大学教職員の職能開発

全国大学IT活用教育方法研究発表会 開催報告


 平成21年度全国大学IT活用教育方法研究発表会は、「全国の国公私立大学・短期大学教員を対象に、教育改善のためのIT活用によるFD(ファカルティ・ディベロップメント)活動の振興普及を促進・奨励し、その成果の公表を通じて大学教育の質的向上をはかる」ことを目的として、平成21年7月4日(土)にアルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)において開催された。今年度の参加者は216名(120大学、10短期大学、1高専、賛助会員1社)で、発表会は第1次選考も兼ねて54件の研究発表が行われた。また、発表終了後に発表者や参加者のための特別セミナーを実施し、効果的な授業を実践するための方法や工夫について、佐々木利廣氏(京都産業大学経営学部教授)より実践事例が紹介された。当日の発表や特別セミナーの内容は以下の通りである。
 その後、第2次選考会は9月5日(土)に行われた。選考結果については11月25日(水)の当協会の第53回臨時総会にて発表する予定である(本誌では次号に掲載予定)。


Aグループ

A−1 地域教育ネットワークによるシームレスな高大連携初年次教育
湘北短期大学 小棹 理子、伊藤 善隆、岩崎 敏之、藤澤みどり、高橋可奈子

 高校3年次の入学前の時間を利用する「情報リテラシー」をベースにした「コミュニケーションリテラシー」を開講し、シームレスな高大連携教育を試みた。27の高校との間で、一方向型連携、双方向型連携、ネットワーク型連携を構築したところ、110名(24校)の応募があり、12項目の社会人基礎力の平均値が大きく伸びたことが確認された。

A−2 ホームページを活用した物作り教育
日本大学
伴  周一、大久保尚紀、岡田 悟志
日本大学短期大学部
豊田 陽己、林  新也

 1年生に、物作りを通して電磁気学に興味を持たせることを目標として、「発電機能付きLEDライトペンの作成」を課し、毎回その日にやったことをHTMLファイルとして報告させた。受講生が予想外に集まったが、15回の授業を通して「物作り」の楽しさと「情報を伝えたい」という気持ちを引き出すことができた。

A−3 ICTを活用した体験型初年次教育について
日本工業大学 片山 滋友、椋田  實、木下 孝二

 キャンパス内の環境関連施設や樹木、環境研究の成果物を見て回るエコ・ツアーとそれぞれに取り付けられたQRコードを携帯電話で読み取って学習するエコ・オリエンテーリングを併用して体験型の初年次教育を行った。アンケート結果によれば、環境問題への関心が高まった学生が74%に達し、環境学習に役立つと79%の学生が考えていることがわかった。

A−4 新入生の自己啓発や交流の場を与えるICT活用の実践
東海学院大学 藤井 康寿、栗本奈生子

 携帯サイトでウォークラリーマップを構築し、チェックポイント毎の問題を解かせて、新入生同士のコミュニケーションやチームワークを培うことを試みた。ウォークラリー後に行ったアンケート調査によれば、6割以上の学生からこれら2点に効果があることがわかった。

A−5 WebCT利用による発想の転換をめざした異文化コミュニケーション教育
帝京大学 土屋 千尋

 体験型授業の一つとして、日常生活の何気ない「ちいさな文化」を毎回の講義テーマとして取り上げ、授業後にWebCTを利用して課題を提出させて、提出課題に対する講評を匿名で次の授業で紹介する教育を行った。最初は教員の指示に戸惑い気味だった学生も、一つひとつの意見に教員が賛同することがわかると興味深い意見が出るようになり、個別指導と全体指導の融合性を見いだすことができた。

A−6 学習内容のWeb上の記録を支援する仕組みと学習管理力の向上について
常磐大学 北根 精美

 個々の学習者の学びの記録を蓄積し、後で振り返ることができる仕組みWRP(Web Reflection Paper)を導入して、授業担当者による学習者の反応のチェックと学習者の学習意欲低下防止を試みた。2008年度と2009年度の結果から、達成感や学びの実感に効果を上げたことが確認できた。

