教育・学習支援への取り組み
立教大学の前身となる「立教学校」は、今から135年前の1874年にアメリカ聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムズによって東京・築地に創立されました。
当初はウィリアムズ主教と校長のブランシェーの2名の教師と5名の生徒だけの、聖書と英語を教える小さな私塾だった学校は、1883年には、教員数7名、学生数約90名の「立教大学校」となり、1918年の池袋移転を経て、1922年に、文学部と商学部からなる大学令による大学となりました。
現在、立教大学は、池袋キャンパスと埼玉県新座市の新座キャンパスにおいて、教員数2,011名、職員数291名、学生数19,991名(2009年5月1日現在)、10学部、14研究科を有する大学として、教育研究活動を展開しています。
立教の開校来の教育の中心は、「キリスト教に基づく人間教育」です。大学においては、各学部等の専門教育科目や全学共通カリキュラムが提供する教育科目などの「正課教育」に限らず、キャリア教育、ボランティア活動、インターンシップ、クラブ・サークル活動、各種キャンプといった様々な「正課外教育」を通して、聖書と英語に象徴される普遍的な価値観と実際的な知識の両方を身につける教育の実践を目指しています。
立教大学の学士課程教育の理念は、「専門性に立つ教養人の育成」にあります。社会や経済の環境が大きく変化し、学生の気質も変化してきている中、この理念を実現するには持続的・系統的に教育改革に取り組んでいかなければなりません。
そのため立教大学では、2007年10月に、総長を議長とし各学部長を主要な構成員とする教育改革推進会議を設置し、学士課程教育の改革に取り組んできています(図1)。
(1)教育目的・学習成果・学習環境の明確化
まず行ったのが、大学全体の教育目的、および各学部の教育目的、学習成果、学習環境の明確化とその全学的共有、ならびに学外への公表でした。表1は、立教大学全体の学士課程教育の目的です。
各学部においては、その各学部の教育を受けると何ができるようになるのか、そのためにどのような学習環境が用意されているかを明らかにしました。いわゆるディプロマ・ポリシーの策定です。1年をかけ全学でじっくり議論しました。
図1 教育改革推進会議・キャリア支援推進会議構成図
表1 立教大学の学士課程教育
立教大学の学士課程教育立教大学の使命
キリスト教に基づいて人格を陶冶し、文化の進展に寄与する。立教大学・学士課程教育の理念
本学建学の精神である「Pro Deo et Patria(神と国のために)」にもとづき、「普遍的なる真理を探究し」(Pro Deo)、「私たちの世界、社会、隣人のために」(Pro Patria)働くことのできる「専門性に立つ教養人」を育成する。立教大学・学士課程教育の目的
「専門性に立つ教養人」を育成するために、以下のような4つの目的を掲げ、これらを統合した教育を実践する。
(1) 〔知識〕専攻する学問領域の「知」の体系を批判的な検証をふまえたうえで理解し、専攻分野以外の学問領域に関しても幅広い知識を習得することが可能な教育。 (2) 〔技能〕「知」を検証・獲得・活用するために必要な具体的なスキルを習得することが可能な教育。とくに、学習および生活の場面において、ICTツール、日本語を含めた3つの言語なども用い、調べ、考え、まとめ、発表し、議論することができるようになるための教育。 (3) 〔態度〕地球および地域社会の一市民として、高い公共性と倫理性を持ち、異なる文化・ジェンダー・しょうがい等に対して自らに内在している偏見に気づいて修正しつつ、異なる価値観を持った人たちと協働してプロジェクトを遂行できるようになる教育。 (4) 〔体験〕インターンシップ、キャリア教育、ボランティア活動、クラブ・サークル活動、正課外教育プログラム、といった様々な学習体験・社会体験ができる学習機会の提供。 学士課程教育の理念・目的ホームページ
http://www.rikkyo.ac.jp/aboutus/philosophy/programs/
(2)全学カリキュラムマップの作成
「各学部の教育を受けて何ができるようになるか」は、「個々の授業を受けて何ができるようになるか」にかかってきます。そのためには、個々の授業の学習成果が明らかにされていなければなりません。
