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本稿は、産業・教育界の200人以上に及ぶ専門家が6年の歳月をかけ、出版物や最新の研究・実践を踏まえながら、今後5年間、教育・学習・研究・創作活動など教育界に大きな影響をもたらす可能性のある新たなテクノロジーを分析した、米国ニュー・メディア・コンソーシアムの年次報告書である。2009年度版では、1)1年未満、2)2年〜3年、3)4年〜5年と3期に分けて注目すべきテクノロジーを取り上げており、本号では第1期である「1年未満」を取り上げて報告する。
(原文)http://net.educause.edu/ir/library/pdf/CSD5612.pdf
先例のないほど進化し続けている携帯端末は、絶えず大きな関心を集めている。一つの移動式機器が、通話、写真撮影、録音・録画、データ保存、音楽・動画再生・インターネット接続のすべてを可能にして我々のライフスタイルに深く関わっており、携帯を持たない人はいないということが当たり前となっている。新しい機器がマーケットに投入されると、それとともに新しい特徴や機能が加速的に生み出されている。最近では、サードパーティ(注)のアプリケーションを実行する機能が、我々の携帯端末に対する考え方に根本的な変化をもたらし、教育、娯楽、生産活動、社会的交流に数知れない用途を提供しようとしている。
過去数年の間に、携帯端末は改良を重ね、新しい商品が出るたびに性能が良くなり、使いやすくなっていった。携帯は、録音と録画が可能なため移動可能なマルチメディア機器となり、また記憶容量が増えたため、家族写真のアルバムや電話帳、カレンダー機能が可能となった。今や、位置情報、Web検索、電子メールなど、携帯式コンピュータのほとんどの機能をポケットサイズの携帯に持ち込んだと言える。毎年12億台もの新しい電話が出荷される市場では、技術革新は流動的で淀みないものである。
約1年前、携帯市場では新たな段階での発展があり、それは携帯機器に対する従来の私たちの考え方や関わり方に重大な変化をもたらした。マルチタッチのディスプレイと、高速化した第三世代ネットワークやWi-Fi(ワイファイ)を用いてインターネットにアクセスする機能、そして動きと方位を感知し、それに応じて内蔵の加速度センサーが反応する機能を持つ新世代の携帯端末が市場に登場したのである。これら新機種はGPSを用いて自らの居場所を特定したり、アプリケーションをエラーで止まることなく動かしたりできる。また、他の機器と通信したり、それらを制御することができる。何よりも重要なことは、各製造業者が広く業界と連携して、サードパーティの開発者による技術革新すべてのために自社の機器を公開していることである。
注
サードパーティ:他社のOSや機器などに対応する製品(周辺機器やソフトウェアなど)を開発・販売しているメーカー。非純正品のメーカー。
こうした携帯端末向けアプリケーションは通話機能とはまったく関係なく、携帯端末の性能を拡張して、我々が移動中に必要な情報や活動を支えるものである。サードパーティのアプリケーションは入手もインストールも非常に簡単で、通常米1ドル以下の値段にもかかわらず、ゲーム、参照資料、測定や計算のツール、チェックリスト、読み物、生産活動のアプリケーション、ソーシャル・ネットワーキングのツールなどが、ポケットにすんなり入る携帯端末に加えられる。2008年半ば、アップル社が i-Phone 用にアップルストアを開設すると、6ヶ月も経たないうちに、そうしたアプリケーションが1万以上も提供された。グーグルとオープン・ハンドセット・アライアンスが開発したアンドロイド・プラットフォームのような他の携帯端末プラットフォームも同じような展開を推し進めている。初代アンドロイド携帯は2008年10月にマーケットに売りに出されて未だベータ版にもかかわらず、アンドロイド市場におけるアプリケーションは日に日に数を増やしている。
携帯端末向けのアプリケーションは、録音やカメラなどの内蔵機能をうまく利用している。例えば、ティンアイ・ミュージック(TinEye Music)やスナップ・テル(Snap-Tell)は、カメラの機能を利用してCD、ビデオ、書籍の写真を記録し、アーティストあるいは著者を特定した上で作品の批評や販売店情報を表示する。環境音楽の関連でも同様に、シェイザム(Shazam)は、マイクが捉えた音楽の一部を記録し、その波形で、音楽・作曲家・アルバムを特定する。新しい携帯端末で利用できるゲームは、携帯端末の機能を十分生かすように設計されており、例えば、ナノーソー(Nanosaur)やアスファルト・フォー(Asphalt 4)などは、加速度センサーを使い、電話機を傾けながらゲームの動きを制御する。
TinEye Music | http://www.ideeinc.com/products/tineyemobile/ | |
Snap-Tell | http://snaptell.com/ | |
Shazam | http://www.shazam.com/music/web/pages/iphone.html |