A−7 初年次数学教育でのデジタルペン利用による学習意欲の向上
千歳科学技術大学 川西 雪也、小松川 浩、今井 順一

 e-Learningで数学の問題を解答させる場合に、途中計算をほとんど行わないで解答するなどの問題がある。これを改善するために履修者にデジタルペンを持たせ、筆記時間等のデータを集計、表示するシステムを開発した。デジタルペンを使用したクラスと使用しないクラスでの成績比較では明らかな差は確認されなかったが、使用クラスにはモチベーション持続効果が認められた。

A−8 理工系スキルとしてのレポート作成力の向上を指向したe-Learningシステムの開発
東京理科大学 佐藤喜一郎、本田 宏隆、野澤  肇、竹内  謙、村上  学

 基礎工学実験におけるレポート作成力の向上を目指して、PDFレポート添削システムを開発し、その実施結果について報告された。履修学生はレポート提出後の添削内容をすぐに閲覧できることから、このシステムについての良好なアンケート結果が示された。また、教員は他の教員の添削が閲覧できることからFD活動の一環としても機能した。

A−9 WEB教材による反復可能な授業の効果
東海大学福岡短期大学 伊津信之介

 プレゼンテーション・ソフトを使用する授業の内容をクリックで再生、戻る等の操作可能なフラッシュWeb教材として作成し、これを現代文明論に適用した結果の報告である。Web教材によって聞き・まとめ・理解する力を培うことを目的としている。この教材により授業内容が把握できていないレポート提出者に復習を行わせ、教室授業の弱点を補完することができた。

A−10 発表辞退

A−11 知識の定着と学習内容への興味づけを目指した復習テストとレポートの活用
椙山女学園大学 坂本 徳弥

 LMSのテスト機能、レポート機能等を使用した2008年度の教職課程の授業において、「知識の定着」と「授業内容に対する興味」の2点のアンケート項目評価が高くなく、これを改善した報告である。改善点は、復習テストに教員採用試験の問題を取り入れ、レポートの提出回数を増加させた点である。授業に対する興味、満足度の改善が認められた。

A−12 実践的教職学士力の育成をめざした縦型学習グループ群による初年次教育
佛教大学 達富 洋二

 教員免許を目指している学生に対してアカデミック・スキルおよびキャリアデザイン能力の習得を目的として、学士課程4年間を縦につないだ教育システムを構築した報告である。e-Learning上に同学年および上回生が入った学習グループを形成した。学習記録、フォーラム機能等の活用により、教職学士力が図られとするアンケート結果が示された。

A−13 e-Learningシステムを用いる予復習と講義を組み合わせた習熟度の向上について
近畿大学 木村 隆良

 化学系の学生に物理学を教える場合にモチベーションの低い学生の存在が問題であり、これを改善するために、LMSにより携帯電話による解答、理解度モニター、追加説明、出欠公開などを行った。さらに上級生のSAがサポート可能なバーチャルクラスを導入し、理解度の効率向上を図った。達成度と利用時間の相関や、満足度の向上、SA効果のあることが示された。

A−14 e-Learningによる数学知識の共有と基礎数学科目の連携
千歳科学技術大学 山中 明生、山林 由明、唐澤 直樹、小田 久哉、今井 順一

 理工系の基礎となる数学教育を多様な学力レベルの学生を対象として行ってきたe-Learningの取り組みの報告である。大学初級から中級レベルまでのe-Learning教材を系統的に整備し、講義形式の授業から演習形式の集合学習、個別指導型の補習授業などを結びつけ、自学自習の姿勢を定着させた。試験合格者のe-Learningの達成率、出席率などの分析が報告された。


Bグループ

B−1 自己学習力を高める携帯電話版看護師国家試験学習システムの開発と運用
東邦大学 中原るり子、遠藤 英子、安武  綾

 携帯電話版看護師国家試験学習システムの機能と運用状況に関する報告である。このシステムは、看護学生の自主的な学習の促進を目的にし、看護師・保健師の国家試験問題(独自問題)を提供し、学生は携帯電話を用いて、いつでも、どこでも、気軽に問題にチャレンジできる。