シラバスの作成は進みましたが、肝心の各学部の学習成果と個々の授業の学習成果との関係が明らかになっているとは言い難い状況にありました。そこで2009年度には、全科目の学習成果を整理し、全学のカリキュラムマップを作成しました。そして、これをもとにカリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーを策定しています。その精度を上げていくことが今後の課題となります。
(3)正課教育と正課外教育の融合
学生は4年間を通じ、次のような成長発達のステップを経て、社会に出る力を身につけていくことになります。
<導入期>
1)大学生としての自覚と姿勢に立つ
2)主体的に学ぶ楽しさに目覚める
<探索期>
3)専門の学びの楽しさを知る
4)クラブ、サークル等体験から学ぶ
5)社会を知り、職業について考える
<完成期>
6)就職活動に入り、自らの責任で進路選択する
7)自己の学びを仕上げる(卒業研究)
本学ではこのようにとらえていますので、正課外教育を通じた成長発達も重視し、正課教育との融合を図る努力をしています。
(4)教育改革としてのキャリア支援
学生の成長発達が順調に進むには、何よりも学生自身が4年間を通じた年次到達目標をしっかり持つことが大切です。それを持ち、達成できているかどうかを見守り、サポートすることが大学におけるキャリア支援の基礎となります。
これは裏を返せば、各学部、全カリの教育目的が達成されているかどうかを不断に点検していくことでもあります。そのことを全学的・組織的に押し進めるために、2009年10月にキャリア支援推進会議を設置しました(図1)。
(5)教育改革に向けたデータの収集
教育を充実し高度化を図っていくためには、学生の学びや生活の実態、環境がどうなっているかというデータが重要です。この観点から、「教育調査の検討グループ」を設置し、数年間をかけて取り組んできました。
2004年度にスタートした「学生による授業評価アンケート」を端緒とし、「カリキュラム・学習環境アンケート」「新入生調査」「卒業時アンケート」など、(図2)にある種々の調査を開発し実施してきました。
これらの調査を通じて得たデータは、各学部での教育改善やFDに生かされています。今後は、大学全体としてのディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーの検証、さらには教育効果の測定のデータとしても活用していく予定です。
図2 各種教育調査の全体像
(6)各学部でのFDの展開とその支援
本学におけるFD活動は2002年から本格的に着手され、学部などの教育組織における活動を中心に展開してきました。教育改革推進会議発足後は、全学で組織的にFDを推進するために、「ガイドライン」の呈示、各学部におけるFD組織の設置、「全学FD規程」の制定を順次行ってきました。
「全学FD規程」では、本学におけるFDを「個々の教員および教員組織としての様々な活動全般に関わる能力の開発を目的とし、カリキュラム開発はもとより研究と教育の調査を図るシステムの構築なども含むもの」と定義し、授業改善に向けての活動に限定せず、広く捉えることを確認しています。
同規程では、各教育組織は毎年1回以上、FDの進捗状況(年度ごとの計画とその総括など)について、教育改革推進会議に報告を行うことも定めており、それに則り2009年3月には第1回となる進捗状況の報告が行われました。その内容は大学教育開発・支援センターが整理・分析を行い、教育改革推進会議を通じて全学で共有されるとともに、各学部へのフィードバックが行われました。
このように各学部でのFDを支援するのが、大学教育開発・支援センターです。同センターは、大学全体の教職員を対象とした種々のプログラムの展開も行っています。2009年度には例えば、4回の「FDワークショップ『授業見学』」を開催しました。
第1回 「何百人の学生に対しても“一人”に向けて話すべし」(経済学部科目) 第2回 「学生参加型講義のための授業デザイン」(法学部科目) 第3回 「聞きたい授業は自分で作る」(全学共通カリキュラム科目) 第4回 「小さな成長を毎回体験させる」(全学共通カリキュラム科目)