私たちは過去数年の間に、携帯端末が常に性能を向上させ、普及していくのを目の当たりにしてきた。この分野での急激な技術革新は、この小さな装置の潜在的可能性を高め、様々な使い道の視野を広げ、そして新世代の携帯端末が出るたびに新たな選択肢を示してきた。地域による規制、回線容量、購入層など、特に最新機種では携帯端末の使用に地域的な制約があるが、大部分では、そうした機器や新しいアプリケーションが受け入れられてきたことは明らかである。日本のような国では、携帯端末を持っている若者たちの多くは、わざわざパソコンを所有する理由がないと思っている。ピュー・インターネットと米国生活プロジェクト(the Pew Internet & American Life Project)による最近の調査では、2020年までに世界中のほとんどの人々がインターネット接続のための主要な手段として携帯端末を利用しているだろうと予想している。携帯端末が既にあらゆるコミュニケーションの普遍的なツールになりつつあることは明白である。
the Pew Internet & American Life Project | |
http://www.pewinternet.org/PPF/r/270/report_display.asp |
携帯端末は、既に多くの大学で教育ツールとして利用されている。新しいインターフェース、多様な携帯電話ネットワークに加えてWi-FiやGPSにも接続できる機能、簡単に入手できるサードパーティ・アプリケーションのおかげで、携帯端末は教育・情報交換・個人の生産性にほぼ無限に近い可能性を提供している。現に、ほとんどすべての学生たちは携帯端末を持参し、コンテンツの配信、フィールドワーク、データ収集のために当然のこととして使用している。
サードパーティによる教育用アプリケーションは最新の携帯端末向けに難なく入手でき、教育用コンテンツはほぼあらゆる分野にわたって容易に見つけることができる。タッチスクリーン、カメラ、マイクロフォン、加速度センサーなど、携帯端末特有の指先ひとつで利用可能なツールは急速に出まわり始めている。言語学習者は単語を調べ、リスニング、スピーキング、ライティングの練習をし、自分の発音を母語話者の発音と比較することができる。グラフ計算ソフトは3D図形を表示し、それをタッチスクリーン上で指を使って回転させたり、電話機を傾けて異なったアングルから見ることができる。医学や天文学の詳細な参考資料には、オンライン上で情報や図版を補う機能が含まれている。そして、教育用のコンテンツは質・量とも素晴らしい勢いで増えている。
各分野の携帯端末アプリケーションには、以下のようなものがある。
■ コンピュータサイエンス
クレムソン大学の学生たちは、教育と社会交流用に携帯機器用ツールを開発している。学生一人に、コンテンツ専門の教員と技術開発専門の教員2人が共同で指導に当たり、学生たちは自分で選んだ機器に合わせて研究計画を提案し、企画し、実行している。
■ 数学
アプリケーションをカスタム化することで、学生達は自分のiPhoneを使い勝手のいい電卓に変えることができる。スペース・タイム(SpaceTime)とクイック・グラフ(QuickGraph)は、2Dや3Dの図形を表示するグラフ計算ソフトの例で、SpaceTimeには計算機能をカスタム化するスクリプト言語が組み込まれている。
SpaceTime | http://www.spacetime.us/iphone/ | |
QuickGraph | http://www.colombiamug.com/EN/QuickGraph.html |
■ キャンパス・ライフ
アイ・スタンフォード(iStanford)は、キャンパスマップ、科目一覧、教職員名簿、最新スポーツ競技成績やキャンパス関連情報を含むスタンフォード大学特注のアプリケーションである。履修登録、履修履歴、成績は将来公開される予定である。
アイ・GFU(iGFU)は、ジョージ・フォックス大学のキャンパス・コミュニティ専用に開発された同種のアプリケーションである。
iStanford |
http://stanford.terriblyclever.com/ | |
iGFU | http://www.georgefox.edu/cmc/ |
■ 音楽
ピアノ、ギター、ドラムなどの楽器シミュレーターは、学生たちが運指法や和弦の練習をしたり、簡単な作曲をしたりするためのものである。聴覚を訓練し、楽譜を読み、ウォーミングアップ教材を作成するアプリケーションは、基本練習の助けになる。アーティストはユニークな曲を作るために、録音ファイルや環境音や収録音声を用いて複数の音帯をミキシングしたり収録したりすることができる。いいアプリケーションがあれば、一つの携帯端末が、楽器、指導員、録音スタジオを一式賄うことができる。
以下のリンクは携帯端末向けアプリケ―ション例。
医学向けiPhone
http://jeffreyleow.wordpress.com/2008/06/10/iphone-in-medical-education/
(Jeffrey Leow, Monash Medical Student, 10 June 2008.)学生や開業医向けiPhone用医学情報。若干のレビュー。
携帯MAAP