B−2 薬・医・歯・保健医療学部横断PBLにおける自己主導型学習
昭和大学 大林 真幸、馬谷原光織、片岡 竜太、高宮 有介、鈴木 雅隆、鈴木 久義、佐藤  満、中村 明弘、戸部  敞、山元 俊憲、木内 祐二

 ITを駆使して、薬学部、医学部、歯学部、保健医療学部(看護、理学療法、作業療法学科)横断のPBL(Problem Based Learning)テュートリアル・システムを構築し、チーム医療を志向した参加型学習を展開した。このシステムの利用によって、教員と学生の相互コミュニケーションが一層深化するとともに、学生の自習的学習が進展した。

B−3 医療面接学習における双方向型教育の試み
松本歯科大学 音琴 淳一、金銅 英二、岡藤 範正、倉澤 郁文、長谷川博雅

 歯科医学における医療面接法を学習する講義に、バッテリ内臓の持ち運び可能な無線タイプのIT機器を導入し、教員と学生の間の双方向のコミュニケーションを一層深化させた。講義における当該IT機器の使用方法については、1)理解度について随時質問を行う、2)講義内容について質問を行い、結果を直接に学生に提示し、正解が少ない場合には再度解説するなどである。

B−4 問題解決能力育成を目指した薬学型PBLと支援システム
名城大学 大津 史子、永松  正、灘井 雅行、豊田 行康、後藤 伸之、平松 正行、吉田  勉、小森由美子、長谷川洋一、亀井 浩行、野田 幸裕、森   健

 患者に適正な薬物療法を提供できる問題解決能力を育成するために、薬学型PBL(Problem Based Learning)システムを構築した。このシステムは、症例データベース、クラスレビューシステム、グループワークデータベースおよびe-ポートフォリオなどから構成される。これらは、学生の自主的学習にプラスの貢献を果たす。

B−5 Web Classを利用したバーチャルスライドによる病理組織学実習
岩手医科大学 澤井 高志、黒瀬  顕
東邦大学 宇月 美和

 デジタル方式の顕微鏡を用いた授業改善に関する報告である。顕微鏡画像(病理組織標本)に説明を付けてサーバに保存するとともに、学生は自分のパソコンでサーバにアクセスし病理組織標本を観察する。このシステムの活用によって、学生はパソコン画面を見ながら実習でき、さらに、学生同士が画面を見ながら議論できる。

B−6 看護情報論講義にシミュレーションを活用した電子カルテ操作演習の成果
広島文化学園大学 石川 孝則、松井 英俊

 模擬患者を用いたシミュレーションによる電子カルテ操作演習の授業改善に関する報告である。シミュレーションの効果の一つとしては、臨床では許されないミスについて模擬的に体験できることによって、単に知識だけでなく実感を伴って学習できることがあげられる。

B−7 映像デジタルコンテンツの制作と配信で獲得する「多様な視点」と「達成感」
駿河台大学 塚本美恵子

 多様な視点を視覚化できるテレビカメラを導入して、学生自身が物事の捉え方を直接的に体験・検証するために、CATVの番組を制作した。その目的は、1)カメラの捉え方によってものの見方が異なる体験(メディアリテラシーの基本)をする、2)地元の人を対象にケーブルテレビの番組を制作することにより、学生の地域理解および地域との交流を深めるなどである。

B−8 携帯端末や携帯電話利用によるフィールドワーク用写真投稿システムの作成と成果
流通科学大学 小無 啓司

 ゼミ単位でセンター街活性化プロジェクトに参加し、現地調査の際に、携帯電話によって写真を撮り、それを投稿し、参加者に情報を共有するシステムを開発した。さらに、学生はITを駆使してセンター街のリーフレットを作成し、マーケティングおよび地域活性化などについて実践的な学習を行った。

