教育・学習支援への取り組み

大阪学院大学におけるFD活動とICTの活用


1.はじめに

 大阪学院大学(総長=白井善康、大阪府吹田市)は、創立以来「視野の広い実践的な人材の育成」という建学の精神のもと、社会で役立つ実学教育を一貫して実践しています。本学がこれまで培った伝統を育むとともに、大学教育の刷新に取り組んでいます。
 ICTの活用は教育の改善に大変有効であり、教育活動に関するDB化による適切な分析・評価に基づく改善は重要です。そこで、教育・学習支援を目指した授業評価DBは平成14年に構築され、改良を重ねて現在のシステムのかたちになりました。統計処理のスキルがない教員でも学生による授業評価の結果を可視化できるようになりました。今回はこのシステムを紹介します。


2.当センターの開設

 平成18年10月に教育開発支援センターが開設され、学部・教学支援、教職員支援そして学生支援の3つの支援を企画しています。現在は所長1名、副所長3名、所員6名、事務職員4名で構成されています。具体的には大学教育における喫緊の課題である「学部・学科特色明確化」、「初年次教育」、「キャリア教育」、「高大接続」、「ICT推進」「ソーシャルスキル推進」等のワークグループが結成され、検討が始まりました。また、教育力を高めるためのFD活動にも積極的に取り組んでいます。
 各ワークグループでの討議結果や改善策は当センターから提案を行います。また、本学の講演会、授業参観・評価やワークショップなどのFD活動には、教員と職員は峻別なく参加し、本学の課題や情報を共有するようにしています。  


3.教育改善を目指したFD活動

(1)教員相互の授業参観
 教員相互の授業参観・評価には教職員が参加し、教員は授業内容および授業方法の工夫を評価し、職員は学生の受講態度を観察することによって、学生の実態に即した各部署の業務改善について討議します。具体的には、毎学期の2週間に教職員は2コマの授業参観・評価します。授業における教員の工夫は授業の導入、展開、まとめや、私語対策や学習環境の保持などのテーマに分けて授業における工夫や改善例を蓄積しています。また、職員は大学で行われている授業を観察することによって、教員の工夫や学生の受講態度を体感し、教職協働の意識を高め、学生の実態を把握できる効果があるようです。最近は、初年次教育、キャリア教育、語学教育、ICT活用、非常勤講師の授業などのテーマを決めて実施しています。
 この活動のアウトプットとして、教員の「授業改善集」、職員による「各部署業務改善策」にまとめられ、学内の教職員で情報共有しています。

(2)FSDワークショップ
 これまで、階層別研修、管理者研修を毎学期行ってきました。
 本学のFD活動は教員と職員による協働を重視しており、同じテーブルで教職員が教育・学習支援、ICT推進、キャリア形成支援、初年次教育やソーシャルスキル推進支援などの課題について毎学期末、終日討議されます。そして、このワークショップで提案された改善策は当センターでさらに検討を重ねられ、各学部に提案されます。こうして、各ワークグループだけでなくワークショップからも生まれたキャリア教育や学生行動基準などの改善・新規プログラムが数多くあります。


4.授業評価DB(@マークシステム)

 学生による授業評価は、毎学期の授業開始1ヶ月後に、全学的に学生による「自由表記」による評価と授業の最終週に「マークセンス方式」により、実施しています。自由表記の授業評価によって、受講生の声がすぐに授業改善に反映されるよう担当教員は取り組みます。一方、マークシートによる授業評価のデータはDB化され教員自身による授業分析ができるようになっています(@マークシステム)。本学の授業評価の項目は、学習環境・受講態度(3項目:出席状況や予習・復習を心がけたかなどフェイスシートとして利用)、授業担当者(10項目)、授業内容(7項目)および総合評価(4項目)の四つに分類された24項目です。そして、総合評価は授業の構成要因である学習環境・受講態度、授業担当者や授業内容に関する評価項目との相関を調査しています(図1)。このシステムは授業評価の結果を可視化するユーザーインターフェイスとして、評価結果のグラフ化や各評価結果をポイント化(「強くそう思う」:5点、「そう思う」:4点、「どちらでもない」:3点、「そう思わない」:2点、「全くそう思わない」:1点)して、全体平均ポイントと自身の担当科目のポイントを比較できるようレーダーチャートに表示したり、クロス集計や評価結果を共通科目、専攻科目、演習に分けて、ポイント化した順位を表示します。また、このシステムの特徴は、各評価項目毎に「強くそう思う」と「そう思う」と答えた学生と「そう思わない」「全くそう思わない」と答えた学生に分けて、他の評価項目の回答を表示する機能があることです。例えば、授業出席状況の良好な学生とそうでない学生や予習・復習を心がけた学生とそうでないと答えた学生に分けて、評価結果を表示できます(図2)。こうして、毎学期の授業評価の結果が蓄積されます。当センターではこれらの毎学期蓄積された授業評価の結果について、単年度評価と経年変化について調査しています。