http://maap.columbia.edu/m/index.html
コロンビア大学のMapping the African American Past(MAAP)のWeb・サイト。現在は、iPhone やiPod Touchで閲覧可能な携帯バージョンが含まれている。ニューヨーク市内の歴史的に重要な場所についての文字・音声情報と、携帯学習ツールを含む。
シートン・ホール大学の携帯端末計画
http://tltc.shu.edu/mobile/
シートン・ホール大学は、携帯端末がキャンパス・コミュニティで教授、学習、ソーシャルネットワーキングにどう利用できるかを研究している。この計画には携帯端末専用のアプリケーション開発を呼びかけているところもある。
ショートメッセージ・サービス回答システム(SMSRS)
http://smsrs.edtrix.com/
シンガポールのSIM大学応用研究所では、研究者達が携帯端末のショートメッセージサービス(SMS)を個人回答システムとして開発している。学生たちが自由回答か多肢選択かの質問に回答すると、正解が専用の設備なくWeb経由で、教室に即座に図表化されて表示される。
以下の論文や資料は、携帯端末についてさらに知りたい人にお薦めである。
第3世代インターネットの将来
http://www.pewinternet.org/PPF/r/270/report_display.asp
(Janna Anderson and Lee Rainie, Pew Internet & American Life Project, December
14, 2008.)2020年におけるテクノロジーとその役割について。インターネット先導者たちによる予測。
次世代携帯ネットワーク(NGMN): 産業界のリーダーと将来の課題
http://blogs.cisco.com/sp/comments/next_generation_mobile_networks_industry_leaders_on_challenges_ahead/
(Larry Lang, SP360: Service Provider, 28 June 2008.)2008年6月の第2回NGMN産業会議におけるビジネス・リーダーたちの発言を要約したブログ。
ラップトップに別れを告げるとき
http://online.wsj.com/article/SB122477763884262815.html
(Nick Wingfield, The Wall Street Journal, 27 October 2008.)出張するビジネスマンが、コンピュータ利用で、ラップトップコンピュータよりもスマートフォンを頼りにしている傾向を報告した論文。
Voice in Google Mobile App: Webへの新展開
http://radar.oreilly.com/2008/11/voice-in-google-mobile-app-tipping-point.html
(Tim O’Reilly, O’Reilly Radar, 18 November 2008.)Google Mobile AppにおけるiPhone向け音声認識機能の配信と通話機能を活かしたコンピュータサービス開発を論じたブログ。
デリシャス: 携帯端末
http://delicious.com/tag/hz09+mobile
(ホライズンの諮問機関と支持者によりタグ付け、2008年。)ホライゾン・レポートについてのさらなる情報はこのリンクから。追加の情報源をブック・マーク検索のデリシャスに登録するときは、hz09及びmobileとタグを付ければ済む。
数千ものサーバを一度に管理する特殊なデータセンター、その超巨大な施設はクラウドと呼ばれ、膨大なコンピュータ資源を新たに作り出している。グリッド・コンピューティングやクラウド・コンピューティングに関する研究成果のおかげで、高価であったディスク記憶装置やデータ処理装置などは手軽に利用できる安価な商品となった。
クラウドの基盤として開発されたプラットホームでは、小型軽量で、画像編集・文書処理・ソーシャルネットワーキングのWebベース・アプリケーションやメディア作成が可能で、我々の多くはクラウドやクラウド仕様のアプリケーションを意識することなく使用している。コンピュータ科学の進歩によって、安全な代行機能や自然災害からの防御が可能となったことで、データは様々なサーバの運用管理設備に対しても問題なく保証されるようになった。基盤設備の改善によって、クラウドは強固で信頼性のあるものとなり、使用頻度が増すにつれ、我々が持っているコンピュータの活用やコミュニケーションの概念を根本的に変えつつある。