B−9 簿記会計分野の導入教材改革と実践教育
城西国際大学 早田巳代一

 簿記会計の導入教育を改善するために、「帳簿の始まり」から「個人企業の創設帳簿」までを経営形態に即して展開した諸教材を開発するとともに、この一連の帳簿教育をパワーポイントで作成し、各年度の習熟度に応じて展開した。この取り組みを始めてから、簿記会計に関心を持つ学生が増えた。

B−10 Webアンケートシステムを活用した市場調査の経験学習
産業能率大学 小野田哲哉、盛屋 邦彦

 本取組は、Webアンケートシステムを開発し、学習者がこのシステムを利用して、相互に質問を作り、答え、解析し、考察する環境を構築した上で、これをマーケティングにおける市場調査に関する学習に適用した。本システムにはリアルタイム集計機能があるため、あらゆる授業においてインタラクティブに学生の反応を得る目的に活用できる。

B−11 e-Learningを活用したエクセルによるデータ分析入門とアンケート集計
愛知大学 土橋  喜

 社会データ分析に関する教材をブラウザで閲覧できるコンテンツとして作成し、予習復習の効果を一層上げた。さらに、Moodle上でWeb教材を使い、練習問題の自動採点などにより学習効果を高める工夫を行った。

B−12 仮想業務体験実習のためのERPソフトの開発
産業能率大学 坂本 祐司、松村 有二、斎藤  文、岩田 安雄、長屋 信義

 仮想の卸業の企業を想定した統合基幹業務システム(ERP:Enterprise Resource Planning)を自主開発し、このシステムに基づく体験学習により、受発注、在庫管理、売掛買掛管理、資金運用などの各業務プロセスの内容および内部統制の重要性の理解を促進した。授業アンケートにより、この教材は、学生の授業参加への意欲向上に貢献したことがわかった。

B−13 授業支援型e-LearningシステムCEASを利用した授業設計とその評価
広島経済大学 久保 大支

 CEAS(web based Coordinated Education Activation System)を用いて科目特性に応じた授業設計を行い、すべての科目で共通に行えるアンケートと出席管理、それぞれの科目ごとで異なるレポート管理やテスト管理を行うことによって、効率的かつ教育効果の高い授業を行った。本システムを利用することにより、学生の問題解決能力の向上にも効果が得られた。

B−14 WEB型ERPシステムを用いた協調学習方式による実践教育の実施
追手門学院大学 酒井 哲夫、黒目 哲児

 学生一人ひとりが、実務で実際に使用されているWEB型ERP(Enterprise Resource Planning)システムを利用できる環境を構築し、ビジネスに関する理論を実践する能力を育成した。


Cグループ

C−1 3Dメタバース「セカンドライフ」を利用した初学者向け実技
名古屋造形大学 外山 貴彦、渡邊 敏之

 メタバースサービス「セカンドライフ」を利用し、その中で展開される3DCGの世界を楽しむと同時に、その空間内で制作できる3DCG技術を使って「もの造り」を体験し、3DCGの魅力から導入、基礎的な知識や技術を体験、体得させることを試みたところ、短時間で参加者全員が成果物を制作することに成功した。

C−2 クラウドコンピューティングサービスを利用したデザイン教育でのコミュニケーション円滑化
名古屋造形大学 渡邊 敏之、外山 貴彦、鈴木(小林)桂子

 担当学生の数に対して少ない教員でコース運営を行う場合、連絡事項や課題等の成果物の確認など多くの項目をより効率的に行う必要がある。そこで、クラウドサービスとしてGoogleメール、カレンダー、グループ、ドキュメントを試した結果、教員、学生ともに日々のすきま時間を効率的に利用しながらコミュニケーション量を増やし、さらにその質を上げていくことが可能となった。

