人材育成のための授業紹介●デザイン学

Webデザイン実習とMacintosh OS X Serverのファイル共有・Web共有の活用
〜Webデザイン科目を事例として〜


有馬十三郎(東京家政大学家政学部造形表現学科准教授)


1.はじめに

 東京家政大学は大学2学部9学科、短期大学部3科、大学院2研究科、在学数約5,800人、および付属中学・高校、付属幼稚園を設置する大学です。パソコン教室は11教室(演習室・自習室、付属校の教室は除く)で、そのうち1教室がMacの実習室で主に造形表現学科の実習科目でフル稼働しています。造形表現学科は2003年に家政学部服飾美術学科美術専攻を母体に設立され、美術・デザイン・工芸・ファションの各分野の教科があり、各分野の科目を自由に組み合わせ・選択ができるフレキシブルな履修システムにより学生は各分野を幅広く選択したり、また一つの分野をより深く学ぶことができるなど様々な教科を総合的かつ実践的に学ぶことができる学科です。

写真1 校舎
写真1 校舎


2.デジタルデザイン関連の教育内容について

(1)基礎課程について
 3〜4年次でグラフィックデザインやWebデザインなどの専門科目を学ぶにあたって、当学科では1年次の基礎科目からMacintoshでデザインの基礎を学びます。その内容は「実習基礎A」1年次通年4単位のうち15コマ1単位分を後期140人を1クラス35人・4クラス開講にしてPhotoshopとIllustratorで課題制作の実習を行います。Photoshopでは描画と写真合成の技術および表現方法を学びます。この課題では導入に画像解像度、カラーモード等の基本知識を学び、レイヤーマスク、調整レイヤー、レイヤー効果といったレイヤーに関する「データ非破壊」の技法をはじめから指導するようにしています。その理由の一つはハード、ソフトともに性能がUPしたのはもちろんですが、10年ほど前はプロのデザイナーがPhotoshopである程度の画像合成ができればそれでよしとして注目を浴びた時代でしたが、最近は表現とその作成技術は上がる一方で、単なる画像合成ではもの足りなくなり、質の高いデザインの要求に応えるためにはレイヤーに関する技法が必須となってきたため、入門編から導入をするようになりました。
 もう一つの理由は、Webのデザインは印刷に関わるデザインと比べ、サイトの更新でデザインのバリエーションを用意して頻繁に更新する作業があるため、画像の再編集が必須作業であることです。以上の理由から1年次の基礎課程からやや難易度が高くても取り込んでおかなくてはならない技法となりました。
 一方Illustratorはどんなに多くのチュートリアルを習得しても肝心のデザイン・造形力がないと幼稚な描画で終わってしまうので、1年次では簡単な操作技術でシンプルなシンボルマーク風のデザインをする指導で済ませておきます。
 2年次では学生のデザイン力が多少身に付いてくることもあり、また授業時間数も年間30コマあるのでデザインの表現も合わせてPhotoshop、Illustratorを指導し中級編まで行います。

(2)専門課程について
 3年次はWebデザイン、グラフィックデザイン、インテリアデザイン、住環境デザイン、ファション、工芸(染色・織物・陶芸)、絵画ほか各種専門科目にへ多方面にかかわりをもつため、それぞれの科目または総合的な表現の課題制作に役立つ技術支援の指導に重点をおいて指導をしています。
 例えば伝統的な染色技法の場合は予め生地をスキャンしてベースを作成し、そこにインクを染めた紙をスキャンしてレイヤー合成し、布に染料を染める前のシミュレーションをして参考下絵を作成したり、印刷入稿用の水彩のイラストでは水彩絵の具で描いた後、最終仕上げに部分的にPhotoshopで水彩の着色をレイヤー合成するなど印刷入稿に合わせた技法を使うなどそれぞれの課題制作に役立つような細かいテクニックを授業に導入しています。

(3)Web実習について
 Webの実習は前期にFlashを2コマ続き15回、後期に2コマ続き15回で、htmlとcssを学びます。
 FlashはActionScriptを2.0の設定で行うためチュートリアルは既存のものを使用せずオリジナルチュートリアルをPDFで作成し、sampleポイントに収納しておきます。PDF形式にしておけば学生が自宅でも予習復習として利用が容易なためPDF形式を使用しています。ただしこのチュートリアルと口頭説明ではすべての学生が内容を理解するのは不可能なので、このPDFをあえてプリントし1回目の授業で配付します。また20インチのディスプレイにFlashとPDFの両方のファイルを開いて交互に見るのは不便でもあります。プリントを配付しておけば詳細説明を記入できるので他の授業でも電子教材プラスプリント配付をしています。htmlとcssのソースの授業は記述の暗記力を必要とするため、プリント配付はせず、sample共有ポイントにサンプルファイルを収納しておき学生はそれを自分のフォルダにコピーをとり、上書き演習をしながらhtmlソースを習得していきます。