クラウドは、処理能力、アプリケーション、そして多数のコンピュータシステムを分散管理するネットワーク・コンピュータ用語である。写真共有サイトのフリッカー(Flickr)、グーグル(Google)、動画共有サイトのユーチューブ(Youtube)をはじめとする多様なアプリケーションはクラウドをプラットホームとして利用している。その方法は、デスクトップコンピュータにインストールされているプログラムが、その1台のコンピュータをプラットホームにしているのと似ている。クラウド仕様のアプリケーションは、単体のコンピュータで動くのではなく、共同で処理実行する複数のコンピュータに分散され、必要に応じて稼働中の多数のコンピュータにある記憶領域やコンピュータリソースを使用しているのである。「クラウド」とは、こうした方法で利用される一群のコンピュータを意味しており、ある特定の場所や所有者がいるわけではなく、多数の企業が自社のクラウドを所有していることになる。例えば、「Amazonのクラウド」はAmazon.comを動かすのに使用されるコンピュータを意味してはいるが、それらサーバの未使用領域は、エラスティック・コンピュート・クラウド(Elastic Compute Cloud: EC2)として統御され、アマゾンは多様な目的に応じてそれを賃貸しすることができるのである。
クラウド・コンピューティング・サービスは三つに分類される。もっとも馴染み深いタイプはGmailやQuicken Onlineなど単一機能を提供するアプリケーションで、通常はWebブラウザからアクセスしてデータ処理や記憶にクラウドを利用するサービスである。
Gmail |
http://gmail.com | |
Quicken Online | http://quicken.intuit.com/online-banking-finaces.jsp |
二つ目は、上述のようなアプリケーションを予め組み込み、配信機能も含めて実行可能なシステムを提供するものである。例えば、ソフトウェア開発者がグーグル環境を利用し、注文どおりのプログラムを作成・配信することができるGoogle App Engineがある。また、オープンソースのルビーオン・レイルズ(Ruby on Rails)で開発されたアプリケーションであるHerokuや、多様なプログラム言語で書かれたアプリケーションを配信・提供するJoyentがその例である。
Google App Engine |
http://code.google.com/appengine/ | |
Heroku | http://heroku.com | |
Joyent | http://joyent.com |
三つ目のクラウドサービスは、アマゾンのエラスティック・コンピュート・クラウド(Elastic Compute Cloud)やGoGridのように、開発のプラットホームがなく、コンピュータリソースそのものを提供するものである。
Elastic Compute Cloud | http://aws.amazon.com/ec2/ | |
GoGrid | http://www.gogrid.com |
クラウド・コンピューティングによって、数多くのユーザ需要に対し、誰でもツールを作成することが可能となった。末端のユーザにはクラウドは見えない。アプリケーションをサポートする技術はたいした問題ではなく、むしろアプリケーションがいつも利用可能であることが重要なのである。このような環境下では、ディスク記憶装置は安くて 1ギガバイト当たり数ペンス程度で、場合により驚くほどの容量が無料で提供されることもある。
クラウドには確かに欠点もある。従来のソフトウェアパッケージは、ローカル・コンピュータにインストールでき、またバックアップも可能で、OSがサポートしている限り利用可能であるが、クラウド仕様のアプリケーションは、会社やサービス・プロバイダからリアルタイムで提供される。クラウドを信じて自分の開発品やデータを委ねるということは、市場や他の条件が変化しても、そのサービス・プロバイダが存続することを信じるということである。それにもかかわらず、クラウド・コンピューティングの経済環境はますます強大になりつつある。多くの機関にとって、クラウド・コンピューティングとは、増加するインターネットユーザに対して施設での保守管理やアップグレードを必要とするハードウェアに資本を投入することなく、いかにサービスデータ管理コンピュータの計算能力を供給するかという問題に対する、費用効果の高い解決方法なのである。
クラウド仕様のアプリケーションは、ソフトウェアの使い方とファイル保存に対する我々の考え方を変えつつある。個々のコンピュータからデータを切り離して保存するという発想は珍しくはないが、同じように、コンピュータからアプリケーションを分離するという考えが普通となりつつある。ファイルやソフトウェアを一つのコンピュータに内蔵する代わりに、我々は今、作成した開発品や使用していたツールを徐々にクラウドに移そうとしている。そうすれば、アプリケーションやデータは、無料ないし廉価なツールを使ってどのコンピュータからでもアクセスが可能となる。それらはネットワーク上に置かれるため、クラウドのアプリケーションを使って、文書を共有し、共同で編集し、改訂版を効率的に管理することが容易になるのである。