C−3 VOCALOID2「初音ミク」を用いた音楽制作における情報教育の実施
大阪電気通信大学 山路 敦司

 サンプリングされた歌声を用いてメロディーと歌詞を入力することで作曲が行える音声合成技術VOCALOID2「初音ミク」を用い、メロディー(旋律)の作曲指導を行った結果、自分で作曲したメロディーとコード(和音)の調和が自然なかたちでとれているのかどうかの判断能力が育成された。

C−4 個別学習と協調学習を組み合わせたオブジェクト指向モデリング教育
帝京大学 高井久美子
宇都宮大学
渡辺 博芳、佐々木 茂、鎌田 一雄

 オブジェクト指向モデリング教育において、CMSを活用したセルフラーニング型授業の個別学習方式に、チームでモデリングを行う協調学習を細かいレベルで組み合わせた授業を設計した。その結果、到達度試験結果の平均点が高くなり、学生へのヒアリングから、グループ討議があることで動機付けや理解の定着に改善の効果があることがわかった。

C−5 司書課程における機関リポジトリの実践的教育
別府大学 石井 保廣

 簡易型リポジトリシステムを構築し、紀要・研究報告等の書誌事項の理解からコンテンツ作成に至るまでの一連の流れを学生に実習させ、完成した電子化情報を公開するまでの実践的教育を行った。その結果、習熟度がデータシート記入時に平均20件前後の訂正が必要であったものが平均4.9件となり、アイテムの作成数を重ねるごと、着実に品質は上り指導回数も減った。

C−6 構造化チャートを用いたアルゴリズム学習支援システム
東京国際大学 河村 一樹、斐品 正照

 PADと日本語の記述によりアルゴリズムを表現するための学習支援システム「JPADet」を開発した。C言語によるアルゴリズム学習とJPADetによるアルゴリズム学習を並行して別々に実施することによって、学習効果の差を測定した結果、JPADetクラスの方がアルゴリズムを新しく作成する能力についての学習効果が高いことが明らかになった。

C−7 社会学系大学の情報教育におけるプログラミング教育改善のデザインと評価
摂南大学 松永 公廣

 「出席履歴」「小テスト」「MS(モヤッとスッキリ)チェック」「練習問題一覧」「練習問題提出履歴」「学習内容チェック」「Cプログラミングツール」の7機能を有する授業支援ツールを有効に活用することで、教師は学生のコミュニケーションが多く取れ、学生は演習状況を自己管理できるようになり、授業の達成度と満足度を高めることができた。

C−8 資格取得の学生ニーズに応えた情報教育授業
桜美林大学 笠見 直子

 学生の希望に応じて、「情報リテラシーII」の授業で「資格クラス」「留学クラス」「標準クラス」の三つのクラスを作り、学生ニーズに応えた授業設計を試みた。資格クラスと標準クラスを比較分析したところ、学習意欲、成績の面で資格クラスの方が効果的であり、学生ニーズを意識することで学生の学習意欲を高める効果があることが確かめられた。

C−9 レゴマインドストームNXTを用いた農業工学系の情報教育
東京農業大学 佐々木 豊

 「レゴロボットを用いたプログラミング入門」、「レゴロボットのC言語制御によるコーディング教育」ならびに「レゴロボットコンテストによる情報教育」を実施し、教育効果の評価を行ったところ、初等プログラミング教育のイメージを向上させ、コーディング教育においても難易度を下げ、興味・学習効果を高めることができた。

C−10 レポート自動採点支援システムによる評価結果のフィードバック効果
日本大学 渡邊 博之

 テキスト形式のレポートを対象に、チェック単語から点数を5段階評価するシステムを開発し運用した結果、手作業による評価に対して全体の誤差10%で点数を予測することができ、TA3名の労力を削減できた。またコピーと判別されたレポートや理解度不足のレポートに対して再提出を要求した結果、レポートの質的向上に貢献できた。

C−11 作問演習システム「CollabTest」利用による学習効果の検証
創価大学 高木 正則、坂部 創一、勅使河原可海

 問題を学生自らが作成することで、何が重要なのか、どうすれば理解度を測れるのか等の新しい視点を学生に与えるため、WBTシステム「CollabTest」を開発した。コンピュータリテラシの授業で「CollabTest」を利用した学習を実践した結果、作問や相互評価活動が学生の学習効果の向上に効果的であることが確認できた。

