特集 図書館による学習支援力
アカデミック・スキル修得のために〜法政大学〜
大学のユニバーサル化という社会現象、教育の質保証という社会的要請は、大学に変革を迫り、さらにはインターネットの爆発的普及が加わって、大学図書館は、貸出・返却中心からサービス・サポート中心へと任務の重心を移す傾向にあります。とりわけ、学生の主体的な学習を促す学習支援機能は、大学図書館のもっとも重要な任務であると見なされ始めています。
法政大学図書館における学習支援の目的は、アカデミック・スキルの修得です。アカデミック・スキルとは、知識と思考をテーマのもとに表現する一連のプロセス、すなわち1)テーマの設定、2)情報・資料の評価、3)情報・資料の入手、4)情報・資料の整理と分析、5)情報・資料利用におけるルールの遵守、6)思考と結論(意見の筋道をたてた展開)、7)文章化・口頭発表を的確に行う能力を指しています。アカデミック・スキルは、学士課程が学生に与えるべき重要な能力であり、卒業後の長い職業生活において信頼される仕事を行うため、あるいは生涯にわたる学習生活を豊かにするための基本ツールなのです。
法政大学図書館は、学生にアカデミック・スキルを修得してもらうために、基本的プログラムと補完的プログラムを提供しています。基本的プログラムは、「ゼミサポート制による情報リテラシー教育」です。図書館員は担当するゼミの教員と事前の打ち合わせを行い、ゼミの教育内容を取り込んだ情報リテラシー教育を、授業内に行います。そればかりか、図書館員は授業内指導の後で、学生の個別指導を行い、学生の学習テーマにそう選書を意識的に行います。図書館員、学生、教員が顔を合わせ言葉をかわす関係は、大いに教育効果を高めるはずです。
この取り組みは、2004年度に多摩図書館で開始され、2007年度後期から全館で展開されています。この間の実施回数は119回(2004年度)から287回(2008年度)へ、受講生数は2,766名(2004年度)から5,753名(2008年度)へと飛躍的に増加しています。しかし、今後の課題は、量的な拡大であるよりも、むしろ質的な深化(主題知識と説明力の向上)であると言えるかもしれません。補完的プログラムの名称と要旨は、表1を参照して下さい。
表1 補完的プログラム構成表 |
学習アドバイザー制度 |
大学院生が学部生の論文・レポート作成指導を行う。(2009年度から実施) |
ライティング・プレゼンテーション講座 |
専門家が文章作成と口頭発表の要領を指導する。(2009年度から実施) |
パス・ファインダー発信 |
図書館員がトピックごとの情報・資料収集方法を解説する。(2006年度から実施) |
ライブラリー・サポーター制度 |
学生が図書館サービスの評価と選書を行う。(2008年度から実施) |
ラーニングコモンズ |
学生が指導員の助言を受けながら、電子資料と印刷資料の閲覧、文章作成と口頭発表の練習などを独習とグループ学習の形態で行う。(2010年度から実施) |
アセスメント |
利用者の満足・要望などを把握し、サービス改善に活かす。(2009年度から実施) |
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学習アドバイザー制度の相談内容は、論文の書き方が大半を占めています。また、ライティング講座では文章を書いてもらい、添削を行いましたが、多くの学生は表現・構成・内容のいずれかにおいて改善の必要であることが明らかです。したがって、アカデミック・スキルの指導と訓練は、特に大規模校において授業だけでは十分と言えず、ピアサポートや添削指導などの正課外教育を行い、学ぶ機会の選択肢を広げることが必要です。ラーニングコモンズは、米国の事例を真似ることよりも、本学の特性に合う便利で有益な学習の場をいかにして作るかが、課題になるでしょう。
法政大学図書館の学習支援プログラムを略述すると、基本的プログラムと六つの補完的プログラムは、学生のアカデミック・スキル修得を目的として展開され、その構想は、正課教育と正課外教育を結び付け、教室と図書館を一体の学習空間と位置づけ、図書館員・学生・教員の連携を生み出そうとするものであると言えます。
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