図1 授業満足度に関する構成要因
図1 授業満足度に関する構成要因
 
図2 授業評価システム(@マークシステム)の概要
図2 授業評価システム(@マークシステム)の概要

 その結果、当センターが開設され、FD活動が始まった平成18年度後期から概ね各評価項目とも上昇が見られますが、授業担当者に関する評価項目「授業担当者は遅刻・早退しなかった」「授業担当者に授業に対する意欲や熱意が感じられた」において、顕著な改善が認められる一方、授業内容に関する評価項目では平成18年度後期からいずれの項目も「強くそう思う」が高くなって改善されていますが、相対的に改善の度合いは小さいことが分かりました。
 また、単年度の調査結果として、昨年度の結果では、学生の総合評価である「私はこの授業に、満足できた。」と最も強い相関が認められたのは、学生の受講態度・学習環境、授業担当者、授業内容に関する評価項目の内、授業内容に関する評価項目である「私はこの授業に興味や面白みを感じた」でした。このことは、授業担当者の授業に対する意欲や熱意には改善が伺えるものの学生による授業満足度をより一層高めるためには、授業内容の改善が重要であり、それを目的としたFD活動の実施が必要であることを示唆するものです。

表1 総合評価項目「私はこの授業に、満足できた」との相関
  評価項目 相関








授業担当者は、遅刻や早退をしなかった。
0.460
聞き取りやすい話し方であった。
0.606
授業担当者の説明はわかりやすく工夫されていた。
0.720*
授業に対する意欲や熱意が感じられた。
0.556
学生の理解度を確認しながら授業を進めた。
0.677*
学生の相談や質問に、適切に応じた。
0.701*
授業担当者は、学生とのコミュニケーションがとれていた。 0.531
学生の受講態度に対して適切に指導した。 0.354





授業の進め方やスピードは適切であった。
0.653*
テーマや目的が明確であった。
0.660*
興味や面白みを感じる授業内容であった。
0.789*
授業内容に興味を感じたので、今後もっと深く学びたい。  0.763*

*の評価項目は危険率5%で有意。


5.新たな取り組み

 近年、ICTを活用して、学生カルテ、ポートフォリオなどが各大学で導入され、学生の学習意欲や動機づけ等を高める方策や改善が図られています。本学でも、データマイニングやテキストマイニングを用いた現状分析に努めていますが、リアルタイムに教育活動の効果を計るシステムを現在、構築中です。教育効果の測定、分析・評価を行うためには学生情報DBが必要になります(図3)。教育効果を計る適切かつ有効な指標や測定方法を考案中です。学部(学科)・教学機関や各部署での取り組みをしていかなければなりません。そこで、本学でも教育効果を示す指標の抽出、各種統計資料の試作を行っています。取り組みの効果を分析し、改善策を求める機能を持った組織がますます重要になってきます。改善の指示を受けた各部局は改善を繰り返しながらスパイラルアップを模索します。最近では教育改善の仕組みとしてIR(Institutional Research)部門の設置の重要性が叫ばれていますが、自大学の実情に即した形態と機能をもつことが何よりも重要です。今後、当センターの役割と方向性に大きく影響を与えるものだと認識しています。
図3 教育開発支援センターの「教育評価・改善部門」の役割
図3 教育開発支援センターの「教育評価・改善部門」の役割
註)自主・自立的な教育改善に取り組む仕組みを目指した「OGU−IR」部門の概要。分析・評価結果を学部(学科)・教学機関に提示し、改善の指示。教学機関や各部署は改善計画、改善進捗報告書を提出。