C−12 eラーニングによる小テストの学習効果の分析
十文字学園女子大学 牧村 信之、新行内康慈、小野裕次郎、田倉  昭

 「システム設計入門」の授業で、学習管理システムMoodleの小テスト機能を用いて理解度テストをeラーニングで行った。eラーニング小テストの繰返し学習は理解度を大いに向上するが、満点に達しない前に繰返し学習を止めた者、問題を深く考えずコンピュータ操作で正解を探し求めるに終始した者は、理解が身に付かないことが確認できた。

C−13 プログラミング導入教育における提出課題とフィードバックの共有
京都産業大学 安田  豊

 プログラミング導入教育において、LMSによって回収した課題に対して個別フィードバックをつけ、それを全員が縦覧できる形で公開した。理解度の低い学生には、自身の誤りを直接的に指摘し、かつ正しい理解に導く最適な説明を読ませることができ、理解度の高い学生には、擬似的に誤りを体験させることができ、発見的学習の機会の提供にも繋がった。


Dグループ

D−1 システム工学教育でのヒューマンスキル演習
芝浦工業大学 井上 雅裕

 リーダーシップ育成を主としたヒューマンスキルの養成をシミュレータを用いた擬似体験と研究室での実行動を連携させた演習の報告である。学生同士でのフィードバックも含めることにより、リーダシップ力向上の効果が確認できた。

D−2 図形科学およびプログラミング基礎教育用モデリングソフトウェアの開発
東京電機大学 新津  靖

 教育用3次元ソリッドモデラーに数式処理機能を導入することによる、初年次学生向けの基礎プログラミング教育を目指したソフトウェア開発の報告である。10年にわたる継続的な開発成果がフリーソフトウェアとして公開されていることは、図形科学およびデザイン教育の発展に貢献するものと期待される。

D−3 計算機支援による実践型設計技術者の育成
中部大学 岡崎 明彦、佐伯 守彦、石鍋 雅夫、塩見 弘幸、石井  清

 3次元CAD教育に対する実践型統合システムの適用事例紹介である。CAD/CAM/CAD教育をコンピュータ学習環境整備のもとに工学部共通科目として取り組ませることで、工学部全体にわたる技術者教育に効果があがることが期待されている。

D−4 多数回再試験の効果
中部大学 池澤俊治郎

 工学部の初年次学生に対する基礎科目の電気回路の理解を深めさせるために、章ごとのテスト(定期試験)で不合格となった学生対象に、期末試験後のおよそ1週間の間に4〜7回の再試験を繰り返し、不合格者を合格に至らせた試みの報告である。

D−5 3D-CADとCAE・制御系設計支援ソフトの連携によるロボット設計演習の改善
立命館大学 渡部  透、永井  清

 3次元CADとCAEによる単なる部品設計の演習ではなく、設計学習の過程に制御系設計支援を学ぶことができるようにシミュレーション解析可能なソフトを連携させることで、より高度なロボット設計演習を効率的に学ばせることが可能となった報告である。

D−6 幼児・児童のためのIT教材を活用した日本型薬膳の食育プログラムの開発
中村学園大学
三成 由美、酒見 康廣、内山 文昭
産業医科大学 徳井 教孝

 幼児・児童を対象とした日本型薬膳の食育プログラムを従来の紙ベースのカレンダー提示方法からCD-ROMによる提示を加えることで、調査実施率および調査結果回収率の向上を目指した報告である。学校栄養教育に対する情報コンテンツとしてのCD-ROMが広く普及できる方策を検討中とのことである。

D−7 エクセルによるドイツ語初級文法の説明
中央大学 早坂 七緒

 初級ドイツ語の初期段階において、多くの学習者が混乱する冠詞・否定冠詞・四つの名詞の種別、格変化等の変化をわかりやすく教える工夫である。エクセルのセルに名詞を一覧で表示し、その冠詞や格変化をエクセルの置換機能により動的に可視化することで、一定の変化のプロセスを提示する教育方法を提案した。

