巻頭言
長い間、実に14年間にわたり、私情協の顔として本会の発展と充実に尽くされてきました戸高敏之前会長が引かれ、その後を引き継いで、私はこの度、会長を仰せつかりました。浅学菲才、まったくの力不足ですが、少しでも私学の発展とITを通しての大学教育の質の向上に貢献できればと思い、微力ではありますが、懸命に努力をしていきたいと存じますので、ご協力とご支援の程をお願い申し上げます。
私情協の歴史はIT革命の黎明期から始まったと言ってよいでしょう。すなわち、コンピュータの普及と高度化に伴って、私立大学への情報施設・設備の導入の支援が私情協の最初の大事な役割でありました。これと同時に私情協は、情報処理教育の普及と実施、情報処理に携わる教職員の情報交換と切磋琢磨の場としての役割を果たすことから始まりました。ここまでは、“情報のための教育”という視点で捉えることができます。これは、必然的に次の段階として、“教育の情報化”へと発展していきました。すなわち、IT技術を幅広い教育分野の多くの場面に導入することにより、これまでにできなかった時間と空間を越えた教育の実施、分かりやすく丁寧で親切な教育の実施、教育評価の適切化、教育に伴う雑務からの解放と効率化等を経て、共同での教材開発や連携授業、個性に合った個別授業等へと、教育におけるIT技術の応用が広がっていきました。この時点では、私情協の役割は、時代の要請の下に、“情報による教育”という形に変化したと言えます。
私学を取り巻く現状を考えてみますと、我々はまったく激動の中に放り投げられた観があります。この度の政治体制の劇的変化、恐慌と言ってもよい程の金融と経済のショックと長期低迷・停滞、さらには従来からのIT革命とグローバル化の波が、ますます大学全体に大きく覆いかぶさってきています。一方で、足元では18歳人口の急激な減少、大学入学定員割れ、18歳人口の5割が大学に学ぶユニバーサル化の時代の到来と教育の質保証、我々は現在、私学の存続を根本から問い直さなければならないような激動の環境に身を置いています。そのような中で、大学教育の質と教員の教育力が問われ出しました。我が国の大学の教育そのものが問われ出しているのです。我々にとって、教育が本務、すなわち有意な人材の育成が第一義であり、そのためのIT技術の応用であることは間違いありません。したがって、私情協としても本来の責務である教育そのものに目を向けざるを得なくなります。現状を踏まえて、教育はどうあるべきか、教員の教育力をどう付けるべきか、を考えざるを得なくなりました。これが激動の真只中にある我々の現在の教育の状況ではないかと思います。私情協の次の役割は、教育という現場において、IT技術を使うことの光と影を十分に考慮しながら、すなわちIT技術を使わないことも含めて、IT技術というツールによって、教育の質をいかに上げ、教員の教育力をいかに上げるかを検討・実施する時期に来ました。これは、“教育のための情報”であり、“IT技術による教育革命”と位置付けられると思います。
国家百年の計は、明らかに教育にあります。これは決して変わることはありません。この根本を見失わずに、時代の激動に対応しながら地に足をつけた活動を続けていくことが大事であると心得ています。私情協の次の目標に向かって着実に歩を進めることが、戸高前会長から引き継いだ私の役割であると考えています。最終的には、我が国の大学において私情協の存在が不要となるように大学教育の質的向上が図られることが本協会の存在意義でありましょうが、まだまだ、その道は遠そうです。私情協参加の皆様とともに、新しい私情協の役割に向かって進んでいきたいと思います。