また、「立教大学教育活動推進助成(立教GP)」制度を創設し、学部と事務部局間など組織横断的な教育プログラム開発の支援を行い、教育活動の一層の活性化と充実を支援しています。
(1)教育コンテンツ作成支援
本学の教育コンテンツ作成支援は、10年ほど前にスタートした「1000コマプロジェクト」を契機として本格的に始まりました。このプロジェクトは、授業資料をWebに掲載することで、学生の学習支援、教員の資料配付負担軽減、社会貢献などを目指すものでした。
参加を希望する教員へは、要請に応じて、コンテンツの作成からWeb掲載まで、メディアセンターが全面的に支援しています。
現在は、「サイバーラーニングプロジェクト」と改名され、簡単に教材資料を掲載できる仕組みや動画配信用のサーバが導入されて、教員自身が容易に様々なコンテンツ(図3)を学生に提供できるようになっています。
図3 サイバーラーニング動画資料の例
(2)授業支援システム
本学ではCHORUS(注)という授業支援システムが導入されています。当初は利用したい教員のみが利用する試行的な授業ツールの一つとしての提供でしたが、レポート提出機能や小テストなどの利便性から利用が拡大し、全学共通カリキュラムの英語研究室による組織的な利用で、多くの教員や学生が利用するシステムになりました。利用の拡大に伴い、CHORUSホットラインという専用のヘルプデスクも設けられ、今年度には、新型インフルエンザのパンデミック対応として、キャンパス閉鎖時の自宅学習手段として全学的に利用するシステムになっています。
2010年1月末時点の利用教員数は410名(1,100コマ)でした。
なお、今年度から、さらに高度な機能を提供すべく、Blackboardをベースにした次期授業支援システムも並行して試験運用されています。
(3)オンデマンド授業
本学は、オンデマンド授業流通フォーラム(http://www.folc.jp/)へのコンテンツ提供という形で、単位認定するコースウェアの作成を初めて経験しました。技術面でも運用面でも貴重な経験を積むことができ、その後のe-Learningコンテンツ開発や活用の原動力となっています。
これまで開発したコンテンツはいずれも本学の対面授業では人気のある科目で、本学が自信をもって提供できる質の高い大学の授業コンテンツと自負しているものです。これまで、「青年期の自我と恋愛」「平和と安全保障」「茶・虎そして人」(図4)「聖書考古学入門」の4科目をフォーラムに提供してきました。
図4 オンデマンド授業「茶・虎そして人」
2010年度には、さらに、今年度開発した「社会調査入門」「社会調査の技法」「データの科学」「データ分析入門」が加わり、8科目がオンデマンド授業として学内に提供される予定です。
ディプロマ・ポリシーと、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーがまとめられた次のステップとしては、各学部と全学共通カリキュラムにおいて、それらが具体的にどのように実現されるかという部分に触れていくことになるかと思われます。学生の成長を把握しつつ、学習意欲を高めるための具体策を検討し、カリキュラム改善を図っていくことが大切です。
ICT環境整備という観点では、学生ポートフォリオ、教員ポートフォリオなどのポートフォリオシステムの構築、教育・学習成果を測定するためのIR機能、グループワーク活動の場としてのラーニングコモンズの実現などが、今後の課題と言えます。
また、学士課程教育の延長上にある大学院教育の充実は、本学の今後に向けた大きな課題の一つです。学士課程教育と同様に、学位授与方針、教育課程の編成・実施方針および学生の受け入れ方針を改めて確認し、これまでの個人指導体制から体系的組織的指導への転換を図りつつ、大学院におけるFD、大学院学生に対するキャリア形成支援についても本格的に検討を進める必要があります。
学士課程教育から博士課程までの一貫教育体制、大学院基礎教育の展開と研究科横断的な取り組みなどついても議論を進めていくことが重要と考えます。
以上、簡単ではありますが、立教大学の教育改革と教育・学習支援への取り組みについて紹介しました。一事例としてお役に立つ部分がありましたら幸いです。
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