発表成果
Moodleに掲載した教員からの連絡事項は、e-mailで彼らのもとに届くため、IDとパスワードを入れて強いてMoodleにアクセスをする気にならない学生が存在します。しかし、ディスカッションが班の士気を左右することに気づくと、文章表現の巧拙よりもコミュニケーションを重視して、アクセスをします。その例が図2と図3です。まとめ役の3年生がディスカッションルームに発表要旨を添付ファイルで掲載してメンバーに意見を求め、2年生が応えた事例です。時間を計り、文章の校正をして、発表に臨む準備段階の一部分が図3の例です。事例の班員は、表2の第9班に所属しています。
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まとめました。2009年 06月 22日(月曜日)01:11
- S .A の投稿 tt.doc
こんばんは。夜分遅くにすみません。みなさんがmoodleに書き込んでくださった内容で、発表用にまとめてみました。やることがあったので付け足したり、吟味したりということがあまりできなくて、ほんとうに軽くまとめてしまいました。先生からのメールで〜〜〜という意見をくださったので、まず場面設定からメリット・デメリットの説明、実用例をまとめといっしょにしてしまいました。
何かありましたら返信ください。 編集 | 削除 | 返信 |
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Re: まとめました。2009年06月22日(月曜日)21:54
- Y .S の投稿 tt02.doc
S.Aさん、素晴らしいまとめをありがとうございました。おそらく本番は聞き取りやすいように文書をゆっくり読むことになると思います。そのため、少し時間に余裕を持って発表が行えるよう、削れそうな部分にコメントを添えさせていただきました。お忙しいところ恐縮ですが、確認の程よろしくお願いします。
親記事を表示する 編集 | 削除 | 返信 |
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図2 発表準備のディスカッション |
目的 私たちの班は、実際に学校現場で授業を行っている中の一つの方法として習熟度別指導について学ぶことにしました。今回、習熟度別の指導ということで私たちの班では実際の授業場面を想定し、習熟度別の指導について考えました。(中略)
まとめ 習熟度別指導は現在、学校現場でよく取り入れられている授業方法です。やはりそこには、子供の習熟度や理解度,学びのスタイル等が重視されているという現在の教育の現状があります。生徒の「できる喜び」や「学ぶ楽しさ」を知ることを助けるのは教師の大切な役割だと考えます。しかし、デメリットにもあげたように様々な方法が求められ、レベルが高まり、教師は負担がおおきくなります。やはり習熟度別指導は教師同士の綿密な計画や話し合いが必要不可欠になります。
現在行われている実践例では、習熟度別指導を主として行わない学校では習熟度別指導を一斉授業のサブとして行っていて、長期休みの間の一週間を利用して習熟度別授業にあてることで、レベル別の生徒一人一人が総復習のできる環境を作っています。
また、指導する教員が足りないという対策では他教科の先生やボランティアの学生が、習熟度別授業でボランティアとして補助的な指導を行うなどといった対策を行っている学校もあります。
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図3 Moodleを利用したY .Sさんの添削場面 |
(2)ディスカッションルーム投稿・返信の実態
表2は、第2回目の班活動途中の統計です。担当科目すべてに対して2回〜3回の班編成をしますが、単にフォーラムに班名を掲載するだけではなく、1週間前から新規のディスカッションが可能な状態であることを学生に連絡します。このことで、学生はシラバスに沿って授業開始前からディスカッションができます。他方、投稿の少ない班員が出ますが、勢いMoodleに無関心であるとは断言できません。パソコン操作に対する臆する心との葛藤状態の数字です。閲覧しても投稿にまで勇気が出ない状態ですから、寛容に彼らの積極性を促しています。図4の第1班(教育方法論水2)の投稿内訳は、表2の内容の一例です。 は、各自のプロファイル編集で画像を貼付可能です。
表2 教育方法論(水2)の第2回目のフォーラム投稿・返信数 |
教育方法論(水2)6月10日〜6月24日の統計 |
投稿 |
返信 |
計 |
第1班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
3 |
4 |
7 |
第2班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
5 |
0 |
5 |
第3班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
11 |
10 |
21 |
第4班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
5 |
10 |
15 |
第5班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
4 |
3 |
7 |
第6班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
6 |
1 |
7 |
第7班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
3 |
0 |
3 |
第8班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
7 |
6 |
13 |
第9班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
11 |
11 |
22 |
第10班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
9 |
3 |
12 |
第11班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
12 |
2 |
14 |
第12班(期間:第8回6月10日〜第14回 7月22日) |
6 |
1 |
7 |
合 計 |
82 |
51 |
133 |
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ディスカッション |
ディスカッションの開始 |
返信 |
評価について |
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N. A |
2 |
6月24日の発表要旨 |
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K. S |
0 |
集団づくりの意義と方法 |
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T. E |
2 |
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図4 第1班(教育方法論水2)の投稿内訳 |
(3)初年次教育の意義
全コース(科目)に班を超越した「自由な情報交換広場」を設定していますが、1年次向けの教職入門科目の発言回数は13回(教員による投稿2回を含む)で、他のコースを上回っています。発言項目は「【調べましょう】知ってる、知らない教育用語。参考図書について*。5月13日の授業にて。教員免許更新について。今までの授業を振り返って。5/20の授業。本を読む親の子どもは優秀。第8回。バーンアウトについて」です。初年次に自律した授業の楽しさが分かると、創意工夫の意欲が湧くことを知らされました。まさに、教育には忍耐が必要ですが希望があります。
4.おわりに(失敗と改善策の繰り返し)
学生の利便性を考えて、第1回目の班構成のときは、張り切って単元ごとに複数のディスカッションルームを用意しました。特にオムニバス授業科目の教育実習事前・事後指導A&Bは、講義項目ごとにフォーラムを作成しましたが、笛吹けど踊らずの状態です。図5が、そのトピックアウトラインです。班分けは協学効果があります。しかし、ディスカッションルームは、項目が多過ぎると学生にとっても管理する教員にとっても教育効果が下がることに気づきました。
初心者であることを言い訳にせず、反省を更なる授業改善に生かしつつ、次週以降の授業に励み、Moodleの他の機能をも使えるように努力したいと考えています。
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図5 教育実習事前・事後指導Aのトピックアウトライン |
注 |
(1) |
Moodleは、オーストラリアのMartin Dougiamasさんの開発ソフトです。 |
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参考文献 |
[1] |
難波豊: 学生が協学精神を生かす班活動の工夫. 桜美林大学教職課程年報第2号, 2008. |
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