D−8 スキルアップを目標とする中国語教育の実践
日本大学 周  一川

 大学の新カリキュラム移行で中国語が選択科目となり、検定試験対策の実践的スキルズ向上を目標としてe-Learning教材を作成・実施した。過去3年間の準4級検定試験データを分析・抽出(音声・語彙・文法)して、自習用とともに対面授業の副教材として活用、その効果を測定した。検定試験合格が学習の励みとなる。

D−9 高等教育における日本語表現法教育支援システムの運用と効果
城西大学 平澤 洋一
摂南大学 松永 公博

 日本語の文章表現力向上を目的に教授法を体系的に再検討し、電子通信技術を利用して論理説得型と情感感得型コンテンツを統合した「日本語表現支援システム」を開発し、4大学で運用を行っている。オーサリング機能を備え、出席登録、文字入力問題の自動採点、小論文の自己・他者評価による採点と学習者の到達度が把握でき、そのためのコンテンツの充実とカリキュラムを設計した。

D−10 杏林大学外国語学部におけるメディア・IT活用の試み
杏林大学 熊谷 文枝、  満江、高木眞佐子、八木橋宏勇、井上 宗一

 外国語学部の取組として、メディア・ITの積極的活用による学習意欲向上を目指した環境整備を行った。「出欠管理・アンケート評価・即時学習評価」などCMI機能、テレビ会議システムを使った海外との遠隔授業、Web上での語学教育プログラム、ホームページやブログ・メールの活用など多面的・多角的な環境整備で教育効果を上げる提案があった。

D−11 Moodleを使ったブレンド型外国語学習
広島工業大学 中島 吾妻、楠木 佳子

 本発表は、対面授業とe-Learningのブレンド型学習の必要性を述べて、効果的な使用教材の組み合わせと使い分けの妥当性を検証した。Moodleをプラットフォームとして、印刷教材とWeb教材の優位性を検討し、授業内容および活動を区別して授業実践を実施し授業分析を行い、学生の評価も交えて改善効果を提示した。

D−12 Web用外国語学習教材作成・管理システムの講義での活用
九州大学 田畑 義之
崇城大学 堀部 典子

 本発表は、教員による大量の問題作成、システム運用にかかるコストなど、Web活用の外国語教育に伴う問題を改善する、XMLデータエントリシステムを利用したWeb Drillの開発とその実践報告である。現在はドイツ語とエスペラント語で稼働、Web上での簡単な問題作成機能と教員IDによるWebブラウザ上での作成など簡易な管理で実現できる。

D−13 外国語授業におけるブレンディド・ラーニングの効果的な活用とその改善の試み
成蹊大学 里村 和秋

 対面授業とe-Learningを組み合わせた授業モデルとして、相互補完の関係、中規模クラスでの真正性、低コスト、学習コミュニティ構築を提案してきたが、本発表では、インターフェイス・操作性、テストモードのフィードバック機能、課題への積極的な参加を中心に、それらの改善策を検証した。


特別セミナー

「経営学教育におけるシナリオ設計重視した授業」
京都産業大学経営学部教授 佐々木 利廣

1.「チャレンジ精神の源流」開講までの経緯
 京都産業大学では、進路センターでの危機意識の中から就職ガイダンスの部分的活用として、キャリア形成支援をサポートする仕組みを構築することになり、経営学部複数教員の協力を得て、教員と職員(キャリア教育開発センタ・情報センタ)による教職協働による授業(「チャレンジ精神の源流」)を設計し、2003年度より開講することになった。