6.ICT推進と教職協働、そしてIDの活用

 本学の教育におけるICT推進の新たな取り組みは、平成20年1月の「ICT 推進ワークグループ」発足により始動しました。本ワークグループでは、ICTを導入しようとする教員を支援するITセンターが、教員グループとの教職協働により学内のICT 推進の諸企画を支援しています。
 本ワークグループの教員メンバーは固定ではなく、必要時を除いては、その活動は主にLMS(Learning Management System)上で行います。このことは、参加教員の負担をできるだけ軽減し、企画推進へ注力できるよう意図したものです。
 ここでは、ICTを「広義のe ラーニング」と捉えており、環境設定から授業設計まで、ITツールや諸方策が教育において有効活用されることを目指しています。近年、ID(インストラクショナル・デザイン)の諸理論の活用がこの授業支援に効果、効率や魅力をもたらしてくれるであろうことに着目し、特にICTとIDの有効利活用について模索しています。
 その取り組みの成果の一つとして挙げられるのが、教員用ポータルサイト「WEB LOGOS」の運用です。本サイトは、IDモデルの一つであるARCS動機づけモデル[2]を拡張したARCS+ATモデルに基づいて作成し、平成21年3月から運用開始しています。教授者が学習者を的確に動機づけるための方策であるARCSモデルに対して、ARCS+ATモデルは、ICT推進担当者がこれからICT導入をしようとする教員を支援するものです。ICT推進担当者は、本サイトに、動機づけのための各要素;A(注意)・R(関連性)・AT(支援)・C(自信)・S(満足感)に基づいた関連情報を掲載します(図4)。例えば、要素A やR、AT に掲載した情報によってICT 導入のきっかけを得た教員が、ITセンターやICT 推進ワークグループの支援によって、導入を実現し、終了後にはこれを評価・分析して次回の改善を試みます。こうした一連の取り組みをまとめたものは、「他の教員が自身の科目に関連性を見出すかもしれない」、「導入教員の声を聞いて、自分も取り組もうと考えるかもしれない」という相互作用を狙って本サイトに掲載します。
図4 教員ポータルサイト「WEB LOGOS」(抜粋)
図4 教員ポータルサイト「WEB LOGOS」(抜粋)

 実例を挙げると、平成20年度後期に外国語学部企画として実施した「読書プログラム@外国語学部」があります[3]。これは、学生が主体的に読書を進められる機会を提供するためのプログラムです。当初あった外国語学部の企画案に対して、本ワークグループから効果・効率の向上を目的としたICTを活用した提案を行い、共同実施が実現しました。実施の成果は本サイトに掲載しています。
 今後は諸取り組みと同時に、教員対象のICT推進に関するアンケートを定期的に実施し、「本サイトや支援の認知・活用」と「ICT導入」ならびに「ICT導入に対する意識」の関連性について分析を行って、その効果の実際を示すことを検討しています。その結果を踏まえ、ICT 推進支援取り組み環境・体制・方策などの評価・改善を行う予定です。
 “Technology as a Tool”−ITセンターでは、教職協働によるICTとIDの有効活用の実践を推し進めていきます。

問い合わせ先:takahasi@ogu.ac.jp(アドレスは全角文字で表示しています)

参考文献
[1] 白川雄三・高橋誠 初年次教育学会 第2回大会発表要旨集 pp.106-107
[2] Keller, J.M.& Suzuki, K.(1988)“Application of the ARCS Model to Courseware Design”D.H.Jonassen (Ed.) Instructional Designs for Microcomputer Courseware Design.New York, Lawrence Erlbaum.
[3] 川本裕未・中嶌康二・松尾修 平成21年度教育改革IT戦略大会 pp.148-149,私情協
 
文責: 大阪学院大学
教育開発支援センター 所長  白川 雄三
課長 高橋   誠
ITセンター 主任 中嶌 康二


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