巻頭言

ICTによる真摯なコミュニケーションの実現を目指して


北川  薫
(中京大学学長)

 中京大学の建学の精神は「学術とスポーツの真剣味の殿堂たれ」である。「学術」とは学問・知識のあくなき探究心を、「スポーツ」とは健全な心身のバランスを指しており、建学の精神は、我々に「学術とスポーツに真剣に取り組むことで人格形成、人間形成を目指す」ことを求め、「その大切なところはジェントルマンシップであり、レディシップである」と説いている。換言すれば、建学の精神は、1)相手に敬意を持つ、2)ルールを守る、3)ベストを尽くす、4)チームワークをつくることを常に意識せよと語りかけている。
 本学が情報通信技術(ICT)を活用して何を為すべきかに想いを巡らせるというような一見無縁に思える場面でも、建学の精神は我々に有用な指針を示してくれる。その精神の根底には、大学での様々な教育の場面で、教職員と学生が、人として全力でぶつかりあう姿勢がある。このような教育における真摯なコミュニケーションの実現こそ、今後の高等教育に求められている要件でもあろう。しかしながら、その実現が大規模な大学ほど困難になってきていることは多くの大学関係者に共有された思いではないだろうか。本学も11学部11研究科を要する総合大学として発展しており、教育における真摯なコミュニケーションの実現は、一昔前と比べれば一層困難な課題となってきている。本学では、教育における真摯なコミュニケーションを実現するための環境を整える手段の一つとしてICTを位置付け、その整備と有効な活用を推進している。
 過去を振り返ってみると、ほとんどの大学において活発な情報化投資が横並びでなされてきたが、少子化や経済的停滞の影響で、情報化システムの維持や改善が財政的な負担となって重くのしかかってきており、状況は変化しつつある。そのため、現在では多額費用を伴う情報化推進計画の立案には慎重にならざるを得ず、将来を構想する上で、その計画が大学の経営戦略を効果的に実現するために如何に寄与するのかが強く求められている。本学においては、単純なコストカットを目指して「教職員と学生が対面する場面をICTに置き換えることで、教育業務を省力化する」のではなく、「教職員が学生と対面する時間を大切にし、そのコミュニケーションの質や量を高めるためにICTによる効率化を図る」という位置づけでICT活用を強化しつつある。
 その具体例を挙げれば、FD活動の一環として、授業時間内での対面授業の充実や、授業時間外の教育機会での授業内容の補完を目指し、次年度から試験運用を開始する次期LMSでは、授業の計画的な実施と学生とのコミュニケーションの改善をターゲットとし、多くの教員と様々な種類の授業に対応できる汎用性のあるシステムとすべく準備を進めている。一方、事務局においても、各部署から個々の学生に対して、より緻密で正確な情報を提供すべく、2007年度に従来の掲示板を廃止し、独自の情報提供ツールを導入した。また、キャリア支援の場面でもWebによる進路希望登録や相談記録のシステム化によって、個々の学生へのきめ細かい対応を実現すべくICTの活用を始めている。
 本学の取り組みは、必ずしも最先端を走るものではないが、後発の利点を活かして堅実な成果を積み上げつつある。よって、今後も学生との良質なコミュニケーションを拡大すべく、様々な場面でICTを活用していくことになるだろう。


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