人材育成のための授業紹介●デザイン学

造形授業の可能性


小川  博(東海大学芸術工学部教授)


1.はじめに

 デザイン系の現場では、多くの作業工程でデジタル化の導入期を終えて応用期を迎えるに至った。中でも工業製品に代表されるCAD/CAM(computer aided design & manufacturing)等の導入によるFA(Factory Automation)化は著しい展開を遂げたと言える。しかし、CG(Computer Graphics)分野で多く応用されている数理造形とは異なり、CAD/CAMを前提とした設計および加工間でのデータ変換に視点をおいた「デザイン教育」の報告が少ないように感じられる。つまり、多くの報告は工学色が濃く、CADによって設計されたデータが加工データへと自動的に変換されるアルゴリズムに重点が置かれている。この間で軽視されているCADにおける保存形式(DXF:Data eXchange Format)(注1)および加工に関わるプログラミング(Gコード)の理解をより深めさせることによって、デザイン教育面でのNC(Numerical Control)加工による造形の可能性が広がるものと考える。また、造形面でのCAD/CAMの概念がより理解されるものと期待できる。
 ここでは、授業用に自己開発したDXFファイルの変換プログラムによってNC加工に必要な座標値等を得た後、NCプログラムを生成し造形加工となるプロセスを紹介する。


2.授業のプロセス

 市販されているCAD/CAMシステムではデータ構造と変換が理解しにくい。そこで、CADデータからNC加工データの変換プロセスを習得させるためにプログラム開発を行った。このプログラム利用にあたっての一連の流れを以下に示す。

a. CAD(Jw_cad)(注2)操作
b. プログラムコード(Gコード:Gに続く2桁の数字で刃物の動きを指令する)の学習
c. DXFの学習
d. 変換プログラムの理解
e. 変換プログラム利用によるNC加工データの取得
f. NCプログラム作成
g. NC加工操作(FANUC SYSTEM 6M)

 DXFファイルから線種および座標値を得るための変換プログラムのフローを図1に示す。また、使用例を図2、3に示し、表記される主な変数としてX1、Y1は始点をX2、Y2は終点座標となる。さらにXS、YSおよびXE、YEは円弧の開始座標と終了座標の座標値となる。

図1 プログラムの流れ
図1 プログラムの流れ
 
図2 プログラム実行結果(直線)
図2 プログラム実行結果(直線)
 
図3 プログラム実行結果(円弧)
図3 プログラム実行結果(円弧)


3.刃物経路と切削形状の理解

 刃物の経路と補間を整理した結果、材料の中心に向かう内加工と反対方向の外加工(図4)に分類した。

図4 内加工と外加工(矢印は刃物経路)
図4 内加工と外加工(矢印は刃物経路)

 この切削形状の特性例を図5と図6に示す。

図5 内加工 図6 外加工
図5 内加工 図6 外加工

 結果として内加工の場合には角部をもつ切削形状が得られるが、外加工の場合には刃物半径の円弧を有する。


4.CADにおける事前処理

 刃物半径を補間した加工経路の作図を複線機能によって行う。この段階で作成した複線のコーナーは不連続のため、直線と直線あるいは円弧の交点を求めるコーナー処理を行う。その後、基図を削除する。最終処理として書出しデータの整理を行うために線ソートを実行し、DXF形式で保存する(図7)。