2.NHK「プロジェクトX」を授業に活用
 「チャレンジ精神の源流」の授業目標は、三つある。一つは、NHK番組の「プロジェクトX」を素材に、受講生が新しい課題に挑戦し夢中になれるものを発見するためのヒントを提供すること。第二は、プロジェクトXを良質のケースと考え、複数の教員がケース分析のヒントを与えるケース分析導入講義を行う中で複眼的視点の重要性を強調すること。第三は、大学時代を含めて自律的にキャリア・デザインを行うときの支援インフラを提供することであった。授業は、ケース分析入門講義、プロジェクトXのビデオ放映、プロジェクト・リーダーの講義、学生によるミニプレゼンなどを融合しながら、「気づき」と「やる気」を中心に据えたキャリア形成の支援が主であった。

3.授業シナリオの設計ポイント
 映像と講演の寄せ集めだけではない授業計画とするため、NHK制作者からの視点の講義と専門領域の異なる教員により、常識や紋切り型発想を中心にした単眼的視点から複眼的視点に移行することの重要性を強調するケース分析を講義に導入した。毎回の授業では、前半45分はプロジェクトXのDVDを放映し、プロジェクトの内容や成功に至る過程について理解を深める。後半45分はプロジェクトXのリーダーに番組だけではわからない開発秘話、リーダーとしての苦労話、入社後のキャリア経歴、若い学生に向けた提言を行っている。新製品開発や新技術開発に関わる開発系プロジェクトXの場合は、授業後半は開発や商品化の具体的過程が中心になる場合が多い。
 受講1週間後に受講生は講義に対する感想や意見、プロジェクト・リーダーへの質問をフォーラムに書き込む。フォーラムは、大学内の学習支援システムmoodle(ムードル)内に設置されており、オープンになっている。毎回8割弱の受講生が様々な意見や感想を書き込んでいる。その中にはゲストスピーカーのプロジェクト・リーダー自身も気づき得なかった着眼点が含まれていることもある。フォーラムへの書き込みデータは、すべて外部講師にフィードバックされるとともに、自らエントリーした受講生にはプレゼンテーションの機会が与えられている。チャレンジ精神からチャレンジ・アクションへというキャッチフレーズで、受講生のキャリア形成を支援するという趣旨で始められた試みである。
 成績評価に関しては、計2回の提出レポート、ビデオ内容確認シート、フォーラムへの書き込み、あるいは講演者への質問、ミニプレゼンなどが総合的に評価され成績に反映される。評価のウェイトは、レポート60%、フォーラムへの書き込み30%、ミニプレゼン感想シート10%である。また、講師への質問やミニプレゼンに参加した受講生には大幅なボーナス・ポイントを加算している。

4.授業に対する満足度
 2004年から毎年「チャレンジ精神の源流」の講義終了後に同一のアンケート調査を行ってきた。授業に対する満足度に関しては、「非常に満足している」と「かなり満足している」を合計すると、2004年が69.3%、2005年が81.4%、2006年が77.5%、2007年が75.8%となり、授業に対する満足度は非常に高い。授業を受ける前と後で何か変化があったかどうかについては、受講生の将来の生き方や働き方を考えるきっかけになっている。またこの授業を受けて身に付いたこととして、何かに挑戦する意欲を挙げている。さらに興味深い点は、複眼的視点の重要性を挙げている受講生も多い。

5.学内協働と学外連携による教育
 多くのキャリア教育導入授業は、特定の教員によるセミナー形式の授業、アウトソーシングした外部機関による講義や実習が一般的である。しかし、この方式だとキャリア教育のノウハウやスキルが大学内に蓄積されずに、事務職員も含めて全教職員がキャリア形成支援に関与するという目標に近づくことができない。他方でここ数年の潮流として、教職員がキャリア教育に責任を持つという意識を持つことが必要不可欠になりつつある。こうした現状に対応するためには、キャリアに関するプロフェッショナルを積極的に配置することも必要であるが、事務職員も含めて全教職員がキャリア・デザインに関与できるようなシステムが必要である。学部教員とキャリア教育研究開発センター職員との教職協働が大きな原動力になっている。さらにNHKやプロジェクト・リーダーの所属企業や団体との連携も大きい。



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