教育機関は将来、ダイナミックで拡張し続けるクラウドにより提供される既成のアプリケーションを利用するようになるだろう。クラウドを使うことで、エンドユーザは、従来のようにソフトウェアパッケージのサイトライセンスを取得し、個々にインストールやメンテナンスを必要とした作業から解放される。ソフトウェアとファイルがクラウドにあるため、電子メールやワープロ、表計算、プレゼンテーション、共同作業、メディア編集など多くのことがWebブラウザ上で実行可能となる。統合アプリケーション(ワープロ、表計算、プレゼンテーションソフトなど)に加えて、 フリッカー(Flickr)やユーチューブ(Youtube)、ブログ公開ツールのブロッガー(Blogger)のようなサービスや、ブラウザ上で動作する数多くのアプリケーションなど、ユーザが必要とする作業はほぼすべて、クラウド仕様のきわめて強力なツールで可能となる。
Flickr | http://www.flickr.com | |
Youtube | http://www.youtube.com | |
Blogger | http://www.blogger.com |
クラウド仕様のアプリケーションは、写真編集ではスプラッシュ・アップ(splashup)、ビデオ編集はジェイカット(jaycut)、プレゼンテーションやスライドショーでは、スライドシェア
(slideshare)やスライドロケット(sliderocket)が利用可能である。さらに、これらのツールで作成したコンテンツは、共同で作業して完成品を配布することが極めて容易である。このようなアプリケーションを使えば、生徒や教師は従来の高価で個人所有となる統合ツールに比べて、無料または非常に安い価格で済む。
ブラウザやシンクライアント(thin-client)のアプリケーションは、モバイルや多様なコンピュータからアクセスすることができ、インターネットにアクセスできる機能があれば、どこからでもこれらのツールを利用できる。クラウド・コンピューティングで可能な、共有しながら使用する方法を使えば、未使用の処理能力を利用して大規模な実験や研究が可能となる。
splashup | http://www.splashup.com | |
jaycut | http://www.jaycut.com | |
slideshare | http://www.slideshare.net | |
sliderocket | http://www.sliderocket.com |
我々は今、単に、機種に依存しないツールや拡大縮小が可能なディスク記憶装置の活用よりも、教授や学習に直接役に立つアプリケーションに目を向け始めようとしている。この技術は、様々な機器の違いを乗り越えて、アプリケーションを配信することが可能であるとともに、コンピュータ利用にかかるコストの削減に大いに貢献することになる。遠隔でのグループワークや協働作業を支援する機能を含む多くのクラウド仕様のアプリケーションは、様々な学習場面で役に立つであろう。
既に、クラウド仕様のアプリケーションは仮想のコンピュータとしてK-12の教育分野で活用され、生徒やスタッフは、各自が最新のノートパソコンやデスクトップパソコンを所有する必要はない形で使用されている。インターネットアクセスが可能で、Webブラウザをサポートしている簡単なコンピュータさえあれば、目に見えない膨大なディスク記憶装置にアクセスしてあらゆる種類のプログラムを利用することができるのである。
各分野のクラウド・コンピューティングに関するアプリケーションには、以下のようなものがある。
■ 科学
サイエンス・クラウドは、科学界のメンバーにクラウド・コンピューティングのリソースを提供するプロジェクトで、期間が限定される特定の研究プロジェクトの支援を目的に2008年初期に始まった。科学者は、研究プロジェクトに関する短い記事を書くことを条件にクラウド利用の期間を要請することができる。
■ 気象学
デスクトップにクラウドで利用可能なディスク記憶装置と計算能力を組み合わせたアプリケーションは、過去、巨大なコンピュータセンターだけでしか使えなかったものが、今では誰でもが利用できる有力なツールとなる。その事例は、気象や地質、その他のデータを取り込みインタラクティブに地図を創り出すアース・ブラウザ(Earthbrowser)であり、それを動かすエンジンはクラウド上にある。
Earthbrowser http://www.earthbrowser.com
■ メディア学習
カリフォルニア州ピッツァーカレッジのメディア文化コースでは、ユーチューブ(Youtube)のようなクラウド仕様のアプリケーションを使用して、リアルタイムのニュースや投稿によるユーザ作成のコンテンツを使い、瞬間の社会動向を追っている。同様に、ニューヨーク州シラキュースのオノンダガ・コミュニティ・カレッジのコースでは、ユーチューブや他のクラウド仕様のアプリケーションを活用して、キャンパスのリソースだけでは配信できないメディアを配信している。
以下のリンクはクラウド・コンピューティング向けアプリケーション例。
クラウド・コンピューティング・テストベッド
http://www.cs.illinois.edu/news/articles.php?id=2008Jul29-352
クラウド・コンピューティング・テストベッド(Cloud Computing Testbed)は、イリノイ大学アーバナシャンペーン校が行った研究成果である。同校はクラウド・コンピューティングを利用して、データ量の多い計算をシステムレベルでサポートする方法を探求した。