図7 複線、コーナー処理
図7 複線、コーナー処理

 なお、Gコードでの機能として刃物径補間を有するが刃物経路をイメージさせることも重要であると考え、CADの作図段階で複線機能を使用させた。


5.平面充填を意識させた刃物経路の理解

 平面充填とは充填の一種で、平面内を多角形などで隙間なく敷き詰める操作を言う。平面敷き詰め、タイル貼りとも呼ばれる。敷き詰めたものを平面充填形という。
 一種類で平面を埋め尽くせる正多角形は、正三角形、正方形、正六角形の3種類のみで、すべての合同な平行四辺形は平面充填可能となる。また、すべての三角形は、合同なものを二つ組み合わせることで平行四辺形となる。したがってすべての三角形は平面充填可能となる。さらに平行四辺形以外のすべての四角形は、合同なものを二つ組み合わせることで平行六辺形となる。そのため、すべての四角形は平面敷き詰め可能となる。平行六辺形は、中心を通る直線で合同な二つの五角形に分けられる。このような五角形は平面敷き詰め可能となる。平面充填形に対して、対応する場所に凹凸をつけた場合も敷き詰め可能である。
 これらの条件における刃物経路の考え方は以下の様になる。すべての三角形までは各辺の外側への平行線(補助線)の交点間の経路となる(図8)。他の形状と内角が180度より大きなものを含む場合は、図9に示すように刃物径を考慮した経路の作図が必要となる。

正方形 正三角形
正方形 正三角形
正六角形 平行四辺形
正六角形 平行四辺形
・補助線交点 ----補助線(刃物経路)
図8 正平面充填形と平面充填可能となる平行四辺形

 平行六辺形で合同な四角形を二つ組み合わせることで平面充填可能となる例と、中心を通る直線で合同な2つの五角形の例を以下に示す。

a.合同な四角形が二つでの組合せ b.合同な五角形が二つでの組合せ
a.合同な四角形が二つでの組合せ b.合同な五角形が二つでの組合せ
 
c.内角が180度より大きいものを含む作業(四角形)
c.内角が180度より大きいものを含む作業(四角形)
 
c-1. c-2.
c-1. c-2.
c-3. c-4.
c-3. c-4.
※五角形も同様な作業手順となる。
・補助線交点 ----補助線(刃物経路)
図9 刃物経路と作業の流れ

6.課題の作図例

 作図例を図10に示す。

図10 作図例
図10 作図例


7.NCプログラミングと加工

 この授業はNCの入門と位置づけ、基本命令としてG17(XY面加工)、G91(インクルメンタル座標系)、G61(イグザクトストップモード)、G01(直線)、G02・G03(円弧)、M11(1軸降下回転起動)、M21(軸上昇回転停止)、M30(プログラムリワインド)F(送り速度)を学習させる。特に円弧に関しては4経路(時計回り、反時計回り、中心角が180度以上と未満)の詳細な説明を行った。以下に基本となるNCプログラムを示す。


8.まとめ

 これらのプロセスでは一手法である数理造形の平面充填を想定した作図方法の具体例を上げ、詳細に説明することで造形とCAD/CAMに関わる知識と能力を修得させることを目的としている。この目的においては開発プログラムの利用が有効であることは過去の成果発表会と授業評価から判断できた。なお、今回の変換プログラムで使用した言語はF-BASIC(注3)である。これはソースの説明をより容易にするための配慮からとして考えてほしい。加工材はMDF(注4)を使用した。

(1) DXF:Autodesk社のCAD、AutoCADで使われているデータファイルフォーマット。他に2次元や3次元データの適当な共通規格がないため、事実上の標準(de facto starndard)として普及している。大抵のCADや3次元グラフィックスソフトウェアでは、最低でもこのDXFフォーマットでのデータの受け渡し程度はできるようになっている。
(2) Jw_cad :Version 6.21, Copyright (C)1997-2009 Jiro Shimizu & Yoshifumi Tanaka,http://www.jwcad.net/
(3) F-BASIC:株式会社 富士通プライムソフトテクノロジ
2006年3月31日(金曜日)をもって、「F-BASIC V6.3」の販売とレベルアップサービスを終了。
http://www.pst.fujitsu.com/products/fbasic/
(4) MDF(Medium Desity Fiberboard:中質繊維板)は、間伐材などを繊維状にして熱圧で成型したボードで、材料が均質で反りなどの狂いの少ない硬質な木質素材。 略してファイバーボードとも呼ばれる。


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