(4)詳細説明にApple Remote Desktopを使用
 詳細説明にはApple Remote Desktopを使い学生機のディスプレイに教員の操作画面を送信して説明をします。このApple Remote Desktopというソフトはサーバーのリモート操作用にも使用できますが、高価なハード機器を使用しなくても画面の共有(教員の画面を45台の学生機に配信する)が可能です。ただしソフトなので45台を共有するとややタイムラグが生じますが、授業運営には差し支えありません。
 場合によってはプロジェクターで画像をスクリーンに投影することもあります。スクリーン利用だと学生はスクリーンの操作を見ながら先生の操作を同時に行えます。その際はプリントに詳細記入はできませんが、Apple Remote Desktopはその逆で、学生は操作を強制的に見せられてしまうので、見ながらの記入は可能です。しかし操作はよく見て記憶してから思い出操作になり記憶力に依存するところがあるので、使い分けが必要になります。


3.ファイルサーバーの活用方法

 Macintosh OS X Serverのファイル共有はサーバーの設定が容易で、専門家でなくてもマニュアルを読みながら設定が可能でまた即座に運用できるな便利なシステムです。システム導入は2007年4月、システム構成はServer1台、学生機iMac47台、教員用1台、各種スキャナ・プリンタ等を1教室に収容し学生定員は最大45名という構成です。
写真2 教室内
写真2 教室内
 学生が利用する共有フォルダは通常個々にアカウント設定をしなくてはなりませんが、ここでは全学生が一つの共通アカウントでファイル共通を接続して利用します。これではセキュリティがまったくない状態ですが、学生のお行儀がよいせいか、この方法で誤って他人のファイルを操作する・削除してしまったなどのトラブルはここ10年間一度も発生していません。
図1 ファイル共有ポイント
図1 ファイル共有ポイント
 
図2 画面ファイル共有ポイント(Sample)
図2 画面ファイル共有ポイント(Sample)
 具体的には学生アカウントでサーバー接続をすると画面1のように接続表示します。ご覧のように科目/各クラス/課題提出フォルダ、学生個々のフォルダ、授業内容の説明text、作品例示等のフォルダ、ファイルが自由に使えます。それぞれのポイントにはセキュリティがまったくないので、他人のフォルダやファイルを操作・移動・削除可能といったことができてしまいますが、学生のマナーに助けられ事故は有りません。学生はiMacのローカルHDは使用せず、すべてこの共有ポイントに保存します。バックアップはOS X Serverの信頼性が高く今までトラブルもなかったので特に設定をしていませんが、学生には念のため各自USBメモリ保存を推奨しています。
 例示作品や教材の配付はこの共有フォルダまたは下記sampleポイントに入れておきます。学生は各自自分のフォルダに必要なファイルを入れて自分のファイルとして使用します。「sample」というポイントはアクセス権を「読み出しのみ」に設定し、主にPhotoshop、Illustrator、Flash等のオリジナルチュートリアルとサンプル作品、例示作品、参考作品などを保管しそれぞれの授業で教材としていつでも使用可能です。


4.教育効果

(1)自由な教材利用と作品ファイルの閲覧
 ファイル共有ポイントの利用は多くのチュートリアルが電子教材化しデータ配付が可能なので学生はいつでも自宅でも予習・復習ができ、教育効果を高めることができます。特にこのセキュリティが甘い設定は作品データを学内での一般公開のかたちになるので、学生は他人が作成したコンテンツや作品を自由に閲覧したりまた自分の制作の参考になったりと課題制作の良い刺激となります。

(2)就職活動の作品ファイル作成支援
 学生は自分のファイル共有フォルダに1年次からの作品データを保存したり、絵画作品などの大きな作品はデジカメ複写しファイルをすぐに保存できたり、また様々な科目で課題作品の制作が終了した時点で即座にデータファイルを保存できるので就職活動用の作品ファイルを手軽に作成することができます。


5.今後の展望と課題

 今後の課題としては作品の一般公開の場が足りないので、セカンドライフ風の作品展示場を模索中です。これは「Open Simを利用した3DVirtial World Web site」といい、まるで展示会場を訪ねて歩いて見るようなバーチャル鑑賞ができるので、バーチャル卒業制作展や他大学との合同展示会などが可能です。多くのアバターが作品を鑑賞するのも近いうちに実現できることを目標にして、現在アバターのデザインを制作中です。

Open Simを利用した3DVirtial World Web siteはオープンスタイルテクノロジー社との共同研究です。


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