クラウドの中へ:五つの定番オンライン・ストレージサービス
http://www.readwriteweb.com/archives/free_online_storage_services.php
(Frederic Lardinois, ReadWriteWeb, 28 September 2008)
このブログ投稿は、大規模オンライン・ファイル記憶装置供給を行う五つのサービスを説明している。
オープン・サイエンス・グリッド
http://www.news.wisc.edu/12927
ウィスコンシン大学マディソン校といくつかの連携校では、全米科学財団やエネルギー省から資金援助を得て、全米のオープン・サイエンス・グリッドを開発・拡充するプロジェクトに取り組んでいる。全米オープン・サイエンス・グリッドとは、科学分野における、大規模でデータ量が多い課題に対して、計算能力とデータ記憶を供給することを目的としている。
マセマティカ(Mathematica)7を使用した並列計算
http://www.wolfram.com/news/m7hpc.html
2008年11月リリースのMathematica7には、どんなコンピュータでも並列計算グリッドを実現できるツールが含まれている。
ノースカロライナ州立大学の仮想コンピュータ・ラボ
http://vcl.ncsu.edu/
ノースカロライナ州立大学では、どこからでもアクセスでき、多くのアプリケーションを備えた仮想コンピュータを利用・予約をするためのオンラインシステムを提供している。
以下の論文や資料は、クラウド・コンピューティングについてさらに知りたい人にお勧めである。
クラウド・コンピューティング・エキスポ:クラウド・ピラミッドの紹介
http://cloudcomputing.sys-con.com/node/609938
(Michael Sheehan, Cloud Computing Journal, 21 August 2008)
この論文は、クラウド・コンピューティングで実現可能なサービスの種類について考察するためのピラミッドモデルを示している。
クラウド・コンピューティングはいかに世界を変えつつあるのか
http://www.businessweek.com/technology/content/aug2008/tc2008082_445669.htm
(Rachael King, BusinessWeek, 4 August 2008)
この論文は、コミュニケーションや生産性向上にクラウド仕様のアプリケーションを使用する企業が増える中で、我々のコンピュータに対する考え方の変化を説明している。
クラウドワーカー(Cloudworker)の信条
http://www.ribbonfarm.com/2008/10/23/the-cloudworkers-creed/
(Venkatesh Rao, Ribbonfarm.Com, 23 October 2008)
このブログ投稿では、クラウドワーカー、すなわち、未来の情報専門家についての基本的な考えが紹介されている。
タワーとクラウド:エデュコーズ(EDUCAUSE)の電子ブック
http://www.educause.edu/thetowerandthecloud/133998
(Richard N. Katz, ed., EDUCAUSE, 2008)
PDF資料として自由に利用可能なこの本は、第一級の教育者や技術者が寄稿した内容で、アカウンタビリティ(説明責任)、インプリメンテーション(コンピュータ言語の適合)、ソーシャルネットワーキング、学術など、クラウド・コンピューティングと教育のあらゆる分野をカバーした章が掲載されている。
クラウド・コンピューティングのアプリケーションとサービスの活用
http://www.pewinternet.org/PPF/r/262/report_display.asp
(John Horrigan, Pew Internet & American Life Project, 12 September 2008)
データを収録した本報告書は、クラウド仕様のアプリケーションとサービスを利用している多数のインターネットユーザとその評価をまとめている。
Web2.0とクラウド・コンピューティング
http://radar.oreilly.com/2008/10/web-20-and-cloud-computing.html#definitions
(Tim O’Reilly, O’Reilly Radar, 26 October 2008)
このブログ投稿には、クラウド・コンピューティングの三つのタイプの説明と、それぞれがビジネスに与えた影響の考察が載っている。
デリシャス: クラウド・コンピューティング
http://delicious.com/tag/hz09+cloudcomputing
(ホライズンの諮問機関と支持者によるタグ付け, 2008年)
記載されているものも含め、ホライゾン・レポートについてのさらなる情報はこのリンクから。追加の情報源をブック・マーク検索のデリシャスに登録するときは、hz09及びクラウド・コンピューティングとタグを付ければ済む。